バレエを楽しむ バレエとつながる

  • 観る
  • 知る

ミュージカル「バグダッド・カフェ」花總まりインタビュー~私は舞台に嘘をつきたくない

青木かれん Karen AOKI

©はぎ ひさこ

2025年11月2日からミュージカル『バグダッド・カフェ』が上演されます。

原作はパーシー・アドロン監督による映画『バグダッド・カフェ』。アメリカ西部の砂漠にある「バグダッド・カフェ」の女主人ブレンダと、偶然現れたドイツ人旅行者ジャスミンの出会いと友情、国籍も人種も立場も異なる人々の絆を描いた、ファンタジックなコメディ映画です。ジェベッタ・スティールが歌ったテーマ曲「Calling You(コーリング・ユー)」はアカデミー賞歌曲賞にノミネートされ、今もなお多くの歌手にカバーされています。

アドロン監督と妻のエレオノーレ・アドロン自らが脚本を手掛けたミュージカル版が、小山ゆうなの演出で日本初演。日比谷シアタークリエを皮切りに、東京・愛知・大阪・富山の4都市で上演されます。主演のジャスミン役には花總まり、カフェの女主人ブレンダ役には森公美子、ジャスミンに恋する画家ルディ役に小西遼生、ブレンダの娘フィリス役に清水美依紗が出演します。

今回はジャスミン役の花總まりさんに、作品の魅力や役作りのこと、幼い頃から習っていたバレエについて聞きました。

Story
アメリカ西部の砂漠にたたずむ、さびれたダイナー兼ガソリンスタンド兼モーテル“バグダッド・カフェ”。切り盛りするブレンダは子育てや仕事に日々ストレスを抱え、不甲斐ない夫サルを追い出してしまう。
そこへ突然やってきたのが、ドイツ人の旅行者ジャスミン。彼女は夫と喧嘩別れをして、カフェに流れ着いた。
予期せぬ来訪者にブレンダは不信感を抱き、冷たく接するが、やがてジャスミンの存在がブレンダを始め、娘フィリスや息子サル・ジュニア、画家のルディなどカフェに集う人々の心を癒し、その“マジック”が徐々に日常を変えてゆく──

花總まり Mari Hanafusa
東京都出身。元宝塚歌劇団雪組・宙組娘役トップスター。幼少期よりヴァイオリンとクラシック・バレエを学ぶ。1991年宝塚歌劇団に入団し、月組にて初舞台を踏み、星組に配属。雪組に組替えし、1994年「風と共に去りぬ」新人公演で主演スカーレット・オハラを演じ、同年雪組娘役トップスターに就任。1996年日本初演「エリザベート」にてエリザベート役を演じて以降、代表作に。「激情-ホセとカルメン-」のカルメン役、「ベルサイユのばら」マリー・アントワネット、日本初演「ファントム」のヒロイン・クリスティーヌなどを演じた。1998年新設された宙組へ組替え、通算12年3カ月間のトップスター就任を経て、2006年「NEVER SAY GOODBYE」をもって退団。女優として舞台やテレビ等幅広く活躍。おもな出演作に、「ディートリッヒ 生きた愛した永遠に」、ミュージカル「エリザベート」、「レディ・ベス」、「マリー・アントワネット」など。第54回文化庁芸術祭賞 演劇部門優秀賞、第29回菊田一夫演劇賞、第23回読売演劇大賞優秀女優賞、第41回菊田一夫演劇賞大賞受賞。2025年11月よりミュージカル「バグダッド・カフェ」、2026年1月より「破果パグァ」に出演予定。 ©はぎ ひさこ

出演が決まったときの気持ちは?
花總 とても嬉しかったです。身近に映画の『バグダッド・カフェ』を大好きな方がいたり、作品の高い人気を感じましたが、私も映画を観て、あっという間にその魅力に引き込まれました。ミュージカルとしてどんな作品に仕上がっていくのかが楽しみです。物語の世界に入り込んで、ジャスミン役を演じられるのを心待ちにしています。
映画を観て、『バグダッド・カフェ』のストーリーのどんなところに魅力を感じましたか?
花總 私は(自分が演じる)ジャスミンの目線で観たのですが、映画を観る前はジャスミンがたくさん自分の気持ちを吐露しているのかなと思っていたら、まったくそんなことはなくて。佇まいやふとした時に見せる表情、目線が絶妙なんですよね。
さらにバグダッド・カフェの女主人ブレンダとの関係が、深い友情や魂の繋がりのように感じられて、素敵だなと思いました。しだいにブレンダとも打ち解けて、カフェの一員となったジャスミンの姿や、仲間たちとの心温まるエピソードにも胸を打たれました。
「こんなことってあるんだ!」と思うようなシチュエーションもおもしろかったです。ジャスミンは夫と旅の途中で喧嘩別れをして独りになって、たまたまたどり着いた“バグダッド・カフェ”で、不思議な交流を始める。ジャスミンが夫のトランクを間違えて持ってきたり、カフェのモーテルを勝手に掃除してブレンダに怒られてしまったり。物語を追っているうちに、いつの間にか作品の虜になっていました。
ジャスミンをどのような人物だと解釈していますか?
花總 掴みどころがないのに、人を惹きつける魅力を持っているなと思いました。ブレンダを筆頭に、彼女の家族やお店の人たち、そこに来るお客さんみんなを変えてしまう。
自分に彼女と似ている部分があるかなと考えたのですが、私だったらトランクを開けた時に自分の物じゃなかった段階ですぐに故郷のドイツに帰るなって(笑)。だから今のところは、似ている部分はなさそうです。むしろ、人の懐にすっと入り込んでいけるところが羨ましいです。
ミュージカル版でも、映画のジャスミンのように手品を披露するそうですね。
花總 手品は今回初挑戦なんです。練習してくださいと言われたものが4種類くらいあります。その中には、ちょっと苦手そうだなと思うものもあれば、やり出したら楽しいかもと思うものあって。一生懸命練習しています。
作中の名曲として知られる「Calling You」を聴いた時の感想は?
花總 あのサビが耳に残っていました。初めて聴いたのはかなり前なんですが、ずっと覚えています。心地よいメロディーで、スーッと頭の中に入ってきました。ヒーリングミュージックのようで、すごく癒されます。
ブレンダ役の森公美子さんの印象は?
花總 公美さんとは、帝国劇場 CONCERT『THE BEST New HISTORY COMING』の稽古場でお会いしたのがはじめてでした。大先輩なのでご挨拶する時はとても緊張したのですが、公美さんのほうが「よろしくね!」と気さくに声をかけてくださいました。優しくて面白くて、一緒にいるといつも笑っている自分がいます。とても面倒見のいい素敵な方です。

©はぎ ひさこ

花總さんは、幼い頃からヴァイオリンとクラシック・バレエを習っていたそうですね。
花總 そうなんです。東京音楽大学付属幼稚園に通っていたので、何かひとつ楽器を選ぶことになって、母がヴァイオリンに決めたのだと思います。ヴァイオリンは5歳から、クラシック・バレエは小学校に入ってから始めました。
バレエを習っていた頃の思い出はありますか?
花總 いちばん記憶に残っているのは、毎年冬に上演していた『くるみ割り人形』の公演に子役で出演していたことです。第1幕のクリスマスパーティーのシーンで、パーティーに招かれた少女たちの一人として舞台に立っていました。あの時の舞台の景色を今でもよく覚えています。
はじめてトウシューズを履いた時の感想は?
花總 「ついにトウシューズを履けるところまでいけたんだ!」と思いました。バレエを続ける中で、あのシューズを履けるようになるのって、やっぱり嬉しいものですよね。とくにはじめのうちは慣れなくて、すぐに足の指がむけたり、マメができたりするじゃないですか。それすらも私は楽しかった。
これまで観たなかで、印象に残っているバレエ公演は?
花總 吉田都さんの英国ロイヤル・バレエ退団公演『ロミオとジュリエット』が忘れられません。こんなにも感情が伝わってくるのかと。ほんとうに演劇を観ているようで、とても衝撃を受けたんです。
どうしてもバレエの舞台では、脚の角度やポーズの美しさを観て綺麗だなという感想を抱くことが多くて。でも都さんのジュリエットを観た時に、すごく心を揺さぶられてしまったんです。踊りはもちろん、感情の表現も豊かで圧倒されました。「バレエってこんなに泣けるんだ」って思いましたね。
舞台人になろうと思ったきっかけは?
花總 私は人の薦めもあってひょんなことから宝塚音楽学校を受けて、ラッキーなことに入学することができました。ですから、はじめから舞台人になりたいと思って準備をしてきたわけではなくて。入学してから舞台に立つために稽古を重ねる日々が始まりました。
これまで数多くのヒロインを演じてきた花總さんが、舞台上で心がけていることは?
花總 昔教わった「舞台は誠実に」という言葉が、ずっと頭に残っています。私は、舞台に対して絶対に嘘はつきたくないんです。その日その日、一瞬一瞬を大切に、初心を忘れないようにと思っています。
Instagramでは、素晴らしい体幹を披露されていました。身体を維持するためにしていることは?
花總 今はパーソナルトレーニングを定期的に受けています。来年アクションの多い公演が迫っているので、動ける身体を作ろうと思って始めました。大きなアクションでもぶれない体幹をキープしたいなと思っています。
最後にメッセージを。
花總 今回、日本初演となるミュージカル版『バグダッド・カフェ』は、心温まるストーリーで、最後には楽しくショーアップされたシーンもあります。映画をご存じない方も映画をお好きな方も、生の舞台の良さを感じていただきたいです。とても素敵な作品ですので、ぜひ劇場に足を運んで、一人でも多くの方にこの舞台を観ていただけたらと思います。

©はぎ ひさこ

ヘアメイク:松田美穂(アルール)
スタイリング:地曳いく子
衣裳:トップス ¥126,500 スカート ¥184,800 malo(マーロ)/ウルーン商会

公演情報

ミュージカル『バグダッド・カフェ』

東京公演
【日程】2025年11月2日(日)~23日(日)
【会場】日比谷シアタークリエ
愛知公演
【日程】2025年11月28日(金)~30日(日)
【会場】Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
大阪公演
【日程】2025年12月4日(木)~17日(日)
【会場】梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
富山公演
【日程】2025年12月13日(土)~14日(日)
【会場】富山県民会館

【キャスト】
ジャスミン・ムンシュテットナー:花總まり
ブレンダ:森 公美子
ルディ・コックス:小西遼生
フィリス:清水美依紗
アブドゥラー:松田 凌
サル 他:芋洗坂係長
アーニー 他:岸 祐二
ムンシュテットナー氏 他:坂元健児
デビー:太田緑ロランス
サル・ジュニア:越永健太郎
伊藤かの子、聖司朗、東間一貴、中嶋紗希、舩山智香子、堀江慎也
スウィング:齋藤信吾、
齋藤千夏

脚本 パーシー・アドロン/エレオノーレ・アドロン
音楽 ボブ・テルソン
歌詞 リー・ブルーワー/ボブ・テルソン/パーシー・アドロン
演出 小山ゆうな
翻訳・訳詞 高橋知伽江
音楽監督 荻野清子

【公演に関するお問合せ】
東宝テレザーブ TEL:03-3201-7777

公式サイトはこちら

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

類似記事

NEWS

NEWS

最新記事一覧へ