動画撮影・編集:Ballet Channel
Kバレエカンパニー『カルメン』が2022年6月1日~5日に上演される。
“魔性の女”カルメンと、彼女に魅了され狂気へと堕ちていくドン・ホセの愛憎劇……ビゼー作曲の有名オペラが、芸術監督・熊川哲也の手によってグランド・バレエに生まれ変わったのは2014年。今回は3年ぶり4回目の上演となる。
公演を2週間後に控えた5月18日、東京・Kバレエカンパニースタジオで公開リハーサルがおこなわれた。
この日は主演のカルメンとドン・ホセを演じる4組のダンサーが参加。日髙世菜&石橋奨也、成田紗弥&山本雅也、小林美奈&堀内將平の3組が第2幕2場の〈闘牛場の前〉を演じ、浅川紫織は第1幕1場〈煙草工場前の広場〉の場面を披露した。
まずは熊川哲也芸術監督が登場。「『カルメン』は演劇的要素が重要なバレエです。このシーンでは、それそれ別の“死にざま”や“殺めざま”があるはず。複雑に入り混じる心情をどう表現するかはキャスト一人ひとりに委ねている。自分なりの見せ方で踊って欲しい」とダンサーたちに声を掛け、リハーサルが始まった。
熊川哲也 ©Ayumu Gombi
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Rehearsal1:2幕2場〈闘牛場の前〉
- 場面は闘牛場。群衆が沸き立つなか、エスカミーリョたち闘牛士が颯爽と登場する。エスカミーリョが「カルメンが自分の恋人である」と宣言したその時、人並みを押しのけて入ってきたホセが、闘牛場からカルメンを引っ張り出す。なにを言っても取り合わないカルメンを前に、嫉妬に狂ったホセは激情のあまり、彼女の首に思わず手を掛ける。それを振り切り逃げるカルメン。そして……
カルメン:日髙世菜&ドン・ホセ:石橋奨也(6/2 18:30・6/5 13:00)
©Ballet Channel
石橋演じるホセは、カルメンへの激しい「怒り」の表現が際立つ。「どうして?! なぜ?!」と声が聞こえるような激しさと、「銃を持った時には彼女を殺そうと決めている」(石橋)という彼の狂気が伝わってきた。
いっぽう、ホセの恐怖に怯えながらも無下にはねのけることなく、懸命に彼を説得しようとする日髙のカルメン。「オペラ原作のバレエなので、歌うように踊れたら」(日髙)との言葉のとおり、激しい動きすら音楽的で美しい。
©Ayumu Gombi
カルメン:成田紗弥&ドン・ホセ:山本雅也(6/2 14:00・6/4 13:00)
©︎Ballet Channel
「私が考えているカルメンには、ホセへの情はないんです」と成田。ホセに懇願されても顔色ひとつ変えない態度が、カルメンにとって彼は一夜の遊びでしかなかったこと、そして今や鬱陶しいとしか思っていないことを伝えてくる。
対する山本は「カルメンが自分の思いどおりにならないことで、悲しみが怒りに変わる」ホセ。中盤、優しさの糸がプチンと切れた途端に豹変し、カルメンとの立場が逆転する。揉み合うシーンにも迫力があり、愛憎劇にリアリティがある。
©︎Ballet Channel
カルメン:小林美奈&ドン・ホセ:堀内將平(6/3 14:00)
©Ayumu Gombi
「彼女のためにすべて捨ててきた真面目な青年が、最後は捨てられてしまう」と語った堀内のホセは、喜怒哀楽の「哀」を前面に押し出した演技。自分の愛のすべてをカルメンに伝えようと必死にすがり、混乱する姿を表情豊かに演じていく。
小林は「カルメンは自分の気持ちをストレートに伝える人。その自由さが周囲を翻弄していく」と解釈する。キリリと引き締まった踊りで、情に惑わされない真っ直ぐな女性をクリアに表現。その彼女が次第にホセをどうあしらえばいいのか戸惑い始め、焦りを募らせていく心情を巧みに演じた。
©︎Ballet Channel
Rehearsal2:1幕 1場〈煙草工場前の広場〉
カルメン:浅川紫織(6/1 14:00・6/4 17:30)
中央:浅川紫織 ©Ayumu Gombi
続いて披露されたのは、有名な「ハバネラ」の曲でカルメンと男たちが踊るシーン。4年ぶりに全幕主演を務める浅川紫織の登場である。
セクシーさのなかに可愛らしさも見え隠れする魅惑のカルメン像。大きさのある踊りと演技で圧倒的な存在感を見せた。
©Ayumu Gombi
Kバレエの『カルメン』を大好きな演目のひとつだという浅川は、「ハバネラ」の印象的な歌詞を役作りの基盤にしているとのこと。そのひとつが「私に惚れられたらお気をつけなさい(prends garde à toi!)」で、バレエではカルメンに夢中になった男たちが一斉にダイナミックなジャンプを見せるシーンだ。
「カルメンがどういう人物かは、本番になるまで探りたい」と浅川。また、浅川とペアを組むホセ役の髙橋裕哉は、カルメンを殺めるシーンの気持ちを尋ねられ「思考回路がおかしくなっていて、カオスな状態」と答えた。
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リハーサル終了後、熊川が再び取材陣の前に登場。過去にホセ役を演じた時の経験を踏まえ、「どの役も、歳を重ねて成長していくことで変化が出てくる。ダンサーたちが5年後、10年後に同じ役をやったときに分かることもあるはず。恋愛や、出会いと別れなどの経験が踊りに反映するのだと思う」と締めくくった。
左から:石橋奨也、日髙世菜、髙橋裕哉、浅川紫織、小林美奈、堀内將平、成田紗弥、山本雅也 ©Ayumu Gombi
【公演情報】
熊川哲也Kバレエカンパニー Spring2022
『カルメン』
◎公演日程
2022年6月1日(水)14:00
2022年6月2日(木)14:00/18:30
2022年6月3日(金)14:00
2022年6月4日(土)13:00/17:30
2022年6月5日(日)13:00
◎会場
Bunkamuraオーチャードホール
◎詳細
https://www.k-ballet.co.jp/contents/2022carmen