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【第42回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!ーサポート付き回転(1)

海野 敏

文/海野 敏(舞踊評論家)

第42回 サポート付き回転(1)

■男性がサポートする女性の回転

パ・ド・ドゥでは、男性ダンサーにサポートされた女性ダンサーの回転が頻出します。ソロでの回転にはさまざまなテクニックがありますが(第1~8回)、パ・ド・ドゥでも、さまざまなタイプの回転がサポート付きで演じられます。

試しに手元にある映像で、1つのアダージオにサポート付きの回転(トゥール)が何回出現するか、カウントしてみました。連続回転は1回と数えて、男性が女性の回転をサポートしているシークエンスの回数です(注1)

『ドン・キホーテ』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥのアダージオ(約5分)では、演出・振付によって差がありますが、8~11回でした。『白鳥の湖』第3幕、オディール(黒鳥)のグラン・パ・ド・ドゥのアダージオ(約6分)では、8~10回でした。『眠れる森の美女』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥのアダージオ(約5分)では、11~12回でした。主役のアダージオだけで、これだけ多くのサポート付き回転が出現しています。もちろん主役以外のパ・ド・ドゥでも出現しますから、全幕公演を通して見ますと、ずいぶん多くのサポート付き回転を鑑賞することになります。

まずはバレエ鑑賞で目に付きやすい基本的な回転として、サポート付きピルエットから紹介しましょう。サポート付きピルエットは、英語とフランス語の混合で「サポーテッド・ピルエット」と呼ばれることもあります。古典全幕作品のグラン・パ・ド・ドゥでは、アダージオで頻出する動きです。

ピルエットとは、厳密にいうと”両脚プリエで踏み切り、片脚で立って回る動き”のことです(第3回)。しかし実際のバレエの現場では、回転技の総称として〈ピルエット〉という言葉を用いるケースが非常に多く見られます。例えば〈フィンガー・ピルエット〉と一般的に呼ばれているテクニックも、女性の動きをよく見ると、厳密な意味でのピルエットではなく、フェッテ・アン・トゥールナンを行っている、という具合です。そのため、本稿でも便宜上、回転技の総称として〈ピルエット〉という用語を用いることにします。

■『ドン・キホーテ』第3幕のアダージオ

では、具体的な作品を見てみましょう。『ドン・キホーテ』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥのアダージオは、冒頭からリフトとサポート付きピルエットが繰り返されて華やかです。キトリとバジルが上手奥から登場すると、バジルはパ・ド・シャまたはアントルシャの動作をするキトリをリフトし(第39回)、リフトから下りるとすぐ、キトリがバジルに腰をサポートされてピルエット・アン・ドゥオール(注2)の連続回転をします。この「リフト+ピルエット」のシークエンスは、舞台を左右に移動しながら3回繰り返されるのが定番です(注3)。また、このサポート付きピルエットは、シングルのこともありますが、プロの公演では通常ダブルかトリプルです。

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英国ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』第3幕より、マリアネラ・ヌニェス演じるキトリとワディム・ムンタギロフ演じるバジルのグラン・パ・ド・ドゥ。ふわりとしたリフトのあとに優雅なピルエットが続き、とても華やかな印象です。

アダージオのフィニッシュもサポート付きピルエットです。終盤、ハイ・リフトからのフィッシュ・ダイブ(第37回)の後、キトリとバジルはセンターへ移動し、最後にキトリの4番(または5番)プリエのプレパレーションからのピルエット・アン・ドゥオールを、バジルが背後から支えます。3~5回の連続回転の後、2人が左右に少し離れてポーズを決めるのが定番のフィニッシュです。

★動画でチェック!★
英国ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』第3幕より。フィニッシュのサポート付きピルエットは5分14秒から。映像では、マリアネラ・ヌニェスが6回転を見せています。

■パ・ド・ドゥのフィニッシュに出現するピルエット

この『ドン・キホーテ』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥは、コーダのフィニッシュも、男性が腰をサポートする女性のピルエット・アン・ドゥオールの連続回転のことが多いです。また、『ドン・キホーテ』第1幕終盤、街の広場でのキトリとバジルのパ・ド・ドゥは、フィニッシュがフィッシュ・ダイブになる振付をよく見ますが、フィッシュ・ダイブの直前にサポート付きピルエットが入る場合があります。

★動画でチェック!★
牧阿佐美バレヱ団による『ドン・キホーテ』のストーリーを紹介する映像です。キトリを阿部裕恵、バジルを清瀧千晴が演じています。終盤の第3幕のグラン・パ・ド・ドゥのコーダでは、15分19秒からフィニッシュのピルエットを見ることができます。

このように、サポート付きピルエットは観客にアピールしやすい見栄えがするテクニックなので、さまざまな古典全幕作品で、グラン・パ・ド・ドゥのアダージオやコーダのフィニッシュを飾っています。

『ライモンダ』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥでは、アダージオの最後にサポート付きピルエットが入ります。一般的なフィニッシュのポーズは、主役の女性が男性の肩に乗るショルダー・リフトなのですが、その直前に、女性が男性に背後から腰をサポートされて、ピルエット・アン・ドゥオールで数回転します。

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マリインスキー・バレエ『ライモンダ』第3幕よりグラン・パ・ド・ドゥ。ライモンダをヴィクトリア・テリョーシキナ、ジャン・ド・ブリエンヌをザンダー・パリッシュが演じています。3分50秒から、フィニッシュ前のサポート付きピルエットを見ることができます。

『海賊』のグラン・パ・ド・ドゥは定番と言える振付がなく、バージョンによって違いが大きい踊りです。しかし、コーダでは、女性のグラン・フェッテ(第12回)、男性のグランド・ピルエット(第4回)、そしてフィニッシュ直前のサポート付きピルエットと、連続回転が連続するバージョンが多いと思います(注4)

★動画でチェック!★
『海賊』より、ヨランダ・コレア演じるメドゥーラとのオシール・グネーオ演じるアリのグラン・パ・ド・ドゥです。7分10秒からグラン・フェッテ、7分40秒からグランド・ピルエット、8分5秒からサポート付きピルエットを見ることができます。

(注1)順次解説しますが、男性がサポートしている回転には、「ピルエット」、「ピケ・トゥール」、「フェッテ・アン・トゥールナン」など、さまざまな種類が含まれます。今回はピルエット、ピケ・トゥール、フェッテ・アン・トゥールナンを区別せず、女性がルティレのポーズで回転する場面をすべて数えました。いっぽう、例えばピケ・アティテュードで行う回転は、サポートされていてもカウントに含めませんでした。

(注2)ピルエットには「アン・ドゥオール」(外向き)と「アン・ドゥダン」(内向き)があります(第3回)。今回紹介するサポート付きピルエットはすべて「アン・ドゥオール」です。

(注3)この場面の振付にはいろいろなパターンがあります。リフトの部分については、第39回「跳躍を見せるリフト(2)」の本文と注で説明しました。

(注4)女性は、グラン・フェッテ連続回転の代わりに、ピケ・トゥールとシェネ(第6回)によるマネージュ(舞台の周回)を披露する振付もあります。

(発行日:2023年1月25日)

次回は…

第43回は「サポート付き回転(2)」の予定です。『白鳥の湖』、『眠れる森の美女』などの作品で解説します。発行予定日は2023年2月25日です。

【鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!-総目次】
http://bibliognost.net/umino/ballet_tech_contents.html

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うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。早稲田大学、立教大学でも講師を務める。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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