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【第39回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!ー跳躍を見せるリフト(2)

海野 敏

文/海野 敏(舞踊評論家)

39回 跳躍を見せるリフト(2)

■登場人物の跳躍を引き立てるリフト

前回から取り上げているのは、ジャンプする動作の女性を男性が持ち上げて、跳躍を引き立てて見せるリフトです。古典全幕作品の中の例としては、白鳥の羽ばたきを表現するリフトと、精霊や妖精の浮遊を表現するリフトを紹介しました。

飛ぶ姿や跳び上がる姿を表すリフトは、白鳥、精霊、妖精以外の役柄でもあるでしょう。例えばネコやカンガルーのようなジャンプする動物の役、蝶やトンボのような飛ぶ昆虫の役、白鳥以外の鳥の役などが思い浮かびます。現代作品ならば飛行機やロケットを表現することがあるかもしれません。デヴィッド・ビントレー振付の『ペンギン・カフェ』では、「豚鼻スカンクにつくノミ」の役の女性ダンサーが、人間役の男性ダンサーにリフトされます。跳ねるノミが人間たちと一緒にフォークダンスを踊る楽しい場面です(注1)

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新国立劇場バレエ団『ペンギン・カフェ』の映像です。「豚鼻スカンクにつくノミ」の可愛らしいダンスも、9秒あたりから少しだけ見ることができます。

さて、今回も跳躍を見せるリフトの例を古典全幕作品から紹介しますが、今回は自ら飛ぶ力を持たない人間の女性の役に限りました。女性の登場人物の跳躍を引き立てるリフトは、飛行や浮遊を具象的に表現しているわけではありません。ソロでは実現できない高さやポーズに持ち上げることで、動きを強調したり、装飾したり、美しく見せたりするパ・ド・ドゥのテクニックです。

■恋人を高く舞い上がらせるリフト

『ドン・キホーテ』第1幕のパ・ド・ドゥは、ポーズを見せるリフト(第34回第37回)でも取り上げましたが、跳躍を見せるリフトも見せ場になっています。第1幕後半、いったん広場を離れたキトリとバジルが戻って来て踊るパ・ド・ドゥでは、キトリが登場してソロで広場を跳び回った後、グラン・パ・ド・シャのような動作をするキトリを恋人のバジルが高く3回リフトしながら広場を周回します。このときバジルはキトリの腰を両手で支えるのですが、リフトの頂点でキトリを放り投げるように両手を一瞬離してキャッチすることもあります。恋人たちの熱いパッションが伝わる高揚感のある瞬間です。

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香港バレエ『ドン・キホーテ』第1幕より、街の人々に囲まれて踊るパ・ド・ドゥです。グラン・パ・ド・シャのような動きをするキトリを高々とリフトするバジル、その手が一瞬パッと離れるようすを27分55秒から見ることができます。

『ドン・キホーテ』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥでは、アダージオの冒頭に跳躍を見せるリフトが登場します。2人が上手奥から登場し、舞台を左右に移動しながら、パ・ド・シャまたはアントルシャの動作をするキトリをバジルが何度かリフトします(注2)。第1幕の勢いのあるリフトとは異なった、上品で落ち着いた雰囲気のリフトです。このアダージオには、その後も跳躍を見せるリフトが入る場合があります。

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英国ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』第3幕より。マリアネラ・ヌニェス演じるキトリとワディム・ムンタギロフ演じるバジルのグラン・パ・ド・ドゥです。跳躍を見せるリフトにもエレガントさが漂う、素晴らしい演技です。

■『海賊』に登場する“跳躍を見せるリフト”

『海賊』のメドゥーラとアリのグラン・パ・ド・ドゥも、ポーズを見せるリフト(第34回)で取り上げましたが、このアダージオの後半に跳躍を見せるリフトが登場します。男性は、まずグラン・パ・ド・シャまたはグラン・ジュテのような動作をする女性をリフトし、いったん下ろした後、もう一度、片脚で宙を蹴り上げるような動作をする女性をリフトします(注3)。このアダージオではシンバルが「ジャーン」と2度打ち鳴らされるのですが、その1回目はハイ・リフトのタイミング、2回目はリフトされた女性が片脚で宙を蹴り上げるタイミングです。

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イングリッシュ・ナショナル・バレエ『海賊』より。フランチェスカ・ヴェリク演じるメドゥーラとダニエル・マコーミック演じるアリのパ・ド・ドゥです。一連のリフトは2分42秒から。打ち鳴らされるシンバルの響きとあいまって、動きがよりダイナミックに感じられます。
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『海賊』より、ヨランダ・コレア演じるメドゥーラとのオシール・グネーオ演じるアリのグラン・パ・ド・ドゥです。2分21秒から、こちらの映像ではよりシンバルがクリアに響き、大変力強くて美しいリフトを見ることができます。

『海賊』でもう一つ紹介したいのが、第1幕、ギュリナーラランケデムのパ・ド・ドゥです。このパ・ド・ドゥの冒頭では、カブリオールあるいはバッチュのような動作をするギュリナーラランケデムがリフトして、跳躍を強調します。特徴的な動きのリフトなので、印象に残っているバレエ・ファンが多いのではないでしょうか。このリフトは2回繰り返されます。また後半にも、グラン・パ・ド・シャあるいはバロテのような動作をする女性のリフトが何度か入ります。全幕上演でなければなかなか見られないパ・ド・ドゥですが、興味深い振付ですので是非ご注目ください(注4)

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『海賊』第1幕より、ギュリナーラランケデムのパ・ド・ドゥの映像です。ギュリナーラ役はヤーナ・サレンコランケデム役はジョセフ・ガッティ。冒頭から、この作品ならではのユニークなリフトが次々と出てきます。

(注1)デヴィッド・ビントレー(David Bintley)は元バーミンガム・ロイヤル・バレエの芸術監督(1995~2019年)で、日本の新国立劇場舞踊芸術監督(2010~2014年)も務めた振付家。『ペンギン・カフェ』は新国立劇場バレエ団の人気演目です。

(注2)このアダージオ冒頭の振付は千差万別で、リフトされる女性の動きはパ・ド・シャ、アントルシャ以外に、アッサンブレのような跳躍の場合もあります。また、リフトの回数は1回だけのことも、3回繰り返すこともあります。パリ・オペラ座バレエでは、低いリフトの2回連続×3回で、6回もリフトをしていました。

(注3)メドゥーラ、コンラッド、アリのパ・ド・トロワの場合もあり、コンラッドがメドゥーラをリフトする振付もあります。

(注4)このパ・ド・ドゥの音楽は楽しげで軽快ですが、場面としては、メドゥーラと一緒にさらわれたギュリナーラが、奴隷商人ランケデムに踊らされる奴隷市場の情景です。ギュリナーラが嫌がる仕草や、ランケデムが買い手にアピールするマイムも見どころです。

(発行日:2022年10月25日)

次回は…

次回はリフトの最終回です。第40回は「さまざまなリフト」で、これまで取り上げなかった少し変わったリフトを紹介します。ケネス・マクミランが振付けた傑作リフトも紹介する予定で、発行予定日は2022年11月25日です。

【鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!-総目次】
http://bibliognost.net/umino/ballet_tech_contents.html

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うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。早稲田大学、立教大学でも講師を務める。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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