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【第44回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!ーサポート付き回転(3)

海野 敏

文/海野 敏(舞踊評論家)

第44回 サポート付き回転(3)

■サポート付きの回転のメリット

サポート付き回転は、ピルエット以外にもさまざまなパターンがあります。今回はそれらを紹介しますが、その前に改めて、バレエのパ・ド・ドゥで男性が女性の回転をサポートする理由は何でしょうか。それは、サポートによってソロでは不可能な姿勢や動きが実現できるからです。これは回転に限らず、すべてのサポートに共通するメリットです。言い換えれば、ソロでは不可能な美しい姿勢、魅力的な動きを作り出すことがサポートの目的です。

回転の場合、まず思いつくのは、サポートによって回転の速度を上げたり、回数を増やしたりすることでしょう。たしかに前回(第42回第43回)までにご紹介したサポート付きピルエットでは、ソロのピルエットよりも速く、多く回れるようになります。しかし、バレエ鑑賞で知っておいてほしいのは、サポート付き回転の最大のメリットは、回転する前後のポーズが多様になることだという点です。とりわけ、サポート付き回転の鑑賞ポイントは、回転後のポーズの美しさと魅力にあると言ってもよいでしょう。

一つだけ例を挙げましょう。前回(第43回)、『眠れる森の美女』第1幕の「ローズ・アダージオ」で、オーロラ姫が4人の王子から順番にバラの花を受け取る名場面を紹介しました。この場面で、オーロラ姫がサポート付きピルエットで回転するたびに、安定したポーズでバラを高く掲げることができるのは、王子たちのサポートがあってこそです。

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ミラノ・スカラ座バレエ『眠れる森の美女』より、第1幕のローズ・アダージオの映像です。バラを高々と掲げながらの華やかなサポート付きピルエットは3分23秒から。オーロラ姫を当たり役とするポリーナ・セミオノワの演技でお楽しみください。

■スートゥニュ・アン・トゥールナンのサポート

さて、この「ローズ・アダージオ」の冒頭は、オーロラ姫が4人の王子に順番にサポートされて、「スートゥニュ・アン・トゥールナン」(soutenu en tournant)で回転する振付で始まります。スートゥニュとは、両脚を伸ばして引き寄せ、5番ポジションのポワントで真っ直ぐに立つ動作で、その動きに回転を加えたのがスートゥニュ・アン・トゥールナンです。これまで本連載ではスートゥニュを扱っていませんでしたが(注1)、大変基本的なバレエのステップで、作品中に頻出します。

オーロラ姫は、右手を王子の右手とつなぎ、その手を頭上に上げてスートゥニュ・アン・トゥールナンで回転した後、右脚をデヴェロッペ(第26回)で、斜め前へ頭上高く伸ばします。そこで王子が手を離し、オーロラ姫は一瞬静止してから右脚を下ろします。この「スートゥニュ・アン・トゥールナン→デヴェロッペ・エカルテ・ドゥヴァン」を、4人の王子それぞれを相手に4回繰り返します。アダージオの冒頭でオーロラ姫が微笑みながら涼し気に高く脚を上げるポーズからは、16歳の主人公のはちきれんばかりの若さが伝わります。そしてこのポーズも、王子たちのサポートがあって初めて可能なものです。

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ミラノ・スカラ座バレエ『眠れる森の美女』より、第1幕のローズ・アダージオ。映像の冒頭から、一連の振付を観ることができます。

■ピケ・トゥールのサポート

全幕バレエのパ・ド・ドゥでは、男性が女性のピケ・トゥール第6回)をサポートする振付もよく見られます。私がとりわけ印象的だと思っているのは、オディール(黒鳥)のパ・ド・ドゥです。

『白鳥の湖』第3幕、オディールと王子のグラン・パ・ド・ドゥのアダージオでは、楽曲が序盤から中盤へ曲調とテンポが切り替わる直前に、王子がオディールのピケ・トゥールをサポートします。王子から少し離れたところにいるオディールが、ソロでピケ・トゥール・アン・ドゥダンを5、6回繰り返して王子へ近づいてゆき、最後のピケ・トゥールを王子がサポートして連続2~4回転した後に、オディールがポーズをして止まります。ポーズをした瞬間、オーケストラが「ジャン」と序盤のパートを締めくくります。王子を籠絡するために、オディールが彼へぐいぐい迫ってゆく様子が分かりやすく描写されているシークエンスです。

この「ジャン」のときの“決めポーズ”は、オディールがポアントのアティテュード・デリエールで上半身は思い切り後ろに反らしたポーズを、王子が対面して腰を支える振付が多いです。ほかにも、オディールがポワントのアラベスク・パンシェで頭を思い切り低くしたポーズを、王子が後ろから腰を支える振付もあります。いずれの場合も、オディールだけでなく王子もしっかりとポーズを作る場面であり、2人の身体で作る造形美が鑑賞のポイントになります。

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ウクライナ国立バレエ『白鳥の湖』の全幕映像より、第3幕。アンナ・ムロムツェワ演じるオディールと、ニキータ・スハルコフ演じるジークフリート王子のグラン・パ・ド・ドゥです。1時間27分45秒から一連のシークエンスを観ることができます。

なお、サポート付きピケ・トゥールは、『白鳥の湖』第2幕のオデットと王子のパ・ド・ドゥにも、『眠れる森の美女』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥにも出現します。お手持ちの映像や舞台で探してみて下さい(注2)

■ピルエット・ア・ラ・スゴンドのサポート

「ピルエット・ア・ラ・スゴンド」(pirouette à la seconde)とは、動脚を身体の真横に水平(または水平近く)に伸ばしたままで回転する動きです(第4回)。『ドン・キホーテ』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥは華やかな祝宴の踊りですが、そのアダージオ中盤に、優雅さを感じさせるサポート付きピルエット・ア・ラ・スゴンドが登場します。

アダージオの楽曲がゆっくりしたテンポに変わってしばらくして、キトリが4番ポジションからピルエット・ア・ラ・スゴンド・アン・ドゥダンで回ります。すると1回転半(または2回転半)したタイミングで、バジルがキトリにさっと近づいて腰をサポートし、回り切ってシンバルが「ジャーン」と鳴る瞬間に、キトリはポアントでアラベスク・パンシェのポーズとなり、さらに半回転してアティテュード・デリエールのポーズになります(注3)。そして、このシークエンスをもう1度繰り返します。シークエンスを締めくくる2回のポーズは、男女のポーズをバランスよく組み合わせたバレエらしい美しさです。

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英国ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』第3幕より、マリアネラ・ヌニェス演じるキトリとワディム・ムンタギロフ演じるバジルのグラン・パ・ド・ドゥです。息がぴったりと合った一連のシークエンスは2分40秒から。映像では1回目にエカルテ・ドゥヴァン、2回目にルティレのポーズになっています。

■アティテュード・アン・トゥールナンのサポート

「アティテュード・アン・トゥールナン」(attitude en tournant)とは、アティテュードのポーズを保って回転する動作です(注4)。上述の『ドン・キホーテ』第3幕、キトリとバジルのアダージオの最後には、印象的なサポート付きアティテュード・アン・トゥールナンが入ることがあります。

アダージオの最後、キトリとバジルが舞台中央で相対し、右手と右手、左手と左手をつないでキトリがポワントでアティテュードになります。するとバジルがはずみをつけるように、アティテュードのままのキトリを回転させます。キトリは、アティテュード・アン・トゥールナン・アン・ドゥダンで連続2回転(または3回転)してから膝を曲げて片膝を床に着けるポーズとなり(注5)、そのあと正面前へ移動してサポート付きピルエット・アン・ドゥオールの連続回転(第42回)でフィニッシュします。

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英国ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』第3幕よりグラン・パ・ド・ドゥ。5分3秒から、サポート付きアティテュード・アン・トゥールナンを観ることができます。

ただし、このアダージオのフィニッシュはバレエ団によって振付が異なります(注6)。両手をつないでアティテュード・アン・トゥールナンをサポートする振付は、英国ロイヤル・バレエ、アメリカン・バレエ・シアター、Kバレエカンパニーなどの『ドン・キホーテ』で見ることができます。

(注1)スートゥニュ・アン・トゥールナンは、第8回「イタリアン・フェッテとその他の回転技」で名前だけ紹介しました。

(注2)筆者が手元の映像を調べた限りでは、『白鳥の湖』第2幕のオデットと王子のパ・ド・ドゥでは、アダージオに複数回サポート付きピケ・トゥールが出現すると思います。いっぽう、『眠れる森の美女』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥでは、バレエ団によってはサポート付きピケ・トゥールが出現しない振付がありました。

(注3)2回目のポーズは、バレエ団によってバリエーションがあります。

(注4)アティテュード・アン・トゥールナンも、第8回「イタリアン・フェッテとその他の回転技」で名前だけ紹介しました。

(注5)回転後に軸足の踵を下ろし、デガジェ・ドゥヴァン・ア・テールのポーズになる振付もあります。

(注6)このアダージオのフィニッシュは、どのバレエ団でもたいがいサポート付きピルエット・アン・ドゥオールの連続回転ですが、その直前は、キトリがポワントのアラベスクで長めのバランスを取る振付も多く見られます。

(発行日:2023年3月25日)

次回は…

第45回は、サポート付きプロムナードを解説します。第42~44回で紹介したサポート付き回転よりもゆっくりと回る動きです。発行予定日は2023年4月25日です。

【鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!-総目次】
http://bibliognost.net/umino/ballet_tech_contents.html

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うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。早稲田大学、立教大学でも講師を務める。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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