バレエを楽しむ バレエとつながる

  • 観る

【有料配信中!世界バレエフェスティバル】出演者インタビュー #1 フリーデマン・フォーゲル「何があっても、人生は続いていく。だから僕は踊り、その喜びをみなさんに伝えたい」

阿部さや子 Sayako ABE

2021年8月、主催者の不屈の尽力とアーティストたちの協力によって奇跡のように実現した「第16回世界バレエフェスティバル」。ダンサーたちの希望とエネルギーに満ちたパフォーマンスは、これまでのどの回とも違う感動を観客の胸に深く残しました。

そのいっぽうで、入場人数制限のためにチケットを買えなかった人や鑑賞を見送った人も多くいたこの舞台が、現在オンラインで有料配信中です。
公演の舞台映像はもちろん、ダンサーたちの生の声をおさめたインタビューやバックステージの様子など、配信ならではの嬉しい特典映像も!

★配信の詳細・チケット購入はこちら
※配信終了:2022年1月10日(月祝)23:59
※視聴チケットの販売は1月10日(月祝)21:00まで

本特集では、この第16回世界バレエフェスティバルに出演したダンサーたちのスペシャルインタビューを連続でお届けします。
1人目はシュツットガルト・バレエの大スター、フリーデマン・フォーゲルです。

※このインタビューは、世界バレエフェスティバルのために来日した直後にリモート取材したものです

フリーデマン・フォーゲル ©️Yuji Namba

Special Interview #1
フリーデマン・フォーゲル Friedemann Vogel (シュツットガルト・バレエ プリンシパル)

 

世界中に招かれて踊っているフォーゲルさんにとって、「世界バレエフェスティバル」はどんな舞台ですか?
僕がこのフェスティバルに参加するのはこれが7度目。初めて出場したのは2003年の第10回だったのですが、あの時の感動は今でも忘れられません。世界中の素晴らしいアーティストたちと何時間、何日間にもわたってステージを共有して、そのうちの多くと心許せる友人になることができて……そんな出会いをもたらしてくれるのはこの世界バレエフェスティバルならでは。僕にとって本当に特別なものです。
世界バレエフェスティバルは全日程のうち前半がAプロ、後半がBプロで、それぞれ異なる演目が用意されていますが、今回フォーゲルさんは、Aプロにはご自身の代表的なレパートリーのひとつである『オネーギン』第3幕より「手紙のパ・ド・ドゥ」を、Bプロにはマルコ・ゲッケ振付の新作『悪夢』という、とても対照的な作品を選びましたね。
『オネーギン』はシュツットガルト・バレエのDNAと言える演目で、僕自身にとっても非常に身近に感じられる作品です。いっぽうBプロ用にはほんの最近初演したばかりのマルコ・ゲッケ振付『悪夢』はほんの最近初演したばかりの新作。クラシックのテクニックをベースにしたバレエ VS 現代的なダンス、演劇生の高いストーリー・バレエ VS 抽象性の高いコンテンポラリー・ダンスという極めて対照的な2作品を披露することで、僕たちのダンスの可能性の広さをお見せしたいと考えました。
まずは『オネーギン』についてお聞きします。これはもう数えきれないほど踊ってきた役かと思いますが、踊り込むほどに作品の感じ方や役の解釈は変化してきていますか?
変化してきていると信じています。舞台に立つとは、そのたびに新しい旅に出るようなもの。同じパフォーマンスを繰り返すことは絶対にできないし、一度やったことをコピーしたいとも思いません。キャリアや年齢を重ねることで、経験、感情、物事に対する洞察力は豊かになっていきます。そうした、自分の人生そのものがもたらしてくれる知識や経験を信じて、ストーリーに完全に飛び込み、オネーギンというキャラクターと対話すること。そこから生まれてくるエモーションに身を委ねて演じることが、何よりも大切だと思っています。
「手紙のパ・ド・ドゥ」は、『オネーギン』の最終幕のラストシーンで踊られるデュエットです。つまりオネーギンとタチヤーナ、そしてそのふたりを観ている観客と、全員の感情が最高潮に到達する文字通りのクライマックスシーンですね。第1幕から次第に物語を積み上げていくことなしに、感情もエネルギーもいきなりトップギアに入れてその頂点の場面を演じるのは、相当難しいことではないのでしょうか?
まったくその通りで、全幕を踊る時とはまったく別物の難しさがあります。全幕上演の良いところは、その日の舞台に役として生まれた自分が、物語の進行とともに成長し、成熟して、エネルギーが適切なレベルに達したところでクライマックスを迎えることができる点です。ところが今回のようはガラ公演では、そうはいきません。だから僕たちはまったく別のやり方で準備をしなくてはならなくて、僕の場合は、自分自身をバブルの中に閉じ込めるイメージで集中力を高めています。そして第1幕、第2幕と踊り抜いて第3幕にたどり着いたのと同じように感じることができるまで、自分の内面にどんどん深く入り込んでいくようにしています。

第16回世界バレエフェスティバル〈Aプロ〉『オネーギン』第3幕より手紙のパ・ド・ドゥ フリーデマン・フォーゲル、エリサ・バデネス ©︎Kiyonori Hasegawa

相手役のタチヤーナを演じるのは、同じくシュツットガルト・バレエのプリンシパル、エリサ・バデネスですね。
『オネーギン』のようなストーリーバレエを踊る時は、舞台上だけでなくリハーサルの段階から、パートナーとの関係をとても大事にしています。相手と心から親しくなれることが僕にとっては非常に重要で、その意味でエリサはまさに、大切なパートナーです。一緒に多くの困難を乗り越えてきたし、何かあれば彼女を守りたいとも思います。お互いに多くを語り合ったり分析し合ったりしなくても、感じ合うことができる。一心同体になって踊れるというか、同じ言葉を交わしていると感じられる相手です。
じつは若い頃の僕は、パートナーが誰であろうと、あまり気にせずに踊っていたんです。でもいまは、自分が好きだと思えて、踊るたびに新しい何かを感じ合えるようなパートナーと組みたいと思っています。
先ほどお話に出ましたが、Bプロで踊るマルコ・ゲッケ振付『悪夢』とはどのような作品ですか?(編集部注:『悪夢』は今回の配信には含まれません)
抽象的で、明確なストーリーはありませんが、とてもエモーショナルで特別な作品です。とても小さくて抽象的な動きが無数に詰め込まれた先で、最後に感情が伝わってくるのです。そして、いったい何が「悪夢」なのか?……それはご覧になった方それぞれの解釈次第です。観る人が自分だけのやり方で、自由に観て、ストーリーを想像して、楽しむことができる。そういう魅力のある作品です。

振付家のマルコとはもう長年にわたり一緒に仕事をしてきましたが、彼は真の才能を持つ素晴らしいアーティストです。10秒も踊ればそれが彼の振付であることがわかるくらい、「ゲッケだけの言語」というものを確立させているのですから。彼は自分のスタイルで世界とコミュニケーションをとるための、独自の方法を見つけました。アーティストが自分を表現するための新しい方法を発見し、確立するというのは、極めて特別なことです。

その「ゲッケだけの言語、彼独自のスタイル」とはどのようなものですか?
ステップがとにかく多くて、細かくて、スピーディ。それらをすべて精確に、精密に、きっちりと微調整して踊らなくてはいけません。ですから振付を覚えることがまず大変なんですよ。今回の作品は『悪夢』というタイトルですが、踊る僕たちにとってはこの振付を覚えることこそが「悪夢」でした(笑)。でも、文字通り唯一無二の、素晴らしいスタイルだと思います。

第16回世界バレエフェスティバル〈Bプロ〉『悪夢』(マルコ・ゲッケ振付)フリーデマン・フォーゲル、エリサ・バデネス ©︎Kiyonori Hasegawa

世界が「コロナ禍」と言われる状況に陥って2年ほどが経とうとしていますが、この期間を振り返ってとくに大変だったのはどんなことでしたか?
僕にとって最も困難だったのは、世界中の劇場が閉鎖されて公演ができなかったことでした。舞台に立つこと、そして踊るために世界を旅することはずっと僕の生活の一部でしたから、そのすべてが突然失われ、パフォーマンスができなくなった状況は、それじたいが自分にとっての最大の挑戦だったと言えます。実際のところ、僕らは舞台で踊ることで感情をたくさん動かしたり、本番直前に一気にアドレナリンなどのホルモンにブーストをかけたりしています。それがもう長年にわたって染み付いた心身のサイクルになっているんです。そのバイオリズムが急停止したわけですから、それはやはりとても難しいことでした。
その困難を乗り越えるために取り組んだことや、その中で得た新たな気づきなどがあれば聞かせてください。
僕はアクティブに動いている時のほうがずっと気分がいいので、まずサイクリングを始めました。自転車に乗って、自分の住む街を走って回り、それまで気づかなかったたくさんのものを発見しました。それから、磁器作りにも挑戦しましたよ。僕は完璧主義者なので、できるだけ薄くて繊細なカップを作ろうと、焼成する温度、時間、取り出すタイミングなどを緻密に計算するなど、かなりこだわりました。

サイクリングも磁器作りも、どちらもとても楽しかった。でも、何をやってみても、踊っている時ほど満ち足りた気持ちになることはありませんでした。だから久しぶりに劇場が再開して、仲間たちと一緒に稽古できるようになり、ついに再び舞台で踊れた時、こう思いました。「ああ、だから僕はダンサーになりたかったんだ。この数ヵ月の間、僕に欠けていたものはこれだったんだ」と。

じつは、コロナ・パンデミックが起こる少し前に、僕は母親を亡くしました。2020年2月に母が亡くなり、3月にロックダウンが始まったのです。だからその1年で、自分は多くのものを失ってしまったと感じました。それでも生きている僕たちの人生は続いていくのだから、前を向かなくてはいけないし、最悪な時は必ず過ぎていく。だから僕はいま自分のやっていることをもっと最大限に楽しんで、その喜びや感情を観てくださるみなさんに伝えようと考えました。

最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。
バレエのような舞台芸術は、「舞台」と「客席」というかたちで適度なソーシャルディスタンスを保ちながら感情を交換することのできる、いまの時代にもふさわしい、優れたコミュニケーション手段だと思います。それでもやはり、少しでも早くこの状況が終息して、またマスクなしでみなさんの顔を見たいです。そして握手したりハグしたり、直接ふれあえるようになることを心から願っています。

©︎Yuji Namba

フリーデマン・フォーゲル Friedemann Vogel
1980年ドイツ・シュツットガルト生まれ。ジョン・クランコ ・スクール(ドイツ)、プリンセス・グレース・クラシック・ダンス・アカデミー(モナコ)で学ぶ。1998年シュツットガルト・バレエ入団。2002年よりプリンシパルを務める。

配信情報

第16回世界バレエフェスティバル 有料配信

●配信期間:2021年12月20日(月) 18:00〜2022年1月10日(月・祝) 23:59
※配信チケット販売締切:2022年1月10日(月・祝)21:00まで
※配信期間中は何度も繰り返し視聴が可能

●配信内容の詳細・視聴チケット購入はこちら

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

類似記事

NEWS

NEWS

最新記事一覧へ