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【第9回】ウィーンのバレエピアニスト 〜滝澤志野の音楽日記〜「”夢”のバトン」

滝澤 志野

ウィーン国立バレエ専属ピアニストとして、バレエダンサーを音楽の力で支えている滝澤志野さん。
彼女は日々の稽古場で、どんな思いを込め、どんな音楽を奏でているのでしょうか。

“バレエピアニスト”というプロフェッショナルから見たヨーロッパのバレエやダンサーの“いま”について、志野さん自身の言葉で綴っていただく月1連載。
日記の最後には、志野さんがバレエ団で弾いている曲の中から“今月の1曲”を選び、バレエチャンネルをご覧のみなさんのためだけに演奏した動画も掲載します。

美しいピアノの音色とともに、ぜひお楽しみください。

新しい年の始まりに

2020年、新しい年を迎えましたね。
令和二年がみなさまにとって心温まる素晴らしい年になりますように。
新春らしくということで、今回は「夢」について書きたいと思います。

さて、ウィーンに来て今年で10年めになるのですが(時がたつのがあまりにも早くて浦島太郎状態……)、一般認知度の低い職業である劇場付きバレエピアニストの私が、この連載をはじめとして、なぜかメディアに出る機会が多いことについて、時折考えるのです。シンプルに「なぜだろう?」自分の役割は何なのだろう。何を伝えるべきなのだろう。

芸術に憧れていた子ども時代

バレエを習っていなかった私にとって、バレエピアニストという職業は、未知のものでした。幼少の頃からピアノ、作曲、ヴァイオリン等を習い、コンサートや舞台に頻繁に連れて行ってもらっていたので、芸術をこよなく愛する子ども時代を過ごしました。

中学生になり、関西の女子校あるあるで宝塚に夢中になった私は、タカラジェンヌを夢見るように……。が、宝塚に入るには踊りの素養はなく、容姿端麗でもなく、性格的にも女の園でやっていける強さがあるとは到底思えず、自分に舞台人としての適正があるとは思えませんでした。そして、進学校で勉強漬けの日々のなか、自分の前に敷かれたレールと憧れの世界を結びつける術も分からず、悶々としていたように思います。

13歳の頃。

憧れの世界と自分を繋ぐ小さな接点を見つけたのは、誰かのインタビュー、ドキュメンタリー、宝塚の機関誌、そんななかだったと思います。稽古場の音楽家、舞台音楽の担い手、そんな職業があることを知り、ひとすじの光がさしたように思えたのでした。

「夢」をもらった気がした。

コンサートピアニストでもない、ピアノ教師でもない、舞台や作品に関わる音楽家、という職業の認識が生まれたのは14歳の頃だったと思います。

音楽の道に進むことを反対されて四面楚歌に思えていた私は、憧れていた宝塚スターさんに時折手紙を書きました。彼女はいちばんの憧れの、芸術の道に生きる人だったから。彼女は宝塚を卒業した後も私の手紙にいつも葉書でお返事をくれました。大学受験で進路に悩む私に、こんな言葉をかけてくれたことが忘れられません。

自分の信じる道を力強く歩んでくださいね」

この言葉にどれだけの勇気をいただいたでしょう。同時に芸術に生きる重みも感じた言葉でした。大切な言葉の贈り物として今も心のなかにあります。

背中を押してもらえた私は、高3の夏、自分が感銘を受けたピアニストさんにピアノを聴いてもらいに行き、その方に両親を説得してもらえたことをきっかけに、敷かれたレールから飛び出し、音楽の道に進むことになりました。(余談ですが、その方にはアメリカ留学を勧められ、日本の大学を受けずにアメリカの音大だけ受験したのですが、想定外のことが起きて結局一浪して日本の音大に行くことになったのです。もう親を振り回しすぎて、ちゃんと謝ったのか今更いたたまれなくなってきました……)

音大時代、オペラのピアノを弾くようになってからは、仕事仲間みんなで食事する機会が多くなり、バリバリご活躍されている指揮者や先輩ピアニストさんの生き方や仕事について話を聞かせてもらいました。自分の前にはいつも素晴らしい先人がいてくれて、時にアドバイスを頂き、指針にしてきたように思います。「10年後こんな風になっていたい」と思える方がいつの時代にも(今も!)そばにいてくれた私は幸せ者だと思います。

夢のバトン」を手渡したい

そして今。

ふと自分を振り返ると、道の途中で出逢ってきた先輩アーティスト達より年上になっていることに気づくのです。子どもたちと接する機会が少なく、後輩と呼べる人も身近にいない私ですが、スポットを当ててもらうことで、私が昔もらった「夢や目標」を誰かになんらかの形でバトンタッチ=夢の連鎖をしていけたら。世界はきっとそういう風にできていると思うし、それが自分に与えられた役割のひとつなのではないかと思いあたったのです。

こんな仕事があると夢見てもらえたり、悩みから脱する糸口を見つけてもらえたら嬉しいし、私もまだ道の途中ですが、心から望むことや生きる喜びを一緒に見つけていけたらーー。

みなさま、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

2011年2月、就職活動旅の最後に立ち寄ったパリで、夢が叶うよう目の前に凛と立つエッフェル塔に願いをかけました。

今月の1曲

今月の1曲は、私に夢と勇気を与えてくれた宝塚スターのこだま愛さんが歌われていて、大好きだった「Over the Rainbow」を。

2020年1月20日 滝澤志野

★次回更新は2020年2月20日(木)の予定です

New Release!

ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス3
ウィーン国立バレエ専属ピアニスト 滝澤志野

ドラマティック・バレエの名曲に加え、ウィーンのダンサーたちのお気に入りの曲や、ひたむきに稽古するダンサーたちにインスパイアされた曲をセレクト。ピアノの生演奏でレッスンしているかのような臨場感あふれるサウンドにこだわりました。

●ピアノ演奏:滝澤志野
●監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:各3,960円(税込)

★詳細はこちらをご覧ください

 

ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス1&2 滝澤志野  Dramatic Music for Ballet Class Shino Takizawa (CD)
バレエショップを中心にベストセラーとなっている、滝澤志野さんのレッスンCD。Vol.1では「椿姫」「オネーギン」「ロミオとジュリエット」「マノン」「マイヤリング」など、ドラマティック・バレエ作品の曲を中心にアレンジ。Vol.2には「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「オネーギン」「シルヴィア」「アザー・ダンス」などを収録。バー、センター、ポアント、アレグロなど、初・中級からプロフェッショナル・レベルまで使用可能なレッスン曲集です。
●ピアノ演奏:滝澤志野
●Vol.2監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:各3,960円(税込)

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

大阪府出身。桐朋学園大学短期大学部ピアノ専攻卒業、同学部専攻科修了。2004年より新国立劇場バレエ団のピアニスト。2011年よりウィーン国立バレエ専属ピアニストに就任。 レッスンCD「Dramatic Music for Ballet Class」Vol.1、2をリリース(共に新書館)。国内のバレエショップを中心にベストセラーとなっている。

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