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K-BALLET TOKYO「ドン・キホーテ」特集➀加瀬栞インタビュー~私はキトリと真逆。だから演じがいがある

青木かれん Karen AOKI

動画撮影・編集:古川真理絵(バレエチャンネル編集部)

2025年9月26日からK-BALLET TOKYO『ドン・キホーテ』が開幕しました。

同作は、熊川哲也が2004年に演出・再振付し、舞台美術・衣裳も自ら手掛けたカンパニーの代表作。2021年の公演以来4年ぶりの上演となる今回は、イングリッシュ・ナショナル・バレエのリード・プリンシパル加瀬栞をゲストに迎え、日髙世菜&石橋奨也、加瀬栞&山本雅也、岩井優花&堀内將平、長尾美音&武井隼人の総勢4組のキャストが主演します。

開幕を目前に控えた9月、リハーサルに臨むダンサーたちを取材。『ドン・キホーテ』初主演となる加瀬栞さんにインタビューしました。

リハーサル&インタビュー動画と合わせてお楽しみください。

加瀬栞 Shiori Kase
3歳でバレエを始め、広瀬・加藤バレエスタジオで学ぶ。2006年、14歳でユース・アメリカ・グランプリに出場し、ロイヤル・バレエ・スクールに留学。2009年同校卒業と同時に、イングリッシュ・ナショナル・バレエに入団。2013年ソリスト、2014年ファースト・ソリスト、2016年プリンシパルに昇格し、2022年にリード・プリンシパルに任命される。
2014年ジャクソン国際バレエ・コンクールシニア女子の部金賞受賞。2015年文化庁長官賞受賞。©Shoji Morozumi

K-BALLET TOKYOへの出演は、「オーチャードホール25周年ガラ」、『シンデレラ』に続き3度目となります。これまでの公演を振り返っていかがでしたか?
加瀬 ガラ公演では『シンプル・シンフォニー』を踊らせていただきました。とても難しい作品で、高度なテクニックを求められる振付だったのですが、踊り終えた時の達成感は今までにないほど大きいものでした。その後に出演した『シンデレラ』も憧れていた作品で、リハーサルから本番を終えるまで、ずっと夢のような時間を過ごしていました。
今回は『ドン・キホーテ』の出演で、初役のキトリに挑みます。意気込みを聞かせてください。
加瀬 これまではプリンセスやソフトな印象の役柄が多く、情熱的で明るいキャラクターははじめてです。初役だからこそ、どんなキトリになるのか私自身も楽しみにしています。どういう風に表現しようかと考えたり、お客様にどのように感じ取っていただけるかと想像しながら、毎日研究しています。
加瀬さんが思い描くキトリ像とは?
加瀬 キトリは町一番の人気者で、自分を隠さずに表現できる人。気持ちをストレートに恥ずかしがらず伝えられるから、みんなに愛されていますよね。
自分との共通点はあまりなくて、むしろ真逆のキャラクターだからこそ演じがいがあります。私だったらやらないだろうなと思うこともあるので、今までにはない新たな発見もできそうです。
今回共演するバジル役の山本雅也さんの印象は?
加瀬 とても気さくな方で、はじめましての時もすぐに声をかけてくださいました。もちろんパートナリングも素晴らしく、リハーサル中も気になることがあれば伝えられる環境を作ってくださいます。ただ合わせるのではなく、ここはこうしようと会話しながら練習できるのが毎日楽しくて。コミュニケーションを積極的に取ってくださるので、とてもありがたいです。山本さんはバジルそのものという雰囲気で、どんな舞台になるのか今からワクワクしています。
加瀬さんが思う、熊川ディレクターの作品の魅力とは?
加瀬 いちばんの魅力は、音楽と振付がぴったり合うところです。踊る側からしても最初はとても難しいと感じるのですが、音楽を何度も聴いているうちに身体が慣れてきて、ピタッとはまる瞬間があります。そうなった時は、踊っていて本当に気持ちがいいんです。
踊りだけでなく演じる場面でも、“この音で目線を動かしながら相手を見る”というように、決められているところがあります。音楽と合っているので、無駄な動作がひとつもなく、自然に物語を伝えられるのが魅力的です。

加瀬栞、山本雅也 ©︎K-BALLET TOKYO

加瀬さんのこれまでの歩みについても聞かせてください。バレエを始めたきっかけは?
加瀬 母の親友がバレエを習っていて、よく発表会を観に行っていたそうです。母はいつか娘ができたらバレエを習わせたいと思っていたようで、私を近所のお教室に連れて行ったのがきっかけでした。
はじめは先生が厳しすぎて、好きで習っている感覚はなかった気がします。それが小学生の頃に、バレエに目覚めたんです。なぜかは覚えていないのですが、レッスンに行くのがとても楽しくなりました。コンクールに出場するようになってからは練習量も増え、たくさん踊れるのが嬉しくて仕方ありませんでした。
プロのダンサーを目指そうと思ったのは、小学校高学年の頃。すでに、プロになるにはバレエ団に就職しなければいけないし、簡単なことではないとわかっていました。それでも、バレエの道に進みたいという気持ちが強かったのを覚えています。
14歳の時に出場したユース・アメリカ・グランプリでの受賞をきっかけに、英国ロイヤル・バレエ・スクールに留学しました。当時はホームシックになりませんでしたか?
加瀬 ロンドンに着いた直後は、それまで抱いていた「ロイヤル・バレエ・スクールに行きたい!」という思いが強すぎて、まったくホームシックにならなかったんです。それが1週間ほど経つと、一緒に来てくれた母も帰国してしまい、その時にはじめて「私はひとりなんだ」と思い知らされました。バレエをやるためにここまで来たのだから、自分の力で頑張っていかなきゃいけないんだと悟った瞬間でした。
ロイヤル・バレエ・スクールでの生活で思い出に残っていることはありますか?
加瀬 同じクラスの仲間たちがとても優しかったことです。有名なバレエ学校だと、ライバル意識が強くて意地悪な子が多いのかなとか、怖い雰囲気なのかなと想像していたのですが、一切そんなことはなくて。課題に向けてみんなで協力しあったり、誰かがいい役をもらったら褒め合ったりと、いつもあたたかい空気でした。私がチャンスをもらった時も、「よかったね!」と言ってくれる子たちばかりで、だからみんなバレエが上手いんだ……と思いました。
その後卒業と同時に、加瀬さんはイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)に入団します。
加瀬 当時のENBのディレクターが学校に来て、何人かの生徒をピックアップし、カンパニーのクラスレッスンを受けさせていました。私は最初選ばれなかったのですが、ある時校長先生のオフィスに呼ばれたんです。ENBからはすでに3人の女の子がコントラクトをもらっていて、私は補欠のような感じでした。幸いなことに欠員が出て、ENBに入団することになりました。
2022年には最高位であるリード・プリンシパルに任命されました。これまでのキャリアを振り返って、転機になった作品はありますか?
加瀬 やはり、リード・プリンシパルに昇格させていただいた時の『ライモンダ』の主演がいちばん記憶に残っています。この作品は新制作で、コロナ禍になる直前にクリエーションがはじまり、私はかなり早い段階から携わっていました。当時はまだ原型もなく、振付のタマラ・ロホと一緒にどんな動きがいいかをリサーチする日々。作品を作る時は、振付家の考えた動きを踊ってみせるダンサーが必要になるので、私がその役割を担っていたんです。それからほどなくしてコロナ禍に突入しました。
活動を制限されながらもクリエーションは続き、やがてコロナ禍が開けると『ライモンダ』の本格的なリハーサルが始まりました。稽古中はファーストキャストではなく、最後のキャストとして練習していました。それが公演の本番一週間前のキャスト発表で、初日に選んでいただいたんです。制作中は大変な思いもしたのですが、初日に踊らせていただけるということが私にとってとても大きい出来事で、とにかく嬉しかったです。
本番を終えた時はどんな気持ちでしたか?
加瀬 この舞台に立つまでの道のりを思い出して、「ついに認められたんだ」と胸がいっぱいになりました。怪我をして身体を動かせなかった時期や努力が実らなかった時期もあり、このまま続けても意味はあるのかと、長い間自分に対して疑いを持ったまま踊っていました。その中で、『ライモンダ』は思う通りに踊ることができた公演。私にとって意味の深い、大切な作品になりました。
この舞台を経て、バレエとの向き合い方が変わり、自分を信じていいんだと思うようになりました。積み重ねてきたことを疑うのではなく信じていれば、誰かが必ず見てくれているのだとわかったんです。
加瀬さんにとってバレエとは?
加瀬 私の生活の一部です。踊っていない時も、バレエのことを考えている自分がいます。バレエ中心で動いている今の生活こそが、私を形作っている。バレエがあるから私でいられるんだと思います。
オフの日は仕事とプライベートをきっちり分けているのですが、それでもバレエについて考えない時間はありません。でも私はそれが好きなので、バレエのことが頭をよぎってもいいやと思いながら毎日過ごしています。
最後に読者へメッセージを。
加瀬 なかなか日本で全幕を踊る機会がなかったのですが、このようなご縁をいただけて本当に嬉しいです。日本のみなさまに楽しんでいただけるような舞台をお届けします。お客さまにとって、この公演が明日や未来へのモチベーションに繋がったらいいなと思っています。

加瀬栞 ©︎堀貴文

公演情報

K-BALLET TOKYO『ドン・キホーテ』

【日程・会場】
●東京(上野)
9月26日(金)13:00/18:00
9月27日(土)12:30/16:45
9月28日(日)14:00
東京文化会館 大ホール

●東京(渋谷)
10月18日(土)18:30
10月19日(日)12:30/16:45
10月25日(土)18:30
10月26日(日)12:30
Bunkamuraオーチャードホール

【詳細・問合せ】
K-BALLET TOKYO 公演サイト

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