バレエを楽しむ バレエとつながる

  • 観る
  • 知る

【特別対談】首藤康之×福岡雄大〜演劇『カスパー』とバレエ『マクベス』、同じ演出・振付家の舞台を観るマジカルな体験を

阿部さや子 Sayako ABE

神秘を湛えた無二の個性。ダンスに映画に演劇に……と留まることなく自身の表現世界を開拓し続けるアーティスト、首藤康之
鍛え上げられた技術と身体、そこに宿る繊細な感性と音楽性。新国立劇場バレエ団の頂点を担うプリンシパル、福岡雄大

過去には中村恩恵×新国立劇場バレエ団『ベートーヴェン・ソナタ』で共演するなど、かねてより親交のある二人がこの春それぞれ挑む舞台には、ひとつの共通項がある。
それは、どちらも英国の演出家/振付家、ウィル・タケット演出による作品だということ。

首藤が出演するのは、2023年3月19日(日)〜31日(金)に東京で、4月9日(日)に大阪で上演される演劇『カスパー』
福岡は4月29日(土)開幕の新国立劇場バレエ団公演「シェイクスピア・ダブルビル」で上演される『マクベス』でタイトルロールを踊る。

カスパーとは、19世紀前半に生まれてから16年間地下牢に閉じ込められていた実在の少年、カスパー・ハウザーのこと。保護されて以降は文明社会に適合するための教育を受けたものの、数年後に何者かに暗殺され謎の死を遂げたカスパー・ハウザー。彼を題材に、ノーベル文学賞受賞作家のペーター・ハントケが書いた戯曲が『カスパー』である。

いっぽう『マクベス』は、イギリスを代表する劇作家ウィリアム・シェイクスピアによるあまりにも有名な悲劇。スコットランドの将軍マクベスが、3人の魔女たちの予言と妻の教唆により王を暗殺して王位につくものの、今度は自分がその王位を奪われる不安から、残忍な暴君へと化していく物語。こちらも実在したスコットランド王マクベスをモデルにしている。

3月某日、初日を間近に控えて稽古も佳境の首藤康之と、プティ版『コッペリア』での大奮闘を終えたばかりの福岡雄大による、“ウィル・タケットつながり対談”が実現した。

首藤康之、福岡雄大 ©️Ballet Channel

「タケットは、役者に求める身体の使い方がとてもダンス的」

おふたりと言えば2019年に新国立劇場で上演された『ベートーヴェン・ソナタ』(中村恩恵振付)での共演が記憶に新しいところですが、出会いはそれより前の2015年、首藤康之さんが地元・大分で演出振付を手がけた『ドン・キホーテ』全幕に福岡雄大さんがゲスト主演した時だそうですね。
首藤 ええ、そうです。福岡さんは僕の大好きなダンサーなので、バジル役にはもう彼しかいない!とオファーしたのが始まりです。まず何よりも、福岡さんはベースにあるテクニックが本当に端正。昨日『カスパー』の稽古場でウィル(・タケット)に「雄大さんと対談します」と話したら、彼もすごく褒めていました。「最初に新国立劇場バレエ団のクラスレッスンを見たとき、一瞬で目に飛び込んできたのが雄大だった。足がしっかりと床についていて、動きがグッと力強い。マクベスにはそういう強さが必要だから、迷わず彼を選んだよ」と。

福岡 僕が初めて出会った首藤さんは、「ダンサー首藤康之」ではなく、演出・振付家としての首藤さんでした。だからまず印象的だったのは、ものすごく細かいディティールを積み上げながら作品を創っていく方だということ。やはり演劇もなさっているからか演出意図がとても明確で、ダンサーに委ねる部分もきちんと残してくださる。僕自身、どうすればお客様に表現が伝わりやすいかをいつも第一に考えているので、首藤さんとのお仕事は本当に楽しかった。踊りはもちろん、芝居の面でも勉強になることばかりでした。

首藤 演出家や振付家からすると……と言っても僕は自分が振付家だと思ったことはないけれど、そういう立場からすると、福岡さんに踊ってもらえると安心なんです。絶対的なものをもっているので。そしてさらに本番となれば、リハーサル以上のものを作り出してくださるし。

福岡 あの時は仕事終わりによく食事をご馳走してくださって、たくさんお話もさせていただいて。だからその後『ベートーヴェン・ソナタ』でいざダンサー同士として向き合うとなった時も、僕は身構えることなく踊ることができました。

首藤 友人と言ったら失礼かもしれないのですが、福岡さんとはお互いに心置きなく話せる。ダンサーとして共演できたあの舞台も、とてもいい思い出になっています。

先ほど名前の出た演出家/振付家のウィル・タケットについて、首藤さんはすでに何度か一緒に仕事をした経験あり、福岡さんは今回が初めてとのことですね。
首藤 僕は今回で3作目です。最初は2012年の『鶴』で、それは完全に舞踊作品でした。自分が出演する以外にもウィルの作品は『兵士の物語』や『The Wind in the Willows』などたくさん観てきたのですが、やはり英国ロイヤル・バレエ出身であるだけに、彼の作り方はとても演劇的で、ディテールを細かく詰めていく。そして2020年の『ピサロ』や今回の『カスパー』といった演劇でご一緒して驚いたのは、すべて日本語での芝居にも関わらず、言葉の理解度がとても高いこと。セリフを全部ローマ字で起こして、日本語の「音」も聴き取り、意味も掴んだうえで演出をするんです。
タケットは日本語なのにセリフ回しのニュアンスまで鋭く感じ取っていると聞いたことがあります。
首藤 そうなんです。もちろん、ものすごく大変そうではあります。今回の『カスパー』は2週間毎日朝10時から夕方6時頃までひたすら本読みをするところから始まったのですが、日本語話者の僕たちでさえハードだったのに、彼はよく耐えられたなと。

福岡 ウィルさんは、ダンサーにすごく寄り添いながら作品を作ってくださる振付家です。本当に人柄が素晴らしくて、自分のなかにある作品のヴィジョンをいつもきちんと僕らに説明してくださる。僕は年齢的にもこれから演劇的な作品もどんどんやっていきたいと思っているので、今回ウィルさんの作品に携われてとても充実した時間を過ごせています。

タケットについて、「これは彼が元ダンサーだからこその演出だな」と感じることはありますか?
首藤 言語以外の視覚的な部分、ビジュアルの美しさに徹底的にこだわるところでしょうか。それはやはりバレエ、とくにロイヤル・バレエで生きてきたことの影響が大きいように思います。それから役者に求める身体の使い方がとてもダンス的。例えばカスパー役を演じる俳優の寛一郎さんは今回が初舞台なのですが、ある日ウィルが彼に「歩くときは、体のどこがいちばん最初に動くと思う?」と尋ねたんです。もちろん彼は「足」と答えたのだけど、ウィルや僕のようにダンスがベースにある人間は、まず骨盤が動いてから足が出る。あるいは自分の後ろに立っている人と会話をするシーンがあるとして、ダンサーだと身体の正面は必ず客席に向けたまま、少し後方に意識を向けるようにして会話をします。ところが俳優の場合は、普通に背中を客席に向けてしまうんです。そういう身体の使い方を嫌うところも、元ダンサーのウィルならではで面白いなと思います。
演劇の現場とダンスの現場で、タケットのクリエイションへのアプローチの仕方などに何か違いはありますか?
首藤 やはりダンス的な現場のほうが、より生き生きしている気はしますね。『カスパー』にも大駱駝艦の舞踏家のみなさんが出演するのですが、彼らと一緒にフィジカルな動きの稽古をしている時は、僕たちセリフ芝居組の稽古の時よりもひときわ元気に見えます(笑)。でも、それは当然ではないでしょうか。僕自身もそちらの稽古を見ると生き生きした気持ちになりますから。
首藤さん自身も、言葉で表現する時と身体で表現する時とで違いがありますか?
首藤 まったく別物ですね。踊っている頃は、やはり言葉よりも身体の表現のほうがもっと宇宙のように広くて、限りがなくて、絶対に強いと信じていました。でも言葉の世界に入ってみると、言葉は言葉でとても深く、尊重すべきものであり、厳かなものだと思うようになりましたね。どちらがいいということではなくて。

首藤康之 ©️Ballet Channel

これは『カスパー』のテーマにも通じるかもしれませんが、表現の手段として言葉を得たことで、首藤さんはより自由になったと感じますか?
首藤 まさに今回の主題のようなことですね。もちろん、どちらもあります。言葉によって得たものもあるし、得たことによって失ったものもある。やはり人間のキャパシティというのは決まっていて、何かを入れればそのぶん何かを出さなくてはいけない。ベジャールさんはよくこうおっしゃっていました。「いちど荷物を置かないと、次には進めないよ」と。人生は何もかもを背負い込むと、重たくて前に歩けないのだと。僕はダンサーとして活動していた時代から、踊ってきたレパートリーはとりあえず置いて、次の新しいことをやるということをずっと続けてきました。得るものがあれば、失うものもある。でも、それを失うと感じるのか、得たもので前に進むと思うのか。どちらを先行して考えるかということだと思います。

福岡 僕から見ると、首藤さんは言葉での表現と身体での表現を自由に行き来していて、本当に尊敬しかないです。もちろん舞台上で役を生きるというのはバレエも演劇も一緒ですけど、声を出すということには、僕はまだ抵抗があります。それに言葉って時には武器にもなり得るものであって、その意味では怖いとも思うんですね。でも、首藤さんはその言葉を表現するものとして手にしていらっしゃるわけなので。

言葉について、首藤さんは「厳かなもの」、福岡さんは「怖いもの」と。おもしろいですね。
福岡 僕が「怖い」と思うのは、具体的に言えば人を傷つけてしまうということです。今のSNSをめぐる問題もそうですが、人が言葉という武器を持つことは、危険を伴うことでもある。『カスパー』の作品概要を読んでそう思いました。僕、漫画とかアニメが大好きなのですが、『不滅のあなたへ』(原作:⼤今良時)という作品があるんですね。そこで描かれていることと、『カスパー』にはちょっと通ずるものがあるなと感じていて。だから『カスパー』もぜひ観てみたいです。

「舞台に立てば立つほどダンスのことが好きになる」

その『カスパー』についてお話を聞かせてください。公演の紹介文に「これは言葉の拷問劇だ」という気になる文言が。言葉の拷問劇ってどういうことでしょうか……。
首藤 それまで外界と一切遮断されていたカスパーが、ある日突然われわれの世界に放り込まれて、言葉の洪水を拷問のように浴びせられ、しだいに言葉が意味を持つことを知っていきます。その言葉を浴びせかけるのが僕の演じる「プロンプター」という役なのですが、セリフって普通は誰かとの会話になっていたり、何らかの意味を持っているものですよね。僕らはふだんその意味に沿ってセリフを覚えていくわけですが、今回の台本には、ナンセンスな言葉ばかりが書いてあるんですよ。だから覚えようにもセリフがなかなか入ってこない。その意味でも拷問です(笑)。
プロンプターとはどういう意味ですか?
首藤 直訳すると「調教師」。日本語にするとあまり印象が良くありませんが、演劇やオペラでは演者がセリフを間違えたり忘れたりした時に小声で教えてくれる人のことでもあります。この作品においては、何も話せない人間を導き調教していく存在、ということになるでしょうか。
そのプロンプターは3人いて、首藤さんの他は実力派俳優の下総源太朗さんと文学座若手俳優の萩原亮介さん。また主人公カスパー役は寛一郎さんで、先ほどお話に出た大駱駝艦の艦員のみなさんも出演して……と、いったい何が繰り広げられるのか想像もつきません。
首藤 一見、カオスな世界ですよね(笑)。実際カオス的な面白さはあると思います。でもそのいっぽうで、じつはこの作品は、とてもシンプルで当たり前のことを言っているんです。先ほど福岡さんがおっしゃったSNSもそうですが、いまの時代は何もかもが説明過多、情報過多ではないでしょうか。例えば舞台を観るにしても、本来はただふらっと劇場に来て、「美しい」でも「楽しい」でも何かひとつ感じられたらそれでいいはず。なのにいまはとにかく事前に情報を仕入れて、予備知識を持って観ないと不安、という空気がある気がします。ただシンプルなことを伝えているだけなのに、そこにたくさんの説明的な情報を付随させないと、人が動かない時代。いまを生きる人たちは、カスパーになるべきなのかもしれない。いまこの芝居を稽古していて、そんなことを思います。
いっぽう『マクベス』は現在(編集部注:取材は3月上旬)クリエイションの真っ最中ですね。約1時間の1幕ものになると聞きましたが、どんな作品になりそうですか?
福岡 まだ物語が動く部分を作っていないので全体的な流れはわからない状態ですが、ウィルさんがどんな作品にしたいのかは少し見えてきた気がします。現時点で振付ができているのは大きなソロやパ・ド・ドゥくらいなのですが、それだけでも「きみはこう踊って」といった演出がとても細かいし、英国的な演劇性も強く感じます。あと、彼は「目」の使い方へのこだわりもすごい。何となく目線をふっと外した瞬間に、「そこは目線を外さないで!」と声が飛んできたり。そういう細かいところもすごく「演劇」だなあと感じます。ウィルさんが、これからドラマをどう描くのか? 例えば王や周りの人たちを殺害するシーンはどう見せるのか? そしてそれらが本当に1時間に収まるのか?! いまはすごくわくわくしています。

福岡雄大 ©️Ballet Channel

演出的には、例えばマクベスがどんな男で、ストーリーがどう展開して……といったことが具体的に分かる感じなのでしょうか? あるいはどちらかというと抽象的な描き方なのでしょうか?
福岡 抽象的にはならないと思います。もちろん断言はできませんけど、最初のリハーサルの時点で、各キャラクターの人物像や物語展開をかなり具体的に説明してくださったので。本番まであと1ヵ月と少し。ウィルさん、いまは『カスパー』で頭がいっぱいだと思うんですけど(笑)、これから振付が進んでいくのが本当に楽しみです。不安は何もありません。

首藤 福岡さんは『ロメオとジュリエット』『マノン』『シンデレラ』など、マクミランやアシュトンの作品をたくさん踊っているでしょう? だからきっとウィルの振付には入りやすいと思う。というのも、僕が初めてウィルと仕事をした『鶴』にはパ・ド・ドゥやパ・ド・トロワみたいなパートがたくさんあって、その時に「ああ、彼はやはりロイヤルの人だな」と感じたんです。女性の手をどうグリップするかとか、パートナリングのちょっとしたところの複雑さが、マクミランの振付を彷彿とさせたというか。実際ウィルは生前のマクミランと仕事をしてきた人だから、やはりその影響は色濃く受けていると思う。

福岡 確かに……マクミランしかり、アシュトンしかり、通ずるものはありますね。だから振付じたいは覚えやすい。ただ、ウィルさんはレフティ(左利き)なんですよ。それが難しい。

首藤 それ、難しいですよね。

福岡 普通は右回りするところが左回りだったり、アン・ドゥオールのところがアン・ドゥダンだったりして、細かいところが難しい。だけど、そこで踊り手がつまずいてしまうと、振付家はアイディアが出なくなってしまうし、演出もできなくなる。僕はウィルさんにできるだけたくさん振付けていただきたいので、自分のやり方のほうを工夫して、変えていくようにしています。そもそもバレエは右でも左でもできるように、そしてどんなスタイルの振付にも対応できるように訓練していかないとダメですし。

首藤 でもマクベスは福岡さんにピッタリですよね。ダンサーとしてのいまの年齢に、すごく通じるものがあると思う。ダンサーっていつまでも向上心があり続ける人種で、とくにトップに立つ人は、つねにそれを持っておかないといけない。その強さが福岡さんにはあるから。マクベスの人間像とすごくリンクするんじゃないかな。

福岡 確かにぴったりってよく言われます(笑)。

首藤 しかも、ダンサーって常に「時間がない、時間がない」と思っているから。現役で踊れる時間は本当に短くて、20代、30代……と年齢を重ねていくにつれ、身体的には翳りを感じるようになる。けれども身体以外のものは進化したりするから欲も出てくるし、舞台に立てば立つほどダンスのことが好きになるでしょう。だから、やっぱりなかなかやめられない。いちど光を浴びてしまうと。そういう意味でも、いまの時期の福岡さんには本当にぴったりだと思う。

昨今の福岡さんの踊りにただようキング然とした風格にも、マクベス役はバチっとはまりそうですね。
福岡 僕、最近なぜかみんなに「キング」って言われるんですよ……。

首藤 いや、その通りだと思う。まさにキングという感じがします。僕もこれから福岡さんのこと「キング」って呼ぼう(笑)。

福岡 やめてください!(笑)

「『カスパー』も『マクベス』も、〈3人〉が物語の運命を導いていく」

今日のお話を聞いていても、おふたりは過去の経験よりも未来の挑戦に興味がある表現者なのだという印象を強く受けました。キャリアを重ねるということはそれだけ身体を使い込んでいくということでもあると思いますが、表現できる身体を維持したり進化させたりするために、何か心がけていることや行なっていることはありますか?
首藤 バー・レッスンは、やはり毎日やってしまいますね。2年ほど前まではかなりストイックにトレーニングをしていましたが、いまはそのくらいです。じつは、いちどバレエから離れようと思ったんです。最近はもうそれほど踊る舞台をやっているわけでもないし、毎朝起きて、身体の調子を見て、とにかくバーを握らなくてはいけないという固定観念から、いちど離れたいなと思って。でも、やっぱりバー・レッスンをしたほうが身体の調子が良くなるし、気持ちがいい。バーというのは本当に良くできているなと、つくづく思います。

福岡 僕はもちろん毎日バレエをするのが当たり前で、スタジオにいる時は常にスイッチオンの状態なので、それ以外のプライベートの時間をどれだけ充実させるかをむしろ心がけています。人間だから落ち込んだり悲しんだりいろんなことがありますけど、それでも練習や本番に向けて、気持ちをどう持っていくか。例えば落ち込んでいる時に心を無にするというのは僕には無理なので、その気持ちをどう転換してパフォーマンスに持っていくのかというところを、最近はすごく考えています。身体のトレーニングについては、必要に応じて無理しない程度に、というくらいですね。バレエ以外のトレーニングをどれだけするかは人によってさまざまで、僕はそこまでガンガンやるタイプではありません。

首藤 福岡さん、稽古場にいる時はもう尋常じゃないくらい努力しているから。クラスレッスンを見ても、本当に誰よりも丁寧にやっていると思う。ダンサーにとってクラスは毎日のことで、つい適当にタンデュをしてしまったりするのだけど、福岡さんは一回一回本当にしっかり床を使っていて。
以前シディ・ラルビ・シェルカウイとの仕事でストックホルムに行った時、僕たちが使うスタジオの隣にバリシニコフがいたんです。「えっ!」と思って彼を見たら、薄暗いスタジオの中で、両手バーで5番ポジションに立って、タンデュをしていました。そのタンデュが、もう鳥肌が立つくらい綺麗で。あの時のバリシニコフはおそらく60代後半くらいだったけれど、その姿を見て「ああ、体を保つとはこういうことなんだ」と思いました。やはり大事なのはプリエとタンデュなのだと。そして福岡さんのタンデュは、あの時に見たバリシニコフと似ているんです。とくに床の使い方が。

聞いているだけで鳥肌の立つような、素敵なエピソードをありがとうございます。最後におふたりの言葉で、『カスパー』と『マクベス』の魅力を教えてください。
首藤 同じ演出家によるストレートプレイとバレエをほぼ同時期に観られるというのは、それだけでもマジカルな体験。ぜひジャンルを超えて楽しんでいただけたらと思います。まず『カスパー』をご覧になった方には、いま自分自身の中にある秩序やルールを見直すきっかけになれば嬉しいです。自分にとっての秩序とは?ルールとは? それが僕自身、最初にこの台本を読んだ時に考えたことです。そして『マクベス』ではキングの舞を、僕も本当に楽しみにしています。

福岡 キングの舞って(笑)。でもいま首藤さんがおっしゃったように、同時期に『カスパー』と『マクベス』が上演されるというのは、すごくおもしろいことだと僕も思っていて。この2作品が似ているのか似ていないのかはわからないけれど、でも『カスパー』には3人のプロンプターがいて、『マクベス』には3人の魔女がいる。そしてそれぞれの3人が、物語の運命を導いていく。そこに僕自身は通底するものを感じています。
「シェイクスピア・ダブルビル」として『マクベス』と同時上演されるのは『夏の夜の夢』。悲劇と喜劇、本当に光と影のように対極的な2作品で、お互いをくっきり際立たせ合うダブルビルだと思います。マクベスという役は、僕と少し似ているところがあります。自分は騎士であり、王になろうとは思っていない……彼のそういう一面が、自分自身と重なる気がするんです。ダブルキャストの奥村康祐くんのマクベス像も、彼の実直な人柄がにじみでていておもしろいですよ。これから作品が完成して、幕が上がった時に、お客様の目にどう映るのか。それが本当に楽しみです。

©️Ballet Channel

公演情報

『カスパー』

作:ペーター・ハントケ
訳:池田信雄
演出:ウィル・タケット
出演:寛一郎 首藤康之 下総源太朗 王下貴司 萩原亮介
大駱駝艦/高桑晶子 小田直哉 坂詰健太 荒井啓汰

【東京】
日程:2023年3月19日(日)〜3月31日(金)
会場:東京芸術劇場シアターイースト
上演時間:75分(途中休憩なし)予定
問合せ:tsp Inc. contact@tspnet.co.jp
※お問合せの際はメールの件名に必ず「カスパー」と記入のこと

詳細:公演WEBサイト

【大阪】
日程:2023年4月9日(日)14時開演
会場:松下IMPホール
問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888[11:00~18:00/日祝休業]

▼△▼

新国立劇場バレエ団「シェイクスピア・ダブルビル」

『マクベス』
振付:ウィル・タケット
音楽:ジェラルディン・ミュシャ
編曲:マーティン・イェーツ

『夏の夜の夢』
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:フェリックス・メンデルスゾーン
編曲:ジョン・ランチベリー

日程:
2023年
4月29日(土・祝)14:00
4月30日(日)14:00
5月2日(火)19:00
5月3日(水・祝)14:00
5月4日(木・祝)14:00
5月5日(金・祝)14:00
5月6日(土)14:00

上演時間:約2時間(休憩含む)予定
会場:新国立劇場オペラパレス
問合せ・詳細:公演WEBサイト

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

NEWS

NEWS

最新記事一覧へ