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【第47回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!ープロムナード(3)

海野 敏

文/海野 敏(舞踊評論家)

第47回 プロムナード(3)

■『ラ・バヤデール』のプロムナード

男性がサポートし、女性が軸脚をポワント(つま先立ち)にしてゆっくり回転するプロムナードの実例を、前々回(第45回)は『眠りの森の美女』と『ライモンダ』から、前回(第46回)は『白鳥の湖』と『ドン・キホーテ』から紹介しました。今回は、まず『ラ・バヤデール』から紹介します。

『ラ・バヤデール』第3幕、「影の王国」には、女性が脚を高く上げたまま回るプロムナードが登場します。毒殺されたニキヤがソロルと踊るアダージオの序盤、ニキヤは客席へ背中を向けてソロルと右手をつないだまま、グラン・ジュテ(第9回)で横へジャンプした後、ポワントになって右脚をデヴェロッペ・エカルテ・ドゥヴァンで高く伸ばします(ルルヴェ・エカルテ・ドゥヴァン)。そして右脚のつま先を肩より高く伸ばしたポーズのまま、ソロルのサポートでゆっくりアン・ドゥオール(右回り)に1回転し、さらに1回転ピルエットしてからアラベスクのポーズになります。

この「グラン・ジュテ→ルルヴェ・エカルテ・ドゥヴァンのプロムナード→ピルエット→アラベスク」というシークエンスは、すぐにもう一度繰り返されます。「影の王国」の神秘的な雰囲気の中、情感を込めて歌うようなヴァイオリンのソロに合わせた回転が印象に残ります。

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パリ・オペラ座バレエ『ラ・バヤデール』より、第3幕のニキヤとソロルのパ・ド・ドゥのリハーサル映像です。アマンディーヌ・アルビッソンがニキヤを、ユーゴ・マルシャンがソロルを演じています。一連のシークエンスは12分40秒から。

『ラ・バヤデール』第2幕、ガムザッティとソロルの婚約式にもサポート付きプロムナードが登場します。まずアダージオの冒頭、ガムザッティはソロルと右手をつなぎ、ピケ・アラベスクのプロムナードで1回転します(アン・ドゥダン)。また、アダージオの中盤では、ソロルがニキヤのことを思い出したかのようにガムザッティから離れて上手に立った後、ガムザッティがソロルへ近づいてサポートを求め、プロムナードで回転する場面があります(注1)

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ミラノ・スカラ座バレエ『ラ・バヤデール』より、第2幕のガムザッティとソロルの婚約式の場面です。ガムザッティをマリア・セレステ・ローザ、ソロルをティモフェイ・アンドリヤシェンコが演じています。冒頭からピケ・アラベスクのプロムナードを、1分16秒から一連のプロムナードを見ることができます。

その他の古典全幕作品のプロムナード

『ジゼル』第2幕、ジゼルとアルブレヒトのアダージオにもプロムナードが入ります。アダージオの冒頭では、アルブレヒトは墓標の十字架のところに立ち、ジゼルが1人で踊り始めるのを離れて見ているのですが、そのときジゼルは、男性のサポートなしでアティテュードのプロムナード・アン・ドゥオールを披露します。軸脚の踵の位置を少しずつずらしてゆっくり回るテクニックです(第45回)。

まもなくアルブレヒトは十字架から離れ、ジゼルに近づいて一緒に踊り始めます。ジゼルはアルブレヒトに両手で腰をサポートされ、ピケ・アラベスク・パンシェのプロムナードで1回転します(アン・ドゥダン)(注2)。その後、2人はウィリたちに一旦引き離されますが、すぐに近寄って踊り始め、やがてピケ・アラベスク・パンシェのプロムナードで回転します(アン・ドゥオール)。

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パリ・オペラ座バレエ『ジゼル』より第2幕の映像です。アマンディーヌ・アルビッソンがジゼルを、ステファン・ビュリオンがアルブレヒトを演じています。サポートなしのプロムナードは11秒から、最後のピケ・アラベスク・パンシェのプロムナードは2分15秒から見ることができます。

『パキータ』第2幕の「グラン・パ」でも、主役のパキータとリュシアンのアダージオにプロムナードが登場します。アダージオの中盤、ハイ・リフトの見せ場の後、曲調が変化してしばらくすると、パキータは腰をサポートされ、ピケ・アラベスク(またはピケ・アラベスク・パンシェ)のプロムナード・アン・ドゥオールで2回転し、そのまま片脚をデヴェロッペ・エカルテ・ドゥヴァンで高く上げます。このシークエンスは2回入ります。『パキータ』のプロムナードは、今回紹介した『ラ・バヤデール』、『ジゼル』と比べると、かなり早いテンポの勢いのある回転です。

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ワガノワ・バレエ・アカデミーの記念公演『パキータ』より、第2幕の映像です。パキータをエレオノーラ・セヴェナルド、リュシアンをデニス・ロヂキンが演じています。一連のシークエンスは11分30秒から。

『眠れる森の美女』のプロムナードは、第45回にオーロラ姫のプロムナードを紹介しましたが、第3幕の「青い鳥のパ・ド・ドゥ」にもプロムナードがたくさん入ります。私が確認した範囲では、フロリナ王女と青い鳥のアダージオ1曲で披露されるプロムナードは、4回から6回でした。

まず前半、男性が女性の横に立ち、女性は左手を男性の右肩に置き、右手と右手をつないで、ピケ・アティテュード(またはアラベスク)のプロムナード・アン・ドゥオールで1回転します。次は、男性と女性が対面し、右手と左手、左手と右手をつないで、ピケ・エカルテ・ドゥヴァンのプロムナード・アン・ドゥオールで1回転します。後半には、男性が背後から女性の腰をサポートして、ピケ・アラベスク・パンシェで1回転半するプロムナード・アン・ドゥオールが2回繰り返されます。

フロリナ王女と青い鳥のアダージオの2回目のプロムナードで、対面して両手をつなぐサポートは少し珍しいと思います。また、このプロムナードの後に、もう一度ピケ・エカルテ・ドゥヴァンのプロムナードが入ることもあります(注3)

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ミラノ・スカラ座バレエ『眠れる森の美女』より第3幕の「青い鳥のパ・ド・ドゥ」です。フロリナ王女をヴィットリア・ヴァレリオ、青い鳥をクラウディオ・コヴィエッロが演じています。それぞれ前半のプロムナードは42秒から、続いて両手をつないだプロムナードは1分から、後半のピケ・アラベスク・パンシェは1分47秒から。

■『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』のプロムナード

最後に、20世紀の古典作品であるジョージ・バランシン振付の『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』(1960年初演)から、変わったアクセントの付いたプロムナードを紹介しましょう。『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』は、男女がテクニックを駆使して踊るグラン・パ・ド・ドゥ形式の華やかな作品で、ガラ公演ではお馴染みの演目です。

アダージオの中盤、男性が背後から女性と両手をつないでサポートし、女性はアラベスクのプロムナード・アン・ドゥダンに1回転するのですが、バランシンの振付では、回る途中で音楽に合わせ、女性が軸脚の踵を一瞬床に下ろしてポワントへ戻る動作が加わえられているのです。踵を床に下ろすタイミングは、半回転した時と1回転終えた時で、回転に上下動が重なった面白い動きになっています。このアクセント付きのプロムナードは、すぐにもう一度繰り返されます。

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英国ロイヤル・バレエ『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』より、マリアネラ・ヌニェスワディム・ムンタギロフのリハーサル映像です。1分37秒から特徴的なプロムナードを見ることができます。

(注1)このプロムナードでの女性のポーズは、ピケ・アラベスクまたはピケ・エカルテ・ドゥヴァンです。

(注2)ただし、この前半のプロムナードが入らない場合も少なくありません。

(注3)さらに英国ロイヤル・バレエのバージョンでは、最初のピケ・アティテュードのプロムナードの前に、ピケ・ルティレのポーズでのプロムナードが入り、合計で6回のプロムナードが入ります。また、英国ロイヤル・バレエの4回目のプロムナードでは、女性が細かいバッチュ(動脚の膝を軽く曲げて足首付近を打つ動き)をしながら回ります。

(発行日:2023年6月25日)

次回は…

第48回は「サポート付きパンシェ」を予定しています。発行予定日は2023年7月25日です。

【鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!-総目次】
http://bibliognost.net/umino/ballet_tech_contents.html

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うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。早稲田大学、立教大学でも講師を務める。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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