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【リハーサル動画あり】男性ダンサーのトウシューズ・トーク! 新国立劇場バレエ団「夏の夜の夢」ボトム役 木下嘉人×福田圭吾

阿部さや子 Sayako ABE

動画撮影・編集:河野祥子(新書館バレエ事業部)

シェイクスピアの喜劇をもとに、巨匠フレデリック・アシュトンが振付けた一幕物のバレエ『夏の夜の夢』。アテネ郊外の森に棲む妖精の王オーベロンと女王ティターニアの夫婦喧嘩の顛末や、そそっかしい妖精パックが引き起こす人間たちのてんやわんやが、メンデルスゾーンの美しい音楽に乗って展開していく文句なしに楽しい作品です。

英国バレエの薫り高いティターニアやオーベロンの美技、まさに人間離れしたパックの踊り、妖精たちのファンタジックな群舞、2組の男女のもつれまくる関係性……約1時間ノンストップで見どころが続く同作の中でもとりわけ盛り上がるのが、魔法でロバに変身させられた職人ボトムの踊り。というのもこの場面、なんとボトム役の男性ダンサーがトウシューズを履き、見事なポワントワークを見せるのです!

2023年4月29日(土祝)〜5月6日(土)、新国立劇場バレエ団「シェイクスピア・ダブルビル」で上演される『夏の夜の夢』で、この注目のボトム役を演じるのが、ファースト・ソリストの木下嘉人さんと福田圭吾さんです。

ポワントで舞台に立つのは「もちろん初めて」というふたりに、トウシューズで踊る上で心がけていることや使っている銘柄のこと、ボトム役の見どころなどについて、たっぷりお話を聞きました。

素晴らしい技術を持つダンサーであれば、初めてのトウシューズでもこれだけ踊れてしまう……そんな驚きのリハーサル動画と共に、ぜひお楽しみください!

※編集部注:インタビュー、リハーサル撮影ともに取材は3月中旬に行いました

福田圭吾さん(写真左)と木下嘉人さん。それぞれ愛用中のトウシューズと共に ©️Ballet Channel

ドゥミからポワントまでの数センチ……ただそれだけの差が難しい

アシュトン版『夏の夜の夢』のボトム役を任されるということ、それはつまりロバの被り物をしてトウシューズで踊ることを意味するわけですが、配役が決まった時の率直なご感想は?!
木下 僕はもう、不安しかなかったですね。何しろトウシューズを履くというのが未知の世界なので……。とにもかくにも「本当にポワントで立って舞台に出られるのかな」という不安がいちばんにきました。

福田 僕は先シーズンの『不思議の国のアリス』でマッドハッター役を踊って、その時はタップシューズを履いたので、「次はトウシューズか!」と思いました(笑)。

木下 その意味では僕も『火の鳥』でハイヒールを履きました。いろんな履物を履いていますね、お互いに(笑)。

トウシューズを履くのは、今回がまったくの初めてなのですか?
木下 僕は初めてです。小さい頃にいわゆる「甲出し」みたいなことはやった覚えがありますけど、ポワントで立ったことはないです。

福田 僕は、履いたことじたいはあるんですよ。子どもの頃に、バレエの先生から「ポワントで立つとしっかり甲が出るようになるから、トウシューズを履きなさい」と言われて。それで同じスタジオに通っていた福岡雄大と一緒に心斎橋のチャコットに行って、足の型を取って、オーダーでトウシューズを作りました。中学生くらいの時だったと思います。

福岡雄大さんと一緒に! しかもオーダーで!
福田 はい。色もピンクはちょっと恥ずかしかったので、ベージュっぽい感じにして。銘柄は「コッペリアⅡ」っていうのを履いていました。ただ、そのことをバレエ団の女性たちに言うと、なぜか爆笑されるんですよ……。
「コッペリアⅡ」といえば、バレエを習う女の子たちが最初に履くトウシューズとして選ばれることの多い銘柄でしたから(現在は廃盤)、女性ダンサーたちにとってはすごく微笑ましく感じられるのではないでしょうか(笑)。ちなみに今回履いているトウシューズはどこのメーカーのものですか?
福田 これは、ブロックです。銘柄は……「セレナーデ・ストロング」って書いてある。

木下 僕も一緒です。名前がすごいね。

こちらは福田圭吾さんのトウシューズ。「トウシューズの写真を撮る時って、みんなリボンをきれいな形に整えてますよね」と、福田さんみずからセットしてくれました ©️Ballet Channel

これは、どなたかが選んでくださったのですか?
木下 メーカーさんがフリードとブロックのシューズをバレエ団に持ってきてくださって、その中から選びました。僕らは全然わからないので、とりあえず両方履いてみて……

福田 バレエミストレスの湯川麻美子さんが合っているかどうかを見て、選んでくださいました。とくに僕は足の幅が大きいので、この「セレナーデ・ストロング」が合いそうだと。

木下 フリードよりもブロックのこのシューズのほうが、立った時の強度が強いから、とも言われました。

「セレナーデ・ストロング」はその名の通り底やボックス(足を包む部分)が硬いシューズですが、立ちづらくはありませんか?
木下 あまりにも経験がないので、立ちやすいのかどうかもよくわからないんです……。

福田 でも嘉人くんは立った時にみんなに「きれい」って言われていました。プラットフォーム(つま先の平らな部分)の全面がちゃんと床についているし。あまりにもきれいに立てているから、みんなに写真を撮られていましたよ。僕の足は誰も撮ろうとしなかったけど(笑)。

木下 いやいやいや!(笑)

リハーサル中、何気ない瞬間にもポワントで立って足をならす木下嘉人さん。確かに写真を撮りたくなる美しさでした! ©️Ballet Channel

女性がトウシューズで踊る場合は、それこそ美しい立ち方やつま先のラインなどが重要視されますが、ボトム役のポワントワークにおいてはどんなことが求められるのでしょうか?
木下 「美しさ」は最初から求められませんでした。ボトムのトウシューズは、ロバの蹄を表現しているものなので。

福田 そう、ロバに見えるためのものだから。振付指導のクリストファー・カーさんがおっしゃるには、「大事なのは美しさやテクニックではなくて、まずケガをしないことだ」と。

木下 足首をくねらせないように。

福田 その一瞬で数ヵ月がダメになるような事故にもつながり得るのがトウシューズだから、いちばん大事なのはケガをしないことだと。もちろんいろいろなステップができたほうがいいけど、それはさほど重要ではないよ、みたいなことを最初に言ってくださいました。

木下 その瞬間、ものすごく心が救われました(笑)。

とはいえボトムの振付には、ポワントで力強くホップしたり回転したりといった、さまざまなポワントワークが含まれています。おふたりにとっては、とくにどんな動きが難しいですか?
木下 僕は、ポワントでホップする動き。「カギ立ち」というのでしょうか、足首を伸ばしきらない状態でポワントに立ったまま、トン、トン、トン……とホップして前に進んでいくのが足首がぐらぐらして難しいです。それから最後にポワントでトトトトトトト……と走るのも大変ですね。最初に振付を見た時、「トウで走るの? 初心者なのに?!」と思いました(笑)。

福田 あのカギ立ちでホップする動きは、足首が柔らかくて甲がすごく出る人ほど難しいらしい。僕は得意みたいです、カギ立ち(笑)。

木下 (笑)

福田 僕は「ポワントで立ちきる」ということの難しさに驚きました。リハーサルが始まる2週間くらい前に、嘉人くんと僕のふたりで女性たちのポワント・クラスに参加させてもらったんですよ。その時に、ア・テールからライズアップしてポワントに立つというシンプルなエクササイズをやったのですが、それがもうとにかく難しかった。ふくらはぎから内腿、足指の先の先まで使う感覚……これまで使ったことのない筋肉を使わないと、ドゥミ・ポワントからポワントまでの数センチが上がれない。最初は両手バーで練習していたのですが、それでもまともに立ちきれなくて、生まれたての子鹿状態でした。女性ダンサーってすごいなとあらためて思いました。

リハーサル中、軽快なポワントワークを見せる福田圭吾さん。写真右は振付指導のクリストファー・カーさん ©️Ballet Channel

その女性ダンサーのみなさんから、何かアドバイスはありましたか?
木下 圭吾くんの言うとおり、僕ら男性は、ドゥミ・ポワントからさらに上までルルヴェするという経験がほぼないんですよね。いつもバレエシューズで踊っているから。だから、ポワントまで立ちきるには、自分が思う以上にお腹を引き上げて、自分でお尻をグッと持ち上げる努力をしないと立てないよ、と。それはたくさんの人がアドバイスしてくれます。

福田 ふだんのクラスでも、ルルヴェアップする時にまず内腿をアン・ドゥオールしながら引き寄せていくというのは、つねに意識しているんですよ。でも、いつもならドゥミ・ポワントで終わるところをポワントまで行くとなると、内腿がさらにギューッ!となって、最初はもう本当にちぎれそうな感じがしました。だから逆に言えば、トウシューズの練習は男性のトレーニングとしてもすごくいいなと。例えばピルエットを回るにしても、内腿からグッと真ん中に軸を集めないといけないから。

ドゥミ・ポワントからポワントまで、たった数センチなのに、その差が大きいわけですね。
木下 かなり大きいと思う。

福田 恐怖だよね。

木下 恐怖だし、大変としか言いようがない。この数センチだけで。

リハーサル終了。いったんトウシューズを脱いで足を休ませる木下さんと福田さん ©️Ballet Channel

女性ダンサーってすごい……

トウシューズを履きこなせるようになるために、何か特別なエクササイズなどはしていますか?
木下 空き時間に両手バーでポワントに立つ練習などはしています。ただ、先ほども言ったように、ボトムの場合はロバに見えるポワントワークが必要なのであって、バレエとして美しく踊れるようになるのとはちょっと違うんです。だから、女性のようにトウシューズでセンター・レッスンをする、みたいなことは、逆にあまりしないほうがいいのかなと思っています。

福田 僕は初日のポワント・クラスの時に、本当にいろんな気付きがあったんですよね。ふだんから気をつけていることを、あらためて再認識させられたというか。それらの気付きを活かして身体を使えばもっと上手く踊れるのでは?と思っていろいろ試していたら、そのクラスがすごく楽しくなってしまって。ピケ・ターンなんかも意外と上手くできて、みんなに褒められたりするうちにすっかり調子に乗ってしまい……初めてのポワント・クラスだったのにグラン・ジャンプまでやったところ、次の日さっそく足が痛くなってしまいました。だから、トウシューズのために心がけているのは「調子に乗らないこと」(笑)。女性ダンサーたちが10年、20年かけて身につける技術なのだから、徐々にやっていかないといけないなと。

木下 徐々に。大切ですね。それから気付きと言えば、女性ダンサーの大変さを身をもって知れたのも大きい。

福田 そう! 僕ら男性って、組んでいる女性によく言うじゃないですか。「プロムナードをする時、もっと軸脚をアン・ドゥオールして踵を前に送って」とか。でもこの間、自分でも試しにポワントでプロムナードをしてみたんですよ。若い男性ダンサーにサポートしてもらって。そうしたら、もう想像以上に大変だった。軸脚を開こうとか踵を送ろうとか意識すると、上体まで回っていってしまうんですね。「そうか、プロムナードをする時の女性って、一生懸命アン・ドゥオールしながら背中もこんなに強く保たないといけないんだな」と。今後はもう、「踵を前に送って!」なんて簡単には言えません……。

木下 それは僕も思いました。「ポワント、しっかり立って」なんてもう言えないですよ。自分が立てないのに(笑)。

木下嘉人さん ©️Ballet Channel

女性ダンサーのみなさんがあまりにも軽やかに踊るのでつい当たり前のように思ってしまいますが、考えてみれば、あの小さなつま先の上で、そうした難しい動きをコントロールしているわけですよね……。
木下・福田 本当にすごいです。
おふたりのトウシューズを見ると、とても綺麗にリボンやゴムを縫い付けていますね。
福田 バレエシューズでもいつもゴムを縫い付けているので、その要領で。僕、縫うのは結構好きなんです。

木下 僕も自分で縫いました。ちょっと雑ですが。リボンを縫い付ける位置とか、リボンの端の始末の仕方とかは、女性ダンサーに教わりました。現状だと踵がちょっと脱げやすいので、ゴムは2本をクロスさせるやり方に変えようかなと考えているところです。

トウパッドなど、シューズの中で足を保護する詰め物はどうしていますか?
木下 それも女性のみなさんにいろいろ教えていただいて。爪が割れたり皮膚がめくれたり血豆ができたりするから、とりあえず指にバンドエイドを貼って、とくに擦れそうな親指と中指に冷えピタを貼って、その上からテーピングを巻くといいんじゃない?と。なので、いちおうそれらのグッズを一式用意して、そのとおりにケアしてからトウパッドを着けています。なにしろまだ初心者ですから、できる限り保護しておかないと怖いので。

木下嘉人さんのトウシューズ。メーカー&銘柄は福田さんと同じくブロックのセレナーデ・ストロング。足先を保護するケアグッズも充実。木下さんはこれらを小さなトートバッグにひとまとめにして持ち運んでいました  ©️Ballet Channel

福田さんは?
福田 まったく何もしていません(笑)。この、貼ったり巻いたりする一連の工程が面倒くさいなと思ってしまう。

木下 わかる、わかります。女性はトウシューズを履くたびにこんなことまでやっているのかと驚きましたから。

福田 だから僕は素足に直接トウパッドを着けているだけ。それでいま話しながら自分のトウシューズを見て気づいたのですが、トウパッドの中に血がついていますね(笑)。

木下 ほんとだ! 結構いっぱいついてますよ!

福田 初心者なのに何も保護しないとこうなるわけですね(笑)。

福田圭吾さんのトウシューズ。トウパッドのみならず、すでに擦り切れつつあるプラットフォームにも、“血の滲む”努力のあとが感じられました ©️Ballet Channel

女性ダンサーはリハーサルから本番までの間に「踊りやすいトウシューズ」を育てていったり、とくに良い状態のトウシューズは本番用に温存しておいたりと、本当に神経を使っていると聞きます。
木下 そういう面でも、女性は大変なんだなとあらためて思いますね。僕らはバレエシューズが1足あればそれでいいから。

福田 バレエ団にいる間じゅう、みんなずっとトウシューズを縫っていますからね。そして靴を柔らかくするためか、いつも誰かしらが中庭でシューズを地面に打ちつけている。

木下 その音の激しさに時々びっくりする(笑)。

福田 踊るだけじゃなくトウシューズを作る作業まであって。僕にはとても無理だなとつくづく思います。

でも、今回はおふたりもその作業をしなくてはいけないわけですね?
木下 そうですね……。どのくらいの頻度でシューズが潰れるかもまだわからないので、そういったコントロールは難しそうですね。これからやっていくうちに、少しずつペースがつかめてくるのかな。

福田 僕はもともと、「これじゃないと踊れない」みたいなものは作らないタイプなんですよ。何かがないと踊れない、というメンタルになるのが嫌なので。「弘法筆を選ばず」ではないけれど、シューズであれ小道具であれ、そこにあるものでとりあえずやってみるか!くらいの感覚でいるのがポリシーです。……とか言っていると、たぶん女性たちに「トウシューズをなめてる」って叱られると思います(笑)。

©️Ballet Channel

木下 でも忘れてはいけないのは、僕たち、最終的にはロバの頭の被り物もありますからね。いまはポワントだけで必死なのに、さらにあの被り物をしたらどうなるのか。

福田 それが心配です! 被り物は本当に大変。先日フィッティングをしたけれど、あの頭はとにかく大きいし、重いし、視界もやっぱりすごく悪かった。いまのうちに何も考えずに踊れるくらいになっておかないとダメだと思う。

木下 周りも足元も見えない状態で、トウシューズで踊るなんて……もうロバどころじゃなくなるかもしれない。

福田 ロバどころじゃなくなる(笑)。ただ、僕の感じで言うと、ロバの視界はちょうど『ペンギン・カフェ』で何度も踊ったテキサスのカンガルーネズミ役の被り物と同じくらいなんですよ。だから見えないことに関してはそれほど怖くないのかも。

木下 僕もこれまで『ペンギン・カフェ』のケープヤマシマウマ役とか『くるみ割り人形』のネズミの王様役で被り物を着けてきたけれど、それらよりも今回のロバのほうが視界は悪く感じましたね。それにこれまでやってきた被り物系の踊りって、足の裏はしっかり床につけることができたから。僕は足の裏で感じ取れる情報とか、立った時に床を押す力をすごく大事にしているのですが、トウシューズの足では、それがいつものようにはいかないはず。床につくのが足の裏じゃなくてつま先だという感覚に、早く慣れなくてはと思っています。

ちなみに……そのロバの被り物でいつも不思議なのが、大きな目を不意にパチパチさせたり、口をぶるるるると震わせたりと、表情が動くことです。そのたびに可愛くて笑ってしまうのですが、そういう操作(?)も、ダンサー自身でやっているのですか?
木下 そうです。あの大きな頭の中に、いくつかからくりがあるんですよ。

福田 くわしい種明かしはしないでおきますが、顔を使って操作するんです。

顔で!
木下 だから、被り物がちゃんと自分にフィットしていないと、まぶたや口元をタイミングよく動かせない。あれを被って稽古する段階になったら、踊り的にも表現的にも、また新しい発見があるだろうなと思います。

ボトムが被るロバの頭。この愛くるしい目がぱちぱちとまばたきし、口元もぶるるんと動きます。視界は確かにかなり狭そうです…… 写真提供:新国立劇場バレエ団

微妙な角度、絶妙な間合い。「おもしろみ」は細部に宿る

先ほどリハーサルを少し見学させていただきましたが、木下さんと福田さんはたとえロバの頭を被っても絶対に判別できるなと思うくらい、それぞれまったく違う個性の持ち主だとあらためて感じました。おふたりは、お互いをどんなダンサーだと思っていますか?
木下 まさに、僕たちは正反対の個性の持ち主だと思います。僕は圭吾さんのことをすごく尊敬しています。とくにお芝居、演技をすぐ自分のものにしてしまえるところ。

福田 そんなことないですよ!

木下 たまにやりすぎな時もありますけど(笑)。でも本当に尊敬しています。今回のボトム役では、これまで見たことのない圭吾さんが見られそうなのもすごく楽しみで。だって僕たち、さすがにこんな役は踊ったことなくないですか?

福田 僕はそもそも、自分はバレエ団内の特殊部隊みたいな存在だと思っているから。ボトムはその任務の一環だと捉えています(笑)。

木下 ボトムはそれ以上に特殊だと思いますよ!(笑)

福田 僕は嘉人くんのことを、バレエが本当に上手いダンサーだと思っています。バレエ団内でもいちばん上手い人のひとりだと思う。

木下 とんでもないですよ……。

福田 僕たちは同い年なのですが、嘉人くんが入団してきて以来、僕はずっと彼の踊りを見て勉強しているし、彼のいいところを真似してつかみ取りたいといつも思っています。だから嘉人くんが最初からポワントでスッと立てた時も、「はい、そうですよね。やっぱり立てますよね」と思ったし、同時に悔しかった(笑)。ダンサーとして本当に尊敬しているというのが、率直な気持ちです。

福田圭吾さん ©️Ballet Channel

最後に、踊る側・演じる側として感じる『夏の夜の夢』ならではの特徴や魅力を、ぜひ聞かせてください。
木下 まず、キャラクターが多いこと。同じくアシュトン振付の『シンデレラ』にもユニークなキャラクターがたくさん出てくるけれど、あちらはよりクラシカルな要素が強い気がします。『夏の夜の夢』はもっと個性的なキャラクターが多くて、それぞれの踊りもすごくユニーク。男性がロバに変身してポワントで踊る役なんて、他の作品には決して出てこないですよね。そこは大きな魅力のひとつだと思います。

福田 それから「さすが英国バレエ」と思うような演劇性。その点でも『シンデレラ』のそれとは少しニュアンスが違っていて、こちらの作品のほうがよりナチュラルな芝居を求められている感じがします。例えばボトムだと、ロバから人間に戻ってからの芝居もおもしろくて。クリストファーさんがおっしゃるには、「現代でも普通に田舎にいるような、おじさんの歩き方をしてほしい」と。

木下 そう、シュッとせずに。

福田 たぶん、僕らが現実の人間らしく演じれば演じるほど、妖精たちがより妖精に見えると思うんですよ。オーベロンもパックもティターニアもテクニック的に本当に難しい踊りで夢の世界を描いているから、そことの対比をくっきり際立たせるように、僕ら人間側は現実的な芝居をしなくてはいけないんだなと。

夢と現実の世界がひとつの舞台の上で共存するのが、この作品のおもしろさだということですね。
福田 そのとおりです。僕らがより人間くさく演じることによって、妖精の非現実性がよりリアルに伝わるのではないかと思います。あと、芝居の面ではもうひとつ、ちょっと気付いたことがあって。それは、僕ら日本人ならではの「オモロイ角度や間(ま)」というのもあるな、ということ。例えばボトムが何かを「怖い」と感じた時に、パッとそちらを見るより、うぃーんとゆっくり振り向いたほうがオモロイなと、自分でやっていて思ったんです。そういう微妙な「日本の笑い」みたいなものが確かにあって、リハーサルで試してみたいのだけど、クリストファーさんが見たらどう感じるだろうか?と。

木下 ほら、ここまで考えるのが福田圭吾さんという人なんですよ……。でも、わかります。日本ならではの笑いみたいなもの。

福田 もちろんアシュトン作品として守るべき角度や間合いがあるなら、それはきちんと守ったうえでの話なのですが。自分はこれからどう表現していこうか、というのはすごく考えています。

木下 ロバになったボトムがいつ目をパチパチさせるのか、口をぶるぶるさせるのか、というのも、まさにそれですよね。そういう仕草をどのタイミングで出すかによって、おもしろみが倍増もすれば、まったく効果的でなくなったりもする。だからやっぱり、まずはポワントワークを習得して、絶妙な間合いで芝居ができるようにならないと。

福田 そうだね!

©️Ballet Channel

公演情報

シェイクスピア・ダブルビル
『マクベス』/『夏の夜の夢』

公演日程

2023年
4月29日(土・祝)14:00

4月30日(日)14:00

5月2日(火)19:00

5月3日(水・祝)14:00

5月4日(木・祝)14:00

5月5日(金・祝)14:00

5月6日(土)14:00

約2時間(休憩含む)

会場

新国立劇場 オペラパレス

プログラム

『マクベス』
【振付】ウィル・タケット
【音楽】ジェラルディン・ミュシャ
【編曲】マーティン・イェーツ
【美術・衣裳】コリン・リッチモンド
【照明】佐藤 啓

『夏の夜の夢』
【振付】フレデリック・アシュトン
【音楽】フェリックス・メンデルスゾーン
【編曲】ジョン・ランチベリー
【美術・衣裳】デヴィッド・ウォーカー
【照明】ジョン・B・リード

スペシャルイベント

●クラスレッスン見学会/5月2日開催
●プレトーク/5月2日開催
●【25歳以下限定】プロダクションガイドツアー/5月3日開催
●アフタートーク/5月4日、5月5日開催

詳細はこちら

詳細  新国立劇場バレエ団WEBサイト

 

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