動画撮影・編集:古川真理絵(バレエチャンネル編集部)
2023年5月11日、K-BALLET COMPANY/Bunkamuraオーチャードホール芸術監督の熊川哲也氏が、小池百合子東京都知事を表敬訪問した。
これは熊川氏が本年2月に東京都から「東京観光大使」(*)に任命されたことを受けて行われたもの。折しも氏が率いるK-BALLET COMPANYは、来たる2023年9月1日より名称を「K-BALLET TOKYO」(Kバレエ トウキョウ)に変更すると発表したばかり。また来年にはカンパニー創立25周年を迎えるなど大きな注目が集まるなか、熊川氏の訪問はインバウンド誘致に向けた東京の芸術文化の魅力をアピールする格好の機会となった。
*東京観光大使:東京の魅力を国内外に広く発信し、訪都意欲を喚起することにより、来訪者の増加や地域の活性化につなげることを目的として、東京都が令和5年2月に任命。熊川氏のほか、俳優の別所哲也氏、コスプレイヤーのHakken氏、VTuberのさくらみこ氏、「オテル・ドゥ・ミクニ」オーナーシェフの三國清三氏など、計16名が任命された。
東京都庁に小池百合子知事を表敬訪問した熊川哲也氏 ©️Ballet Channel
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都庁を訪れ、小池都知事に面会した熊川哲也氏。まずは東京観光大使就任について「このような役目をいただき、身に余る光栄です」と挨拶を述べた。
「僕は東京が大好きです。これからはこの身をもって、(自分の率いる)組織をもって、アートという知的生産をもって、世界の人々をこの東京に招き入れるということ。そして“かっこいい東京”を披露するのだということに、非常にわくわくしています。
僕は1999年、英国から帰ってきて27歳で K-BALLET COMPANYという組織を立ち上げました。それが来年には25周年を迎えます。いままではK-BALLET COMPANYというややプライベート感のあるカンパニーでしたが、25年を機にK-BALLET TOKYOと名称変更することにしました。まさにそのような折に東京観光大使という名誉をいただけたのは偶然の一致ではありますが、これからまたさらに邁進していきたいと思います」。
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先日、K-BALLET COMPANYの公演をオーチャードホールで鑑賞し、「ファンのみなさんが待ちに待っていた公演だという感じが伝わってきた。素晴らしいパフォーマンスでした」と感想を述べた小池知事。
「街というのは、ただ街並みがあるのではなく、そこに人の毎日の生活があり、暮らしがあり、それをより豊かにする文化、アートがある。それが全体としての街の魅力になるのだと思います。東京が、世界におけるバレエの本拠地のひとつになる。そしてバレエ団の名称に、25年目にして“TOKYO”とつけられるというのは、まさに観光大使としてのお役をさっそく果たしていただいているのかなと思います(笑)。熊川さんが大使のひとりに加わってくださり、大変光栄です。ありがとうございます」
と感謝を伝えた。
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「東京の魅力は?」と問われ、「東京には、サブカルチャーも、ハイカルチャーも、ポピュラーカルチャーも、全部がミックスされている。僕は世界各国のキャピタルタウン、メトロポリタンに行きましたけども、 ここ東京には食も文化もあり、こんなに魅力的な都市はあまり見たことがない」と応えた熊川氏。そして「今回とても嬉しかったこと」として、「これまで日本が発信してきたのは国技や日本の伝統芸能が中心であり、西洋の芸術であるバレエを、東京に拠点を置くバレエ団が世界に発信するのはハードルが高かった。しかしこれからはここ東京から、いまボーダレスになってきている日本のバレエというものを発信させていただくことになる。それは僕にとっても、この年齢、この時期だからこそやりがいがある。東京という街のかっこよさを、僕はこれから一生懸命発信したい」と思いを語った。
「最近は新興国家にもどんどん高いビルが建ち、どの街も似た顔つきになってきた。そこで魅力を感じさせられるのは、その地で育まれてきた芸術・文化。とくに東京はミシュランの星を持つレストランがパリより多い。バレエを楽しみ、食事も楽しんで、リッチな思いを東京で感じていただけたら」と小池知事が語ると、すかさず「ああ、それで東京観光大使にはオテル・ドゥ・ミクニの三國さんも名を連ねているんですね!」と熊川氏 ©️Ballet Channel
5月24日(水)〜28日(日)には東京文化会館でK-BALLET COMPANY『蝶々夫人』(演出・振付・台本:熊川哲也)が上演される。熊川氏は「日本の長崎を舞台にした物語を、日本人が具現化するバレエ。まさに東京から世界に向けて発信できるのではないか」と意気込みを語り、歓談を締め括った。
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撮影中、「熊川さんが跳んだらこの天井に届くのでは?」という小池知事に、「もう頭がつきますね。簡単に行きます。やれと言われればやりますが(笑)」と熊川氏。ふたりから大きな笑顔がこぼれた ©️Ballet Channel
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表敬訪問終了後、熊川氏が報道陣の囲み取材に応じた。
- 小池東京都知事を表敬訪問しての感想を聞かせてください。
- 熊川 コロナ禍の時は自分も含めて都民も国民も誰もが心細く、非常に大変な思いをしました。そのような状況のなかで知事が発信されてきたことや、リーダーシップを取られてきたことが、とても心強かった記憶があります。僕は安心できるリーダーだなと思っていたところ、前回の公演にお越しいただいて、初めてお会いして、人柄と、知的な方だということをすごく感じましたので、今回は非常に嬉しく思いました。
- 熊川さんは以前から、日本から世界に出て行って公演をするというよりも、世界から日本、東京に来てバレエを見るというスタイルを作りたいと発言していました。東京観光大使に就任され、K-BALLET TOKYOに改称して、その思いがさらに具現化していくのでは。
- 熊川 本当にいいタイミングでお話をいただきました。たまたまそれが来年25周年という時期になり、来週『蝶々夫人』の公演もあり、いろんな意味で偶然の一致が重なったという気はします。この東京に(海外から)たくさんの人に集まっていただき、西洋文化というものを、どこまでこの地・東京で発信できるか。それは、こちらから海を越えてヨーロッパなりアメリカなりに行って公演をするよりも、もっとハードルが高いわけです。それだけにやりがいもありますし、いいものを発信していかなくてはいけないということは、ひしひしと思いました。
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- ここ東京から世界に向けてバレエ芸術を発信していく上で、世界に向けてアピールできる日本のバレエの強みや魅力とは?
- 熊川 人にはそれぞれの性格や形があり、それぞれの発信の仕方があると思います。K-BALLET TOKYOとしては、25 周年という新たな節目は迎えますが、やはり作品を作ることにおいては僕の頭の中にあるものを具現化していくということ。僕の世界を作っていくだけだと思います。 説得力があって、納得していただけるような活動ができたらいいなと思うし、それはおそらくいままでもやってきていることなので、何ら変わることなくやっていけるのではないかと思います。
外国の方や世界に向けて発信するというよりも、ここで地に足をつけて、しっかりとした活動をすること。そうすれば必ずみんなの賛同を得られると思います。そして やはりセリフのない世界、バレエの究極の美しさというものは、人々の心で共有できるテレパシーのようなもの。いまはいったん、言葉は要らないのではないかと思います。それがまたグローバルなコミュニケーションにもなり、とても良いところではないでしょうか。
- 熊川さんは日本に戻ってきてから25年間、革新的なことを次々とやってきました。25周年以降はどんなことに挑戦していきますか?
- 熊川 本拠地である東京から発信するのは当然のことながら、アジアに向けても、もっと教育や作品提供も含めてトータル的に、22世紀の子どもたちに誇れる教育、作品、普遍的なバレエというものを、これから発信していきたいですね。
- 来年25周年で新作も楽しみですが、ダンサー・熊川哲也も楽しみにしていいのでしょうか?
- 熊川 まあ、気が向いた時に(笑)。たまに自分で鏡を見るとびっくりすることがあるので。メイクがなかなか乗らないとかね(笑)、そういう現実的なこともありますから。いまは後輩(を育てること)と、さらには学校を運営していくこと。いまの子どもたちというのは、その子がおばあちゃまになった時、そのお孫さんは22世紀を生きることになる。ですから、いまの子どもたちの教育をいかに感受性豊かなものにするか。健康的な喜怒哀楽を表現できるように、環境を整えてあげなくてはいけません。いまの時代だからこそ、やはりカラフルに行かなくては。心に雨が降ってもいい。次の日に晴れればいい。そういった教育でやっていきたいなと思います。みんなも元気で頑張りましょう!
- 先ほど、熊川さんはこれからも地に足をつけて、自分の世界を作っていくという言葉がありました。まさにその象徴的な第一歩として、25周年という記念のシーズンの始まりに、『眠れる森の美女』の新制作を選んだ理由とは?
- 熊川 いままで10周年、15周年、20周年と、そのタイミングでいろんな作品を発表してきましたが、それはたまたまその周年イヤーだったというだけであり、上演する作品は自由に選んできました。しかしさすがに25周年となると、その作品が(記念イヤーに)フィットするのかしないのかなど、いろいろなことを考えます。自分の中で葛藤もありますね。バレエというのは悲しい結末のものが多いので、それはちょっと避けようかなと。
僕はバレエに生かされて、信じられないような才能を持っていた先達たちの意志を引き継ぎ、そして彼らに褒めてもらえるような活動をしたい。そのためにはやはり、チャイコスキーとプティパの『眠れる森の美女』の改訂かなと思います。『眠れる森の美女』は、個人的にはあまり好きな部類のバレエではなかったので、これを改訂しないとずっと上演しないだろうなとも思いましたので(笑)、自分流に、本当に自由にやらせてもらおうと思っています。
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