吉田都 新国立劇場舞踊芸術監督 ©︎Ballet Channel
2021年3月2日(火)、新国立劇場が2021/2022シーズン舞踊ラインアップ説明会を開催した。
会場は東京・初台の新国立劇場オペラパレスホワイエ、登壇者は舞踊芸術監督の吉田都。
吉田監督は2020年9月、まさにコロナ禍のさなかに舞踊芸術監督に正式に就任した。そこから始まったここまでの約半年間は「6ヵ月間とは思えないぐらい濃い日々」だったという。
次々と立ちはだかる困難と、だからこそ生まれた新たな取り組みや挑戦の日々。それらを冒頭で振り返った上で、次シーズンのラインナップを発表。各演目の内容を詳細に説明し、それぞれにかける意気込みを語った。
発表された2021/2022シーズン舞踊ラインアップは下記の通り:
- 【2021/2022シーズン バレエ ラインアップ】
- ●2021年10月23日~11月3日『白鳥の湖』〈新制作〉
振付・演出:ピーター・ライト
- ●2021年12月18日~2022年1月3日『くるみ割り人形』
振付:ウエイン・イーグリング
- ●2022年1月14日~1月16日「ニューイヤー・バレエ」
- 『夏の夜の夢』〈新制作〉振付:フレデリック・アシュトン
- 『テーマとヴァリエーション』振付:ジョージ・バランシン
- ●2022年2月19日~2月23日「吉田都セレクション」
- 『精確さによる目眩くスリル』〈新制作〉振付:ウィリアム・フォーサイス
- 『ファイヴ・タンゴ』〈新制作〉振付:ハンス・ファン・マーネン
- 『こうもり』より「グラン・カフェ」振付:ローラン・プティ
- ●2022年4月30日~5月5日『シンデレラ』
- 振付:フレデリック・アシュトン
- ●2022年6月3日~6月12日『不思議の国のアリス』
- 振付:クリストファー・ウィールドン
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●2021年7月24日~7月27日『竜宮りゅうぐう~亀の姫と季(とき)の庭~』
演出・振付:森山開次
●2022年2月26日~2月27日 エデュケーショナル・プログラムvol.1 ようこそ『シンデレラ』のお城へ!
『シンデレラ』振付:フレデリック・アシュトン
構成・演出:吉田都
- 【2021/2022シーズン ダンス ラインアップ】
- ●2021年11月27日~11月28日「DANCE to the Future: 2021 Selection」
新国立劇場バレエ団作品より(未定)
『ナット・キング・コール組曲』振付:上島雪夫
- ●2022年3月18日~3月21日 カンパニーデラシネラ『ふしぎの国のアリス』
構成・演出:小野寺修二
- ●2022年6月25日~6月26日 森山開次 新版『NINJA』
- 演出・振付・アートディレクション:森山開次
また吉田監督によるラインアップ説明のあとには、質疑応答の時間が設けられた。
記者たちから活発に挙がる質問の一つひとつに、監督がみずから回答した。
この説明会と質疑応答で語られた吉田都監督の言葉は以下の通り。
質疑応答のレポートはこちら
吉田都芸術監督による2021/2022ラインアップ説明
©︎Ballet Channel
昨年1月に2020/2021シーズンのラインアップ発表をした時には、世界がこのようなことになるとは夢にも思っておりませんでした。
ちょうど1年前の2020年3月頃から、いろいろなことが始まってしまいました。大原永子前芸術監督が(自宅のあるスコットランドから)帰国できなくなり、公演がすべてキャンセルになり、ダンサーたちはお稽古もできないような状態になりました。そして私自身は、ダンサーたちのモチベーションをどのように維持していったらよいのだろうかといったところから(芸術監督の仕事が)スタートしました。シーズン開始から作品の変更を余儀なくされ、正式に芸術監督として就任してからまだ6ヵ月ですけれども、6ヵ月間とは思えないくらい濃い日々を過ごさせていただいております。
でも、このように大変な時期だからこそ、いろいろな方が手を差し伸べて下さいました。
シーズン初めの『ドン・キホーテ』(2020年10月23日〜11月1日)では「チコちゃん」との動画配信が実現し、いちばん近いところでは『ニューイヤー・バレエ』の無観客上演ライブ配信があり、日本全国だけでなく世界とのつながりを感じられました。また本当にたくさんのご寄付をいただき、添えられたメッセージに私もダンサーたちも本当に勇気づけられました。
それだけではなく、例えば木下グループさんが、ダンサーたちとスタッフ全員のPCR検査をオファーしてくださいました。しかも「この新型コロナウイルスが終息するまで提供させていただきます」と、本当にありがたいお話をいただいております。
私たちに何ができるか。それはやはり、とにかく質の高い、良い舞台を作ることが大切なのだと思います。みなさまへの感謝の気持ちが、私にとってもダンサーたちにとっても、ますますの励みになっております。
今は緊急事態宣言下(令和3年3月2日現在)ですけれども、こうして劇場が閉まることなく、お客様が(定員の)50%であっても公演ができているということを、ありがたく思っております。この劇場で働いている全員が、感染の拡大防止のための対策を守り、本当に神経を使っておりますけれども、これからも安心安全のかたちで、より多くのお客様に劇場にいらしていただいて、舞台を楽しんでいただけるよう努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、2021年/2022年のラインアップを発表させていただきます。
2021年10月〜11月「白鳥の湖」(新制作)
次シーズンはまず、昨年変更を余儀なくされたサー・ピーター・ライトの『白鳥の湖』に再チャレンジいたします。いま、衣裳も作っている最中です。昨年の説明会ではこの『白鳥の湖』を選んだ理由として「技術的、演劇的要素が含まれているから」とお伝えしました。(いまになって思うと)この『白鳥の湖』に(昨年の段階で)いきなり臨むよりも、ダンサーたちと1年間一緒に仕事をしてきて、私がどういうような表現の仕方を求めているかを少しずつ感じてくれているなかで臨めるというのは、より深い作品作りができるのではないかと。私自身も楽しみにしているところです。
サー・ピーター・ライトだけでなく、(共同演出の)ガリーナ・サムソワさんにも直接ご指導いただいているので、それをダンサーたちに伝えていきたいなと思っております。
2021年12月〜2022年1月「くるみ割り人形」
クリスマスシーズンは定番のイーグリング版『くるみ割り人形』です。古典バレエといえども進化していかなくてはいけないと思っておりまして、作品自体や振付を変えたりはできませんが、昨年も気になるところを私なりに多少修正しております。例えば「花のワルツ」の場面は、ステップがとてもたくさん入っていて、ダンサーたちもスピーディーに激しく踊ってしまっているように見受けられました。でも、やはり「花のワルツは“ワルツ”だから、もう少しソフトに、エレガントに踊りましょう」と。少し振付のニュアンスを変えることができたのではと思っております。
また、次のシーズンでは初めての試みとして、本作を年末から年始1月3日まで全12回公演やってみたいと思います。イギリスでも『くるみ割り人形』は1月いっぱいまで上演されたりしていますが、エンターテインメントというのはみなさんがお休みしている時にエンターテインするのがお仕事だ、というのが私の考えです。年末年始はご家族のみなさまが集まって、楽しんでいただけるのにいい時期です。コロナがどのように落ち着いてくれるのかはわかりませんが、舞台だけではなくて劇場の中、たとえばこのホワイエなどでも、何か催し物や子どもたちも楽しめるような企画ができたらいいなと思っております。
2022年1月「ニューイヤー・バレエ」
新制作の『夏の夜の夢』、そして『テーマとヴァリエーション』を、全3回公演いたします。
『夏の夜の夢』はアシュトンのマスターピースで、衣裳とセットはオリジナルのものを英国ロイヤル・バレエからお借りして使わせていただくことになりました。アシュトン作品を上演できるのは私にとって本当に特別なことです。とても可愛らしくてユーモアのある妖精の世界、アシュトン独特の作品をご覧いただきたいと思います。
バランシン作品『テーマとヴァリエーション』は、これまでにも何度か上演しておりますが、本当に純粋に踊りを楽しんでいただける作品です。
次シーズンの「ニューイヤー・バレエ」は、この違ったタイプの2作品でのダブル・ビルでお届けします。
2022年2月「吉田都セレクション」
それから「吉田都セレクション」……本当にそういう名前になってしまいましたけれども……(笑)。去年上演ができなかったファン・マーネンの『ファイヴ・タンゴ』とともに、フォーサイスの『精確さによる目眩くスリル』を上演できるのをとてもうれしく思っております。これは5名という少人数で踊る作品です。
『精確さによる〜』は私自身も踊ったことがありますが、技術的には本当に高レベルなものを要求されるのと同時に、解放感も感じられる作品です。題名の通り「精確」でなければいけないのですが、オフバランスなどを多用していて不安定で、しかもスピーディーに音楽的に踊らなくてはいけません。新国立劇場バレエ団にとっては初めてのフォーサイス作品です。これをダンサーたちにチャレンジしてもらえるということをうれしく思っております。
そして昨年もご紹介しました『ファイヴ・タンゴ』。こちらも新国立劇場では初めて上演する作品です。アストル・ピアソラの音楽とともに踊る、大人のバレエです。
これらにプティ『こうもり』から「グラン・カフェ」を加えた3作品で「吉田都セレクション」をお届けします。コンセプトというものはとくにありませんが、イメージは“子どもたちの”というよりは“大人のバレエ”。コロナがどうなっているかわかりませんけれども、シャンパンを飲みながら大人の方たちに軽く楽しんでいただく、そのようなトリプル・ビルとなっております。
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2022年2月 エデュケーショナル・プログラムvol.1 ようこそ「シンデレラ」のお城へ!
2月は、初の試みとなるエデュケーショナル・プログラム「ようこそ『シンデレラ』のお城へ!」という公演を全2回行います。貴重なアシュトン版の『シンデレラ』を使って、バレエの紹介をする企画です。
例えば最初は何もないガランとした舞台をお見せして、そこからどういう風に幕が下りて、大道具が運び込まれて……という、舞台が仕上がっていく過程を解説付きで見ていただいたり。あるいはアグリー・シスターズ(お義姉さんたち)にちょっとインタビューをして、話してみたら「男性だったんだ!」というような、(バレエを)ちょっと身近に感じてもらえるような試みができたらと。そしてプログラムの2部は、第2幕を全部お見せするという形になると思います。
現在、アシュトン版『シンデレラ』の権利を持っていらっしゃる(監修・演出の)ウェンディ・エリス・サムスさんと相談しながら作っているところです。より多くの方にバレエの楽しさや美しさ、面白さを感じていただけるプログラムにして、お客様に「いろいろな作品の全幕を見てみたいな」と思っていただけたら。今回はvol.1で、以降もエデュケーショナル・プログラムは続けていけたらと思っております。
2022年4〜5月「シンデレラ」
2月のエデュケーショナル・プログラムに続き、ちょうどいいタイミングで『シンデレラ』全幕を上演します。新国立劇場バレエ団でずっと上演を繰り返しております、アシュトン版の『シンデレラ』です。
2022年6月「不思議の国のアリス」
こちらも昨年コロナの影響でキャンセルになってしまいましたが、新国立劇場での初演の時にとても人気のあった作品です。今回は英国ロイヤル・バレエとオーストラリア・バレエからスペシャルゲストを呼べたらいいなと。お客さまに喜んでいただけるキャストになると思います。
【令和3年度バレエ公演】2021年7月「竜宮 りゅうぐう」
時期的には(新シーズン開幕作品)『白鳥の湖』の前、本年7月になりますけれども、「こどものためのバレエ劇場」で森山開次さんの『竜宮 りゅうぐう』を8回公演いたします。
こちらは昨年、本当にコロナ真っ最中の時に作っていただいた作品です。「できるだけ密にならないように」「非接触」「みんなができるだけ同じ方向を向くようにする」など、コロナ対策用に作っていただきました。これからコロナがどうなるか次第ですが、もしかしたら多少手直しというか、さらに練り直してくださることになるかもしれません。
2021/2022シーズン ダンス ラインアップ
2021年11月「DANCE to the Future: 2021 Selection」
「DANCE to the Future」はいつも小劇場で行われていますけれども、今回は中劇場での上演になります。2回公演です。
新国立劇場の中から振付家を育てるプロジェクトで、そこから生まれた作品を上演している企画です。今回は、昨年コロナでキャンセルになってしまい上演できなかった作品に加えて、今年のショーイングで新しく作られるものの中からもいくつかをセレクションして上演します。
さらに、バレエダンサーが踊るジャズ作品として、2011年に上演された『ナット・キング・コール組曲』(上島雪夫振付)を再演いたします。
今年の「ニューイヤー・バレエ」でも、ダンサーたちの振付作品を少し紹介できましたけれども、(振付家育成は)とても大切なことだと思っていますので、より多くのダンサーたちに振付にチャレンジしてもらいたいなと思っています。
2022年3月 カンパニーデラシネラ「ふしぎの国のアリス」
こちらも昨年に再演がキャンセルになってしまった作品です。
今回は再演に向けてセリフを極力少なくして、マイムやダンスを中心に練り直してくださっているそうです。子どもから大人まで楽しめる作品です。
2022年6月 森山開次 新版「NINJA」
こちらも以前は小劇場で上演されていましたが、中劇場での公演に向けて新しく作り直していただきます。すべて新しくなるということではなく、以前上演されたものを中劇場用に進化させて、より楽しめるものを作ってくださると思います。3回公演です。
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続いて行われた質疑応答のレポートはこちら