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【SPOTLIGHT】ダンサーズ・ファイル〈6〉玉井千容~ヨーロピアン・スクール・オブ・バレエ在学中「これからもスキルアップし続けたい」~

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

みなさま、現在クラウドファンディング実施中「SPOTLIGHT 私たちは踊りたい〜若きバレエダンサーたちのステージ&ドキュメンタリー」配信プロジェクトを応援してくださり、本当にありがとうございます。

このステージ&ドキュメンタリーに登場する全11名のダンサーたちを一人ひとり紹介するインタビューをお届けしていきます。

「SPOTLIGHT」プロジェクトのダンサーチームの中心的存在である玉井千容(たまい・ちひろ)さん。とても華奢だけれど芯があり、体のすべてで優しく呼吸するように踊る美しいダンサーです。千葉県出身、東京のBallet du Cielでバレエを学び、2018年にオランダのヨーロピアン・スクール・オブ・バレエへ留学。卒業する年に海外のバレエ団への就職活動をしていたさなか、コロナの影響で帰国。現在は都内の恩師のもとでレッスンを続けています。

バレエを始めた理由~留学を決意するまで

バレエを始めた年齢ときっかけを教えてください。
玉井 バレエは4歳から始めました。母が趣味でバレエを習っていたので、小さなころからバレエに触れる機会も多かったからでしょうか。3歳のときには、ぬいぐるみを観客がわりにして毎日のように踊っていました。その様子を見ていた母が「4歳のお誕生日になったらバレエを始めようね」と約束してくれたんです。

バレエを始めたのはご両親のお誕生日プレゼント。素敵なスタートだったのですね。
玉井 本当は3歳からすぐにでも始めたかったんです。でもあまり小さなころから始めると途中で飽きてしまうのではないかと両親は考えたそうです。私は「お誕生日が来たらバレエが習える!」というのが嬉しくて、4歳になるのを心待ちにしていました。
実際にバレエを習ってみてどうでしたか?
玉井 念願のバレエは本当に楽しかったです!母が通っていた自宅近くにあるスタジオに入って、小学校を卒業するまでの間お世話になりました。でも人見知りだったので、最初は見学席に母の姿がないと不安で、よく泣いていたんですよ。
海外留学を考えることになったきっかけは?
玉井 小学校高学年でコンクールに出るようになってから、海外留学をしたいと思い始めたんです。その夢を当時通っていたスタジオの先生に思い切って打ち明けると「留学を希望する生徒を育ててくれるスタジオがあるから調べてごらんなさい」とおっしゃってくださいました。先生の寛大なお人柄に、今でも感謝しています。
そして今もお世話になっている東京のBallet du Cielに移籍することを決めました。

バレエスタジオを移籍してからの発表会にて

千葉県から東京のスタジオに通われていたんですね。
玉井 はい。そこに通うために、まず東京の中高一貫校を受験することに決めました。学校が終わってからスタジオに通うための時間をできるだけ短くしたかったんです。授業の都合でレッスンに遅刻してしまうのも嫌でしたし。そこで中学1年生からは、朝、千葉県の自宅を出て東京の学校に行き、放課後はスタジオに直行してレッスン、そして夜に帰宅という日々を過ごしました。
中学受験については、誰かに相談したのですか?
玉井 いいえ、自分で決めました。そのときに自分で考えてベストだと思う方法を選んだんです。バレエの進路の分かれ道でもある大切な時期はバレエに集中したかったので、高校受験のない学校に決めたのですが、両親はそれについては干渉せず、見守ってくれました。
移籍されてからはどうでしたか?
玉井 本当に毎日が新鮮でした。先生方も実際に海外で活躍していたダンサーだったので、いただく言葉一つひとつがとても大切で。踊るときに意識する部分など、バレエの面での驚きと発見もたくさんありましたし、海外生活で体験された貴重な話もしていただきました。
また、出場するコンクールのレベルが上がって行くにつれ、スタジオ以外の同世代のダンサーを目にすることが増えて「こういう子たちがいるんだ!」と意識するようになりました。

刺激的な留学生活

玉井さんの夢の一歩でもあった、最初の海外留学について教えていただけますか?
玉井 15歳、ニューヨークのエリソン・バレエ・スクールが最初です。スタジオで教えてくださった外国人の先生に、きっと刺激になるはずだからサマー・スクールに行ってみてはどうかというご提案をいただきました。私も「とにかく早く海外に行ってみたい!」と思っていたので、動画を送って許可をいただき、6週間の短期留学を果たしました

初めての海外留学の感想は?
玉井 海外留学をするためには、レベルアップが必要だということは自覚していましたが、行ってみると自分がどれだけぬるい状態でいたかをあらためて感じ、身が引き締まりました。
まだ15歳での留学、不安はありませんでしたか?
玉井 このときは同じスタジオの2歳年上の男の子と一緒に行きました。親がついていくこともできたのですが、初めてだし、ちょっと自分たちだけで頑張ってみたい、ということになって。英語の知識はゼロではなかったものの、実際に暮らしてみると大変でした。でも「身振り手振りでがんばれば伝わるんだな(笑)」と思って。
“初めてだから”ご家族とは一緒に行かなかったのですか?
玉井 そうなんです。親がついて来たら「すべてが上手くできちゃうな」と思ったんです。住む場所は、日本のスタジオの先生が、現役時代のお友達のお家にお世話していただけるよう手配して下さったので、スクールまでの行き来以外は治安もまったく気になりませんでした。

写真は16歳のとき、日本のスタジオの発表会で「ダイアナとアクティオン」のヴァリエーションを踊ったときのもの

オランダの留学が決まったのはコンクールがきっかけですね。
玉井 2018年のユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)で『ダイアナとアクティオン』のヴァリエーションを踊り、今、私が行っているオランダのヨーロピアン・スクール・オブ・バレエのサマー・インテンシブに参加できる権利をいただきました。ただ、そのときはお返事を保留にしたんです。サマー・スクールに行けば年間スカラシップの許可をいただける可能性があったものの、その頃からビザの関係で、EU以外に住む人たちはスクールに3ヵ月以上いられないことになってしまったので。でも翌年またYAGPに参加したとき、もう一度この学校の先生に再会しました。ビザが下りる3ヵ月間だけでも来てみてはどうかというお話をいただいて、留学を決めました。
では3ヵ月でビザが切れるたびに、帰国しなくてはいけなかったのですか?
玉井 そうなんです。そこで、オランダの先生に相談して、カナダ・ナショナル・バレエ・スクールに、オランダの学校からの交換留学生という形で行かせていただくことにしたんです。つまりオランダに3ヵ月いたあとはカナダに3ヵ月、そしてオランダに戻って3ヵ月、という風に。カナダとオランダに交互に留学しながら過ごしました。

カナダ・ナショナル・バレエ・スクールにて

ヨーロピアン・スクール・オブ・バレエにて

コロナで何が起こったか

そうして充実した海外留学をされていたときに、コロナ禍に見舞われました。
玉井 今年度はバレエ団への就職活動をメインにすると決めていたので、イギリス、フランス、スペイン、ドイツ……さまざまな国のバレエ団のオーディションを回っていました。1月から3月のオーディションシーズンはオランダの学校を拠点として、ヨーロッパの方のオーディションを回っていたのですが、その間にオランダ国立バレエの劇場がコロナ感染者が出たとかで、急遽閉まることになりました。学校のほうでもミーティングが行われ、結果、日本へ帰国することになってしまいました。
本当に就職活動の真っただ中で中断されてしまったのですね。
玉井 はい。でもひと段落というところまでは終えられていて、カンパニーからの連絡待ちも何ヵ所かあったので良かったです。何もできていないという感じではなかったから「今のタイミングなら帰国してもいいかな」と思えました。残念ではありましたけれど。

帰国時に、オランダでの日本人クラスメイトと一緒に撮りました

そのような時に「SPOTLIGHT」プロジェクトが立ち上がりましたね。
玉井 そうですね、親しくしている五十嵐脩くんや、川上環ちゃんなどをはじめ、今回、初めて一緒に踊るメンバーも、ほとんどが世界各国のオーディションで出会った子たちなんですよ。この時期にいっしょに踊ることができて本当に嬉しいです。

プロジェクトメンバーの川上環さんと。ミュンヘンのカンパニーオーディションで知り合い、仲良くなりました!

今回のプロジェクトについての思いをお聞かせください。
玉井 この状況だからこそ、こんな素敵なプロジェクトができあがったと考えています。そこに出演させていただくからには、もちろん自分のバレエもスキルアップしないと!
また「舞台を作りあげる」というのも、もちろん初めての経験です。踊る側としての経験は年々増えてはいきますが、ひとつの公演をするためにこんなにたくさんの方の協力が必要なんだとか、こういう手順を踏んで舞台は完成されていくんだなとか、踊り以外のことを勉強できるチャンスはなかなかありません。こうして作る側について知ることは、今後も踊っていくうえでも大切なことだと思っています。
これまで、バレエをやめたくなったり、嫌になったことなどはありますか?
玉井 得意・不得意はあるので、チャレンジングな役については、できればあまり練習したくないな、と思うこともあるんですが(笑)、練習しないと自信につながらないと思っているので、嫌になったことはないですね。
玉井さんに、コロナはどういう影響を与えましたか?
玉井 コロナが出始めた時は、本当にオーディション真っ最中だったので、それに集中してはいたものの「この先、どうなるんだろう?」という不安を初めて感じました。「もうすぐコンクール、大変! もっと練習しないと!」といった、小さな不安を感じたことはたくさんありますが、自分の努力ではどうしようもならない「今後」についての不安は初めてで……。でも、逆に良いきっかけを与えてもらえたと考えています。ここまでがむしゃらに頑張ってきて、半年間も日本にいることも本当に久しぶり。進路についてもじっくりと考える時間ができました。じつは就活期間にとある海外のバレエ団から、今年の9月から研修生として入団しないかというお話をいただいているんです。まだコロナ収束の目途が立たないのでとりあえず入団時期は先送りになっている状況なのですが、もしこのあとまたコロナの次の波が来てしまったらどうなるのか、など、気になることはあります。ふと「本当だったら、今ごろ留学していたな……」と思うこともあります。
そういうときは、誰かに相談したりするのでしょうか?
玉井 もともと、あまり相談ごととかを人に話さないタイプなんです。意識しているわけではないのですが、友達とか家族にもめったに言わないですね。
この先コロナがおさまったとして、そこで海外に行ってもう一度就職活動からやり直すことになるにせよ、このまま日本にいるにせよ、自分の気持ちは「常にスキルアップしておかないといけない」という結果にたどり着いたので、今はもう割り切ることにしました。今回のプロジェクトももちろんですが、日本にいるこの時間が無駄にならないように、自分でしっかりとスケジュールを組んで、出られるコンクールにエントリーしたり、私が今できることは全部やろう、そういう意識で頑張りたいと思っています。

\玉井千容さんに質問!今回のステージでは何を踊る?/
『ラ・シルフィード』のパ・ド・ドゥと、『パキータ』の女性ヴァリエーションを踊ります。今回踊る『ラ・シルフィード』はブルノンヴィル版で、踊っているとかなりハードで難しいんですけど、衣裳も白のロマンティック・チュチュで、ザ・バレエという感じ。音楽も素敵だし、きっとみなさんに気に入っていただけると思います。シルフィードの役を私が、相手役のジェイムズを五十嵐脩くんが踊ります。

\SPOTLIGHTダンサーズに質問!玉井千容さんの踊りの魅力とは?!/

千容ちゃんには「踊りごころ」がある。努力では身につけられないセンスをもっている人だと思います。今回の『ラ・シルフィード』のリハーサルを画面越しに見ていても、上半身の動き方ひとつで「あ、妖精だ!」ってわかるんですよ(竹嶋梨沙)
日本人の繊細さを踊りで表現できるダンサーです。今回踊る作品ではないけれど例えば『エスメラルダ』などでも、ただ単にダイナミックなだけでなく、日本の女性らしい楚々としたところを踊りの中に取り入れて、余韻を残すんです(川上環)

 

配信情報

「SPOTLIGHT 私たちは踊りたい〜若きバレエダンサーたちのステージ&ドキュメンタリー」

●配信期間:2020年10月18日(日)20時 〜 2020年12月31日(木)23時59分
※配信される映像はアーカイブ視聴が可能です。視聴券の購入により、いつでも、何回でもご覧いただけます。

●視聴チケット発売中(有料 1,500円):購入はこちら

●主催・制作・お問合せ:〈バレエチャンネル〉編集部
Email:info@balletchannel.jp
Tel:070-4035-1905

★クラウドファンディング実施中!(2020年10月16日 23:59まで)
ご支援はこちらから。応援よろしくお願いいたします

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