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【第4回】ウィーンのバレエピアニスト 〜滝澤志野の音楽日記〜

滝澤 志野

ウィーン国立バレエ専属ピアニストとして、バレエダンサーを音楽の力で支えている滝澤志野さん。
彼女は日々の稽古場で、どんな思いを込め、どんな音楽を奏でているのでしょうか。

“バレエピアニスト”というプロフェッショナルから見たヨーロッパのバレエやダンサーの“いま”について、志野さん自身の言葉で綴っていただく月1連載。
日記の最後には、志野さんがバレエ団で弾いている曲の中から“今月の1曲”を選び、バレエチャンネルをご覧のみなさんのためだけに演奏した動画も掲載します。

美しいピアノの音色とともに、ぜひお楽しみください。

新しいCDの制作が始まりました

暑い日が続きますね。みなさま、夏をいかがお過ごしですか?

私はこの夏、2年ぶりに3枚目のバレエレッスンCD「ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエクラス 3」の収録をしてきました。

今年もこちらにお世話になります。ソニー・ミュージック・スタジオ。©︎Shino Takizawa

音楽、それは本来一瞬で消えてなくなる儚い芸術。いっぽうで録音は、一瞬の音楽を永遠に残すもの。音楽家のすべてが表れてしまうこの仕事は怖いものであり、同時にすべてを差し出すことができる……音楽家冥利に尽きるものでもあります。今回はなるべく、今シーズンによく弾いていたもの、いま自分が好きな音楽、そして身近なダンサーたちが好きでいてくれるものをお伝えしたい、という思いで録音に臨みました。

録音用に用意した楽譜。楽譜製本の作業が大好きです。©︎Shino Takizawa

ところで、レコーディングとはどのように行われるものなのか、みなさまご存じでしょうか。せっかくなので、今回のCDはどのような流れで作られたのか、流れを簡単にご紹介したいと思います。

まず、全体の構想を練り、選曲します。普段、クラスレッスンを弾くときは、楽譜を使わず、プランも練らずに現場入りしますが、この時ばかりは真面目に選曲。そして譜面を用意して、個々の曲をレッスン用にアレンジして、練習をします。

このあたりの準備が、じつはいちばん悩むところ。私は毎回悩みすぎて、眠れぬ夜を過ごします。なぜならレッスン曲というのは、作曲家が書いた楽譜のまま弾くのではなく、プレパレーションのための“前奏”も付けなくてはいけないし、エクササイズの内容に合わせて“編曲(アレンジ)”もしなくてはいけません。こうしたことを、私たちピアニストは毎日の稽古場では即興的に行っているわけですけれど、録音となればそれは一生残るものになりますし、本当にたくさんのみなさんに踊っていただくものになるわけです。そんな責任あるものを自分の意思で逐一決定していかなければいけないというのは、本当に不安です。人生は“選択”の連続であるということを、CDづくりを通してあらためて知った気がします。

スタジオ入り。Recordingの文字に身がピリッと引き締まります。©︎Shino Takizawa

そしてやってきました、録音当日。まずはピアノを調律していただき、響きや音色のムラを細かく調整したり、好みの音色に変えてもらったりします。また、ピアノの周りに数本のマイクが設置されるのですが、それをどのあたりに置くかでサウンドが大きく変わるので、その最終チェックも行われます。

こうして環境が整ったら、選曲の確認、1曲ずつのテンポ設定、曲の長さの確認(アンシェヌマンによって、右左を続けて行える長さにするか片側分だけにするか、バランスをキープするための音を余分に入れるか、等々)をしてから、集中して録音に臨みます。

録音中のようす。

前作から、谷桃子バレエ団プリンシパルの永橋あゆみさんに監修していただいています。これは本当に幸せなことです。このCDのプロデューサーであるオン・ポワントの阿部さや子さんとともに、その芸術性、センスの良さ、相性の良さで、前向きな意見交換ができる環境に感謝しています。

監修の永橋あゆみさんと共に。

人によっては“分割して録音して、あとで編集で繋げる”という作り方をする場合もあると思いますが、私は基本的にはそのような形態はとらず、1曲通して弾いていきます。そうして2日間にわたって約40曲を録音し、その後(今回は2日後でした)の「音調整(ミックス)」という段階で、音色や編集を含め、音を“決定”する作業を。この日に決めた音が永遠に残ると思うと、これまた責任重大な一日です。録音した曲のうち数曲はCDに入れず、捨てていかねばなりません。断腸の思いです。

エンジニアさんと音を細かく調整しながら、録音を進めます。

さらに今回は、私の限られた日本滞在中に音に関するすべての作業を済ませるべく、音調整からわずか4日後、マスタリング(音調整したものを完成版CDにする作業)にも立ち会ってきました。これは異例のスピードではないでしょうか。これまでウィーンの仕事の関係で立会いが叶わなかったのですが、今回は初めて立ち会うことができ、ここでまたいろんな意見交換ができたことを嬉しく思っています。

***

3度目のCD録音を終えて心に残ったことは、チームへの“信頼感”です。CD完成版では私の名前が大きく表に出るかもしれませんが、3年前から同じチームーー新書館&ソニーミュージックで仕事しており、そのチームを信頼しているからこそ、集中してそして自由に仕事できている、とあらめて感じました。

収録仕事の時はいつも同じホテルに泊まり、この景色を眺めます。私のエネルギー源。©︎Shino Takizawa

ここから商品にするのに、また大きく長い作業が待ち構えています。でも、まずは音楽面は完成。こと音楽に関してはいつも求道の途にあり、「これがベスト」と言いきれることはないかもしれません。ですが、一つひとつの仕事、作品とともに成長していけたら、と願っています。

©︎Shino Takizawa

今月の1曲

今月の1曲は少し目先を変えて、今回のレコーディング風景を撮ってみました。 iPhoneで撮影したものなので演奏部分の音質が良くないのですが、もちろんCDのほうでは美しい響きをお楽しみいただけます!

2019年8月20日 滝澤志野

★次回更新は9月20日(金)の予定です

 

ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス1&2 滝澤志野  Dramatic Music for Ballet Class Shino Takizawa (CD)
バレエショップを中心にベストセラーとなっている、滝澤志野さんのレッスンCD。Vol.1では「椿姫」「オネーギン」「ロミオとジュリエット」「マノン」「マイヤリング」など、ドラマティック・バレエ作品の曲を中心にアレンジ。Vol.2には「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「オネーギン」「シルヴィア」「アザー・ダンス」などを収録。バー、センター、ポアント、アレグロなど、初・中級からプロフェッショナル・レベルまで使用可能なレッスン曲集です。
●ピアノ演奏:滝澤志野
●Vol.2監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:各3,888円(税込)

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

大阪府出身。桐朋学園大学短期大学部ピアノ専攻卒業、同学部専攻科修了。2004年より新国立劇場バレエ団のピアニスト。2011年よりウィーン国立バレエ専属ピアニストに就任。 レッスンCD「Dramatic Music for Ballet Class」Vol.1、2をリリース(共に新書館)。国内のバレエショップを中心にベストセラーとなっている。

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