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【動画レポートあり!】バレエ「ドラゴンクエスト」〜幼なじみが舞台で初競演!アクリ瑠嘉、アクリ士門、池田武志クロストーク

古川 真理絵

動画撮影・編集:河野祥子(新書館バレエ事業部)

2023年8月11日(金)・12日(土)、スターダンサーズ・バレエ団のバレエ『ドラゴンクエスト』(通称:ドラクエバレエ)が上演されます。

ドラクエバレエは、RPGゲームの中でも不朽の名作「ドラゴンクエスト」をバレエ化し、1995年の初演から国内外で50回以上にわたって上演してきた人気バレエ。
演出・振付は同バレエ団常任振付家の鈴木稔が担当し、音楽は「ドラゴンクエスト」シリーズを手がけたすぎやまこういちの楽曲を使用。バレエファンのみならず、ゲームファンをも虜にする、日本が生んだオリジナル全幕バレエです。

3年ぶりの東京公演となる今夏はダブルキャストで上演。11日にアクリ瑠嘉(白の勇者)とアクリ士門(黒の勇者)の兄弟が特別出演し、12日は同バレエ団で何度もこの役を演じてきた林田翔平(白の勇者)と池田武志(黒の勇者)が主演します。

じつは、アクリ兄弟と池田さんは同門出身。 幼なじみでもある”白と黒”の勇者を演じる3名のクロストークをお届けします。
上の動画と併せて、お楽しみください。

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\座談会メンバーをご紹介/

左:アクリ瑠嘉(英国ロイヤル・バレエ ファースト・ソリスト)
4歳よりバレエを始める。2010年ローザンヌ国際バレエコンクールでファイナリストとなり、スカラシップを得てロイヤル・バレエ・スクールに留学。2013年ロイヤル・バレエ入団。『ロミオとジュリエット』のマキューシオ、『コッペリア』のフランツ、『ジゼル』のヒラリオンなど主要キャストを務める。
中央:アクリ士門(ヒューストン・バレエ ソリスト)
4歳よりバレエを始める。2013年ユースアメリカグランプリ日本予選大会で1位、同年ローザンヌ国際バレエコンクールでファイナリストとなり、ロイヤル・バレエ・スクールへ。2016年タルサ・バレエ入団。2020年ヒューストン・バレエに移籍。『海賊』のアリ、『コッペリア』のフランツなどを踊る。
右:池田武志(スターダンサーズ・バレエ団)
10歳よりバレエを始め、13歳よりマシモ・アクリと堀本美和に師事。2009年ローザンヌ国際バレエコンクールのファイナリスト。スカラシップを得て、ハンブルク・バレエ・スクールに留学。2017年スターダンサーズ・バレエ団に入団し、数々の作品で主演を務める。バレエ『ドラゴンクエスト』では黒の勇者、白の勇者を踊っている。

少年時代を共に過ごした3人が、プロになって初競演……!

瑠嘉さん、士門さんはもちろん、池田さんもアクリ・堀本バレエアカデミーの出身で、みなさん幼い頃からお互いをよく知るバレエ仲間だとか?
池田 はい、僕は親の転勤がきっかけで埼玉に引越し、アクリ・堀本バレエアカデミーに入りました。最初にいたところは女の子ばかりでバレエを好きにはなれず、やめようと思っていたんです。けれど、引っ越した先でたまたま入ったスタジオに瑠嘉や士門など同世代の男子がたくさんいて、一気にバレエの環境が変わりました。

瑠嘉 僕たちの世代は20人くらい男子生徒がいて、武ちゃんとは年齢も近いからいつも一緒にいました。

池田 スタジオを移るまでは、まさか自分がバレエダンサーになるとは夢にも思わなかったです。

プロのバレエダンサーになろうと思ったのはいつ頃からですか?
池田 先生からローザンヌ出場のお話をいただいてからです。それまではコンプレックスの塊だったけれど、自分にもそういうチャンスがあるんだと知った。実際にローザンヌの舞台に立ったら、初めて心からバレエが楽しいと思えました。何も考えずに自分のすべてを出し切ろうと思えたし、周りのダンサーに負けないよう必死で食らいつこうと欲も出ました

アクリ・堀本バレエアカデミー在籍時の写真。左上から時計回りに池田武志さん、マシモ・アクリ先生、加藤凌さん(ヒューストン・バレエ)、アクリ瑠嘉さん、加藤静流さん(マリインスキー劇場プリモルスキー・ステージ)

瑠嘉さんと士門さんはご両親がバレエの先生という環境で育ちましたが、幼い頃からプロのダンサーを目指していたのですか?
瑠嘉 子どもの頃は両親に会いたくて教室に通っていた感じでした。いつから始めたのかはあまり覚えていないくらい。でも、10歳の時にテレビで放送された熊川哲也さんのドキュメンタリーを見て、本気でバレエをやろうと決心しました。彼のキャリアやイギリスでの生活を紹介する内容だったのですが、今でも鮮明に覚えているくらい衝撃を受けて。それから意識が一気に変わりましたね。

池田 「俺もなってやる!」みたいな?

瑠嘉 そう。当時は身体が硬かったから、気合を入れるために「毎日ストレッチをする!」と抱負を部屋に貼って。一生懸命スプリッツしていました。

士門 そうだったんだね。兄は何をするにもバレエメインで考えていたから、最初からバレエ一筋だと思っていました。

士門さんは、お兄さんのようにプロのダンサーを目指すきっかけはありましたか?
士門 僕はバレエ以外にもサッカーや野球など、いろんな習い事をしていて、むしろスポーツのほうが好きでした。でも、身近にコンクールで賞をとったり、プロになる先輩が現れて、自分も彼らを目標にするようになった。兄たちのように自分で自分の道を作るというより、先輩方のあとに続こうとしたら、自然と自分の気持ちもバレエに向かっていた。僕は兄や武志くんのような先輩がたくさんいて、その人たちを追える環境だったので本当にラッキーでした。

池田 瑠嘉は僕にとっても引っ張っていってくれる存在でした。取り残されたくないから、先に行く彼の影を必死に踏んでいた。だから、いまではすごく感謝しているんです。

瑠嘉 そんなに引っ張ってないよ(笑)。

池田 こうして自分のホームで二人と一緒に仕事ができるというのはすごく不思議な感覚。しかも、僕が何回も踊ってきたドラクエバレエに二人が参加している……嬉しいですね。

幕が下りると、すぐにまた観たくなる……それがドラクエバレエの魅力

青春時代を一緒に過ごしてきたメンバーと同じ舞台に立つのは感慨もひとしおだと思います。瑠嘉さんと士門さんは、日本のバレエ団の全幕公演に出演すること自体初めてとのことですが、オファーを受けた時の感想は?
瑠嘉 すごく嬉しかったです。僕が在籍するロイヤル・バレエは、演劇的な要素の強いレパートリーが多いから、ストーリーのある作品のほうが慣れている。僕自身いちばん好きなタイプのバレエです。全幕の物語バレエで弟と共演できる機会はなかなかないですし、いまから楽しみです。

士門 僕も純粋に嬉しかったです。二人で主役を踊ることはこれまで皆無でしたし、そういうチャンスがあったらいいな……とずっと思っていたので。

瑠嘉 日本のガラ公演には一緒に出演したことはあるけれど、ガラは個人のテクニックを見せることがメインになるから、幕物とはまったく違う。

士門 それぞれの役柄を通して、舞台の上に立つのは違うよね。

バレエ『ドラゴンクエスト』のリハーサル風景より。白・黒の勇者を踊るアクリ瑠嘉さんとアクリ士門さん ©️Ballet Channel

リハーサルで実際に白の勇者、黒の勇者を踊ってみていかがですか?
瑠嘉 めちゃめちゃ楽しいです! とくに剣で戦うシーン。あとは、どの場面も曲がすごく良い。僕はゲームの「ドラクエ」で遊んだ経験はなかったけれど「こんなかっこいい曲があるんだ!」と驚いています。

池田 すぎやまこういち先生の音楽は、本当に素晴らしいから。

士門 黒の勇者役といえば武志くんという大先輩がここにいるので、あまりおこがましいことは言えないのですが(笑)。僕は最初に黒の勇者の内面をしっかり理解して、感情の流れを身体に覚えさせてから、テクニックを考えるべきだと思っています。だからいまは、武志くんの表情をいつも見て研究しています。武志くんはちょっとした動作も一つひとつ意味を考えて、気持ちを込めて踊っている。僕もそうできたら良いな、と思っています。

リハーサルでは、池田さんが二人にアドバイスをしている姿が印象的でした。
池田 これまでまったく触れてこなかった作品、しかもゲストで主役を張るのはすごく大変なことだと思います。同門として、できる限りのサポートをしたいという気持ちは最初からありました。
踊りに関してはもう間違いのない二人ですから、表現の部分でアドバイスすることが多いですね。ドラクエバレエの歴史の中で「こういう表現をした人がいたよ」というように、僕以外の情報も二人にシェアするようにしています。

瑠嘉 実際、すごく助かっています。武ちゃんは白・黒それぞれの勇者を演じた経験があるから、役柄の理解が深いんです。

リハーサル中、親身にアドバイスをする池田武志さん ©️Ballet Channel

以前、池田さんは「黒の勇者は単純な悪役ではなく、彼自身にも物語があって、彼の決断で物語が進んでいく」と語っていました。この役ならではの難しさや、踊る上で大事にしているポイントは?
池田 彼には彼のバックグラウンドがあります。どのような思いで悪事に手を染めてきたのか、白の勇者と出会ってどう変化していくのか……そこに説得力を持たせるのが、黒の勇者を演じる上で難しいところです。感情の見せ方ひとつで、物語のクライマックスの感動が大きく変わってくる。彼は最後に大きな決断をしますが、決断を下したその瞬間よりも、決断を下すに至るまでの過程が大事です。
例えば、機械的に踊っているように見えて、じつは人間味が見え隠れしていたりする。目線も揺るがないのか、迷いを見せるのか。もし迷いを見せるなら、どのシーンから見せるのか。ドラクエバレエは自由度の高い作品だからこそ、演じるダンサーによって個性が出て、いろんな黒勇者が生まれます。それも魅力のひとつですね。僕はそういう細かいところをつねにアップデートさせて、前回の自分を超えていきたい。それが初主演の二人とは異なる、僕の個人的なテーマです。

黒の勇者を演じる池田武志さん ©Hasegawa Photo Pro.

士門 武志くんの言う通り、ちょっとした動作からストーリーがちゃんと見えてきます。物語の展開がわかりやすいのは、お客さんにとっていちばん大事なことですよね。だから僕も武志くんの黒の勇者を見て、真似したいと思うようになりました。

池田 そんなふうに言ってくれて、優しい後輩だよね(笑)。

士門 リハーサルの時から、武志くんは表現的なところを細かく教えてくれます。表情や所作を大事にしているのがすごく伝わってくる。できることなら完コピして、完璧な黒の勇者を目指したいです。

瑠嘉 武ちゃんの黒の勇者にたどり着くには、まだまだだな(笑)。

士門 つねに背中を追い続けたいと思います。

池田 士門は僕にとっても弟みたいで可愛いんですよ。子どもの頃は「3人兄弟ですか?」とよく言われていました。

士門 僕にとってはスタジオにいたみんながお兄ちゃんでした。

なんという素晴らしい環境……。
瑠嘉さんは白の勇者を演じていて難しさを感じますか?
瑠嘉 演出の(鈴木)稔先生はドラクエのことをもちろん知り尽くしているから、全員の気持ちを理解しているし、登場人物たちの会話を詳細に伝えてくれるんです。僕は役に入り込んだら、実際に言葉を発してしまうタイプ。キャラクターがしっかり設定されていれば、芝居のことは頭で考えずとも、自然とセリフが浮かんできます。ステップも同じで、頭で考えるのではなく、沸き立つ感情からステップが生まれるような表現をしたい。そういう意味では、白の勇者はとても演じやすいです。

白の勇者が笛を吹くと場面は一転して……?! ©️Ballet Channel

池田 白勇者が黒勇者と違うのは、「御一行様」と呼ばれる仲間がいて、他のキャラクターとの繋がりも多いこと。みんながなぜ白の勇者を信じて、ついていくのか……やっぱり人柄だよね(笑)。

瑠嘉 稔先生が言うには、「ワンピース」や「ナルト」のようなアニメでも、メインキャラクターはみんなから好かれていて、いつも輪の中心にいる。最後に魔王と戦う時も、勇者一人が強いわけではなく、仲間と手を取り合って戦う。そういう物語のクライマックスは、僕も胸が熱くなります。ドラクエバレエを観ると、アニメやRPGゲームの世界観を見事に表しているな、と感じます。

池田 ドラクエバレエは、ゲームをしている時の感覚に近いと思います。ゲーム中は楽しいのに、クリアして物語が終わると、なぜか寂しくてもう一度最初から始めてしまう。ドラクエバレエも、幕が閉じるとゲームと同じような「終わっちゃった感」がある。だから、何度も見たくなるバレエなんだろうと思います

瑠嘉 僕もまた出演できたらいいな、とすでに思っています。

瑠嘉さんは先ほど白の勇者を演じていて「楽しい!」と言っていましたが、お気に入りのシーンはありますか?
瑠嘉 いっぱいありすぎて……。でも、最初に思い浮かぶのは第2幕の「天空の兜」をつけるシーン。その場面の曲が最高にかっこいい。

池田 あれは名曲だな。

瑠嘉 兜をつけて、レベルアップした瞬間、白の勇者から魔法が飛び出すんです。その時の音楽がずっと脳内再生されていて、朝目が覚めた瞬間から頭の中で流れています。あとはエンディングですね。物語のキーポイントとなるペンダントに触れて、感動的なひとコマがある。でも、ここはネタバレになってしまうので、ぜひ舞台でお楽しみください(笑)。

士門 僕は第1幕3場の酒場のシーンです。

瑠嘉 僕も好き。士門が言うと思ってあえて挙げなかった。白黒の勇者が最初に戦うシーンだよね。

士門 あのシーンは、自分がいちばん強いと思っていて余裕があるし、一人で歩いている時も自分にちょっと酔っている。黒の勇者が登場すると曲がガラっと変わって、これから嵐がやってくるぞ……という感じがしてゾクゾクします。それまでが和やかな酒場のシーンだから、そのギャップもいいですね。

士門さんが”自分にちょっと酔っている”と語る第1幕3場のシーン ©️Ballet Channel

士門 あとは第2幕の幕開け。子分たちを引き連れて踊るところは、曲に振付がハマっていて、みんなで踊っていると一体感が生まれるんです。先頭で踊っているとみんなのエネルギーを背中で感じる。2幕は黒の勇者の心に変化があって、どんどん感情が表に出てくるから演じていて面白いですね。挙げるとキリがないです(笑)。

池田 第2幕の幕開けは、黒の勇者の代表的なシーンで「あ、いま俺たち絶対かっこいい!」と思える場面。男性ダンサーとして、踊っていて素直に楽しいところです。
でも、何度も演じてきていちばん難しくて面白いのは、終盤の白の勇者と対峙するシーン。白の勇者は冒険を通じてレベルアップを果たしているし、黒の勇者は心の中で何かが生まれてきている。第1幕の戦闘シーンとはまったく違った心理状態なんです。黒勇者の感情を考えると、最後は我を忘れているのか、それともとにかく憎しみをぶつけているのか……。その感情の揺れを考察するのが最近面白くて。音楽も、まさにドラクエの戦闘シーンの音楽なので、そこがいまのお気に入りですね。

第2幕幕開け。黒の勇者の代表的なシーン ©Hasegawa Photo Pro.

公演がますます楽しみになってきました!
瑠嘉さんと士門さんは、今回初めてのゲスト出演ですが、スターダンサーズ・バレエ団の印象についても聞かせてください。
瑠嘉 みなさん、真面目で本当に素晴らしい。リハーサルをつねに全力で臨む姿勢は、主役を踊る側にとっても力になるし、勉強にもなります。優しくてウェルカムな雰囲気のなかで、楽しくリハーサルをさせていただいています。

士門 ダンサーのレベルが高いですし、バレエに対する態度がとても真摯。海外ではリハーサルだとマーキングで済ますことが多いけれど、一つひとつの取り組み方が熱心で、僕も刺激を受けています。

インタビューの最後に3人で  ©️Ballet Channel

公演情報

スターダンサーズ・バレエ団
バレエ『ドラゴンクエスト』

日程・主な配役

2023年8月11日(金祝)
14:00開演(13:15開場)〜16:00終演予定
白の勇者:アクリ瑠嘉
黒の勇者:アクリ士門
王女:渡辺恭子

2023年8月12日(土)
14:00開演(13:15開場)〜16:00終演予定
白の勇者:林田翔平
黒の勇者:池田武志
王女:塩谷綾菜

※9/2(土)愛知公演についてはこちら

会場

新国立劇場オペラパレス(東京・初台)

詳細 スターダンサーズ・バレエ団WEBサイト

 

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