
© Joika NZ Limited / Madants Sp. z o.o. 2023 ALL RIGHTS RESERVED.
アメリカ人女性として初めてボリショイ・バレエとソリスト契約を結んだバレリーナ、ジョイ・ウーマックの、実話をもとにした映画『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』が、2025年4月25日より全国公開されます。
物語は2009年、15歳のジョイ(タリア・ライダー)がボリショイ・バレエ・アカデミーに入学するところから始まります。ボリショイのプリマ・バレリーナになるために彼女がとった行動とは? 当時のダンサーたちが直面していた過酷な現実も赤裸々に描きつつ、ナタリア・オシポワが本人役で登場するなど、本格的なバレエシーンもみどころです。

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パリ・オペラ座をはじめ世界の劇場で踊りつつ、2025年のローザンヌ国際バレエコンクールでは審査員を務めたジョイ・ウーマックに、本作の見どころや完成までのエピソードについて聞きました。

ジョイ・ウーマック © Joika NZ Limited / Madants Sp. z o.o. 2023 ALL RIGHTS RESERVED.
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- この作品では、過剰なまでに厳しい指導やパトロンとの関係、政治との絡みなど、ボリショイ・バレエをめぐる負の部分も描写しつつ、それらを越えるバレエの美しさや芸術への愛情が描かれていると感じました。ジョイさんは、映画制作にどのように関わったのでしょうか。
- 今回、ラッキーだったのは、脚本の段階から関わり、バレエの振付や演出をすべて任せていただいたことです。ハリウッド映画ですから、尺の問題もありますし100%事実そのままではありませんが、ダンサーの役作りからダンスの表現、衣裳まで深く関わりながら、できる限りリアルな作品になるように頑張りました。
映画で描かれたようなネガティブな面がたとえあったとしても、私はバレエを深く愛しています。楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。
- この作品はジョイさんの回顧録『Behind the Red Velvet Curtain』がもとになっています。以前は映画化に否定的だったそうですが、今回OKする決め手となったのは?
- おっしゃる通り、映画化には躊躇がありました。私はまだ若く、この先の人生もありますし、自分の物語がそのまま映画になるなんて、そもそもとても奇妙なことですし。ジェームス監督に、最初にお話をいただいた時は「映画化なんて、映画館に座ってこの目で見るまでは、とても信じられません」と言ったくらいです。
でも、監督は世界の様々な劇場まで繰り返し私の舞台を観に来て、取材を重ねてくださいました。この方なら信頼できると感じたので、どうかできる限りリアルな作品にしてください、そしてバレエシーンの振付に私を使ってください、それができるならOKですとお答えしたんです。

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- ジョイ役を演じたタリア・ライダーは「バレエは大好きだけれど、自分はどちらかというとコンテンポラリーダンサーなので、この役を演じるために1年間のトレーニングを積んだ」と明かしていますね。映画の中の「ジョイ」像はどのようにつくりあげられたのでしょうか。
- タリアとのクリエイションは非常に興味深いものでした。彼女はとても感受性の豊かな人。「演じること」に対する彼女の愛情は、私自身が持っているバレエへの愛情と、まったく同じだと感じたのです。彼女はこの物語に何か個人的なつながりを感じて演じてくれたと思っています。
タリアとリハーサルを重ねる中で、たくさんの質問を受けました。人生のその瞬間に、あなたはなぜそのような選択をしたのかと。彼女もダンスを愛しています。でも、おそらくどこかのタイミングで「踊るか」「演じるか」の選択を迫られ、演技を選んだのだと思います。映画の中の「ジョイ」が感じた「何を選び取るか」という葛藤に、彼女自身の経験を投入し、共感して演じてくださったことが、私はとても嬉しかったんですね。彼女は外見が美しいだけでなく、芸術性が美しい。
私たちバレエダンサーは、完璧さを追究するために人生のほとんどを費やします。限られた時間でそこに近づくのは並大抵でなく、彼女にとって大きなチャレンジだったはずです。私は彼女がロシアのクラシックなスタイルを十二分に表現できるよう、難易度も調整しつつ、できるかぎりサポートしました。その結果、彼女の演技もダンスも、素晴らしいものに仕上がったと思います。

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- ジョイさんはボリショイに入団し、プリマになるために何度か重い選択をしています。おそらくずっとアメリカで暮らしていたら考えられないような。
- ええ。正しかったかどうかはわからないのですが、その選択が今の自分を形作っているのは確かです。ジェームス監督もタリアも、そこにすごく興味をもってくださり、一緒に映画の中のジョイという役柄を深めていきました。
しかし、過去の自分を心理学的に理解することは骨の折れる作業でしたね。当時の私はとにかく必死で、ほかに選択肢がないと思い込んでいたのです。人は年齢を重ねるうちに賢さを身につけ、時間をかけることや、別の角度から見ることの大切さを学んでいくものですが、タリアが演じたジョイの必死さは、若さそのものを象徴していると思います。
- ボリショイ・バレエ・アカデミーの教師、ヴォルコワ先生の「あなたの人生をどれだけ捧げられるか」という言葉が印象に残っています。ジョイさん自身がロシアで先生方から学んだのはどんなことでしょうか。
- そうですね……。ロシアの美しき師たちの教えがなければ、今の自分はなかったと思っています。ロシア・バレエの美しさは、教師と生徒が、親子関係にも似た、深い師弟関係で結ばれるところから生まれてきます。教師は自分の経験や芸術性のすべてを生徒に与えます。それをどう受け入れるかは、生徒自身の芸術性にかかってきますが、互いが全身全霊をバレエに捧げ合う関係性がとても美しいんですね。教師は心が広く、優しく、そして自分を律することを教えるために、時には厳しくあらねばならない。ヴォルコワ先生の主なモデルになっているクレムリン・バレエ時代の私のコーチも、そのような先生でした。現在では許されないような虐待的な言動は、荒っぽい指導で悪名高かった別の先生がモデルになっていますけれど。
- ジョイさんはダンサーとして活躍しつつ後進の指導にもあたっています。若いダンサーを育てるにあたり、どんなことを大切にしていますか。
- ダンサーが必要とすることは、一人ひとり違います。大変だけれど、とにかく努力が大切よ、と強く背中を押してほしい人もいれば、電話でゆっくり話すこと、ただハグすることが必要な人もいる。私も彼らの成長につながる「触媒」のような役目を果たしたいといつも考えています。ロシア・バレエの伝統は、生徒がいつかは師となることで脈々と受け継がれてきました。私も、学んできたことを引き継いでいきたいのです。求められたから教えるといった「取り引き」ではなく、一人ひとりのダンサーとしっかり関係を結ぶことを、とても大切にしています。
- 最初はただただ厳しく見えたヴォルコワ先生とジョイの温かな信頼関係は、この映画の大きな見どころですね。
- ええ。バレエを愛する数多くの日本の方々に見ていただけたら嬉しいです。私自身、いつかぜひ日本にも行ってみたいですね。
上映情報

出演:
タリア・ライダー
ダイアン・クルーガー
オレグ・イヴェンコ
ナタリア・オシポワ
監督・脚本:
ジェームス・ネイピア・ロバートソン
2023/イギリス・ニュージーランド/111分/カラー/スコープ/5.1ch/原題:JOIKA
/日本語字幕:古田由紀子/字幕監修:森菜穂美/配給:ショウゲート Gマーク/番号:60218
公式サイト:joika-movie.jp
公式X:@showgate_youga
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2025年4月25日(金)よりTOHOシネマズシャンテ他にて全国公開