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【レポート】新国立劇場2024/2025シーズン舞踊ラインアップ説明会

阿部さや子 Sayako ABE

2024年2月28日、新国立劇場オペラパレスホワイエにて、新国立劇場2024/2025シーズン舞踊ラインアップ説明会が開催された。例年はオペラ、舞踊、演劇の3部門合同で説明会が催されてきたが、今年は部門ごとに日時を分けての実施となった。

舞踊のラインアップ説明に登壇した吉田都芸術監督。「まずはご報告ですけれども」と、2月23〜25日に上演した『ホフマン物語』全4公演が無事に閉幕したこと、その千秋楽には前々監督のデヴィッド・ビントレー氏と前監督の大原永子氏も来場して3人で舞台を観られたこと、同作を手がけたピーター・ダレルの振付にアシュトンの流れを感じて懐かしく思ったことなどから語り始めた。また、ちょうど折り返し地点を迎えた今シーズンについて、

  • かねてより増設の準備が進んでいた新スタジオがついに完成。ダンサーたちがストレッチや自習をしたり、自分と向き合ったりする場所を持てたことで、心身を良い状態に保てている
  • 昨年には東京医科大学病院との包括連携協定を締結。ダンサーへの医療支援の推進と舞踊医学のさらなる発展に期待している
  • これまではグループごとに行っていたボディ・コンディショニング・セッションを、パーソナル・セッションのスタイルに変更。これによって個々の身体やケガの内容に合わせたコンディショニングができるようになり、ダンサーたちが自分の弱点を知ったり、ケガの相談ができたり、ケガからの復帰をサポートしてもらえるシステムがより強化された

といった報告も加えた上で、来たる2024/2025シーズンの上演演目を発表した。

吉田都 新国立劇場舞踊芸術監督 ©︎Ballet Channel

【新国立劇場2024/2025シーズン バレエ&ダンス ラインアップ】

●2024年10月25日(金)~11月4日(月・休)
『眠れる森の美女』 12回公演

●2024年11月29日(金)~12月1日(日)
「DANCE to the Future 2024」 4回公演

●2024年12月21日(土)~2025年1月5日(日)
『くるみ割り人形』18回公演

●2025年3月14日(金)~3月16日(日)
「バレエ・コフレ」 4回公演
『エチュード』〈新制作〉/『精確さによる目眩くスリル』〈新制作〉/『火の鳥

●2025年3月29日(土)~3月30日(日)
Co.山田うん
『オバケッタ』 4回公演

●2025年4月12日(土)~4月20日(日)
『ジゼル』9回公演

●2025年6月12日(木)~6月24日(火)
『不思議の国のアリス』 11回公演

●2025年7月12日(土)~7月13日(日)
「Young NBJ GALA 2025」 2回公演
パ・ド・ドゥ集 O Solitude /福田圭吾による新作〈新国立劇場バレエ団委嘱作品・世界初演〉

【海外公演】
2025年7月24日(木)〜27日(日)
英国ロイヤルオペラハウス
『ジゼル』 5回公演

まずはすでに発表済みで現在リハーサルが進んでいるというこどものためのバレエ劇場 2024『人魚姫~ある少女の物語~』」(2024年7月27日(土)~7月30日(火)上演)について。2022年まで22年間にわたり新国立劇場バレエ団に在籍した貝川鐵夫に振付を委嘱した新作で、「子どもバレエでありながら、大人も楽しめる作品になることを期待している」と吉田監督。

そして2024/2025シーズンは、グランド・バレエ『眠れる森の美女』(2024年10月25日(金)~11月4日(月・休)上演)で幕を開ける。同団が上演するのは2014年に初演されたウエイン・イーグリング版で、来シーズンは全12回公演を予定。吉田監督は「おそらく初役ダンサーも多く起用することになる。それが楽しみであるいっぽうで、やはりクラシック・バレエは本当に難しい。若手をさらに訓練して強化しなくてはと思っている」と展望した。

例年人気の『DANCE to the Future 2024』(2024年11月29日(金)~12月1日(日)上演)は小劇場で上演予定。この企画はバレエ団の中から振付家を育てるプロジェクト「NBJ Choreographic Group」から生まれた作品を上演するもので、今シーズンからアドヴァイザーに小㞍健太(元ネザーランド・ダンス・シアターで活躍したダンサー・振付家)を起用。イリ・キリアンやクリスタル・パイトといったコレオグラファーたちの振付を体験するなどのワークショップも開催し、ダンサーたちにとっては新たな身体の使い方などを学ぶ機会になっているという。

年末年始は恒例の『くるみ割り人形』(2024年12月21日(土)~2025年1月5日(日)上演)。同作は年々上演回数が増えており、今シーズンは全17回公演で合計26,603名の来場者数を記録したという。来シーズンはさらに1公演増の全18回公演を予定。「最近は、子どもたちはもちろん海外からの観客も多い。ぜひ公演そのものだけでなく、食べ物やドリンクなども含めて、この劇場じたいをご家族で楽しんでいただきたい」と吉田監督。「また初役デビューとなるダンサーの起用もあるかもしれない。来シーズンも全18回、年末年始を駆け抜けたい」と意気込む。

2025年3月の「バレエ・コフレ」(2025年3月14日(金)~3月16日(日)上演)はトリプルビル公演。コフレとはフランス語で「宝石箱」の意味で、上演される3つの演目はいずれも20世紀の作品。うち2作品は新制作となる。
ひとつはハロルド・ランダー振付『エチュード』。これはバレエ・クラスをモチーフにした作品で、幕開きはバー・レッスンの情景。そこからアダージオ、アレグロ、グラン・アレグロ……と進んで、最後にはダンサーたちがずらりと揃って圧巻のフィナーレとなる。同作が大好きだという吉田監督は、まだ芸術監督に就任する前の舞踊芸術参与だった頃に「新国立劇場バレエ団で上演したい」と希望したものの、その時点では著作権者より「バレエ団の規模やレベルを知らない状態では難しい」と上演許可が下りなかったとのこと。しかしそれから数年を経て、今度は先方から「ぜひ新国立劇場バレエ団で上演してほしい」と連絡があり、実現することになったというエピソードが明かされた。
ふたつめはウィリアム・フォーサイス振付『精確さによる目眩くスリル』。これは吉田芸術監督が就任して最初のシーズン(2020/2021シーズン)に上演を予定していたものの、コロナ禍のために中止・延期を繰り返し、来シーズンにようやく新制作が叶う運びとなった。「いま、若手の強いダンサーたちが育ってきているので、思いきり行けるのではないかと思っています」(吉田監督)。
そしてもうひとつ、同団にとって12年ぶりの上演となるミハイル・フォーキン振付『火の鳥』。吉田監督自身も英国ロイヤル・バレエ時代に踊り、モニカ・メイソン芸術監督(当時)に直接指導を受けた思い出の作品だと語った。

同じく3月の末にはCo.山田うんのダンス公演『オバケッタ』(2025年3月29日(土)~3月30日(日)上演)が小劇場で上演される。大人も子どもも楽しめる人気作の再演で、来シーズンは全4回公演となる。

©︎Ballet Channel

4月には『ジゼル』が上演される。同作は2022年、新国立劇場の開場25周年を記念して新制作されたバージョンで、吉田都監督自身が演出を手がけて話題を呼んだ。「作品は繰り返し上演することで育つもの。今回はさらにカンパニーになじんだかたちでの『ジゼル』をご覧いただけると思います」(吉田監督)。

6月はクリストファー・ウィールドン振付のバレエ『不思議の国のアリス』(2025年6月12日(木)~6月24日(火)上演)。同作は2011年に英国ロイヤル・バレエで初演されて大ヒットし、世界有数のバレエ団がレパートリー化するなか、アジアでは新国立劇場バレエ団のみが上演を許可されている。全編にわたり見どころ満載、ユニークなキャラクターだらけの作品ながら、とりわけ注目を集めるのはマッドハッター役の華麗なタップ・ダンス。来シーズンの上演に向けてタップ・ダンスに興味のあるダンサーを募ったところ、数名が手を挙げて、すでに練習を開始しているとのこと。「タップには向き不向きもあるでしょうし、マッドハッターはなかなか難しい役どころ。手を挙げてくれた人たちの中で、誰がその役をゲットするのか。みんな未経験のところから時間をかけて練習して、役をつかみ取ってもらいたい」(吉田監督)。

若手ダンサーを中心としたガラ公演「Young NBJ GALA 2025」(2025年7月12日(土)~7月13日(日)上演)。これは今シーズンからスタートした企画で、まだ若いダンサーたちに古典のグラン・パ・ド・ドゥ等を踊る機会を与えるもの。吉田監督は昨年11月に「DANCE to the Future: Young NBJ GALA」として上演した舞台を振り返り、「あらためて、クラシック・バレエというのはやはり難しいと感じた。よく言えば初々しいパ・ド・ドゥでしたけれども(笑)、道のりは遠いな、と。今回はもう少し先のレベルまで頑張らなくては」と述べた。来シーズンの上演では、他に中村恩恵振付の『O Solitude』と、同団ファースト・ソリストの福田圭吾による新作も予定。「(『人魚姫』振付の)貝川さんも、福田さんも、ビントレー元芸術監督が始めたNBJ Choreographic Groupというプロジェクトでたくさんチャレンジをしてきてくれたダンサー。今回こうして新作を委嘱できたのは、ビントレーさんの思いが実を結んできたということだと思う」(吉田監督)。

以上で2024/2025シーズンは終了。しかしその後に、同団は『ジゼル』ロンドン公演に旅立つ。期間は2025年7月24日(木)〜27日(日)、会場は吉田監督の古巣であるロイヤルオペラハウス。同団は過去にも海外公演を実施しているが、それらはいずれも海外の劇場から「招待」を受けて実施したもの。今回は招待ではなく同団のほうから自主的に赴くかたちで、そうした海外公演は初の試みとなる。協賛は株式会社木下グループ。
「バレエ団のみんなにロイヤルオペラハウスの舞台に立ってもらいたいという強い気持ちがあった」と吉田監督。「実現することになって本当に嬉しく思うと同時に、やはりまだ心配な部分もある。今から準備を進めていきたい」と語った。

©︎Ballet Channel

記者との質疑応答

続いて吉田監督は記者からの質問に答えた。主な内容は以下の通り。

記者1 現在は吉田都監督にとって4年目のシーズンです。コロナ禍の船出となった1年目からここまでを振り返って思うことや、4年目を迎えて手応えを感じていることがあれば聞かせてください。
吉田 本当にこの4年間は、あまりにもあっという間に過ぎ去ってしまいました。ですから次の4年があることを本当に嬉しく思っています(*)。そうでなかったら、「ここから」というところで終わってしまう気がするので。やはりコロナ禍からのスタートでしたので、この4年間は無我夢中で走り続けてきました。本当にたくさんの方々にご支援いただきながら、ようやく普通の状態に戻ってきたというところです。もちろん今回発表した来シーズンのプログラムにもコロナ禍のために延期になった作品が入っていて、いまだに影響が残っている部分はあります。(振り返ると)「あれはなんだったんだろう……」というくらい大変なことが重なりましたけれども、ダンサーたちもよく耐えて乗り越えてくれたなと、あらためて感じております。

*新国立劇場の芸術監督の任期は1期4年。吉田都舞踊芸術監督の現任期は今シーズン(2023/2024シーズン)で満了するが、2024/2025シーズンからの再任が決定している

記者1 今年7月の『人魚姫』を手掛ける貝川鐵夫さんや、来年7月に新作を振付けるという福田圭吾さんについて。新国立劇場バレエ団のダンサーに新作を委嘱するのは素晴らしい取り組みであると同時に、「誰でもいい」というわけではないと思います。貝川さんと福田さんを起用した理由、吉田監督は彼らの振付のどのような部分に魅力や才能を見出しているのかについて教えてください。
吉田 作ってきた作品の内容はもちろん、ふたりともこれまで本当にたくさんのチャレンジをして、経験を積んできている方々です。そこに対する信頼があって、今回もきっと面白いものを作ってくれると期待しています。そして他にも素敵な作品を作るダンサーたちはいますので、そういう人たちにもまたチャンスを与えられたら、という気持ちを持っています。
記者1 ロンドン公演について。先ほど「まだ心配な部分もある」との言葉がありましたが、具体的にはどのようなことが課題だと考えていますか。
吉田 心配な部分については、もう数え上げたらきりがないくらいですけれども(笑)。まずはやはり作品のこと。今回、作品選びについてもずいぶん悩みました。サー・ピーター(・ライト)の『ジゼル』で育った私が、自分の(演出版の)『ジゼル』を持っていくというのはプレッシャーが大きすぎるのですが……。じつは私は、牧阿佐美先生の『ライモンダ』を持っていきたかったんです。でもやはり、(今の時代において)古典のままの『ライモンダ』をヨーロッパで上演するのは難しいので。そういった作品の心配もありますし、ダンサーたちの心配もあります。「きちんと踊れる」だけでは足りない、ということ。あちらのお客様の様子については私自身がひしひしと身に染みてわかっていますので、ロイヤルオペラハウスのお客様に喜んでいただけるレベルまでダンサーたちを引き上げていけるか、というところがまだ少し心配な部分です。でも、この4年間でみんなと積み上げてきたものがありますから。私もダンサーたちも、覚悟を決めてやらなくてはいけないと思っています。あとは、裏の(実務的な)仕事の部分ですね。7月といえば東京−ロンドン間の繁忙期ですので、まずフライトやホテルの心配もありますし、向こうに行けば記者会見もしなくてはいけないし、パーティーもあるでしょうし……とにかくそういうアレンジが限りなくあります。そこは新国立劇場のスタッフのみなさんが頑張ってくださっていますし、ロンドン側でもサポートしてくださっていて、いろいろな方の助けをいただきながら進めているところですけれども、まあ、気が遠くなります(笑)。

©︎Ballet Channel

記者2 海外公演について。もちろん素晴らしいことだと思っていますが、「招待」ではなく、こちらから自主的に行くというかたちで海外公演を実施しようと決めた経緯や理由について教えてください。招待公演とは異なり、劇場使用料などあらゆる費用を負担してまで海外公演を行うことの意義とはどのようなことでしょうか。
吉田 「自ら行く」というかたちでも実施したいと考えたのは、まず、ダンサーたちにどれだけ伝えたくても、その場に立ってみなければわからない空気感というものがあるからです。もちろん、私自身いろいろな劇場で踊ってきた中でも、とくに馴染みのあるロイヤルオペラハウスにみんなを連れていきたいという強い気持ちはありました。どんなに映像を見たり、書かれたものを読んだり、話を聞いたりしても、あの舞台に立ち、あの雰囲気を感じて、あのお客様の前で実際に踊ってみなければわからないものがある。だからこそ今後はどんどん自分たちから海外公演をしていく必要があると思っていますし、それを経験したあとにダンサーたちがどう変化するのかがとても楽しみです。

またそれだけではなく、先ほどの『エチュード』の件もそうですけれども、新国立劇場バレエ団というものを世界中に知っていただきたいという気持ちがとても強くあります。日本というのはやはり本当に「遠い国」。今回のロンドン公演は、新国立劇場としても、バレエ団としても、とても大きな一歩になると思います。劇場にとって、世界の様々な劇場に出かけて行って公演するというのは非常に大切なこと。例えばロイヤル・バレエ団もそういった活動を行なっています。

記者2 今回の海外公演についてはどのくらい前から交渉を進めてきたのですか。
吉田 2年前くらいからでしょうか。ロイヤル・バレエのケヴィン・オヘア監督などにも相談して、ロイヤルオペラハウスが使えるタイミングのことや予算のことなど、いろいろな話を進めるなかでこのタイミングになりました。
記者2 年末年始の『くるみ割り人形』公演について。回数が増えるのは素晴らしいことだと思ういっぽうで、回を重ねるにつれて「オーケストラが疲れているのかな?」と感じることがあります。例えばアマチュアを含めて別の楽団も入れる、録音を使う等、オーケストラの使い方について監督の考えを聞かせてください。
吉田 確かにオーケストラは年末年始がかなり忙しいので、途中でがらりとメンバーが変わります。そうなるとリハーサルが充分でないまま公演を続けていくことになりますので、その意味で音楽の違いを感じられることはあると思いますし、そこは指揮者の方も苦労している部分です。ずっと同じメンバーではなく2つくらいのグループで演奏を担当してくださっている状況ではありますが、年末年始はコンサートも多くてオーケストラのみなさんは本当にお疲れだと思います。でもやはり、録音の音源よりも、生演奏でバレエを観ていただきたいです。
記者3 ロンドン公演についての質問です。目の肥えたロンドンの観客に「ぜひここを見てほしい」と思うことや、「新国立劇場バレエ団のこういう良さを伝えたい」と考えていることがあれば聞かせてください。
吉田 まずは「繊細な表現」でしょうか。『ジゼル』はドラマティックな作品ですが、理想としてはもっと大きく表現を出せるようにしないと、あれだけ広くて大きいロイヤルオペラハウスでは、遠くのお客様まで届きません。ですからそこはもう少し伝わりやすい表現にしていかなくてはと思いますけれども、そのいっぽうで日本人らしさみたいなものがとても感じられる作品でもありますので、そこは見ていただけたらと思います。そしてやはり「コール・ド・バレエ」ですね。私は、このバレエ団のコール・ド・バレエは世界に誇れるものだと思っていますので、そこは自信を持って舞台に乗れるのではないかなと。……まあ、心配ですけれども(笑)。でも最後まで諦めずに磨いていきます。

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記者4 ロンドン公演について。日本からの応援ツアーのような企画も考えていますか。
吉田 もちろん考えています。日本のファンのみなさまにも応援していただけたらいいなと。ただ、それこそフライトの席を確保できないと思うので、そこが難しいところではあります。やはり新国立劇場バレエ団のファンの方にもロンドンの公演は見ていただきたいですし、スポンサーの方々にも、「こういうかたちになりました」という報告の意味でもご覧いただきたいです。現実的には本当にアレンジが難しい部分がある、というのが現状ではありますが、ぜひ一緒にロンドンへ行っていただけたら嬉しいです。
記者4 先ほどデビューキャスト起用の可能性などについても言及がありましたが、公演数の多い中でどのくらい若手を入れようと考えているのか、若手育成についての考えを詳しく聞かせてください。
吉田 バレエ団は常に若手を育てていかなくてはならない、ということを強く実感しています。ただしそれは本当に時間のかかること。昨年11月の「Young NBJ GALA」でも苦戦しましたけれど、それでも繰り返しチャレンジしていかなくてはいけないと思っています。肝心なのは、「リハーサルをどれだけ重ねるか」ではなく、「本番をどれだけ重ねていくか」というところ。「Young NBJ GALA」は若手に「主役」を踊るチャンスを与える企画ですが、例えば『眠れる森の美女』のような作品であれば、主にはソリスト級のところで新人がたくさん起用されるということになると思います。もちろん主役にチャレンジさせることもあり得ますけれど。
記者5 美術館など他の芸術分野において、国公立の機関に対する予算が毎年削られているというニュースが流れています。新国立劇場についてはどうですか。
藤野公之常務理事 財務を担当しておりますので私からお答えします。おっしゃるとおり、経常的な経費は毎年毎年削られていく傾向にあります。これは、国の機関は全体的にそういうかたちになっています。ただそのいっぽうで、今回発表したラインアップにも国際的なものがかなり入っておりますが、「グローバル化」というのが我が国の要請であり、その関係の予算はいろんなかたちでいただいています。そういったものを活用しながら運営していますが、経常的な経費は毎年削られる方向にあります。
記者6 ロンドン公演について。「招待」ではない今回の海外公演は、つまり劇場使用料や渡航費など、その他諸々すべての経費を新国立劇場が負担するということでしょうか。
藤野常務理事 私からお答えさせていただきます。まず「招待公演」とは「親善試合」のようなもの。つまり多くの場合は会場費など様々な経費を先方に負担していただき、私どもは「お客様」的な立場で行くというかたちです。しかし今回はそうではなく、「真剣勝負」で行ってみようということです。会場費を含めて、基本的な経費は私どもが負担する。その代わり、招待公演では入場料を先方が取るかたちになりますが、今回の入場料は私どもがいただく、というかたちになります。
記者6 冒頭に新スタジオの整備や医療体制の充実等について報告がありましたが、吉田監督が次に改革したいと考えている部分があれば教えてください。
吉田 私のいちばんの夢は、やはりダンサーたちがきちんと劇場に雇われて、しっかりと安定した社会的地位を持てるようにする、ということです。
記者7 ロンドン公演の実現は本当に素晴らしいことだと思いますが、世界にバレエ団のことを知ってもらうやり方としては「配信」もあると思います。新国立劇場は最近オペラや演劇公演の配信は多くありますが、バレエはありません。その点について考えを聞かせてください。
吉田 もちろん配信もできたらいいなと思っています。それにあたってはやはりいろいろなハードルがありますけれども、近い将来実現するのではないかと祈っているところです。
記者7 地方公演についてはどうでしょうか。
吉田 海外だけでなく、国内の各地にもぜひ自ら行って公演したいと思っています。ただ、日本のシステム的な面で難しいところがあったり、新国立劇場の規模が大きいために、受け入れていただく先のスペースや予算の問題で実現しなかったり、ということもあります。けれども本当に、海外や配信だけでなく、地方のみなさまにも公演を観ていただけるように、がんばっていきたいと思います。

©︎Ballet Channel

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