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【インタビュー】初のソロリサイタルを開催! 滝澤志野(ウィーン国立歌劇場・バレエ団専属ピアニスト)〜私の演奏には、バレエが豊かに息づいています

阿部さや子 Sayako ABE


2023年7月14日(金)大阪・堺、21日(金)東京・銀座で、初のソロ・ピアノリサイタル滝澤志野ピアノリサイタル~バレエ音楽の輝きを開催するピアニストの滝澤志野さん。ウィーン国立歌劇場・バレエ団専属ピアニストとして奏でてきた珠玉のバレエ音楽を、日本の花束のように集めて演奏するコンサートです。

今回の企画に込めた思い、バレエの現場で弾くこととの違い、そして志野さんが表現したい「音楽」とはーー。
ソロリサイタルという新たな一歩を踏み出そうとする滝澤志野さんに、お話を伺いました。

いよいよ初のソロピアノリサイタルが本番を迎えますね! 今回のコンサートにかける思いを聞かせてください。
日本では「バレエの客層」と「音楽の客層」が分かれているとよく言われます。確かに、例えば「純粋に音楽を聴きたい」というクラシック音楽ファンにとって、バレエは少し遠い存在なのかもしれません。けれどもウィーン国立歌劇場にいると、オペラもバレエも演奏するのはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーだということも相まって、「音楽を楽しむためにバレエ公演を観る」という観客も大勢いるんですよ。今回のコンサートが、音楽ファンの方に「バレエ音楽ってこんなに美しいんだ」と思っていただけるきっかけになればすごく嬉しいし、バレエファンの方にとっては、これまでに観てきた舞台の大切な記憶を呼び覚ますひとときになれたら。珠玉のバレエ音楽に包まれた空間で、バレエファンと音楽ファンが交わるようなコンサートになったら素敵だなと思っています。
プログラムはどれも志野さんがウィーン国立歌劇場のバレエ団で弾いてきた楽曲とのことですが、バレエの現場で弾くのと、リサイタルのために弾くのとでは、何か違いがありますか?
ええ、違います。バレエと一緒に弾く時、私の中の主体は「音楽」よりも「バレエ」です。どんな名曲を演奏していても、「ダンサーが踊りやすいテンポかどうか」「ダンサーの呼吸に合わせて弾き始めなくては」など、考えているのはいつもダンサーのこと。とくに稽古場で弾いている時は、鍵盤も楽譜もほとんど見ていなくて、目線はいつもダンサーたちに向けています。でも、今回のリサイタルでは純粋に「音楽」。それはとても大きな違いです。
なるほど。
ただ、それでも自分の演奏には、やはりバレエが豊かに息づいているのを感じます。バレエに合わせて弾いてはいないけれど、バレエと共に弾いているというか。とくに『くるみ割り人形』などはもう何百回と稽古場で弾いてきたわけですから、もはや踊りと切り離すことはできません。ちょっと矛盾するようですが、今回はあくまでも音楽を主役にしながら、バレエを踊りたくなるような弾き方でもある。そういうコンサートになると思います。
それこそがバレエの稽古場や舞台で弾き続けてきたピアニスト、滝澤志野さんならではの音色だということですね。音楽家にとって「ソロリサイタル」を開くというのは、特別なことですか?
もちろんです。自分が今まで対峙してきた音楽の集大成……もしかしたらここまで生きてきた人生の集大成とも言えるのかもしれません。自分が大事にしてきた音楽や価値観を表現するものだと思います。

プログラム構成についても教えてください。バレエを彩る数々の名曲のなかで、初のソロリサイタルにこれらの楽曲を選んだ理由とは?
今回のプログラムは3つの柱で構成しています。1つ目は「バレエのために書かれたバレエ音楽」。チャイコフスキーの『眠れる森の美女』と『くるみ割り人形』、そしてプロコフィエフの『ロミオとジュリエット』です。2つ目は「ピアノ曲に振付けられた素晴らしいバレエ作品」。このカテゴリーには、ノイマイヤー振付『椿姫』とロビンズ振付『アザー・ダンス』『コンサート』に使われている、ショパンの3曲を選びました。そして3つ目は、「オーケストラの曲を用いて作られたバレエ作品」。これも選択肢が多くて悩みましたけれど、今回はマスネの楽曲を用いてマクミランが振付けた『マノン』から、2つのパ・ド・ドゥを弾くことにしました。「バレエ音楽」とひと口に言っても、こんな風にいろいろな種類の音楽が用いられているということ。それを簡単なトークも挟みながらご紹介したいなと思っています。
志野さんが最初に「これは絶対に弾こう」と決めたのはどの曲ですか?
『くるみ割り人形』です。私がウィーン国立歌劇場に来てからいちばん長く、たくさん弾いてきたのがこの作品で、リハーサルも通し稽古もすべて担当し、本番も全公演、オーケストラピットに入ってチェレスタを弾いてきました。そしてチャイコフスキーが『くるみ』なら、プロコフィエフは『ロミオとジュリエット』か、それとも『シンデレラ』か……。悩みましたけれど、『くるみ』と同じくファンタジーの『シンデレラ』よりも、ドラマティックな『ロミオとジュリエット』を選びました。
他にも選曲でこだわったことはありますか?
お客様がまるでバレエを観ているような気分になれるように、ちょっとした仕掛けをしています。まずオープニングの曲は『眠れる森の美女』よりリラの精のテーマ。リラの精がみなさまをバレエの世界へご案内します。そして第1部……いえ「第1幕」の最後には『ロミオとジュリエット』を。「バルコニーのパ・ド・ドゥ」で第1幕を終えて、休憩時間に入るという流れにしています。つまり、まさにバレエと一緒です。
バレエファンの心をわかっていらっしゃる……。
お客様には、きっとそれぞれ心に残っているバルコニー・シーンの思い出があるのではないでしょうか。「ああ、あの時の舞台は……」って、ご自身の思い出を重ねながら演奏を聴いていただけたら嬉しいです。
その意味では、リサイタルの「第2幕」で演奏される『マノン』(マクミラン振付)より「寝室のパ・ド・ドゥ」と「沼地のパ・ド・ドゥ」にも、同じく舞台の思い出を重ねながら志野さんの音色を味わう人がたくさんいそうですね。
そうなれば本当にいいですね。マスネはオペラ『マノン』を書いた作曲家ですが、バレエの『マノン』はマスネの音楽を用いているのに、オペラの曲はいっさい使っていないのがおもしろいところです。「寝室のパ・ド・ドゥ」の原曲はオペラ『サンドリヨン(シンデレラ)』と歌曲「その青い瞳をあけて」、「沼地のパ・ド・ドゥ」は宗教劇『聖母』のアリア。バレエファンにとっても音楽ファンにとっても、「そんな曲がバレエに使われているのか」と意外に感じていただける作品でもあると思います。

©︎Marian Furnica

そして即興演奏をはさんで、最後が『くるみ割り人形』とくるわけですね。
はい、最後にようやく、いかにもバレエらしい夢の世界にみなさまをお連れします(笑)。以前、ある音楽祭で「あなたのいちばん好きなチャイコフスキーの曲は何?」というアンケートをとったところ、第1位が『くるみ割り人形』の花のワルツだったそうです。『くるみ』というのはそのくらい、バレエの枠を超えて人々に愛されている曲なんですね。ならばバレエ音楽の代表という意味でも、今回のプログラムに入れなくてはと思いました。
『くるみ割り人形』からは、花のワルツを含めて4曲演奏しますね。
1曲目は、第1幕でクララと王子が初めて手を取って踊る素敵なアダージオ「松林の踊り」。クララの夢の旅の始まりであるこの曲からスタートして、第2幕「葦笛の踊り」「花のワルツ」「金平糖と王子のグラン・パ・ド・ドゥ」よりアダージオの3曲をお届けします。これらは全幕バレエでも続けて演奏される3曲で、私は稽古場でもオーケストラピットでも、クライマックスのグラン・パ・ド・ドゥに向かって昇っていく音楽的高揚に、いつも感動しながら身を浸してきました。グラン・パ・ド・ドゥですから、本来はこのあとに男性ソロ、女性ソロ、そしてコーダと続きますが、今回はアダージオで終わりにします。祝祭的でどこか切なく、「どうかこの時間が終わらないでほしい」と感じさせてくれるこの名曲で、キラキラしたバレエ音楽の思い出を持ち帰っていただけたらと思っています。
本当に思いのこもったプログラム構成なのですね。
構成を考えていたら、私はふと、バレエのガラ公演のプログラムを組んでいるような気分になりました。思い出したのは、やはりルグリ監督のこと。彼がプロデュースしたガラは、プログラムを構成するセンスが本当に素敵でしたから。今回選曲していて迷った時は、いつも「ルグリ監督だったらどうするかな?」と想像していました。

©︎Marian Furnica

「ソロリサイタルを開きたい」と最初に志野さんから連絡があった時、「バレエピアニストとしてではなく、ひとりのピアニストとして、そこに立ちたい」と話してくれたことが心に残っています。今回のプログラムの中で、純粋にピアニストとしての技量が問われる難曲はありますか?
『椿姫』(ノイマイヤー振付)より「黒のパ・ド・ドゥ」です。ショパンのバラード第1番。やはりピアノのために書かれた曲ですから、ピアノならではの華麗なテクニックがふんだんに散りばめられています。これはピアニストのすべてが表れてしまう曲であり、自分というピアニストのすべてを表現できる曲でもある。だからこそ今回のリサイタルで、ぜひ演奏したいと思いました。
バレエファン的には、『椿姫』も『アザー・ダンス』もやはり『ロミオとジュリエット』や『マノン』等と同様に、これまで観てきた素晴らしいダンサーたちの名演を噛みしめながら聴くことになりそうです。
そうですよね。バレエファンのお客様にはぜひ、演奏を聴きながら心の中で「ひとり世界バレエフェスティバル」をしていただけたら嬉しいです(笑)。
ぜひやりたいと思います!(笑)そしてもうひとつ嬉しいのが、プログラムの後半に、「ピアニスト滝澤志野」のもうひとつの持ち味である「即興演奏」も入っていることです。
即興演奏は、バレエにおいて大事な要素のひとつ。毎日のクラスレッスンで、ピアニストは教師がその場で出すアンシェヌマンを見て、ふさわしい曲を即興的に弾いています。そしてピアニストがその場で生み出した音楽を全身で受け止めて、ダンサーたちは踊ります。ですからリサイタルにはぜひ「即興演奏」も入れたかった。過去も未来も関係なく、いまこの瞬間だけを切り取る音楽を、コンサートに来てくださったみなさんと共有したいと思っています。
前もって作曲しておくのではなく、本当にその瞬間に、その場で感じるままに演奏するのですか?
はい、まったくのノープランでいこうと思っています。ピアニストとは既成曲を弾くプロフェッショナルのことだと思われがちですが、それだけではないと私自身は思っていて。例えばバレエの世界だって、プティパの作り上げた完璧な作品がそこにあろうと、どうにかして自分自身の表現を見つけたいと思うアーティストたちがコンテンポラリー・ダンスなどを生み出していますよね。それと同じように、私もいまこの2023年に生きている自分にとっての音楽、自分の言葉で語る音楽を表現したくて。そしてその音楽は、いまここで生まれて、消えていく。そういう音楽を、リサイタルのその日に、みなさまと共有したいと思っています。

ウィーン国立歌劇場にて ©️Taisuke Yoshida

公演情報

滝澤志野ピアノリサイタル~バレエ音楽の輝き~
Shino Takizawa Piano Recital – The Brilliance of Ballet Music –

公演日程・会場

大阪 ※残席僅少
2023年7月14日(金)19時開演(開場:18時30分)
フェニーチェ堺(堺市民芸術文化ホール)小ホール
大阪府堺市堺区翁橋町2-1-1[南海高野線 堺東駅より徒歩8分]

東京 ※完売
2023年7月21日(金)19時開演(開場:18時30分)
銀座 王子ホール
東京都中央区銀座4-7-5[地下鉄 銀座駅A12出口より徒歩1分]

★チケットの購入はこちら
※フェニーチェ堺公演は2023年7月14日(金)15時まで
※銀座王子ホール公演は予定枚数終了

各公演、当日券の有無は下記バレエチャンネル公式Twitter&Instagramでお知らせします
バレエチャンネル公式Twitterはこちら
バレエチャンネル公式Instagramはこちら

プログラム

●チャイコフスキー
『眠れる森の美女』よりプロローグ リラの精のテーマ

●ショパン
マズルカ第13番『アザー・ダンス』(ロビンズ振付)より
ワルツ第14番 遺作『コンサート』(ロビンズ振付)より
バラード第1番『椿姫』(ノイマイヤー振付)より 黒のパ・ド・ドゥ

●プロコフィエフ
『ロミオとジュリエット』より
序曲
第1幕 朝の情景
少女ジュリエット
仮面
バルコニーのパ・ド・ドゥ
(バルコニーの情景〜ロミオのヴァリエーション〜愛の踊り)

●マスネ
『マノン』(マクミラン振付)より
第1幕 寝室のパ・ド・ドゥ
第3幕 沼地のパ・ド・ドゥ

●即興演奏

●チャイコフスキー
『くるみ割り人形』より
第1幕 情景「松林の踊り」
第2幕 葦笛の踊り
花のワルツ
グラン・パ・ド・ドゥよりアダージオ
※曲目は一部変更となる場合がございます

\NEWS 1/

大阪・フェニーチェ堺公演、東京・銀座王子ホール公演とも、コンサート終了後に滝澤志野さんのサイン会を行います!
各公演当日、会場ホワイエにて先行販売する志野さんの新譜CD「Brilliance of Ballet Music」(下記【NEWS 2】参照)をご購入の方が対象です。
ぜひご参加ください!

\NEWS 2/

滝澤志野による、珠玉の作品を1枚に収めたピアノソロアルバム
会場にて先行・限定価格で発売します!

Brilliance of Ballet Music~バレエ音楽の輝き

<収録曲>
1.『眠れる森の美女』第3幕 グラン・パ・ド・ドゥよりアダージオ(チャイコフスキー)
2.『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』よりアダージオ(チャイコフスキー)
3.『ジュエルズ』ダイヤモンドよりアンダンテ/交響曲第3番第3楽章(チャイコフスキー)
4.『瀕死の白鳥』/「動物の謝肉祭」第13番「白鳥」(サン=サーンス)
5.『マノン』第3幕 沼地のパ・ド・ドゥ/宗教劇「聖母」より(マスネ)
6.『椿姫』第2幕/前奏曲第15番「雨だれ」変ニ長調(ショパン)
7.『椿姫』第3幕 黒のパ・ド・ドゥ/バラード第1番 ト短調(ショパン)
8.『ロミオとジュリエット』第1幕 バルコニーのパ・ド・ドゥ(プロコフィエフ)
9.『くるみ割り人形』第1幕 情景「松林の踊り」(チャイコフスキー)
10.『くるみ割り人形』第2幕 葦笛の踊り(チャイコフスキー)
11.『くるみ割り人形』第2幕 花のワルツ(チャイコフスキー)
12.『くるみ割り人形』第2幕 グラン・パ・ド・ドゥよりアダージオ(チャイコフスキー)

●演奏:滝澤志野
●発売元:株式会社 新書館
●一般販売価格:3,300円(税込)/会場限定価格:3,000円(税込)

お問い合わせ

株式会社 新書館<滝澤志野ピアノリサイタル事務局>
Tel:090-5948-7079(平日のみ 10:00〜17:00)
Email:info@balletchannel.jp

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