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【レポート】吉田都 引退公演「Last Dance」出演者記者会見

阿部さや子 Sayako ABE

Photos: BALLET CHANNEL

今夏を持って現役引退を表明しているバレリーナ吉田都。その最後のステージとなる舞台「『NHKバレエの饗宴』特別企画 吉田都引退公演『Last Dance』」出演者会見が、5月10日、都内で開催された。

この公演は2019年8月7日・8日の両日に、新国立劇場オペラパレス(東京・初台)で行われる。テレビで放送されることも決まっており、まずNHK BS4Kで10月に、さらに時期は未定ながらNHK BSプレミアムでも放送される予定とのこと。

会見当日、バレエやステージパフォーマンスの専門媒体や新聞各社の記者たちが大勢集まった会場に、真っ白なワンピース姿で登場した吉田都。カメラのシャッター音が一斉に鳴り始めるなか、花がほころぶような笑顔を見せた。

まずは吉田本人から、引退を決めた経緯が説明された。

吉田 本日はお忙しいところお越しいただきましてありがとうございます。この8月7日・8日、「NHKバレエの饗宴」特別企画としまして、私の引退公演を行うことになりました。私はこの公演をもちまして、現役を引退いたします。引退を決意した大きな理由は、やはり新国立劇場の舞踊芸術監督という大きなお仕事をお受けしたことです。世界的に見て踊りながらディレクター業をされている方もたくさんいらっしゃいますけれども、私はこれから勉強しなくてはならないこともたくさんありますし、生半可な気持ちではできない大きなお仕事ですので、引退を決意いたしました。
いままで応援してくださった方々への御礼の気持ちを込めての2日間の公演です。今回は「NHKバレエの饗宴」ということで、この公演が放送され、全国のみなさまにもお届けできるということを、とても嬉しく思っております。
この公演は、今まで私が踊ってきた数々の作品を、日本の各バレエ団のプリンシパルのダンサーたちと、英国ロイヤル・バレエ団からもダンサーたちが応援に駆けつけて踊ってくれます。最後の舞台ということで、とても寂しい気持ちはありますけれども、このような素敵なメンバー、ダンサーのみなさんたちと舞台に立てるということは、本当にダンサー冥利に尽きます。
私がプロのダンサーとして踊ってきた35年間の集大成の舞台となりますので、どうぞよろしくお願い致します。

上演演目、出演者、配役について

今回の公演は、英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルや若手実力派、そして日本の各バレエ団のプリンシパルたちが、バレエ団の垣根を越えて集結。そして吉田が踊って絶賛を浴びてきた演目を、いま旬のダンサーたちが踊り継いでいくという趣向だ。

気になる“都さん自身は何を踊るか”についても、この日初めて明かされた。

会見で発表された詳しい内容は、以下の通りだった:

演目 出演者
『誕生日の贈り物』
(フレデリック・アシュトン振付)
吉田都、フェデリコ・ボネッリ(英国ロイヤル・バレエ団)/米沢唯、井澤駿(新国立劇場バレエ団)/島添亮子(小林紀子バレエ・シアター)、福岡雄大(新国立劇場バレエ団)/永橋あゆみ、三木雄馬(谷桃子バレエ団)/阿部裕恵、水井駿介(牧阿佐美バレエ団)/渡辺恭子、池田武志(スターダンサーズ・バレエ団)/沖香菜子、秋元康臣(東京バレエ団)
『精確さによる目眩めくスリル』
(ウィリアム・フォーサイス振付)
ヤスミン・ナグディ、高田茜、ミーガン・グレース・ヒンキス、ヴァレンティーノ・ズケッティ、ジェームズ・ヘイ(英国ロイヤル・バレエ団)
『Flowers of the Forest』から
(デヴィッド・ビントリー振付)
池田武志、渡辺恭子、石川聖人、石山沙央理、塩谷綾菜、髙谷遼(スターダンサーズ・バレエ団)
『シルヴィア』からパ・ド・ドゥ
(デヴィッド・ビントリー振付)
小野絢子、福岡雄大(新国立劇場バレエ団)
『アナスタシア』からパ・ド・ドゥ
(ケネス・マクミラン振付)
高田茜、ジェームズ・ヘイ(英国ロイヤル・バレエ団)
『くるみ割り人形』グラン・パ・ド・ドゥ ヤスミン・ナグディ、平野亮一(英国ロイヤル・バレエ団)
『シンデレラ』第3幕からソロ
(フレデリック・アシュトン振付)
吉田都
『白鳥の湖』第4幕よりパ・ド・ドゥ
(ピーター・ライト振付)
吉田都、フェデリコ・ボネッリ(英国ロイヤル・バレエ団)
演目未定 吉田都、イレク・ムハメドフ

吉田は自身の出演作品(4演目)について、こう語った。

吉田 アシュトンの『誕生日の贈り物』は、私も出演させていただいて、各バレエ団のプリンシパルたちと踊ります。私自身は、違うパートは踊ったことがあるのですが、今回踊るのはマーゴ・フォンティンのために作られたメイン・パート。これはいままで踊ったことがなく今回が初めてですので、私もデビューとなります。各バレエ団のプリンシパルたちとの共演ということも見どころとなっておりますので、ぜひお楽しみいただきたいと思います。
パートナーはロイヤル・バレエ団時代に長年一緒に踊っていたフェデリコ・ボネッリさんが参加してくださいます。またもっともっと前にさかのぼって、ロイヤル・バレエ団入団当時のパートナーであるイレク・ムハメドフさんが来日してくださることになりました。まだ作品は未定ですけれども、私にとっても、お客様にとっても、本当に特別なものになると思います。その他、アシュトン『シンデレラ』第3幕冒頭のソロ、それから久しぶりにサー・ピーター・ライトの『白鳥の湖』より第4幕のパ・ド・ドゥ部分を踊らせていただくことになります。
振り返りますと、本当にたくさんのみな様のおかげでここまで来ることができましたので、その感謝の気持ちを込めて舞台に立ちたいと思っております。

記者との質疑応答

会見後半は記者からの質問に応答。どんな質問にも、一つひとつ誠実に言葉を重ねて答えようとする姿が、とても吉田らしかった。

記者1 現役引退を決めた時期について。新国立劇場の芸術監督就任がきっかけとのことですが、おそらくその以前から少しずつ考えてこられたのでは?
吉田 決めたのは本当に、この芸術監督のお話をいただいた後ですね。もちろんその前から、いろいろと思うところはありましたけれども。でも本当に踊ることが好きなので、踊り続けたいという気持ちはずっと持っていましたし、いまも踊れたらいいなと本当に思います。けれどもやはり、いま踊っているだけでも精一杯といいますか、すべてのエネルギーと時間を費やして踊ることに懸けていますので、それにプラス芸術監督というお仕事をするというのは、私が多分不器用なのだと思いますけれども、務まらないと思いました。もちろんすごく悩みましたけれども、これからのことを考えた時に、自分で踊っていくよりも、これからのダンサーたちに何か環境を整えたり、私が向こうで学んできたことを伝えたりすることのほうが、私のすべきことなのではないかと思い、引退を決意しました。
記者1 後ろ髪を引かれるようなお気持ちでは?
吉田 それはそうですね。やはり、本当に踊っていることも好きですし、舞台に立つことも好きなので、自分の人生の中から踊ることや舞台に立つことがなくなるということが、いまでも想像できません。でも、これは「もうそうしなさい」ということのようにも感じますので(笑)、思いきって決めました。
記者2 ご自身が踊る演目、これらを選んだ理由をお聞かせください。
吉田 いままで本当にたくさんの作品を踊らせていただき、それらをリストアップしてみたのですが、いまの自分に何が踊れるかなと考えた時に、最終的に決まったのがこれらの作品でした。とくに『誕生日の贈り物』は初めてのパートを踊ります。もちろん踊り慣れたものを踊れたらという気持ちもあったのですが、最後にこういうチャレンジができるのもすごくいいなと。作品としても本当に大好きですので、そう決めました。
記者3 35年間バレエを踊ってきて、いちばん好きな演目は何でしょうか?
吉田 私はその時に踊っている作品にすごく入り込むので、いままで踊ってきた作品はすべて大好きなのですが、やはり日本で最後に踊った『ロミオとジュリエット』は特別です。それまでは古典の『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』といった作品を踊ってきていたのですが、『ロミオとジュリエット』で本当にジュリエットの人生を舞台上で生きるという経験をして、演じる楽しさみたいなものを真に教えてもらった作品だと思います。
記者4 『白鳥の湖』を選んだ理由を聞かせてください。『白鳥』は身体に大きな負担がかかるということで、かなり前に踊るのを止められた作品だったと記憶しています。
吉田 『白鳥の湖』は、私がいちばん最初に主役をいただいた作品です。ロイヤル・バレエ団に移籍した時も、いちばん最初に踊ったものが『白鳥の湖』でした。私はオデット/オディールが似合うタイプのダンサーではないという思いはずっとあるのですが、それでもこの作品でたくさんの舞台を踏んできましたので、すごく思い入れのある作品です。また、やはりバレエといったら『白鳥の湖』ですので、“原点に帰る”という意味もあります。サー・ピーター・ライト版の4幕のパ・ド・ドゥはとても素敵なので、そういう意味でも選びました。
記者5 「後進に伝える役割」ということについて。バレエとはどんな芸術であるということを、後輩たちに伝えたいでしょうか?
吉田 もちろん基礎も本当に大切ですし、テクニックも本当に大切。けれどもやはりバレエというのは、お客様に何を伝えたいかというところがとても重要で、そのあたりが私もイギリスですごく苦労したところです。そこを、みなさんに伝えられることがあったらいいなと思います。バレエとはアスリート的な面があり、身体を使って表現するものですから、そちら側もしっかりと守らなくてはいけません。けれども最終的に何が人の心を打つのか、どうすればお客様に伝わるのかというところ。私もいまだに苦労はしているんですけれども、テクニックのほうにばかり意識を向けることなく、リラックスして、お客様にも「今日は楽しかったな」とか、何かを感じて帰っていただけるように。プロのダンサーとして成熟した踊りを見せてほしいと思います。
記者6 これまで都さんを取材するたび、都さんが一つひとつの舞台、踊りに対してどれだけ集中し、全身全霊を注ぎ込んでいるかに感動してきました。でもそんなにも大変な芸術なのに、やっぱり「自分は本当に踊ることが大好き」とおっしゃる。都さんをそれほどまでに惹き付けるバレエの魅力とは?
吉田 すべてお話しするとすごく長くなってしまいますけれども(笑)。私は踊るほうも見るほうも大好きです。やはり、バレエというアートフォームがすごく好きなのだと思います。踊りそのものも好きですし、総合芸術としての舞台上で起こる、あの奇跡のような瞬間ですね。それぞれの分野での真のプロフェッショナルたちが集まって、ひとつの舞台を作り上げていく、そこに携われることもいつも感動的でした。そしてやはり、私はトウシューズで踊るクラシック・バレエの踊りが大好きです。日々のお稽古も好きですね。バレエって本当に大変だなといつも思うんですけれども、でもだからこそのあの美しい踊りが生まれ、積み重ねがあるからこそあの舞台が生まれるわけです。本当にバレエはちょっと油断したら踊れないほど厳しいものですが、それを何事もないように、みなさんがあの舞台に立って踊っている。それを見るだけでも感動的です。他にも、セリフがないのにストーリーを伝えられる芸術であるということ。セリフがないからこそお客様にもいろいろな想像をしていただけるところ。衣裳、セット、オーケストラが生演奏する音楽の美しさ。それらすべてを客席で感じられる芸術って、本当に素敵だと思います。
記者7 まだ8月に最後の公演が残っていますが、吉田さんのダンサーとしての生活を振り返って一番思い出に残っていることや、これまでの日々を振り返ってどう思うかについて聞かせてください。
吉田 いま、このような時期にきて、振り返ることが増えてきています。思い返してみると、ロイヤル・バレエ団の時に、オペラハウスのあの舞台に立てていたということ。それは子どもの頃から考えたら奇跡のような出来事で、本当に貴重な日々でした。大変なことも多かったのですが、振り返ると、あの舞台に立ち、ロイヤル・バレエ団のみんなと舞台を作り上げていたというのは、特別なことだったと思います。また、とくに思い出すのはサドラーズ・ウェルズ・バレエ団時代です。まだバレエ団に入りたてで、コール・ド・バレエで踊っていたのですが、その頃に立っていた数々の舞台や、バレエ団と一緒に世界中を回って各国の舞台に立ち、いろんな方に出会ったこと。それがあったからこそ、いろいろなことを学ぶことができたと思っています。大変ではありましたけれども、あの経験があったからこそだなと、すごく感じています。
記者8 BS1で放送されたローザンヌのドキュメンタリーで、「ダンサーたちのどこを見るか」という質問に、「パッションを重視する」と答えていました。そのことについてもう少し詳しく説明していただけますか。
吉田 よく「ダンサーに必要なものは何ですか」と聞かれるのですが、もちろんバレエ向きの骨格やプロポーションというのは、まず基本として大切なところです。さらに細かいことを言えば、音楽性、踊りのセンス、コーディネーションなどたくさんありますけれども、でも舞台上で何が大切なのだろうと思った時に、やはりバレエに対する情熱ですね。そういうものが見えるダンサーに、やはり引き込まれます。逆にどれだけ美しい体をもち、完璧なテクニックで踊っても、何も伝わらない踊りもあります。先ほども申し上げた通り、本当にバレエというのは、毎日朝から晩まで地味な鍛錬、お稽古とリハーサルの積み重ねです。それを何とも思わずに毎日毎日続けられるのは、やはりパッションがあるからこそ。バレエは最終的にはそこだと思うので、そのように言いました。

公演情報

日 時 2019年8月7日(水)開演:14時
2019年8月8日(木)開演:18時30分
会 場 新国立劇場オペラパレス
前売開始 2019年5月25日(土)10時から発売
公演情報詳細 https://www.nhk-p.co.jp/ballet/

 

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