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2023年3月にパリ・オペラ座バレエのエトワールに就任したオニール八菜さんの特別展「これまでとこれからの12年」が2024年2月2日(金)〜2月25日(日)、チャコット代官山本店にて開催されました。2月11日に行なわれたスペシャルトークショーのもようとともにレポートします。
オニール八菜特別展「これまでとこれからの12年」
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自然光が差し込む温かな会場。中央にはサイン入りのトウシューズが飾られ、小さな子どもでも見やすい高さに設置されたコーナーには、コンクールの受賞記録やパリ・オペラ座のカルポー賞受賞メダル、『白鳥の湖』の衣裳など、オニールさんの足跡をたどる展示品が並べられていました。
ボロボロになっても愛用しているというチャコットのピンクのレッグウォーマーは、オニールさんが公演前に欠かせないと語るアイテム。当初はパネルだけの展示だったものの、公演が終わった11日の午後から、オニールさんの希望で実物が追加されたとのこと!
2020年バリ・オペラ座来日『ジゼル』でミルタを演じた際のコーチングメモ。添えてある百合の造花はリハーサルで使用しているものだそう
輝かしい記録のそばに並べられていたのは、オニールさんの人柄を感じさせる思い出の品々。ユーゴ・マルシャンにプレゼントしたという「だるま」や、母親が手作業で装飾を追加したコンクールの衣裳、祖母から母へと編み継がれたカラフルな模様編みのレッグウォーマー、ニュージーランドでの初舞台で先生からプレゼントされたという小さなくまのチャームなども公開されていました。
ニュージーランドの初舞台で先生からもらったくまのチャームは手のひらサイズ
東京でのガラ公演の際、ユーゴ・マルシャンへプレゼントしたというだるま。マルシャンはこのだるまに「八菜がエトワールになれるように」と願をかけ、実現した2023年3月2日に目を入れたのだそう。青い眼が何ともいえずキュートです
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2月11日(日)には、この特別展の会場内で、オニール八菜さんのスペシャルトークショー&サイン会が行われました。会場は熱心なバレエファンやバレエを習っている子どもたちで満席。パリ・オペラ座バレエ日本公演『白鳥の湖』の初日だった2月8日と10日にオデット/オディール役を演じたオニールさんは、公演翌日の疲れも見せず笑顔で登壇。今回の来日公演『白鳥の湖』やパリ・オペラ座のこと、バレエ少女時代のエピソード、自身の思い描く「これから」についてなどを語りました。
オニール八菜スペシャルトークショー
オニール八菜さん。司会はバレエチャンネル編集長の阿部さや子が務めました ©Ballet Channel
フォンテインにインスピレーションを受けて
- 今回の『白鳥の湖』、素晴らしい演技でした! 八菜さんにとっては、エトワールに就任して初めてのパリ・オペラ座バレエ来日公演でしたが、その舞台に立った感想は?
- カンパニーのみんなと来日して主役を踊るのは初めてで、全幕物を踊るのも久しぶりのことでした。そして、エトワールとして初めて踊った全幕作品が、まだスジェだった22歳の時に初めて主役を踊ったのと同じ『白鳥の湖』だったのも素敵なことだと感じています。
- カーテンコールでは劇場じゅうが一斉にスタンディングオベーションになりましたね。八菜さんは、あの景色をどんな気持ちで眺めていたのでしょうか?
- 「理解してくれた」って思って、すごく嬉しかったです。幸せでした。
- 八菜さんが踊ったオデットにはドラマ性を感じました。演じるうえでこだわったことは?
- インスピレーションを得るために観たのは、ルドルフ・ヌレエフとマーゴ・フォンテインの『白鳥の湖』の映像です。彼らを目標に、シネマ的なところを意識して練習しました。先生から一つひとつ細かくて厳しい指導を受けてきましたが、最後の10日間では、表情をどうやって踊りに込めて踊るかを、最優先に考えるようにしたんです。
特別展展示パネルより。オニールさんが着用しているのは 『白鳥の湖』主演記念コレクションのレオタード ©Ballet Channel
- 八菜さんのオデットは音楽の使い方がゆったりとしていて、儚げな印象を受けました。
- 第2幕でとくに気をつけたのは「力を抜いて踊ること」です。力が入っているとすべてが崩れてしまうので、「ガチッ」となりやすいところを「ふわっ」と動けるように意識しました。今回の舞台は緊張しましたが、それがかえってオデットのフラジャイルさ(もろさ、儚さ)の表現に活かせたのかもしれません。
- エトワールの八菜さんでも緊張することがあるとは驚きです。今回ジークフリート王子役でパートナーを組んだのはジェルマン・ルーヴェさん。八菜さんとは、しばしば共演していますね。
- 彼とはお互いに心が通じ合えていて、どちらかが少し不安になればすぐにわかるし、お互いの気持ちを鼓舞し合えるんです。今回は本当に、「二人でバレエを作っていった」と思います。その感覚をどちらの回でも得ることができて楽しかったです。
特別展展示品より『白鳥の湖』のオデットの衣裳 ©Ballet Channel
自分と他人を比べずに、自分だけの道を進んで
- 今回の観覧席にも八菜さんのようなダンサーになりたいとバレエを頑張っている子どもたちがたくさん集まっています。八菜さんは3歳からバレエを始め、4歳から岸辺バレエスタジオに通い始めたそうですが、小学生くらいの頃は何が得意で、何が苦手でしたか?
- (考えて)何も得意ではなかったです!(観覧席に来場していた岸辺先生を見て)そうですよね、先生?!(笑)。当時はただ、バレエに行くことや踊ることが純粋に楽しかった。それだけでした。いまでも、バレエは楽しむことがいちばん大事だと思っています。
- バレエについて悩んだことはありましたか?
- その頃はまだ、とくに悩むことはありませんでした。悩みが出てきたのは、もう少し大きくなってからですね。バレエを純粋に踊ること以外にもいろいろなことがわかってくるにつれて、やっぱり悩みも出てきました。
- 「将来どういう道に進みたいか」という悩みでしょうか。
- バレエ学校に行きたい気持ちは自分の中ではっきりしていたので揺るぎませんでした。でも行くとしたら家族と離れなくてはいけないし、どの学校に行くかはやっぱり悩みましたね。バレエ学校に入ってからも悩みはありましたよ。レッスンも多くなり、テストを受ける機会が増えてくると、自分の得意なところと苦手なところがだんだんと分かってきて、やっぱりバレエは難しいと感じましたね。卒業した後にどのカンパニーに入るか考える時期には、悩むというよりも、自分の道を自分で決める難しさと向き合う経験になったと思います。
- バレエの道を志すということは、普通ならまだ親元にいるような年齢で離れないといけなかったり、早いうちからどんどん大人になっていかなきゃいけないところがありますよね。
- そうですね。でもその割にダンサーって、みんないつまでも子どもらしいところもあるんですよ。面白いです(笑)。
- (笑)みなさん、純粋だということですね。ちなみにプロのバレリーナになりたいと夢見ている子どもたちに、「今のうちからこれはやっておくといいよ」というアドバイスはありますか?
- (考え込んで)……柔軟をしておいたほうがいいよ(笑)。私は身体が硬いほうだったからかもしれないけれど、もっと柔軟をしておけばよかったっていまでも思うことがあります(笑)。
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- もうひとつ、子どもたちの悩みを聞いていると、どうしても他の人と自分を比べてしまうからつらくなるんだな、と感じます。八菜さんにも、そういう時期はありましたか?
- ありました。いまでもあります。でも、誰かと同じようになろうとどんなに努力しても、その人のすべての部分を自分の中にぴったりとはめ込むことはできません。ダンサーは一人ひとりみんな違いますから、各々が自分の道を作って進んでいけばいいんですよ。私はそこに気づいて、やっと気持ちが楽になりました。
- 八菜さんは5歳ぐらいからパリ・オペラ座バレエに憧れていたと聞いていますが、子どものころからの夢を実現させるのは簡単なことではなかったと思います。自身を振り返って、その夢を叶えるための鍵は何だったと思いますか?
- 「絶対にエトワールになりたい」という強い思いです。自分にできることは120パーセントやる!と決めて頑張りました。
- それでもプルミエール・ダンスーズからエトワールに昇進するまでには少し時間がかかりました。八菜さんはその7年間をどのような思いで乗り越えたのでしょうか。
- やっぱりつらかったですし、泣いてしまったこともありました。でも、私のいちばんの幸せは舞台に出て踊ること。その気持ちだけは忘れずにいることができたんです。夢をあきらめないで、毎回の舞台に向けてレッスンを続けました。
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オニールさんに聞く「これまで」と「これから」
- 今回の特別展は、「これまでとこれからの12年」がキーワードになっています。八菜さんがオペラ座に入って今年でちょうど12年。そしてこれから12年後には、アデューと呼ばれる42歳の引退の時を迎えるわけですね。八菜さんにとっての「これまでの12年間」はどうでしたか?
- 長いようで短いような感じでした。12年前に渡仏した時はフランス語も上手に喋れなかったし、最初の2年間はシーズン契約ダンサーとして所属していたことなど考えると、私にとっては「おとなになった12年間」だったと思います。「これからの12年」は、あっという間に終わってしまうような感じがしています。
- バレエダンサーにとって、30代は身体も充分に動き、精神面も充実する素晴らしい時だと思います。この時期を迎えるからこそ踊りたいと思う作品や役柄はありますか。
- たくさんあります。クラシック・バレエもコンテンポラリーも踊りたいですし、おとなっぽい作品、例えば『オネーギン』や『椿姫』にもチャレンジしてみたいです。
- これから八菜さんのエトワールとしての12年が始まります。今回の公演を観ていても、真ん中を踊るエトワールとはダンサーたちを背中で引っ張って作品を作り上げていく役割であり、同時にダンサーたちに「このエトワールを支えて、舞台を作り上げたい」と思わせる存在なのだと感じました。
- エトワールの存在がバレエ作品を作るというのは、言い換えれば「コール・ド・バレエがエトワールという存在を作ってくれる」という意味でもあるんですよ。私はダンサーのみんなとチームワークを大切に頑張っていくエトワールという存在が大好きです。
- 現在、パリ・オペラ座バレエでは男女16名のエトワールが、それぞれの個性と華を輝かせています。その中で八菜さん自身はどんな輝きを放ちたいと思っていますか?
- 私がいちばん大切にしているのは「自分らしい踊り」をすることです。ヌレエフの子どもたちの時代に活躍したエトワールたちは、どうしてあんなに素晴らしかったんだろうと考えてみると、一人ひとりの個性がすごく強くて、みんな違っているからなんですよね。私もオリジナルな自分らしさを活かして踊っていきたいと思います。
- ダンサー以外の人生で取り組んでいきたいことはありますか?
- 自分がコーチに教わったことを、誰がどういう風に次へ伝えていくんだろうと思うと、やっぱり私自身が責任を持つべきだと感じるようになりました。バレエのリサーチをするのも好きなので、将来舞台を離れても完全にはやめないで、何らかのかたちでバレエの近くにい続けるのもいいなと考えています。
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チャコット×オニール八菜コレクションアイテム
- 今回、八菜さんとチャコットのコラボレーション商品が発売されました。エトワール昇進を記念したリミテッドコレクションをはじめ、『白鳥の湖』主演記念コレクション、デイリーウェアコレクションなど、素敵なアイテムがたくさん揃いました。これらは八菜さんのアイディアも取り入れられているのですか?
- もちろん! いろいろなアイディアを出して、色、形、素材などを決めました。
- とくにこだわった部分は?
- 着ていて綺麗だなと思えることですね。私たちは1日中レッスンウェアを着ていますから、ウェアの着心地やカットの良さはとても大切なんです。私にとってはシンプルさも大事な部分なので、デイリーウェアのアイディアとして出しました。来日公演の時は毎日違うレオタードに袖をとおしたのですが、どれも着心地は最高で幸せでした。
- その中でも、八菜さんはチェリーピンクのレオタードがお気に入りとか。
- チェリーピンクは、私が入団して間もないころにチャコットで購入したお気に入りのレオタードの色に近づけてもらいました。もう一度あのレオタードを着たいという思いがアイディアになっています。
- ちなみに八菜さんは、毎日のレッスンウェアを選ぶ時にこだわりはありますか?
- あります! 例えば『白鳥』の時は絶対に袖なし、ロマンティックな作品を踊るなら袖付きにする、など自分で決めているんです。
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参加者からの質問コーナー
◆観覧席のみなさんから寄せられた質問にオニールさんが回答しました!
Q1:舞台からどんな風景が見えますか。観客の反応はわかりますか?
- 踊っている時はあまり見ていませんが、カーテンコールの景色はとても素晴らしいですよ。一人ひとりの表情は見えなくても、みなさんの反応を感じ取ることはできます。
Q2:コンテンポラリーとクラシックはどちらが好きですか?
- 両方とも好きです。テクニック的に違いがあるので、コンテンポラリーは私には少しだけ難しいけれど、どちらも踊っていきたいです。
Q3:踊っている時は、どんなことを考えていますか?
- 踊っている時いちばん大事なのは、物語に入り込むこと。だから舞台上でテクニックのことはあまり考えないようにしています。
Q4:八菜さんの思うフランスのバレエ、パリ・オペラ座バレエの魅力はどんなところですか?
- 趣味の良さというか、エレガントでシックなところです。 おしゃれさも魅力ですね。衣裳、メイク、すべてが好きです。
Q5:身体のためによく食べているものはありますか?
- 公演前は必ずうなぎを食べています! 今回も食べましたよ。
Q6:舞台に立つ前のルーティンがあれば教えてください
- バー・レッスンで身体を温めたあと、ひとりで集中する時間を作っています。この「5分間の集中」があれば私は大丈夫です。
Q7:モチベーションの上げ方、あるいは保ち方を教えてください
- 上がらない時は、上がらないままでいいんです。モチベーションはしばらくすれば戻ってきますから、無理して自分に「ファイト!」と言わなくても大丈夫。私も気持ちが上がらない時はありますが、それは人間として普通なことだと捉えて落ち込まないようにしています。
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最後は、オニールさんが「今日は私の話を聞きに来てくれてありがとうございました。夏には、世界バレエフェスティバルで東京へ踊りに来る予定です。ぜひ観にいらしてください」と挨拶。大きな拍手のなか約40分のトークイベントが終了しました。
退出時には、オニールさんが参加者一人ひとりに宛てて直筆サインをプレゼント。サインを大事そうに両手で抱えた子どもたちの笑顔が印象的でした ©Ballet Channel
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