今回撮影したリハーサル写真のなかで、フェリが最も好きだといった1枚
現在上演中、今夏注目の公演「フェリ,ボッレ&フレンズ 〜レジェンドたちの奇跡の夏〜」。
前半のAプロ(8月3日まで)ではフェリ&ボッレによる『マルグリットとアルマン』など話題の演目が続々と上演され、後半のBプロ(8月3日・4日)ではフェリの復帰作のひとつ『フラトレス』など、ノイマイヤー作品を中心としたプログラムが予定されています。
開幕直前に東京バレエ団のスタジオで行われていたリハーサルの様子を、舞台写真家・瀬戸秀美さんが撮影。
その美しい写真の数々を、出演ダンサーたちへのインタビューと共に3回連続でお届けしています。
ラストはアレッサンドラ・フェリ&ロベルト・ボッレによる『マルグリットとアルマン』(振付:フレデリック・アシュトン)のリハーサル風景から。
インタビューはマルセロ・ゴメスです。
素晴らしい写真、そしてインタビューです。
どうぞたっぷりお楽しみください。
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リハーサル風景 vol.3 「マルグリットとアルマン」
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:フランツ・リスト
出演:アレッサンドラ・フェリ&ロベルト・ボッレ ほか
撮影:瀬戸秀美
今回の公演では公爵役をアレクサンドル・リアブコが務め、アルマンの父役をマルセロ・ゴメスが演じる。豪華!
『マルグリットとアルマン』振付指導のグラント・コイル氏。細かなアドバイス一つひとつに耳を傾けるフェリとボッレの真摯な表情から、舞台にかける思いが伝わってくる
リハーサルの合間にはこんなリラックスした笑顔も
出演者インタビュー マルセロ・ゴメス
©︎Ballet Channel
- ゴメスさんは今回の公演を通して3人のパートナーと踊りますね。『ボレロ』『リベルタンゴ』を上野水香さんと、『アモローサ』をシルヴィア・アッツォーニさんと。そしてゴメスさん自身が振付けた『アミ』をアレクサンドル・リアブコさんと一緒に踊ります。
- ゴメス 本当に嬉しいことです。まず水香とは昨年の「Jewels from MIZUKA Ⅱ」で初めて一緒に踊りました。パートナーシップというのは時間をかけて育てていくものですが、あの時はリハーサルを始めたとたん、僕たちは驚くほど相性が良いと瞬時にわかった。お互いもっと一緒に踊っていくべき相手であり、日本であれ海外であれ、ふたりでもっとたくさんの舞台に立つべきだと感じました。だから今回水香と踊ることが決まった時、僕はまず『ボレロ』を熱望しました。この作品は時間的に長いので、ダンスの本質的な部分をふたりでじっくり掘り下げていけると思ったのです。水香と僕は、一緒に踊ると心が安らぐ。そんなパートナーを見つけることができて、僕たちは本当に幸運です。
- シルヴィアとはもう長年の友人で、お互いの人生についてもたくさんの話をしてきました。でも、パートナーを組んだことはこれまで一度もなかったんですよ!「一緒に踊りたいね」「じゃあ来年はどう?」……というやりとりを何年も繰り返すばかりで(笑)。しかしついに、その念願が果たされます。『アモローサ』は舞台の外で重ねてきた友情を込めて踊りたいと思います。
- そしてもちろん、シルヴィアの夫であるサーシャ(編集部注:アレクサンドルの愛称)とも親友です。『アミ』は僕が2011年に振付けた作品ですが、僕にとっては、これを一緒に踊る相手として彼ほどふさわしい人はいません。というのも、“アミ”というのは“友達”という意味だから。この作品は、幼い頃から一緒に育ったふたりの男についての物語です。彼らは幼なじみで、同じ学校に通い、周りの人間関係も同じ。そしてお互いのことが大好きではあるけれど、競争心も抱いている。気心の知れた相手でありながら、絶対に負けたくない相手でもあるのです。この作品は、おそらく観客のみなさんにはどことなくコミカルに感じられると思いますが、踊っている僕らはあくまでも大真面目。決して笑わせようとはしていないけれども、お客様から観ると何だか可笑しい。そんなこの作品ならではのテイストを、サーシャは瞬時に理解してくれました。彼は本当に繊細な心、繊細な魂の持ち主です。
- あなたが振付をする際に、インスピレーションの源になるものは何でしょうか?
- ゴメス たいていの場合、最初のインスピレーションになるものは音楽です。音楽を聞いて、まずはそれが大人数で踊るのにふさわしいか、パ・ド・ドゥがいいのか、あるいはソロなのかというところをイメージします。そして、例えば『アミ』にはショパンのノクターンを使用していますが、この曲を聞いた時、僕はこれは一種の“対話”だと思いました。ひとりが話しかけ、もうひとりが答えていると感じた。そのイマジネーションが出発点となって生まれたのが、あの振付です。
- 今回のBプロで水香さんと踊る『リベルタンゴ』も、ゴメスさんが「ぜひ踊りたい」とおっしゃったそうですね。
- ゴメス ええ、そうです。『リベルタンゴ』にも、『ボレロ』と共通するフィーリングがあります。どちらも男女の間で火花の散るようなエネルギーが交わされ、ふたりの関係性も少し似たところがある。でも振付やステップはもちろん異なっていて、両者を比較すると、『ボレロ』のほうがより重厚で、『リベルタンゴ』のほうが軽やかです。『リベルタンゴ』はご存じの通り音楽も最高ですし、とにかく観客のみなさんにぜひリラックスして楽しんでいただきたい。そう思ってこの作品を選びました。
- 上野水香さんもインタビューでおっしゃっていましたが、ゴメスさんは本当に世界中のバレリーナから一緒に組んで踊るパートナーとして厚い信頼を寄せられていますね。
- ゴメス 僕にとって、パ・ド・ドゥを踊ることは人生最大の喜びのひとつ。相手が誰であろうと、何の作品であろうと、パートナリングは僕にとって魂の栄養なのです。たとえ本番までに2日間しかリハーサルできなかったとしても、相手と繋がりパートナーシップを築くことはできます。本当に集中して「相手のことを知りたい」と思えば、2日間でも充分に可能なのです。例えば水香と僕はまだパートナーを組み始めたばかりですが、彼女はとてもオープンな性格で、相手や他の人の意見に対して素直に心を開いてくれる。だから僕らは驚くほどのスピードでパートナシップを築くことができています。
僕は、相手と一緒に舞台に向かうことじたいが好きなのだと思います。“僕のショー”、“彼女のショー”ではなくてね。ふたりで一緒に同じストーリーを語ること。それがバレエの特別なところであり、芸術性なのではないでしょうか。
- ゴメスさんは、相手のバレリーナを本当に美しく見せることのできるパートナリング技術をお持ちですが、その“秘訣”とは何でしょうか?
- ゴメス もしも僕のパートナリング技術が優れているとしたら、それはすべて、これまで一緒に踊ってきたバレリーナたちが教えてくれたことです。アメリカン・バレエ・シアター(ABT)で踊っていた頃の素晴らしいパートナーたちーージュリー・ケント、アマンダ・マッケロー、スーザン・ジャフィー、ニーナ・アナニアシヴィリ、アレッサンドラ・フェリ、ディアナ・ヴィシニョーワ……彼女たちは未熟だった僕に、「あなたはどうしたい?」「私はこうするといいと思うけど、あなたは?」等々といつもたくさん質問をしてくれました。そうしてコミュニケーションを深めながら、パートナーシップというのはこうやって築いていくのだということを、身をもって教えてくれたのです。
だから、僕はいまこう思います。パートナリングの最大の秘訣は、“聞くこと”です。相手が何を言おうとしているのかを、まずは聞くこと。そして彼女はどのように呼吸をするのか? 背中でどんな合図を送ってくるのか? といった身体からのメッセージにも耳を傾けるのです。もちろん、女性をリフトしたりサポートしたりするためには、相応の筋力や強い背中、強靭なコアが必要。しかしそれだけでは駄目で、パートナリングに最も大切なのはやはり“対話”だと思います。舞台に立ったら、まるで風車みたいに絶えずお互いに語りかけ、お互いに答え合いながら、最後までずっと進化し続けるんです。
- 素晴らしいお話です。
- ゴメス 僕は舞台に出る前にものすごく緊張してしまったり、アドレナリンが出すぎてしまっていると感じたりした時は、自分自身にこう言い聞かせるんですよ。「いいかいマルセロ、今日はとにかく彼女が僕に何を言おうとしているかだけに集中するんだぞ。そしてただひたすら、彼女が求めていることに応えるんだ」と。客席も、舞台袖も、舞台裏も、何も気にしない。とにかく相手だけに焦点を合わせる。そうするとふたりだけを包む小さなシャボンができるような、素晴らしい感覚になれるんです。
「ボレロ」を稽古中の上野とゴメス
- 最後に、フェリとボッレについても聞かせてください。まずフェリさんは6年前にいったん引退し、ふたたび舞台に戻ってきました。戻ってきた彼女を見て、何か変化や進化を感じますか?
- ゴメス 嬉しいのは、僕がABTを去ってからのほうがアレッサンドラと自由に世界中の舞台を回ることができるようになったこと。そしてアレッサンドラ・フェリという人間のことを、より深く知れるようになったことです。ABT時代はお互いにとても忙しく、仕事のタイミングがすれ違うことが多かったように思います。いまあらためて真にお互いを知るようになり、話す時間も増え、舞台上での時間もより心地よく共有できるようになった気がします。
人は誰しも、15年前と同じように踊ることはできません。過去のものをもういちど作り直すこともできません。僕たちは、いまここにある自分の体でできることを受け入れ、自分の心の在りようを受け入れ、そのすべてを舞台の上に差し出さなくてはいけない。――これが、僕がいまアレッサンドラとパートナーを組み、彼女と一緒に踊っていて感じることです。彼女はいまの自分というものをすべて受け入れています。そして身体的には素晴らしいスタイルを保ち、強靭さも失っていない。立ち止まる気配といったものがまったく感じられません。若いバレリーナには感じたことのないエネルギーがみなぎっていますし、こうして一緒に舞台に立つことができて、僕は素晴らしい体験をさせてもらっています。
- そしてロベルト、彼はどんな時も僕の憧れです。アーティストとしても、ダンサーとしても、人間としても。アレッサンドラもロベルトも、間違いなくバレエ史に名を残すレジェンドです。今回はそんなふたりを目撃できる公演なのですから、観客のみなさんはもちろん、僕ら出演者も、本当に幸運だと思う。この舞台を観にきてくださったお客様を別世界へとエスコートできるように、僕自身も100%の努力をして臨みます。
©️Ballet Channel
公演情報
「フェリ,ボッレ 〜レジェンドたちの奇跡の夏〜」