動画撮影・編集:Ballet Channel
新国立劇場バレエ団の2021/2022シーズンが開幕する。
シーズンオープニングを飾るのは、2021年10月23日(土)〜11月3日(水・祝)に上演するピーター・ライト版『白鳥の湖』。
この演目はもともと2020年9月に吉田都が同劇場舞踊芸術監督に就任した際、記念すべき第1作目として新制作すると発表されたものだった。しかしながらコロナ禍の影響を受け、昨シーズンの上演はやむを得ず中止に。そしてこの度ついに1年越しの上演が叶う運びとなった。
同公演開幕直前の2021年9月28日、吉田都舞踊芸術監督による制作発表会見が、新国立劇場オペラパレス ホワイエにて行われた。会見では、吉田監督みずからライト版『白鳥の湖』の魅力や見どころ、制作の舞台裏等について説明。続いて主役のオデット/オディールおよびジークフリード王子を演じる9名のダンサーたちも華やかに登壇し、それぞれの言葉で意気込み等を語った。
吉田都舞踊芸術監督による挨拶・作品案内
吉田都舞踊芸術監督 ©阿部章仁
- 吉田都芸術監督の就任第1作目として2020年10月の上演が予定されていた『白鳥の湖』ですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により1年越しで開幕の運びとなりました。
- 吉田 ようやくここまでたどりつけたという気持ちで、公演が本当に楽しみです。就任1年目は本当にいろいろなことがありましたが、スタッフのみなさんがサポートしてくれたので、とても実りのあるシーズンになったと感じています。
- そのオープニングを飾るのが、ピーター・ライト版『白鳥の湖』です。吉田監督の恩師でもあるピーター・ライト卿の作品をシーズン第1作目に選んだのはなぜでしょうか。
- 吉田 古典に立ち返るという気持ちもありますが、誰もが知る『白鳥の湖』とは違う作品であるということです。私は今後のバレエ団の方向性として、ダンサーたちには踊る喜びだけではなく、演じる楽しさを味わってもらいたいと思っています。サー・ピーターの『白鳥の湖』は共同演出のガリーナ・サムソワの協力でプティパ=イワノフ版が元になっていますが、とてもロジカルでわかりやすく、どの役柄も「舞台で何をなすべきか」ということが細かく決められています。
若い時のサー・ピーターが『白鳥の湖』に立ち役(※編集部注:舞台後方などで演ずる踊らない役)で出演していて、舞台上でふと「僕はいま、“なぜ”ここに立っているんだろう?」と思ったそうです。役柄や設定で疑問に感じる点はダンサーたちが個々で解釈して演じることがほとんどです。しかしサー・ピーターの『白鳥の湖』は、登場人物全員がどういうキャラクターで、なぜここにいるのか。いま何をしているのかを、すべて説明できる。そこがサー・ピーターらしい演出であり、作品の特徴であると思っています。
©Ballet Channel
- 吉田監督ご自身も踊ってきた作品ですね。
- 吉田 バーミンガム・ロイヤル・バレエに入団して、コール・ド・バレエから四羽の白鳥、プリンセスのソロなどすべて踊りました。初めて主役をいただいた作品でもあります。サー・ピーターからはテクニック面ができていればよいというものではないと、表現についての指導を強く受けました。踊ることで理解を深めることのできた多くのことを、ダンサーたちにも伝えたいと思っています。
- リハーサルではどのような指導を?
- 吉田 振りうつしの段階なので、現在はテクニックや基礎で気をつけてほしいところを何度も確認していますが、最終的には“表現”するところまでを目指してもらいたいですね。内面の表現は、観ている人に伝わるように伝えなくてはいけません。ダンサーはそれぞれが違う感じ方や表現したいものを持っているはず。それを出せるようになってほしいです。
また今回は、全員が物語をきちんと理解したうえでリハーサルを始めました。主役だけではなくて、それこそ舞台にただ立っている役柄でも、この『白鳥の湖』を通して、演じる楽しさをもっともっと感じてもらえたらと思います。
©Ballet Channel
- 衣裳と舞台セットも見どころで、衣裳はイギリスのバーミンガム・ロイヤル・バレエで使用しているものを再現したそうですね。
- 吉田 すべてのキャストの衣裳を新調しました。また感染症予防のため、ダンサーひとりにつき1着ずつ用意しています。イギリスらしいゴシック調で、色合いは少し暗いのですが、重厚な仕上がりになっています。一般的な『白鳥の湖』の華やかさとはまた印象が違って、シェイクスピア劇の舞台のようなイメージです。
オデットの衣裳 ©Ballet Channel
ジークフリード王子の衣裳 ©Ballet Channel
貴族の女性の衣裳 ©Ballet Channel
吉田 細かい装飾の部分など、とても凝った作りになっています。なかには入手困難な生地もあり、似たものを探すのに苦労しました。また今回は踊りやすさを考え、オリジナルよりもかなり軽く作っていただきましたが、実際に着てみるといろいろなことがわかりました。たとえばマントは歩く時や振り返る時の“重さ”が表現の面でとても大切ですので、キャラクターの重厚さを出すためにも、逆に重く改良しています。
- 公演への意気込みをお願いします。
- 吉田 昨年の2月にイギリスで衣裳の打ち合わせをしてきた直後、コロナの感染拡大のために進行が止まってしまいました。でも逆に良かったと考えています。時間をかけて準備ができましたし、このカンパニーについて深く知ることができました。ダンサーたちも、私が何を求めているかをより理解してくれていると思うので、今回の『白鳥の湖』上演は完璧なタイミングだと感じています。新人や新たなキャストも加わりましたし、この1年間でのダンサーたちの変化も観ていただけるのではないでしょうか。踊りはもちろん、ドラマ、衣裳、舞台セットなど、作品のすべてを楽しんでいただきたいと思います。
主要ダンサーによる挨拶
続いてオデット/オディール役とジークフリード王子役を演じる9名の主演ダンサーが登壇し、作品に対する思いや意気込み等を語った。
左から:速水渉悟、渡邊峻郁、井澤駿、奥村康祐、福岡雄大、吉田都舞踊芸術監督、米沢唯、小野絢子、柴山紗帆、木村優里 ©阿部章仁
オデット/オディール役
米沢唯(よねざわ・ゆい)プリンシパル
いままで私にとっての『白鳥の湖』は“修行”のようなもので、難題に挑む気持ちで挑戦してきました。今年の春、吉田都監督から『白鳥の湖(牧阿佐美版)』全幕の指導を受けて、初めてこの作品を「楽しい、おもしろい」と思い、今回は毎日わくわくしながらリハーサルを重ねています。キャラクターそれぞれが生き生きとした、素敵な作品だと思います。
小野絢子(おの・あやこ)プリンシパル
1年前に叶わなかった『白鳥の湖』が上演できること、そこに向けて動き出しているなかに自分がいられることが、いまは嬉しくてたまりません。私たちダンサーにとっては舞台がすべて。一人ひとりの心に深く残るような本番が迎えられるように、日々リハーサルに取り組んでいきたいと思います。
柴山紗帆(しばやま・さほ)ファースト・ソリスト
待ちに待った新制作の『白鳥の湖』。今回は井澤駿さんと初めて踊らせていただきます。吉田都監督が就任されてからたくさん勉強してきた演技を、踊りのなかでも追及していけるように頑張りたいと思います。ファースト・ソリストの自覚をもって、一つひとつの公演でお客さまによい時間を提供できるようにしていきたいです。
木村優里(きむら・ゆり)ファースト・ソリスト
今回はオデットとオディールというふたつの違うキャラクターを演じわける醍醐味があり、本番中に舞台で生まれるドラマによって、自分の心と身体になにが巻き起こるのか、とても楽しみです。コロナによる公演の中止を経て、踊れる幸せをかみしめています。お客さまの心に響く踊りをお届けできるように頑張ります。
ジークフリード王子役
福岡雄大(ふくおか・ゆうだい)プリンシパル
『白鳥の湖』を踊る機会を与えてくださった吉田都監督、そして隔離期間を経てゲストティーチャーとしてご指導くださった元バーミンガム・ロイヤル・バレエの佐久間奈緒さん、ノーテイターのデニス・ボナーさんには感謝の言葉しかありません。みなさまにドラマティックな『白鳥の湖』をお届けできるように、バレエ団スタッフ一同、切磋琢磨しております。
奥村康祐(おくむら・こうすけ)プリンシパル
『白鳥の湖』というとロシア・バレエの代表のような作品ですが、ピーター・ライト版は、細かいマイムや繊細な感情表現など、英国バレエらしさがたくさん詰め込まれています。難しいテクニックもいっぱいで、とても難しいのですが、やりがいがあります。楽しみながら頑張っていますので、たくさんの方に観に来ていただけたら嬉しいです。
井澤駿(いざわ・しゅん)プリンシパル
僕は、キャラクターが漠然としている王子役は、いちばん難しい役柄だと思っています。同時に、表現の幅が広い役柄でもあると感じています。今回の『白鳥の湖』では、5人それぞれが違うジークフリード王子をお見せできると思いますし、そこも作品の見どころのひとつです。ぜひ楽しみにしていてください。
渡邊峻郁(わたなべ・たかふみ)プリンシパル
1年前、吉田都監督にダンス―ル・ノーブルについての動画を見せていただき、そこから僕の“踊り方改革”が始まりました。踊りだけでなくマイムや歩き方なども学び、今回、『白鳥の湖』に挑戦させていただけることになりました。佐久間奈緒さんのご指導から得た素晴らしいアドバイスを活かし、舞台で表現したいと考えています。
速水渉悟(はやみ・しょうご)ファースト・ソリスト
今回、大先輩である米沢唯さんと踊らせていただくことを、とても光栄に思っています。王子役は初めて踊るので想像も広がりますし、一つひとつ形にしていくリハーサルはとても楽しいです。東京公演でもいろいろな役で出演させていただく予定ですので、よろしくお願いします。
記者による質疑応答
最後に質疑応答の時間が設けられ、記者たちから挙がる質問に回答した。その内容(抜粋)は以下の通り。
※読みやすさのために一部編集しています
- 記者1 吉田監督からこの1年はコロナで大変だったとはいえ、実りも多かったという言葉がありました。1年のあいだでダンサーたちがどのように成長したと思っているかを聞かせてください。
- 吉田 バレエ団内には、この1年で身体や脚のラインが変化したダンサーや、演技面に成長が見えるダンサーもいます。ここにいる4人のバレリーナたちはこのポジションにいるだけのことはあって日々の積み重ねがきちんとできていますし、私が感心するほどリハーサルも濃密に取り組んでいます。また、それぞれの個性が違うので、公演を観る側としても、楽しませてもらっています。
- 記者2 『白鳥の湖』という作品は、パロディなどもあるくらい大衆的に広まっています。しかしそういう作品こそ危険だと感じるのは、一部の印象だけが拡大して、いちばん美しいところや作品の本質が見えにくくなってしまうのではないかということです。今回の公演がそういった部分を取り払ってくれることを楽しみにしているので、あらためて吉田監督が感じる作品の魅力を教えてください。
- 吉田 『白鳥の湖』にはいろいろな演出・振付があり、がらりと変えて成功したものもあれば、これから残っていくのだろうかと首を傾げる演出もあると感じています。サー・ピーター・ライトの『白鳥の湖』はバーミンガム・ロイヤル・バレエでの初演からまだ40年ですけれども、イギリスで人気作品として成功しているのには理由があると思います。古典の美しさは残しつつ、大切なドラマの部分も彼なりの解釈で伝えられるような作品になっていること。それが彼の演出の魅力ではないでしょうか。
- 記者3 ピーター・ライト版『白鳥の湖』は、他の版よりもベンノ(王子の友人)役の印象が強いと思います。キャラクター設定や役割の特徴がある部分を教えてください。
- 吉田 おっしゃる通り、ベンノは本当に重要な役どころになっています。最後の最後に、とても大切な役割を担うキャラクターでもあります。
ほかの例を挙げますと、第1幕のパ・ド・トロワの2人の女性は王子の友人ではなく高級娼婦で、この時代のようすが垣間見える設定です。キャラクターが変わりますので、もちろん踊り方や王子への演技もそれぞれ違うものになっています。
そして第2幕・4幕で踊るコール・ド・バレエの白鳥たちについて。彼女たちは大勢いる白鳥たち、なのではなく、一人ひとりがプリンセスであるという考えです。サー・ピーターは「この『白鳥の湖』ではオデットが主役として描かれているけれど、白鳥に変えられたプリンセスの数だけ、それぞれのドラマがある。だから一人ひとりがそういう意識を持って踊って欲しい」とよくおっしゃっていました。
一人ひとりのドラマ、という意味では、第3幕に登場する王子の花嫁候補(プリンセス)も同じことが言えます。似たような衣裳で、誰が誰なのかわからないような感じではなく、各国の代表として自分を売り込みに来ている。キャラクターダンスを踊る人たちも、花嫁候補たちの国から来て、自国の踊りを見せるという役割がとても明確に描かれます。
サー・ピーターは、古典バレエにおいてキャラクターダンスがどれだけ大切か、ということもよくおっしゃっていました。今回は、キャラクターダンスのリハーサルを別に設けて指導してもらうことも予定しています。
©Ballet Channel
- ピーター・ライトより『白鳥の湖』上演に向けてメッセージ
- この作品は“欺(あざむ)きによって起こった悲劇の物語”です。真実が裏切りに打ち勝ち、愛が死を凌駕します。恋人たちは欺きによって引き裂かれますが、最後には永遠の愛の世界でふたたび結ばれます。この物語は、悲しいハッピー・エンディングを迎えるのです。
ミヤコがこのプロダクションをシーズン開幕の演目として選んでくれたことをとても嬉しく思いますし、新国立劇場バレエ団のダンサーたちが楽しんで踊ってくれることを願っています。東京に行くことが叶わないのはとても残念なのですが、彼らの踊りを過去に見ておりますので、彼らならこの『白鳥の湖』へ見事に命を吹き込んでくれることでしょう。
公演情報
新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』<新制作>
上演時間:約2時間50分(休憩含む)
【東京公演】
◎日時・出演者
・2021年10月23日(土)14:00 米沢唯・福岡雄大
・2021年10月24日(日)14:00 小野絢子・奥村康祐
・2021年10月26日(火)13:00 柴山紗帆・井澤駿
・2021年10月30日(土)13:00 米沢唯・福岡雄大
・2021年10月30日(土)18:30 小野絢子・奥村康祐
・2021年10月31日(日)14:00 木村優里・渡邊峻郁
・2021年11月2日(火)14:00 柴山紗帆・井澤駿
・2021年11月3日(水・祝)14:00 木村優里・渡邊峻郁
◎会場
新国立劇場 オペラパレス
【長野公演】
◎日時・出演者
・2021年11月7日(日) 14:00 米沢唯・速水渉悟
◎会場
サントミューゼ 大ホール(長野県上田市)
【詳細・問合せ】
新国立劇場Webボックスオフィス
TEL:03-5352-999
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