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【5/19開幕】オペラ「オルフェオとエウリディーチェ」出演!アレクサンドル・リアブコ特別インタビュー〜苦難の時代だからこそ、僕らは愛を探し、愛を信じなくてはいけない

阿部さや子 Sayako ABE

新国立劇場オペラ『オルフェオとエウリディーチェ』舞台稽古より 写真左から:アレクサンドル・リアブコ、佐東利穂子、ローレンス・ザッゾ(オルフェオ) 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

「彼女を地上に連れ戻すまでは、決して振り返ってはならない」。亡き妻・エウリディーチェを生き返らせるため、オルフェオは冥界へと試練の旅に出るーーギリシャ神話のオルフェウス伝説を基にしたグルックのオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』を、新国立劇場が新制作! 2022年5月19日(木)・21日(土)・22日(日)の3日間、新国立劇場オペラパレスで上演されます。

新国立劇場オペラ芸術監督の大野和士が、ラインアップの大きな柱のひとつとして「バロック・オペラ」を掲げています。バロック・オペラとは、17世紀初頭〜18世紀半ばのバロック音楽時代のオペラのこと。歌手の技巧を顕示するための装飾を抑え、オーケストラの役割を充実させて、演劇的な面白さを実現したグルックの『オルフェオとエウリディーチェ』は、バロック・オペラの中でも抜群の上演頻度を誇ります。

この人気演目の新制作にあたって演出・振付・美術・衣裳・照明を手がけるのは、振付家・ダンサー・演出家の勅使川原三郎。そして勅使川原のアーティスティック・コラボレーターとして創作を共にする佐東利穂子や、ハンブルク・バレエのアレクサンドル・リアブコらがダンスに出演します。指揮はバロック奏者やプロデューサーとしても活躍する鈴木優人

バレエチャンネルでは、5月上旬に来日してリハーサルに加わったアレクサンドル・リアブコにインタビュー。一昨日(5/17)に行われた公開ゲネプロのもようと共にお届けします。

アレクサンドル・リアブコ Alexandre Riabko(ハンブルク・バレエ プリンシパル)1978年ウクライナ・キエフ生まれ。キエフ・バレエ学校、ハンブルク・バレエ学校で学び、1996年ハンブルク・バレエ入団。2001年よりプリンシパル。『椿姫』『ニジンスキー』『ヴェニスに死す』『冬の旅』『マタイ受難曲』『ペール・ギュント』など、巨匠ジョン・ノイマイヤーの作品世界を体現するトップダンサー。 ©︎Ballet Channel

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リアブコさんが新国立劇場と仕事をするのは、今回が初めてですね?
その通りです。僕は東京にある様々な劇場で踊ってきましたが、新国立劇場は足を踏み入れること自体まったくの初めてで、とても感動しています。建物、設備、舞台機構、すべてが一流で美しい。この劇場はいつ完成したのですか?
今年で開場25周年と聞いています。
信じられません! とても綺麗で、まるで2年前に建ったばかりのように見えますね。この美しいステージに(今回のオペラの演出・振付・美術・衣裳・照明を手掛ける)勅使川原三郎さんが特別な世界を出現させるのだと思うと、本当にわくわくします。また吉田都舞踊芸術監督ともお会いして、明朝からは(編集部注:取材は5月10日)新国立劇場バレエ団のクラスレッスンを受けられることになったんですよ。そちらも楽しみです。
勅使川原作品に出演するのは、昨夏の『羅生門』に続いて今回が2作目ですね。
ええ、そうです。『羅生門』の時は夏休みの時期だったので、かなり長い時間をかけてリハーサルすることができました。サブロウと一緒にスタジオで過ごしながらお互いのことを知り、僕は彼の動き方、振付、創作方法を少しずつ理解していったのです。あの時に築かれた素晴らしいベースがあったから、日本とヨーロッパという距離やコロナ禍の制約があろうとも、僕たちはスムーズにクリエイションをスタートさせることができたと思います。しかしもちろん、両プロジェクトはまったくの別物です。『羅生門』は芥川龍之介の小説だけがあって、他は音楽も表現も何もかもが未知からの創造だった。いっぽう今回のオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』には、オーケストラが演奏する楽譜や歌手が歌う歌詞など、すでに厳密に定められた要素が存在します。そのなかでいかに新たな創造を見つけられるか? 歌手が役を演じるオペラにおいて、僕たちダンサーは物語を伝えるために何ができるのか? それらを模索するのが今回のチャレンジだと感じています。

本作ではとくに第1幕・第2幕でダンスがたっぷり楽しめる。上写真左から:高橋慈生、アレクサンドル・リアブコ、佐藤静佳 下写真:佐東利穂子 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

つまり今回リアブコさんは、例えばオルフェオという役そのものや彼の感情を踊るということではなく、もっと抽象的な部分の表現を担うということでしょうか?
今はまだクリエイションの途中であり、リハーサルのたびに進化しているので、現時点では何とも言えません。ただ少なくとも、何か特定の役を演じるということではないと思います。というのも、ダンサーは僕を含めて4人いて、みんなでこの全3幕のオペラに含まれる様々な面、様々な瞬間を表現していくからです。これから照明が入り、衣裳を着け、歌手のみなさんと一緒に舞台に立った時、この作品において自分が表現すべきものは何なのかがクリアに見えてくるのだろうと想像しています。
リハーサルの様子を見せていただいたのですが、まず第1幕で踊るリアブコさんは、動きと動きの間に境界がなくて、まるで音楽の中に溶け込んでいくかのような印象を受けました。
サブロウとの仕事で最もエキサイティングなのは、リハーサルするたびに、絶え間なく新しいものが生まれ続けることです。彼は僕たちダンサーに、音楽や身体の動きを通して、自分の中にある真の感情を見つけ出すことを求めます。そしてそこから、新たな振付、新たなダンスを生み出していくのです。それはダンサーにとって大きなチャレンジであり、恐くないといったら嘘になりますが、決して予定調和的でない不確実性こそが勅使川原作品でしか味わえない醍醐味だと、僕自身は感じています。

『オルフェオとエウリディーチェ』舞台稽古より。「カウンターテナーの王者」とも賞されるローレンス・ザッゾ(オルフェオ役)の艶やかな声の響きと、アレクサンドル・リアブコの詩的なムーヴメントが、絡み合い、溶け合っていく。 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

そのようなアプローチで生み出された動きだからなのか、ある意味、振付がとても難しそうだと感じました。例えばクラシックバレエだと一つひとつのステップが明確で、その組み合わせ方にもある程度の規則性や法則性がありますが、勅使川原さんの振付はその真逆に見えます。
そうですね。そもそも自分が感じていることを正確に動きで表現するのは、定められた振付を覚えて踊るよりもずっと難しいことです。さらには自分の内面を探求・発見し続けながら、それが予期せぬムーヴメントとなって出てきたものを都度覚えていくわけですからね。サブロウの作品を踊ることは、とても難しいけれど、それ以上に素晴らしい体験です。
音楽についても聞かせてください。歌手や合唱の「声」に囲まれて踊るのはどのような感覚ですか?
生演奏の音楽に包まれて踊ることはいつも大きな喜びですが、とりわけ「声」は格別です。楽器以上に空気を大きく振るわせて、その振動が僕たちダンサーの全身に伝わってくるんです。すると何とも言えない感情が内側から湧き上がってきて、魔法のような瞬間が生まれることがある。とくに今回のオペラのように、舞台の四方八方から歌手のみなさんが迫ってくるような演出だと、ダンサーだけでなく客席のみなさんも、歌声にぐるりと取り囲まれているような感覚を得られると思います。本当に特別な雰囲気です。

オルフェオを導く愛の神アモーレ役は、ソプラノの三宅理恵。パッと明るい光が差すような美声と、愛らしさのある動きがチャーミング。 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

舞台からドーンと押し寄せてくる合唱の迫力……! 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

ちなみにリアブコさんが所属するハンブルク・バレエの本拠地、ハンブルク州立歌劇場ではもちろんオペラ公演も盛んに上演されていますが、リアブコさん自身も日頃からオペラに親しんでいらっしゃいますか?
オペラへの出演経験が多いとは言えませんが、もちろんオペラやオペラ歌手はとても身近な存在であり、彼らと共に仕事をすることも、一観客として鑑賞することも大好きですね。オペラは本当に素晴らしい芸術です。若い頃にオペラに出演した時は、つい歌に聴き惚れてしまって、自分の踊りを忘れそうになったこともありました(笑)。そのいっぽうで、真に優れた歌手というのは、身体を動かしたり演技したりすることによって声量がさらに大きくなり、歌をより壮大かつエモーショナルに響かせることができるのだと気づきました。今回の『オルフェオとエウリディーチェ』でも、歌手の方々自身が歌いながら動きを見せる部分もあるし、僕らのダンスが歌に変化をもたらすこともあるかもしれません。とても楽しみです。
ハンブルクでは、オペラとバレエで客層が異なりますか?
どうでしょうか……一概には言えないと思いますし、実際のところ僕にはよくわかりません。ただ間違いなく言えるのは、ハンブルクの歌劇場では折に触れてオペラ×ダンスのステージが上演されるなど、声と音楽とダンスのコラボレーションが素晴らしいかたちで実現されているということ。歌だけ、音楽だけ、ダンスだけでは生まれ得ない作品を次々と創造し、観客のみなさんに音楽やダンスに対する新たな理解をもたらしていると思います。

「どうして私の顔を見てくれないの? あなたはもう私を愛していないの? 」不安を募らせる愛妻エウリディーチェ(ヴァルダ・ウィルソン)の声。しかし振り返れば再び彼女を失ってしまう……愛の矛盾と葛藤に、オルフェオは煩悶する。 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

今回の『オルフェオとエウリディーチェ』について、勅使川原三郎さんは「このオペラのテーマは愛の葛藤と矛盾です」と語っていらっしゃいました。
このオペラは、主人公のオルフェオが最愛の人を失ったところから始まります。そして失った愛を探しに出かけ、その愛を取り戻すために戦い、矛盾と葛藤を強いられるという物語です。愛のために戦い、愛のために葛藤するーーこれは明らかに、人生を貫く普遍のテーマです。なぜなら、どんな時も僕たちが前に向かって歩き続けられるのは、愛が導いてくれるからだと思うのです。
物語の基になったギリシャ神話では、オルフェオはエウリディーチェを結局失ってしまいますが、グルックのオペラではハッピーエンドを迎えますね。
『オルフェオとエウリディーチェ』には様々なバージョンがありますが、ハンブルク・オペラではグルックのフランス語版を使ってバレエとのコラボレーションによるオペラを上演していて、やはりハッピーエンドでした。いっぽうジョン・ノイマイヤーはまったく別の音楽でバレエ版『オルフェウス』も作っているんですよ。そちらではオルフェオは歌い手ではなくヴァイオリン弾きという設定で、より神話に近い結末を選択しています。しかしすべてのバージョンに共通して描かれているのは、人は誰かを愛した時、その人生を精一杯生きることができる、ということです。僕たちはどんな時も愛を探し、愛を信じなくてはいけない。そしてたとえ愛を失うことがあったとしても、愛を経験したその記憶は残り続ける。そういうメッセージが込められた作品だと思います。

個人的な話になりますが、僕はウクライナ出身で、家族は愛する故郷を脱出し、ドイツのハンブルクに避難してきました。つまり、今まさに想像もし得なかった苦難を経験しています。それでもやはり、あるいはだからこそ、僕らは愛を探さなくてはいけないし、愛を信じなくてはいけないと感じるのです。愛という体験が、人生にはどうしても必要です。

勅使川原三郎による美術・衣裳・照明の洗練の美にもぜひ注目を! 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

公演情報

新国立劇場オペラ『オルフェオとエウリディーチェ』

日程

2022年 

519日(木)1900
521日(土)1400
522日(日)1400

上演時間

2時間(第60分 休憩25分 第35分)

会場 新国立劇場オペラパレス
詳細 新国立劇場WEBサイト

 

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