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【新連載】ウィーンのバレエピアニスト 〜滝澤志野の音楽日記〜

滝澤 志野

ウィーン国立バレエ専属ピアニストとして、バレエダンサーを音楽の力で支えている滝澤志野さん。
彼女は日々の稽古場で、どんな思いを込め、どんな音楽を奏でているのでしょうか。

“バレエピアニスト”というプロフェッショナルから見たヨーロッパのバレエやダンサーの“いま”について、これから月に1回、志野さん自身の言葉で綴っていただきます。

そして日記の最後には、志野さんがバレエ団で弾いている曲の中から“今月の1曲”を選び、バレエチャンネルをご覧のみなさんのためだけに演奏した動画も掲載します。

美しいピアノの音色とともに、ぜひお楽しみください。

私がウィーンを選んだ理由

はじめまして。ウィーン国立バレエ団ピアニストの滝澤志野です。

このたび、ご縁あって《バレエチャンネル》で連載する機会をいただきました。
ピアニストとしての視点から、バレエとバレエ音楽、そして欧州の歌劇場や舞台裏の“いま”について、お伝えしていきたいと思います。
また“バレエピアニスト”という職業についても、お話しできたら嬉しいです。

さて、私はウィーンに来て8年目になります。2011年までは東京で、新国立劇場バレエ団などの契約ピアニストとして、フリーランスで働いていました。
欧州に拠点を移そうと思ったのは、バレエの本場の現場を見てみたいと思うようになったこと、また歌劇場に所属することで、より深く芸術に専念できる環境に身を置けるのではないかと考えたからです。

そうと決め、半年間貯金をしてから、欧州就職活動の旅に出かけました。ドイツとオーストリアを回ったのですが、じつはその前年にウィーンを旅した時、すでに“運命”を感じていた私。心の中ではもう「働くならウィーン国立歌劇場」と決めていました。我ながら、なんという思い込みでしょう……。

ウィーン国立歌劇場 ©︎Shino Takizawa

”運命”を感じた楽屋口 ©︎Shino Takizawa

でもそれは、ただの“思い込み”では終わりませんでした。この就活旅では見学だけさせてもらうはずだったウィーンで、「ちょうど先週、ピアニストの欠員が1名出ることになった」と言われ、その場でオーディションしていただくことになったのです! まさに、ウィーンへの扉が、自動ドアのようにすーっと開いたような感覚でした。とても不思議ではあるけれど、“強く願えば夢は叶う”というのは、本当なのかもしれません。(でもウィーンや新国立劇場など、私が心底憧れていたところ以外とはなかなかご縁が生まれません。このようにして叶うのは、自分の中のいちばん大切な想いだけなのかもしれませんね)

バレエピアニストという仕事

夢だったウィーン国立歌劇場で、私がどんな毎日を過ごしているかについて、少しだけご紹介したいと思います。

まずは朝10時から11時15分まで、1時間15分のクラスでレッスン・ピアノを弾きます(これは即興で弾くことが多いです)。そのあとは17時半まで公演のリハーサル。いまは『海賊』と『マルグリットとアルマン』を担当しています。それらの仕事が終わると、劇場に居残って自分の練習をしています。公演がある日は、オーケストラピットに入ってピアノやチェレスタを弾くこともありますね。

歌劇場の正面から楽屋口へと続く回廊。私の通勤路です ©︎Shino Takizawa

この仕事のいちばん大変なところは、踊りと音楽を融合させる作業です。ウィーンに来てからの数年間は、「私の音楽は踊りにぴったりと寄り添えていない」と感じてしまうなど、喜びよりも苦悩の日々でした。今にして思えば、バレエも音楽も繊細な芸術なのだから、それも当然のこと。あの苦しさも必要な道のりだったのだと、今は理解できます。

また、体力的にも精神的にも強さが求められる仕事でもあります。基本的に、シーズン中の10ヶ月は休みが日曜日しかありませんから、体調を整えることがとても大事。とくに全幕作品の担当とオーケストラで協奏曲を弾く公演の本番が重なってしまうと、心身ともにとてもハードな日々が続きます。
でも、あの凛として美しい稽古場に毎日いられること。稽古場で毎日あたためてきたものをお客様にお届けして、劇場が幸福感に包まれているのを感じられること。それは本当にかけがえのない時間で、とても幸せです。

”今月の1曲”は…

現在ウィーンでは、ルグリ版『海賊』が上演されています。私の担当は、主役組のリハーサル・ピアノです。この作品では、物語のクライマックスである「寝室のパ・ド・ドゥ」に、一般的には『シルヴィア』の第3幕で知られる有名なアダージオが使われています。この曲はルグリ版『シルヴィア』でももちろん使われていますし、私自身はノイマイヤー版『シルヴィア』の稽古(オーレリ・デュポンとマニュエル・ルグリが「ヌレエフ・ガラ」に出演した際)でも弾いた曲で、思い出深い一曲です。

「シルヴィア」のアダージオの楽譜。ルグリ版「海賊」の振付を書き込んでいます ©︎Shino Takizawa

この《バレエチャンネル》の連載では、日記とともに毎回“今月の一曲”を動画でお届けすることになりましたので、今月はこの『シルヴィア』のアダージオを弾くことにします。

この曲の素敵なところは、“この愛があれば、二人で世界のどこまででも飛んでいける”というような感情が溢れているところ。天高く飛翔するような、初々しい愛の喜びが感じられます。みなさま、ぜひロマンティックなパ・ド・ドゥを想像しながら、お聴きください。

2019年5月20日 滝澤志野

★次回更新は6月20日(木)の予定です

 

ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス1&2 滝澤志野  Dramatic Music for Ballet Class Shino Takizawa (CD)
バレエショップを中心にベストセラーとなっている、滝澤志野さんのレッスンCD。Vol.1では「椿姫」「オネーギン」「ロミオとジュリエット」「マノン」「マイヤリング」など、ドラマティック・バレエ作品の曲を中心にアレンジ。Vol.2には「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「オネーギン」「シルヴィア」「アザー・ダンス」などを収録。バー、センター、ポアント、アレグロなど、初・中級からプロフェッショナル・レベルまで使用可能なレッスン曲集です。
●ピアノ演奏:滝澤志野
●Vol.2監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:各3,888円(税込)

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

大阪府出身。桐朋学園大学短期大学部ピアノ専攻卒業、同学部専攻科修了。2004年より新国立劇場バレエ団のピアニスト。2011年よりウィーン国立バレエ専属ピアニストに就任。 レッスンCD「Dramatic Music for Ballet Class」Vol.1、2をリリース(共に新書館)。国内のバレエショップを中心にベストセラーとなっている。

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