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いまこそ「バレエ」デビュー! 作品の選び方からチケットの買い方、鑑賞マナーまでを徹底ガイド

加藤 藍子

つま先で立つトウシューズや、ふんわり広がるチュチュのイメージで親しまれている「バレエ」。ところが、いざ劇場へ足を運ぶ――となると、「“バレエ”というだけで敷居が高い」「台詞も説明もないなんて難しそう」と敬遠されがちです。興味はあるけれど、なかなか一歩を踏み出す勇気が出ないというあなたへ。バレエにはまって約25年の筆者が、独断と偏見も交えて楽しみ方のヒントをご案内します。

バレエを観ると、世界が変わる

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ブザーが鳴り響き、暗転。

音楽が流れ始めて幕が開けば、そこは「非日常」の世界です。

軽やかに、そして時に全身から感情をほとばしらせながら舞うダンサーたち――。その空間に身を置いているのはほんの数時間のことなのに、私たち観客の気分はすっかり変わってしまいます。

ふさぎ込んでいたはずがご機嫌になったり、あるいは作品に流れる激しい感情に翻弄され、観る前とは違う自分になったような感覚に襲われたり。

とくにバレエといえば誰もが思い浮かべる「クラシック(古典)・バレエ」の「クラシック」という言葉には、確かに堅苦しいイメージもあると思います。
でもバレエの舞台にはそれを裏切る、新鮮な発見や生々しいエネルギーが詰まっています。
むしろ、だからこそ、数えきれないほどの上演を重ね、「クラシック」として踊り継がれてきたといえるのです。

まず、何を観る? タイプ別・おすすめ作品

とはいえ、初心者は演目の選び方にも困るもの。「運命の作品に出合えるまで挑戦し続ける」というのも一つの楽しみ方ではありますが、やはりファーストインプレッションは肝心です。楽しみ方のタイプ別に作品を紹介しますので、参考にしてみてください。

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映画・ドラマ・ミュージカル好きのあなたは「ドラマティック・バレエ」をどうぞ!

映画やドラマ、ミュージカルなどが大好きなあなたには、例えば『ジゼル』『オネーギン』『椿姫』など、濃厚な感情が渦巻くストーリー性の高い作品がおすすめです。バレエはその特徴の一つとして、台詞がないことがよく挙げられますが、だからこそあらすじさえつかめていれば直感的に楽しめます。同じ動きでも、そこにどのような感情が込められるか、物語のどのような文脈で踊られるのか、といったことで表現がガラリと変わるのです。

例えば、片脚を後ろに上げる「アラベスク」は、バレエの代名詞のように親しまれている動き。ただ、その表情は作品や役柄によってさまざまです。『ロミオとジュリエット』のバルコニーでのパ・ド・ドゥ(2人の踊り)では、ジュリエットの伸びやかな体のラインから、初恋の喜びがあふれ出すよう。いっぽう『ジゼル』第2幕で、恋人に裏切られた果てに命を落とし精霊になったジゼルのアラベスクは、重みがなく、透き通ってしまいそうなくらいに幻想的です。ニュアンスの違いを、ぜひ自由な感性で楽しんでみてください。

動画でチェック!

●「ロミオとジュリエット」(クランコ版/シュツットガルト・バレエ)

シュツットガルト・バレエ「ロミオとジュリエット」
●振付:ジョン・クランコ
●出演:エリサ・バデネス、デヴィッド・ムーア 他
●Blu-ray 5,060円(税込)
●発売元:新書館

●「オネーギン」(クランコ版/シュツットガルトバレエ)

シュツットガルト・バレエ「オネーギン」
●振付:ジョン・クランコ
●出演:アリシア・アマトリアン、フリーデマン・フォーゲル 他
●Blu-ray 5,060円(税込)
●発売元:新書館

これぞ王道!豪華絢爛なステージを見たいなら「チャイコフスキー三大バレエ」を!

豪華絢爛な世界に浸りたいなら、チャイコフスキー作曲の三大バレエ『白鳥の湖』『くるみ割り人形』『眠れる森の美女』は鉄板でしょう。「これぞクラシック・バレエ!」という“王道”感満載の舞台で、きっとあなたを満足させてくれるはずです。

まず、衣裳が豪華! ビジューがたっぷりあしらわれたクラシック・チュチュ(ピンと張った円盤状のスカートが特徴)やティアラは眺めているだけでも幸せな気持ちに。個性豊かな登場人物たちの衣裳も、彼ら・彼女らが何者であるかがひと目でわかる扮装になっていて、“元祖・コスプレ”ともいえる楽しさです。

また、こうした古典(クラシック)・バレエと呼ばれる作品には必ず登場する踊りがあります。それは、①主役カップルによる「グラン・パ・ド・ドゥ」、②人気と実力のある注目ダンサーたちが華と技を競う「ソリストたちの踊り」、③大勢のバレリーナによる一糸乱れぬ踊りに圧倒される「コール・ド・バレエ(群舞)」、④色とりどりのキャラクターたちや民族舞踊がまるでショーのように繰り広げられる「キャラクター・ダンス」です。多彩な踊りが全幕を通じて散りばめられていて、まるで万華鏡のような世界が目の前に広がります。

動画でチェック!

●「白鳥の湖」(グリゴローヴィチ版/ボリショイ・バレエ)

ボリショイ・バレエ「白鳥の湖」ザハロワ&ロジキン
●振付:ユーリ・グリゴローヴィチ
●出演:スヴェトラーナ・ザハロワ、デニス・ロジキン
●DVD 4,950円 (税込)
●発売元:新書館

●「眠れる森の美女」(グリゴローヴィチ版/ボリショイ・バレエ)

ボリショイ・バレエ「眠れる森の美女」ザハロワ&ホールバーグ
●振付:ユーリ・グリゴローヴィチ
●出演:スヴェトラーナ・ザハロワ、デヴィッド・ホールバーグ 他
●DVD 5,500円 (税込)
●発売元:新書館

子どもと一緒に!ファミリーで! 魔法みたいな仕掛けも楽しい「ハッピー・バレエ」

ご紹介した三大バレエをはじめ、童話をベースにした作品は筋書きがシンプル。プリンセスに妖精、悪魔、はたまた人形に動物……と登場人物が分かりやすく「キャラ立ち」しているので、バレエ鑑賞は初めてという子どもでも飽きずに楽しめるはず。

『くるみ割り人形』では魔法でクリスマスツリーが巨大化したり(この演出は主人公の少女がオモチャと同じサイズに縮んでいることを示している、など諸説あります)、『シンデレラ』ではあの「カボチャの馬車」が舞台上に出現したりと、ファンタジックな仕掛けも盛りだくさんです。

高いジャンプ、驚きの回転! スゴ技だらけで男子にも!「テクニック・バレエ」

スペインの恋人たちをコミカルに描く『ドン・キホーテ』は、とにかくテクニックが華やか!「バレエって、お姫様や妖精がふわふわ踊っているだけでしょ……」なんて偏見を抱きがちな男性、そして少年のみなさんにもこの興奮を体験してみてほしいです。

特に、『ドン・キホーテ』第3幕の結婚式の場面で披露されるグラン・パ・ド・ドゥでは、男性のアクロバティックな跳躍、女性の32連続回転(グラン・フェッテ)など超絶技巧が目白押し。また、最近ブームのように次つぎと新しいバージョンが誕生している『海賊』も人気の演目です。

こうした作品は、名場面やスターダンサーを集めたガラ・コンサートなどでもよく上演されます。ベースの振付はあるのですが、身体能力の高いダンサーが観たこともないような技を繰り出してくることもしばしば。あくまでバレエの動きの作法を押さえた上でのアレンジなので、単に「高く跳んでいる」「いっぱい回っている」という以上の伸びやかさと爆発力があります。この衝撃は、ぜひ劇場で味わってください。

動画でチェック!

●「海賊」(ルグリ版/ウィーン国立バレエ)

ウィーン国立バレエ団「海賊」
●振付:マニュエル・ルグリ
●出演:マリア・ヤコヴレワ、ロバート・ガブドゥーリン 他
●Blu-ray 5,500円 (税込)
●発売元:新書館

SNSで見たダンサーの驚異の身体が忘れられない…そんなあなたは「現代作品」を!

舞台の鑑賞経験はなくても、バレエをモチーフにした映画を観たり、SNSでダンサーがアップしている動画などを目にしたりしてその洗練された肉体にハッとしたことがある――。そんな人は、あえて抽象度の高い作品を「入り口」にしてみてもいいかもしれません。

例えば、振付家ウヴェ・ショルツの作品は、繊細な音の質感までもがニュアンスに富んだ動きで表現され、「観る音楽」とも評されるほど。また、バレエの基礎を土台に、独自の境地を切り拓いた振付家ウィリアム・フォーサイスのコンテンポラリー作品などもお気に召しそう。スリリングで、五感を刺激してくれること間違いなしです。

チケットを買うには

少しずつ「観てみようかな」という気持ちになってきましたか?
次に、チケットを買うまでの手順を紹介します。

見たい公演を探すには?

公演情報を集める手段として手軽なのはインターネット。各バレエ団が公式ウェブサイトに演目、キャスト、会場、料金などの情報を掲載しています。国内で代表的なバレエ団として挙げられるのは、東京バレエ団、新国立劇場バレエ団、Kバレエカンパニーなど。サイトをブックマークしておくのはもちろん、公式ツイッターアカウントなどをあらかじめフォローしておくと、情報を早めにキャッチできます。
またもちろん、この〈バレエチャンネル〉にも公演情を掲載しています!

何度か公演を鑑賞して少し慣れてきたら、ときには「ダンスマガジン」「クララ」「クロワゼ」(いずれも新書館)など専門誌をパラパラとめくってみるのもおすすめ。作品をより深く楽しむためのヒントや、注目のダンサーへのインタビューなどが載っているので、次に足を運ぶ公演の目星を付けやすくなります。また、ダンスマガジン2月号では毎年、「バレエ年鑑」という特集が組まれ、その年に上演予定の公演が一覧で掲載されます。コアなファンはそれを観ながら、手帳とにらめっこをして鑑賞スケジュールを検討することも。

チケット代はどのくらい?

チケット料金は、国内のバレエ団であれば高い席で1万円前後。2階席の端、3階席……とグレードを落としていけば、3千~5千円で買える席もあります。

一方、海外の有名バレエ団の来日公演では、この2倍以上の金額に跳ね上がります。それでも、世界最高峰の踊りを楽しめる数少ないチャンスとあって、ファンの間では争奪戦となることもしばしば。チケットは公演の半年以上前から発売されることが多いですが、人気ダンサーが主演する日程はあっという間に完売してしまうことも珍しくありません。

見やすい座席はどこ?

「座席はどの辺りがいいの?」という疑問もありますよね。これは、個人の趣向や劇場のつくりによっても違うので、「正解」はありません。

ただ一般的には、舞台の近くに寄り過ぎて見上げるような恰好になるより、全体を見渡しながらダンサーの息遣いも感じられる「中ほど」の席が好まれる傾向はありそう。席番でいうと、1階席の10~20列目辺り、もしくは2階席中央ブロックの前から5列目辺りまででしょうか。

初心者は「まず手頃な金額の席から」と考えがちですが、個人的にはあえて良席での鑑賞をおすすめします! せっかくのバレエとの出合い、存分に素敵な体験にしたいですよね(ズブズブにはまって鑑賞回数が多くなるとお財布が大変になってくるので、震える声で「い、意外と遠目から俯瞰できるのも発見があって楽しいし……」と末席を選ぶこともありますが、やっぱり大好きな演目やダンサーは1階のど真ん中で観たい、というのが本音です)。

賞マナーは「最高の瞬間」を作り上げるためのもの

チケットを確保できたら、いよいよ劇場へ。当日は、どのようなことに気をつければいいのでしょうか。

必携アイテム

まず、必携アイテムとしては主なところで次のようなものが挙げられるでしょう。

■オペラグラス
微妙な表情の変化や指先のニュアンスも、これがあれば見逃さない! 劇場でレンタルできることも多い(ただ、使用中は視野が一点にフォーカスする形になるので、肉眼での鑑賞を貫く主義のファンも)

■ハンカチ、ティッシュ
涙腺が緩い自覚のある人は特にお忘れなく

■のど飴
劇場内は飲食禁止。のどの乾燥などが気になる人は持参を(公演中にカバンをゴソゴソしたり、包み紙で音を立てたりしないように!)

■エコバッグ
プログラムはハンドバッグに入れるには大判なことが多い。収納できるものがあると便利

■ストール
劇場によっては、空調などが効きすぎていることも。温度調節ができる服装で

服装

服装について心配する声もよく寄せられますが、とくにドレスコードがあるわけではありません。海外の劇場に比較すると、パーティードレスなどで着飾る人は少ない印象です。ただ、せっかく「非日常」の世界に足を踏み入れるのなら、いつもより少しだけおしゃれをする意識で。幕間には20分前後の休憩が設けられるので、ロビーでワインなどを片手におしゃべりを楽しむのが恒例の風景です。

鑑賞中のルール

鑑賞中も、それほど堅苦しい決まりごとはありませんが、大切なのは「他の人の邪魔をしない」こと。携帯電話やスマートフォンは必ず電源を切り、また音楽が鳴っていないときでも私語は厳禁です。静かな空間では、ちょっとした物音も耳につきます。なお、基本的には開演前やカーテンコール時も含め、写真撮影は禁止されています。

また、劇場でも事前にアナウンスされるものの意外に守れない人が多いのが、「身を前に乗り出さないこと」です。客席の傾斜は緩やかなので、乗り出した分だけ後ろの人の視界を遮ってしまうことになります。椅子には深く腰掛け、背中を背もたれにしっかりと付けた状態で楽しむよう心掛けましょう。

以上を踏まえていれば、そのほかの細かいことは気にしなくて大丈夫
拍手のタイミングなども初めは迷いどころですが、オーケストラの指揮者が登場したときや、ダンサーが難しい技を披露したり踊りを終えたときなど、幾つかのポイントだけ押さえておけば十分です。慣れるまでは周囲の動きに合わせておけばいいですし、逆に観ることに集中したいときなどには、無理をして拍手しなくても構いません。流れがつかめてきたら、気持ちも少しずつ自由になれるはず。感動が最高潮にまで高まったら、ときには思いっきり「ブラボー!」などと声をかけるのもOKです。

バレエに限らず、すべての舞台に共通するのは「ライブ空間」であること。その一瞬は、「その一瞬きり」のもので、再現することはできません。普段、劇場に足を運ばない人にとっては少し厳しいように思えるマナーが設けられているのも、私たち観客一人ひとりが最高の瞬間を作り上げるための大切な役目を担っているからこそ。極上の体験を求めて、ぜひ二度、三度と足を運んでみてください。

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

8歳の頃にクラシックバレエを始める。プロダンサーを目指すが高校時代に挫折し、慶應義塾大学法学部政治学科に進学する。卒業後は全国紙の新聞記者として、政治、社会、文化など幅広い分野で取材・執筆。その後、新書館でのバレエ専門誌編集者などを経て、2018年7月に独立。フリーランスの編集者・ライターとして活動している。

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