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【第48回】ウィーンのバレエピアニスト〜滝澤志野の音楽日記〜2023年夏、ピアノリサイタルを振り返る

滝澤 志野

ウィーン国立バレエ専属ピアニストとして、バレエダンサーを音楽の力で支えている滝澤志野さん。
彼女は日々の稽古場で、どんな思いを込め、どんな音楽を奏でているのでしょうか。

“バレエピアニスト”というプロフェッショナルから見たヨーロッパのバレエやダンサーの“いま”について、志野さん自身の言葉で綴っていただく連載エッセイ。
日記の最後には、志野さんがバレエ団で弾いている曲の中から“今月の1曲”を選び、読者のみなさんのためだけに演奏した動画も掲載します。

更新は隔月(基本的に偶数月)です。美しいピアノの音色とともに、ぜひお楽しみください。

♪「ウィーンのバレエピアニスト 滝澤志野の音楽日記」バックナンバーはこちら

🎹

ピアノリサイタルが終わりました。

2023年7月。日本でのピアノリサイタルが終わりました。
来てくださったお客様、関わってくださったみなさまに心からお礼申し上げます。ピアノリサイタルは私にとって、高く遠いところにある憧れであり、これまでの集大成であり、そして「志」そのものでした。その場所に独りで立つのは、想像していたよりずっとハードでしたが、そこでしか味わえないものがありました。

7月21日、東京公演(銀座・王子ホール)終了後のカーテンコール

2月にリサイタルをすると決めてから5ヵ月弱。準備期間が短く、怒涛のような日々でした。劇場の仕事も多忙を極め、4月から腱鞘炎も患っていました。痛み止めを飲みながら練習していて、リサイタルを中止にするべきか悩み、夜もうまく眠れず。でも、そんななか東京公演完売のお知らせを聞き、どれだけ大きな力になったことでしょう。ここ数年はバレエ公演の舞台にしか立っていなかったので、音楽家としての公演にどれだけのお客様が来てくださるだろうかと不安だったのです。チーム新書館をはじめ、いろんな方に支えていただき、体と仕事とも折り合いをつけ、なんとかこの日を迎えることができました。

プログラムの解説文を書く作業も、リサイタルに向けて大切な時間となりました

最初の公演は大阪。地元のフェニーチェ堺でのコンサートです。

私は東京の音大へ進学して以来、大阪での音楽活動から遠ざかっていて、忘れものをしてきたような感覚をずっと持っていました。思い出たっぷりの堺市民会館がフェニーチェ堺へと生まれ変わり、私もようやくピアニストとして故郷に戻ってくることができました。

7月14日、大阪公演(フェニーチェ堺)のカーテンコールにて

故郷でリサイタルができてよかった。どんなに孤独を感じることがあっても、人は独りで生きているわけではないことも痛感しました。

さて、今回は1時間以上のヘビーなプログラムを暗譜して臨むということも大きな壁でした。どれだけ練習しても、本番で何かあったらどうしようと不安が消えません。大阪公演前半で、ちょっと味わったことのないような緊張感に襲われました。ふだん、私はひどい緊張はしないですし、公演の規模的にはウィーンの歌劇場でピアノ協奏曲を弾くほうが何倍もプレッシャーがありそうなものですが、これがリサイタルの重圧かと……。ホロヴィッツのような巨匠ですら、ステージへ出ていく時は毎回孤独を味わっていたといいます。以前、ウィーンにゲストダンサーとして『白鳥の湖』を踊りにいらしたマリアネラ・ヌニェスが、開演前に「手が冷たいの。どうしよう、緊張してる」と不安を吐露しておられたことも忘れられません。どんなベテランでも、そこに立ってみないとわからない境地があります。このような気持ちをピアニストとして今世で味わえてよかった。プログラム第1部のショパンもプロコフィエフもギリギリの力で弾き終えた私は、第2部は一瞬でも1ミリでもバレエ音楽の美しさを持ち帰ってもらえたら、という想いでピアノに向かっていました。

自身の理想から程遠く、心がうち砕かれたとしても、私には伝えたいものがある。そのことを再認識しました。

そして、東京公演。室内楽の殿堂である王子ホールは、響きもバランスもよく、成熟していて素晴らしかったです。客席からはバレエ愛、音楽愛が痛いほど伝わってきて、ものすごく大きなエネルギーに満ち、熱い夜でした。一人で弾いているのに、すぐそばでダンサーが一緒に踊っているようでもあり。この音楽的充実は忘れられない、きっと私はまた舞台に戻ってくるのだろうなと思いました。

現在地、そしてこれから。

ピアニストとひと言で言っても、その活動は様々です。私は音大で誰かと共に演奏することに魅了されて以来、ソロよりアンサンブル活動に力を注いできました。ウィーン国立バレエの専属になってからはバレエ以外の音楽活動をする余裕はなく、気づけば12年もの時が流れていました。歌劇場でピアノ協奏曲を50回弾いていてもリサイタルとは縁遠い、そんな生活だったのです。しかし、ウィーンでの素晴らしい音楽体験は、静かに蓄積されて私の核となっていきました。深く狭い世界に生きていた私の視野がふっと開けたのは2020年。最高だったルグリ監督時代が終わり、コロナ禍も経て大きく環境が変わりました。長く続いた喪失感の先に生まれたのは、自分の音楽に向き合うエネルギーでした。

人生は一度きりだから、自分の本当にやりたいことをやらないといけない。バレエ音楽の美しさを届けるリサイタルをする、という夢に挑んだわけですが、自分にとっては大きく、新しい一歩になりました。

リサイタルに寄せて、新たなCDもリリースしました

自分にとって6枚目となるこのCDで、私は初めて発売日に立ち会い、サイン会を行うことができたのです!

経験って素敵だなと思います。一歩踏み出すと、そこにはまた新しい景色が広がっているのです。今回も思いがけない景色に出逢いました。バレエ音楽はもちろんのこと、私がいつも弾いている即興演奏も、久しぶりに大勢のお客様とシェアすることで、新しい何かが生まれました。私はきっと、自分が生きてきた過去には囚われない。今の自分が何をしたいのか、これからどうしたいのかを見つめ、美しい音を求めて生きていきたいと思います。

またみなさまと音楽をシェアすることを楽しみにしています。
ありがとうございました。

チーム新書館のみなさんと共に。前列右端は大阪公演のステージマネージャーを引き受けてくださった、私の親愛なる友人・井原麗奈さん

今月の1曲

私にとって初めてのソロピアノリサイタル、その第1曲目として選んだのは、チャイコフスキー『眠れる森の美女』Op.66よりプロローグ「リラの精のテーマ」でした。今回はその演奏をライブ収録した映像を、読者のみなさまにお届けします。リサイタル当日の様子と共に、バレエチャンネル編集部が小さなドキュメンタリーのように編集してくれました。

★次回更新は2023年10月20日(金)の予定です

Now on Sale

Brilliance of Ballet Music~バレエ音楽の輝き

滝澤志野による、珠玉の作品を1枚に収めたピアノソロアルバム。

<収録曲>
1.『眠れる森の美女』第3幕 グラン・パ・ド・ドゥよりアダージオ(チャイコフスキー)
2.『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』よりアダージオ(チャイコフスキー)
3.『ジュエルズ』ダイヤモンドよりアンダンテ/交響曲第3番第3楽章(チャイコフスキー)
4.『瀕死の白鳥』/「動物の謝肉祭」第13番「白鳥」(サン=サーンス)
5.『マノン』第3幕 沼地のパ・ド・ドゥ/宗教劇「聖母」より(マスネ)
6.『椿姫』第2幕/前奏曲第15番「雨だれ」変ニ長調(ショパン)
7.『椿姫』第3幕 黒のパ・ド・ドゥ/バラード第1番 ト短調(ショパン)
8.『ロミオとジュリエット』第1幕 バルコニーのパ・ド・ドゥ(プロコフィエフ)
9.『くるみ割り人形』第1幕 情景「松林の踊り」(チャイコフスキー)
10.『くるみ割り人形』第2幕 葦笛の踊り(チャイコフスキー)
11.『くるみ割り人形』第2幕 花のワルツ(チャイコフスキー)
12.『くるみ割り人形』第2幕 グラン・パ・ド・ドゥよりアダージオ(チャイコフスキー)

●演奏:滝澤志野
●発売元:株式会社 新書館
●販売価格:3,300円(税込)
♪ご購入はこちら

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Dear Chopin(ディア・ショパン)〜Music for Ballet Class

滝澤志野さんの5枚目となる新譜レッスンCDがリリースされました!
志野さんがこよなく愛する「ピアノの詩人」ショパンのピアノ曲で全曲を綴った一枚。
誰もがよく知るショパンの名曲や、『レ・シルフィード』『椿姫』などバレエ作品に用いられている曲等々を、すべて志野さんの選曲により収録しています。
それぞれのエクササイズに適したテンポ感や曲の長さ、正しい動きを引き出すアレンジなど、レッスンでの使いやすさを徹底重視しながら、原曲の美しさを決して損なわない繊細な演奏。
滝澤志野さんのピアノで踊る格別な心地よさを、ぜひご体感ください。

ドキュメンタリー風のトレイラー全収録曲リストなど、詳細はこちらのページでぜひご覧ください
♪ご購入はこちら

●CD、52曲、78分 ●価格:3,960円(税込)

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Dear Tchaikovsky(ディア・チャイコフスキー)〜Music for Ballet Class

バレエで最も重要な作曲家、チャイコフスキーの美しき名曲ばかりを集めてクラス用にアレンジ。
バレエ音楽はもちろん、オペラ、管弦楽、ピアノ小品etc….
心揺さぶられるメロディで踊る、幸福な時間(ひととき)を。

●ピアノ演奏:滝澤志野
●監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:3,960円(税込)

★収録曲など詳細はこちらをご覧ください

ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス1&2&3 滝澤志野  Dramatic Music for Ballet Class Shino Takizawa (CD)
バレエショップを中心にベストセラーとなっている、滝澤志野さんのレッスンCD。Vol.1では「椿姫」「オネーギン」「ロミオとジュリエット」「マノン」「マイヤリング」など、ドラマティック・バレエ作品の曲を中心にアレンジ。Vol.2には「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「オネーギン」「シルヴィア」「アザー・ダンス」などを収録。Vol.3ではおなじみのバレエ曲のほか「ミー&マイガール」や「シカゴ」といったミュージカルナンバーや「リベルタンゴ」など、ウィーンのダンサーたちのお気に入りの曲をセレクト。ピアノの生演奏でレッスンしているかのような臨場感あふれるサウンドにこだわった、初・中級からプロフェッショナル・レベルまで使用可能なレッスン曲集です。
●ピアノ演奏:滝澤志野
●Vol.2、Vol.3監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:各3,960円(税込)

配信販売中!

現在発売されている滝澤志野さんのベストセラー・CDを配信版でもお買い求めいただけます。
下記の各リンクからどうぞ。

★作曲家シリーズ
♪Dear Tchaikovsky https://linkco.re/pEHd0G2A?lang=ja

★「Dramatic Music for Ballet Class」シリーズ

★滝澤志野さんのアーティスト情報ページはこちら

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

大阪府出身。桐朋学園大学短期大学部ピアノ専攻卒業、同学部専攻科修了。2004年より新国立劇場バレエ団のピアニスト。2011年よりウィーン国立バレエ専属ピアニストに就任。 レッスンCD「Dramatic Music for Ballet Class」Vol.1、2、3、「Dear Tchaikovsky~Music for Ballet Class」、「Dear Chopin〜Music for Ballet Class」をリリース(共に新書館)。国内のバレエショップを中心にベストセラーとなっている。2023年7月大阪・東京で初のピアノソロリサイタルを開催。初のピアノソロアルバム「Brilliance of Ballet Music~バレエ音楽の輝き」も同時発売。

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