バレエを楽しむ バレエとつながる

  • 観る
  • 踊る
  • 知る
  • 買う

【第47回】ウィーンのバレエピアニスト〜滝澤志野の音楽日記〜ピアノリサイタルまで約1ヵ月。そして嬉しいお知らせも…

滝澤 志野

ウィーン国立バレエ専属ピアニストとして、バレエダンサーを音楽の力で支えている滝澤志野さん。
彼女は日々の稽古場で、どんな思いを込め、どんな音楽を奏でているのでしょうか。

“バレエピアニスト”というプロフェッショナルから見たヨーロッパのバレエやダンサーの“いま”について、志野さん自身の言葉で綴っていただく連載エッセイ。
日記の最後には、志野さんがバレエ団で弾いている曲の中から“今月の1曲”を選び、読者のみなさんのためだけに演奏した動画も掲載します。

更新は隔月(基本的に偶数月)です。美しいピアノの音色とともに、ぜひお楽しみください。

♪「ウィーンのバレエピアニスト 滝澤志野の音楽日記」バックナンバーはこちら

?

もうすぐピアノリサイタル、そして…

2023年6月。
初夏の陽気に心弾むウィーン。今シーズンのウィーン国立バレエの公演は残すところ1演目となりました。ヌレエフ版『ドン・キホーテ』公演。ヌレエフが此処ウィーンで創った『ドン・キ』が7年ぶりに帰ってきます。朗らかな演目がこの季節に映え、もうすぐ夏休みということもあって稽古場の空気が軽くて嬉しい。

そして、私の夏のピアノリサイタルも目前に迫ってきました。

こんな素敵なチラシも出来上がり、その日を心待ちにしながら、準備を進めています。

演奏プログラムはこちらです。

リラの精がみなさまをバレエの世界へと導くオープニング。ショパンの『アザー・ダンス』『コンサート』に『椿姫』。『ロミオとジュリエット』は序曲からバルコニー・パ・ド・ドゥまでのダイジェスト、そして2幕は『マノン』と『くるみ割り人形』。プログラムを組んでいて、まるでバレエガラ公演のプログラムを練っているような気持ちになりました。もちろん音楽的にとびっきり美しいものを選びました。今回演奏する曲はすべてウィーン国立歌劇場で上演されてきた演目であり、私が愛してやまない音楽です。ウィーンでバレエ公演を観たことがある方ならご存じだと思いますが、この劇場では観客はオケピの音楽に熱狂します。その演奏はいつもスペシャルで、美の世界に酔いしれるのです。音楽の都であるウィーンの文化を、その一端を担う者としてお届けできたら。憧れだった室内楽の殿堂である東京・銀座 王子ホール、そして18歳で故郷を離れてからこんなに時間が経ってしまったけれど、地元・大阪堺で演奏できることがとても嬉しく、心から楽しみにしています。

初めての故障から学んだこと

ですが、思いもよらないことが起こりました。4月下旬から右手親指側の手首が痛みだしたのです。演奏はおろか、痛み止めを飲まなければ日常生活に支障をきたすまでに。腱鞘炎です。これまで故障知らずのピアニスト人生だったのに、初めてリサイタルをするという大事なタイミングでなぜこんなことに……。思い当たる節はありました。バレエ団で大変な演目をたて続けに抱えていたこと、加えてリサイタルのプログラムを選ぶため、ありとあらゆる曲を試し弾きしていたこと。でも、いちばんの原因はストレスだと思い至りました。

芸術の世界は個性豊かな人間の集まりで、舞台を創る現場では時に真剣勝負のぶつかり合いが起こります。ある演目のためにいらした客員指導者がなかなか厳しく、一音間違えるとピアニストにも檄が飛ぶ、というハードな稽古が繰り広げられていました。楽曲じたいがとても難しく、日々乗り越えることに必死だったのですが、ある日、指導者から私への理不尽な言葉をそばで聞いていた同僚がショックで泣きだしてしまいました……。そしてこの演目から自分たちピアニスト二人を降ろしてほしい、と監督に直談判しにいったのだそうです。監督が仲裁してくれたことで状況は改善し、私たちは無事にその演目を舞台に送り出すことができたのですが、手が痛みだしたのはその頃からでした。その稽古ではいつも心身を強張らせて弾いており、その無理が祟ったのでしょう。今回学んだことは、人はどんな苦境に立たされたとしても、心身を健やかに保つ努力をしなくてはいけないということ。私はいままで崖っぷちで……ギリギリのところで勝負するからこそ美しいのだと思っていましたが、それ以上に大切なことがあるのかもしれないと、今回故障して初めて気づいたのでした。それから10日間ほどピアノから離れて、心も手も安静に穏やかに過ごすよう努めました。いま、私が与えられている環境は自分だけのギフトかもしれない。乗り越えた先に何かまた別の風景が広がっているのかもしれない。

同じ頃、仲の良いダンサーが稽古場で怪我をしてしまいました。その日、付き添って一緒に病院に行ったのですが、故障知らずのダンサー人生で、ベストコンディションで主役を踊り続けてきた彼女が、歩くこともままならず、舞台を降板しなければならないなんてどんなにつらいことでしょうか。私も自分がこうなってみて初めて、いつも怪我と隣り合わせであるダンサーたちの痛みに心から寄り添える気がしたのです。彼女と共に快復を待つ時を過ごせたのも、私の心の支えになってくれました。

まだ痛みは残るけれど、健やかに、乗り越えよう。

初のピアノソロアルバムCDが発売されます

さて、話は変わりますが、大切なお知らせがあります。今回のリサイタルに寄せて、新しくCDが発売されることになりました。これまで5枚のバレエレッスンCDをリリースしていますが、今回はレッスン用CDではなく、鑑賞用のピアノソロアルバムです。タイトルはリサイタルの題名と同じく、『Brilliance of Ballet Music ~バレエ音楽の輝き』です。楽曲はもちろんバレエ音楽。いままでの5枚のCDにはボーナストラックとして私の愛するバレエ曲をノーカットで収録してきましたが、それらと共に未収録曲も6曲収録しました。『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』よりアダージオ、『ジュエルズ』より「ダイヤモンド」のパ・ド・ドゥ、ショパンの前奏曲「雨だれ」、『くるみ割り人形』第1幕の「松林の踊り」、そして第2幕「葦笛の踊り」と「花のワルツ」です。

リサイタル企画も同じ気持ちから生まれているのですが、バレエ音楽がジャンルの垣根を超えて、すべての音楽ファン、芸術ファンに届きますよう、愛されますよう、と願って作りました。

できたてほやほやのCDジャケットデザインはこちら

なお、CDはリサイタル会場で先行販売いたします。会場特別割引もあるので、リサイタルの記念にお持ち帰りいただけると嬉しいです。7月中旬からオンラインでも配信されますので、どうぞお楽しみに!

次回、この音楽日記を書く頃にはリサイタルは終わっているのですね……。日本でみなさまにお会いすることを心待ちにしながら、真摯に、楽しみながら音楽と向き合っていきたいと思います。
(チケットはこちらからお求めいただけます)

それではみなさま、会場でお会いしましょう!

今月の1曲

ピアノリサイタル、そして新しくリリースされるCDのプロモーションムービーをつくりました。『くるみ割り人形』、『椿姫』(ショパン、バラード1番)、『マノン』と、ごく一部ではありますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

★次回更新は2023年8月20日(日)の予定です

【NEWS!】

ウィーン国立歌劇場・バレエ団専属ピアニスト、滝澤志野さんのピアノリサイタル開催決定!

♪大阪:2023年7月14日(金)19時〜 フェニーチェ堺 小ホール
♪東京:2023年7月21日(金)19時〜 銀座 王子ホール

詳細はこちら
チケット申し込みはこちら

Now on Sale

Dear Chopin(ディア・ショパン)〜Music for Ballet Class

滝澤志野さんの5枚目となる新譜レッスンCDがリリースされました!
志野さんがこよなく愛する「ピアノの詩人」ショパンのピアノ曲で全曲を綴った一枚。
誰もがよく知るショパンの名曲や、『レ・シルフィード』『椿姫』などバレエ作品に用いられている曲等々を、すべて志野さんの選曲により収録しています。
それぞれのエクササイズに適したテンポ感や曲の長さ、正しい動きを引き出すアレンジなど、レッスンでの使いやすさを徹底重視しながら、原曲の美しさを決して損なわない繊細な演奏。
滝澤志野さんのピアノで踊る格別な心地よさを、ぜひご体感ください。

ドキュメンタリー風のトレイラー全収録曲リストなど、詳細はこちらのページでぜひご覧ください
♪ご購入はこちら

●CD、52曲、78分 ●価格:3,960円(税込)

?

Dear Tchaikovsky(ディア・チャイコフスキー)〜Music for Ballet Class

バレエで最も重要な作曲家、チャイコフスキーの美しき名曲ばかりを集めてクラス用にアレンジ。
バレエ音楽はもちろん、オペラ、管弦楽、ピアノ小品etc….
心揺さぶられるメロディで踊る、幸福な時間(ひととき)を。

●ピアノ演奏:滝澤志野
●監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:3,960円(税込)

★収録曲など詳細はこちらをご覧ください

ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス1&2&3 滝澤志野  Dramatic Music for Ballet Class Shino Takizawa (CD)
バレエショップを中心にベストセラーとなっている、滝澤志野さんのレッスンCD。Vol.1では「椿姫」「オネーギン」「ロミオとジュリエット」「マノン」「マイヤリング」など、ドラマティック・バレエ作品の曲を中心にアレンジ。Vol.2には「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「オネーギン」「シルヴィア」「アザー・ダンス」などを収録。Vol.3ではおなじみのバレエ曲のほか「ミー&マイガール」や「シカゴ」といったミュージカルナンバーや「リベルタンゴ」など、ウィーンのダンサーたちのお気に入りの曲をセレクト。ピアノの生演奏でレッスンしているかのような臨場感あふれるサウンドにこだわった、初・中級からプロフェッショナル・レベルまで使用可能なレッスン曲集です。
●ピアノ演奏:滝澤志野
●Vol.2、Vol.3監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:各3,960円(税込)

配信販売中!

現在発売されている滝澤志野さんのベストセラー・CDを配信版でもお買い求めいただけます。
下記の各リンクからどうぞ。

★作曲家シリーズ
♪Dear Tchaikovsky https://linkco.re/pEHd0G2A?lang=ja

★「Dramatic Music for Ballet Class」シリーズ

★滝澤志野さんのアーティスト情報ページはこちら

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

大阪府出身。桐朋学園大学短期大学部ピアノ専攻卒業、同学部専攻科修了。2004年より新国立劇場バレエ団のピアニスト。2011年よりウィーン国立バレエ専属ピアニストに就任。 レッスンCD「Dramatic Music for Ballet Class」Vol.1、2、3、「Dear Tchaikovsky~Music for Ballet Class」、「Dear Chopin〜Music for Ballet Class」をリリース(共に新書館)。国内のバレエショップを中心にベストセラーとなっている。2023年7月大阪・東京で初のピアノソロリサイタルを開催。初のピアノソロアルバム「Brilliance of Ballet Music~バレエ音楽の輝き」も同時発売。

もっとみる

NEWS

NEWS

最新記事一覧へ