文/海野 敏(舞踊評論家)
第45回 プロムナード(1)
■サポート付きプロムナード
「プロムナード」(promenade)とは、片脚を軸にして立つアラベスクやアティテュードのポーズを保ったまま、軸脚を床から離さずにゆっくりと回る動きです。フランス語で「散歩、散策」を意味する言葉です。
プロムナードは、軸脚の踵を床につけ、少しずつ踵の位置をずらして回転すれば、ソロでも可能です。いっぽう、軸脚をポワント(つま先立ち)にしてのプロムナードはソロでは不可能ですが、男性がサポートして女性がポワントで回るプロムナードは、古典全幕作品のアダージオでよく見られます。それが今回ご紹介する「サポート付きプロムナード」です。
「サポート付きプロムナード」もサポート付き回転の一種です。しかし、前回まで(第42・43・44回)とは回転のスピードが違います。前回までのサポート付き回転は1回転が1拍あるいは1秒未満で、クルッと回るテンポでした。しかし、サポート付きプロムナードは1回転に数拍あるいは数秒かかり、ぐるーりと回るテンポです。ゆっくりと回ることで、安定感、落ち着き、優雅さなどを表現するために用いられます。
男性がサポートする女性のプロムナードは、女性がどのようなポーズで回転するかと、男性がどのようにサポートするかで、さまざまなパターンがあります。女性のポーズは、上述の通りアラベスクとアティテュードが基本ですが、アラベスク・パンシェ(第27回)のポーズ、ルティレのポーズ、片脚を横(ア・ラ・スゴンド)へ上げたポーズなどもあります。男性のサポートは、片手を女性とつなぐ、両手を女性とつなぐ、女性の腰を両手で支える、男女が互いの肩に片手を置くなどのパターンがあります。さらに回転の方向は、外回り(アン・ドゥオール)と内回り(アン・ドゥダン)があります。
今回は、アラベスク、アティテュードのポーズで回る典型的なサポート付きプロムナードを、古典全幕作品の中からいくつか紹介します(注1)。
■『眠れる森の美女』のサポート付きプロムナード
筆者が最初に思いつくサポート付きプロムナードは、『眠れる森の美女』第1幕の「ローズ・アダージオ」終盤に登場します。16歳のオーロラ姫がフィアンセ候補の王子4人と踊る場面で、「王女が4人の男性それぞれを相手に同じ動き(またはよく似た動き)を4回反復する」というシークエンスが、冒頭から7回登場するアダージオです(注2)。その7回目の「4回反復」がサポート付きプロムナードです。
オーロラ姫は、王子たちから受け取った4本のバラの花を王と王妃のほうへ投げやった後、舞台中央に進み、1番目の王子が差し出した右手に自分の右手を重ね、軸脚をポワントにしてアティテュードになります。そして王子に支えられてアン・ドゥダンの向きにゆっくり1周すると、2番目の王子が右手を差し出し、オーロラ姫は軸脚の踵を下ろすことなくそのままのポーズで右手をつなぎ変え、またゆっくり1周します。3番目、4番目の王子とも同じように1周ずつ回り、最後に王女は右手を放し、ポワントのままバランスを保ってポーズをします。優れたダンサーは、回転の間も最後のポーズもぐらつくことなく、微笑みを絶やさずオーロラ姫の優雅さを表現します。
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- ミラノ・スカラ座バレエ『眠れる森の美女』より、第1幕のローズ・アダージオ。ポリーナ・セミオノワがオーロラ姫を演じています。一連の振付は5分10秒から。
『眠れる森の美女』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥでも、アダージオにサポート付きプロムナードが2回登場します。1回目はアダージオの前半で、デジレ王子が差し出した右手にオーロラ姫が右手を重ね、軸脚をポワントにしてアティテュードになり、ゆっくりと「1と4分の1」周します(注3)。2回目は終盤、オーロラ姫が左膝を折って床に座った後、王子が差し出した右手につかまってさっと立ち上がり、軸脚をポワントにしたアティテュードでゆっくりと2周します。いずれのプロムナードも回転方向はアン・ドゥダンです。
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- 英国ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』の第3幕より。マリアネラ・ヌニェス演じるオーロラ姫と、ワディム・ムンタギロフ演じるデジレ王子のグラン・パ・ド・ドゥです。映像の冒頭から、1回目のプロムナードを観ることができます。
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- 牧阿佐美バレヱ団『眠れる森の美女』のストーリーを紹介する映像です。オーロラ姫を中川郁、デジレ王子を菊地研が演じています。2回目のプロムナードは15分35秒から。
■『ライモンダ』のサポート付きプロムナード
『ライモンダ』第3幕は主人公ライモンダとジャン・ド・ブリエンヌの結婚式典で、主人公たちとソリストが7曲の踊りを披露する「グラン・パ・クラシック」と呼ばれる華麗なシーンが有名です(注4)。その中の「アントレ」に続く2曲目、主人公2人と8組のソリスト男女による「グラン・アダージオ」に、サポート付きプロムナードが登場します。
「グラン・アダージオ」の前半、男性による女性のショルダー・リフト(第36回)が何度か繰り返された後、ライモンダと8人の女性ソリストが男性に腰を支えられて、軸脚がポワントのアティテュード(またはアラベスク)で、アン・ドゥオールの方向に1周します。そして女性はアティテュードのまま、右手を腰に当て左手を横に開く(または頭上へ上げる)特徴的な構えでポーズします。このシークエンスをもう一度繰り返します。
『ライモンダ』のプロムナードは、『眠れる森の美女』のプロムナードと比べて速いテンポでぐるっと回ります。9人の女性が一斉に回る様子は壮観で、「グラン・パ・クラシック」の中でも印象に残る場面です。
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- 英国ロイヤル・バレエ『ライモンダ』より、第3幕の「グラン・アダージオ」。ライモンダをナタリア・オシポワ、ジャン・ド・ブリエンヌをワディム・ムンタギロフが演じています。58秒から一連のシークエンスを観ることができます。
(注1)アラベスクで回るプロムナードを「アラベスク・アン・プロムナード」(arabesque en promenade)、アティテュードで回るプロムナードを「アティテュード・アン・プロムナード」(attitude en promenade)と言います。
(注2)厳密に言うと、繰り返しをどう数えるかによって回数は変わります。またバレエ団や演出のヴァージョンによっても回数は微妙に違いますが、いずれも7回前後です。
(注3)1周していったん止まり、さらに4分の1周する振付もあります。
(注4)『ライモンダ』は全幕通しての上演が少なく、「グラン・パ・クラシック」のみで上演されることが多い演目です。
(発行日:2023年4月25日)
次回は…
第46回は「サポート付きプロムナード」の後編で、今回紹介できなかったパターンを紹介します。発行予定日は2023年5月25日です。
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