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【動画&インタビュー①】Kバレエカンパニー「クレオパトラ」浅川紫織〜とにかく目撃してほしい。幕が開いたらそこには古代エジプトがある

バレエチャンネル

動画撮影・編集・写真撮影:Ballet Channel

2022年10月26日より開幕するKバレエカンパニー『クレオパトラ』
東京・渋谷のBunkamuraオーチャードホールでの6公演に加え、11月3日に大阪フェスティバルホール、11月7日に札幌文化芸術劇場 hitaruと3都市で上演されます。

『クレオパトラ』は、紀元前のエジプトとローマを舞台に女王クレオパトラの半生を描いた、熊川哲也演出・振付によるオリジナルのグランド・バレエです。
王位をめぐり対立する弟のプトレマイオス13世との確執や、ローマの最高権力者ジュリアス・シーザーとの結婚、その臣下アントニウスとの愛などが、ドラマティックに繰り広げられる全2幕。その劇的な展開を彩るのは、デンマークの作曲家カール・ニールセンの楽曲です。

Kバレエカンパニーが本作を上演するのは、2017年の初演、2018年の再演以来4年ぶり。
今回は、初演からクレオパトラを演じている浅川紫織さんにお話を聞きました。
本ページトップのリハーサル映像とともにお楽しみください。

浅川紫織 Shiori Asakawa

Kバレエカンパニー「クレオパトラ」山本雅也インタビューはこちら

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4年ぶりの『クレオパトラ』、上演が決まったと聞いていちばんに感じたことは?
来るべき時が来た、と。熊川哲也ディレクターの作った『クレオパトラ』は、何よりもまず、クレオパトラを演じるにふさわしいダンサーがいなければ成立しない作品です。そして彼女を取り巻くたくさんの登場人物たちーープトレマイオス、アントニウス、オクタヴィアヌス、そしてジュリアス・シーザーなど、それぞれにも適材適所の“役者”が必要。初演・再演時は2組のキャストで上演しましたけれど、今回の再々演は3組で実現できることになりました。そこまでカンパニーが成長し、個々のダンサーの厚みが増したことが本当に嬉しいです。
初演・再演時にクレオパトラを任された浅川さんは、その後の2018年に股関節の持病のためいったんはダンサーを“引退”。手術の成功を経て舞台に復帰し、2022年6月『カルメン』では久しぶりの全幕主演を見事成功させました。そのような経緯を経ての今回、再び大役クレオパトラにキャスティングされたことについては、どのように感じましたか?
配役が決定する前に、ディレクターが「踊りたいか? 踊れそうか?」と出演の打診をしてくださったんです。私は「踊りたいです。ぜひ挑戦させてください」と答えました。『クレオパトラ』が世界初演されたあの時の衝撃は、今でも忘れられません。もう一度踊る機会をいただけるのなら、やらないと絶対に後悔すると思いました
Kバレエのプリンシパルとして数々の主役を踊ってきたなかでも、クレオパトラは特別な役なのですね。
そうですね。クレオパトラは、誰にでも踊れる役ではありません。熊川ディレクターが「彼女がクレオパトラだ」と選んだダンサーにしか踊ることができない、そういう作品なんです。それを踊らせていただけるのはこの上ない光栄ですし、そもそも引退前より今のほうが身体の状態が良いのに、「やらない」という選択肢はありませんでした。
今回のクレオパトラ役は、浅川さんのほかにプリンシパルの日髙世菜さん、飯島望未さんのトリプルキャストですね。
『クレオパトラ』は、たくさんのシーンで織り上げられている作品で、それぞれの場面においてどういう心境なのかをしっかりと理解していないと、演じるのが難しい部分があります。ですから日髙さんや飯島さんにはよく「ここはどういう気持ちなのですか?」と感情面について質問をされますね。私たち3人はご覧のとおり見た目も踊りのタイプもまったく違うので、同じ振付を踊っても、当たり前ですけれどすごく違います。でも、それぞれのクレオパトラ像がちゃんと成立しているので、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います。

Kバレエカンパニー『クレオパトラ』リハーサル風景より  写真左から浅川紫織、日髙世菜

浅川さんは、クレオパトラをどういう女性だと解釈していますか?
賢くて、強くて、でもすごく寂しくて、つねに孤独。彼女は生まれた時から国を背負う運命にあって、きっと賢くならざるを得なかっただろうし、うまく立ち回らければ生きていけなかったのだと思います。そして自分に関わった人はみんな死んでいき、本当の愛も知らなかったのかもしれません。だから作品の前半は冷たいサイボーグのような女性に思えるのですが、物語が進んでいくにつれて、その印象が変化していきます。身近な人の死を嘆いたり、「案内人」という登場人物を可愛がったり、笑顔を見せたり……場面ごとに違う顔を持っているので、「こういう女性だ」とひと言では表せないけれど、人間らしい面は多分にあると感じています。
そんなクレオパトラを演じる上で大事にしていることは?
いまお話ししたようなクレオパトラの場面ごとの人間像を、うまく表現できたらと思っています。大きく言うと、第1幕はエジプトの女王としての冷酷なまでの強さ。それが第2幕になると、愛する人ができて子どもが生まれて……と、温かな血が通い始めます。音楽も1幕と2幕で印象が変化するので、そこにクレオパトラの内面を調和させていけたらと。

踊りや演技の面で、熊川監督からはどんな要求がありましたか?
第1幕は「綺麗に踊らないでほしい」と。バレエ的な美しさとは対極にあるようなワイルドさ、野生味というものを全面に出して踊ってほしいと言われました。あとは、熊川ディレクターの描くクレオパトラは「蛇の化身」であるということ。誰かを誘惑したり、籠絡しようとしたりする時、彼女の動きのなかに「蛇」の毒気が出てくるんです。人間であり、蛇でもある。その二面性をどういうバランスで見せていくかというところも、ディレクターが大きなポイントにしているところだと思います。
魅力的な登場人物たちの中でも、クレオパトラがとくに深い関わりを持つ3人の男性キャラクターについて聞かせてください。まず、弟のプトレマイオス(プトレマイオス13世)に対しては、どのような感情を持って演じていますか?
歴史を調べてみると、クレオパトラはプトレマイオス朝の慣習で弟のプトレマイオスと結婚し、共同統治者として王位を継ぐんですね。その結果、ふたりは勢力争いすることになり、プトレマイオスは彼女を暗殺しようとしていたと。……このことじたいは現代ではあり得ないことですけれど、じつは私にも弟がいて。その部分を手がかりに心境を想像してみると、どれだけ相手が憎くても、たとえ陥れられようとしていても、弟を殺すことはできないと思うんですね。クレオパトラには国を背負うという立場ゆえに、プトレマイオスを排除する決断をした。だけど一人になった時、やっぱり彼女は弟のことを考えます。そのシーンは、ずっと強かった女王がふと弱さを見せるところなので、大切に演じたいと思っています。
ジュリアス・シーザーに対しては、どんな感情を抱いているのでしょうか?
クレオパトラはシーザーとの間にカエサリオンという息子を授かります。でも、これは私の解釈ですけれど、彼女はシーザーのことを心から愛してはいなかったと思います。彼に近づいたのは、あくまでも「この人を味方にしておきたい」という策略があってのこと。そこから真実の愛が生まれるのは、難しいのではないかと感じます。ですから、シーザーと一緒にカエサリオンを愛おしんでいる瞬間も、あくまでもエジプトを背負っている女王としてそばにいる感覚です。
そして3人目、アントニウスに対する気持ちは、どのようなものでしょうか?
クレオパトラにとって、アントニウスとの出会いは事件というか、とても大きな出来事だったのではないでしょうか。ローマでシーザーを亡くした彼女を励ましてくれて、その後エジプトへ戻った彼女を追いかけて来てくれた。アントニウスにはオクタヴィアという婚約者がいたのに、その彼女もローマも捨てて会いに来てくれたアントニウスという存在に、クレオパトラはきっと驚いたはずです。彼だけは、策略のために近づいたわけではなく、向こうから現れて愛が生まれたという関係。この作品においてクレオパトラが心から愛した人は、アントニウスただ一人だったのだと思います。

浅川紫織(クレオパトラ)、栗山廉(アントニウス)

浅川さんがクレオパトラを演じる上で、「ここがカギだ」と考えているのはどのシーンですか?
『クレオパトラ』はどこをとっても重要な場面なので難しいのですが……強いて挙げるなら、第1幕のオープニングと、第2幕のラストシーンです。
なるほど……! この作品を観たことのある身としては、非常に納得です。
クレオパトラとは何者か、あの第1幕のオープニングがすべてを物語っています。そして全2幕にわたる人生が、ラストシーンで一気に回収されていく。凄い演出だと思います。
そのラストシーンで、クレオパトラは「ピラミッドの頂点」のような場所にたどり着きます。あの時、浅川さんのクレオパトラは何を感じているのでしょうか?
初演の時、最後に客席を見渡した瞬間、本当に世界の頂点に立ったような錯覚を覚えたんです。実弟のプトレマイオスも、息子の父親であるシーザーも、ただ一人愛したアントニウスも、自分に関わった人たちはすべて死んでしまった。それでも、自分はエジプトの女王なのだと。それが、クレオパトラとして最期に感じることという気がします。
公演を楽しみに待っているみなさんへメッセージをお願いします。
とにかく、この『クレオパトラ』を目撃してほしいです。音楽が流れて、幕が開いたら、そこには古代エジプトがあります。セットや照明、衣裳、キャラクターの再現度、どれをとっても素晴らしいと、自信を持って言えます。ぜひ最後のシーンまで気を抜かずにご覧ください!

公演情報

熊川哲也Kバレエカンパニー Autumn Tour 2022『クレオパトラ』

会場 [東京]Bunkamuraオーチャードホール

[大阪]フェスティバルホール

[札幌]札幌文化芸術劇場 hitaru

日程 [東京]

10月26日(水)18:30(17:45開場)

10月27日(木)14:00(13:15開場)

10月28日(金)14:00(13:15開場)

10月29日(土)13:00(12:15開場)★/17:30(16:45開場)

10月30日(日)13:00(12:15開場)

[大阪]

11月3日(木祝)13:00(12:00開場)/17:30(16:30開場)

[札幌]

11月7日(月)18:30(17:30開場)

 

上演時間:2時間30分(25分間の休憩含む)

★10月29日(土)13:00の公演はライブ配信を実施。
(※10月30日(日)23:59 まで視聴可能)

詳細 https://www.k-ballet.co.jp/contents/2022cleopatra

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