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東京バレエ団「ドン・キホーテ」特集①エスパーダ対談:大塚卓×生方隆之介~エスパーダは街のSTAR!

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2025年11月18日(火)〜24日(月)、東京バレエ団『ドン・キホーテ』を東京文化会館(上野)にて上演します。2001年の初演以来、バレエ団のレパートリーとして大切に受け継がれてきたウラジーミル・ワシーリエフ版。今回はゲストにヴィクター・カイシェタ(ウィーン国立バレエ プリンシパル)を迎え、6組の主役ペアが舞台を飾ります。
開幕直前の11月初旬、東京バレエ団のスタジオで行われたリハーサルを取材。今回はエスパーダ役の大塚卓(おおつか・すぐる)さんと生方隆之介(うぶかた・りゅうのすけ)さんの対談をお届けします。

左から:生方隆之介、大塚卓 ©Ballet Channel

★☆★

#1 エスパーダを演じるということ

おふたりともエスパーダは全幕初役とのこと。いまの心境は?
大塚 「子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』(通称『子ドンキ』)」の時にたっぷり受けた指導をもとに、本公演も同じテンションで踊れたらと思います。隆之介くん(生方)が『子ドンキ』でエスパーダをやったのって、かなり前だよね。

生方 はい。最近はバジル役が多くて、エスパーダは5年くらい前かな。

大塚 若かったよね、初々しくて。

生方 (笑)

大塚 当時のフレッシュさや勢いは今でも変わらないし、最近の隆之介くんは色気が増してきたなと思う。だからどんなエスパーダをやってくれるか、正直なところすごく楽しみ。

生方 卓さん(大塚)は、身体の線が綺麗なのでポーズ一つひとつが映えるし、輪郭がバッ!と決まって形になった瞬間がカッコいい。エスパーダ役はぴったりだし、そのカッコいいところを見せつけてくれるんじゃないですか?

大塚 そう言われたらやるしかないな! でもどうだろう。昔だったら若さで突き抜けられたけど、ちょっと恥ずかしくなっちゃうかもしれない(笑)。

エスパーダというキャラクターを、一言で表現するとしたら?
大塚 一言で言うなら「スター」ですよね。

生方 同じく「STAR!」です(笑)。

「スター」をどう演じたいですか?
大塚 カッコよくやりたいですね。街の人気者っていう点ではバジルも同じなので、キャラクターが被らないように、自分なりのエスパーダ像を作り上げていかないといけない。バジルはどちらかというと賑やかしが得意なタイプ、でもエスパーダは二枚目的な立ち位置だと思っています。街の象徴というか……大谷翔平選手みたいな(笑)。

生方 僕は、カッコつけるのが得意ではないのと、エスパーダのようにはっきりしたキャラクターを演じた経験が少ないですが、スターらしく、隙がないイメージで演じられたらいいなと。

エスパーダ役において、『子ドンキ』と大きく違うところはありますか?
生方 とくに大きいのはパートナーの存在かな。

大塚 確かに。『子ドンキ』のエスパーダって、ひとりで闘牛士たちを引き連れている設定だから、メルセデスとの絡みの部分は初めての挑戦です。

生方 相手役の女性がいることによって男性の魅力も引き立ちますよね。エスコートする場面もたくさんあるし、色々学べると思います。メルセデスとの場面と、街の女性たちに囲まれている場面のエスパーダの対比も面白いんじゃないかな。

大塚 メルセデス役は大先輩ばかりなので、大人の色気に負けないように頑張ります。

東京バレエ団「ドン・キホーテ」よりエスパーダを踊る柄本弾 ©Shoko Matsuhashi

#2 エスパーダを踊るということ

エスパーダ役を踊るうえで、難しいと思うところは?
大塚 ワシーリエフ版『ドン・キホーテ』は、全体的に音が速くて、置いてけぼりにならないように踊るのが大変なんです。でもそれを余裕でサラッとこなすのがエスパーダ。音に追われて必死に演じちゃうと、それが表現できないので難しいですね。

生方 足を踏みならすステップとか、上半身のツイストとか、基本的なクラシック・バレエではない動きがすごく多いのは、特徴であり難しいところ。脚を6番ポジションにして腰を入れたポーズなど、普段のクラスレッスンとは違うベクトルのものがふんだんに盛り込まれているので、お客様にはそういうところも注目していただけたら。

カッコよく踊るポイントは?
大塚 やっぱり、マントさばきは大事。

生方 マントを引っ張る振付は、カウントをあえて少しずらすようにしています。全部イーブンに取らずに、ちょっと長く伸ばして、戻す時は速くしたりとか。

大塚 あの場面、闘牛士たちはキレキレに踊っていると思うけど、エスパーダは闘牛士たちのテンションよりもちょっと抑えたほうがいいのかなと思ってる。エスパーダがテンションを上げきって踊っちゃうと……なんていうのかな、逆に人物が安くなっちゃうというか。

生方 うん、それはありますね。

大塚 もちろん決めるところは決めるけれど、力を抜いてサラッと流すところがあったほうが、リーダーとしての風格が出るんじゃないかなと。

生方 抜け感というか、大人の余裕みたいな感じですよね。

大塚 斎藤友佳理団長が「今日の踊りは良かった」と言ってくださるのって、意外に力を出し切って踊った時よりも、少しセーブというか、コントロールした時だったりしない? 120パーセント出し切った!自分の中ではすごい達成感!という時ほど「なんだか、ちょっと肩に力が入ってる」と言われてしまう。

生方 ああ! ありますね。

大塚 反対に、全部出し切れなくて、ベストじゃなかったと思っていた時に「余計な力が抜けていて、すごく良かった」と言われることも多いじゃない? だから、エスパーダはそこをより意識したほうがいいかもしれない。

生方 なるほど。僕も同じようなことがよくあるので、参考にさせていただきます。

ほかに斎藤友佳理団長からの言葉で、印象に残っているものは?
大塚 『ドン・キホーテ』に限らず、友佳理さんは作品を大事にする方です。もちろん踊りの技術やテクニックも求められるけれど、それ以上に大事なのは、ストーリーの中でその人物としてちゃんと生きることだと。リハーサルが始まる時にはいつもそのお話をされます。だからエスパーダも技術にとらわれすぎず、大切に演じられたらと思います。

生方 「役そのものになって、自分自身の身体で作品をしっかり感じること」。それがアーティストとしての宿命というか、定めだと。でも、その感覚はダンサーの内側に宿っているものからしか出てこない、人から教わることができないものだと教わりました。すごく難しいけれど、自分の中から探し出して、お客様にも伝わるように頑張りたいです。

「子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』」でエスパーダを演じる大塚卓 ©Hidemi Seto

役作りのために、日ごろどんなことをしていますか?
大塚 隆之介くんがどんなことをやっているのか、気になるな。

生方 公演まであまり時間がない時は、過去の舞台映像を観たり、みなさんのリハーサルを見学して参考にさせてもらっています。ここでこんな演技をしてるのか、とか、こういうポーズで表現するのか、とかいろいろなパターンを集めて、自分だったらどれに近いものがいいか考え、試してみることが多いです。

大塚 いろいろ研究しているんだね。僕は動画はあまりチェックしないようにしてる。観すぎると、自分がどう踊りたいのか見失っちゃう時があるから。自分の踊りも観ない。

生方 そうなんだ!

リハーサルで、先輩のエスパーダを見ていて感じることは?
生方 (柄本)弾さんの道具さばきや、女性のちょっとした扱い方は、本当に勉強になります。僕、小道具の扱いが苦手で。劇場に行かないと本番用で練習できないこともたくさんあるから、リハーサル中に少しでもコツを教えてもらおうという気持ちでいます。

大塚 先輩方は、リハーサルでも舞台上でも自信を持って踊っていらっしゃる。もちろん緊張している時もあるはずなのに、そういうそぶりを見せないし、決めるところはきちっと決める。僕には足りないところだと思っているので、目指したいです。でもどうしたって緊張はします。

生方 僕も緊張します。だから、あえて本番だと思っていないくらいのテンションで舞台に立とうと思うようにしています。頑張ろうって張り切りすぎた結果、何もできなくなっちゃったら元も子もない。だからあえて「なんとかなる」くらいの気持ちで、自然体でいることを心掛けようと。でも、それがいちばん難しいんですよね(笑)。

東京バレエ団「ドン・キホーテ」より 中央:柄本弾 ©Shoko Matsuhashi

#3 ワシーリエフ版「ドン・キホーテ」の魅力

バレエ団の大事なレパートリーであるワシーリエフ版の特徴を教えてください。
大塚 全3幕もののイメージが強い『ドン・キホーテ』ですが、ワシーリエフ版は全2幕しかない。そこが斬新だなと。場面をカットしたわけではなく構成を変えただけというのもすごいし、テンポが良くてワクワクするし、最後まで観客を退屈させません。

生方 僕は東京バレエ団の『ドン・キホーテ』はカラフルだなと思います。どの場面を見ても色彩豊か。衣裳も明るい色が多くて、一人ひとりのキャラクターがわかりやすい。ちょっと明るすぎるって思うところもあるけれど、それもお客さんが楽しめる要素のひとつだと思います。

好きなシーンは?
大塚 サンチョ・パンサがトランポリンで跳ぶところです。じつは『子ドンキ』と全幕の『ドン・キホーテ』では、トランポリンの布の大きさが違います。全幕のほうが大きくて、それを闘牛士、セギディリヤ、街の人たちまで混ざって大人数で動かす。だから毎回期待してしまうんですよ。「今日はどれくらい高く跳ばしてくれるかな」って。

生方 ちょっとコアな目線からいくと、すべての踊りが終わっての大コーダで、ガマーシュがピルエット対決に挑んでいるところ。バレエ団のみんなも舞台上で密かにチェックしているみたいです。結婚式という一大イベントが終わった後の小さなお楽しみ。ぜひ楽しんでいただけたらと思います。

大塚 あそこはガマーシュがいちばん緊張していますよね(笑)。そこまではあまり踊らないのに、最後の最後にあの靴でピルエットだから。

生方 頭飾りもついているし、回りづらそうですよね。

大塚 対するバジルはグラン・パ・ド・ドゥを踊りきって身体もホカホカな状態。対抗するのはちょっと可哀想だよね。

最後にこの舞台を楽しみにしている観客にメッセージをお願いします。
大塚 初日からギア全開で行きますので、ぜひ観に来てください。

生方 久しぶりの『ドン・キホーテ』、バレエ団一丸となって楽しい舞台にできるように頑張ります。久しぶりにエスパーダを演じさせていただくので、キャラクターを重点的に意識しながら、舞台を盛り上げられたらと思います。

©Ballet Channel

公演情報

東京バレエ団
「ドン・キホーテ」

振付:ウラジーミル・ワシーリエフ(マリウス・プティパ/アレクサンドル・ゴールスキーによる)
音楽:レオン・ミンクス
美術:ヴィクトル・ヴォリスキー
衣裳:ラファイル・ヴォリスキー

演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【日時】
2025年11月18日(火)~11月24日(月祝)

【会場】
東京文化会館 大ホール

【詳細】
公演情報は こちら

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