左から宮川新大、秋元康臣、柄本弾、斎藤友佳理芸術監督、上野水香、川島麻実子、沖香菜子 ©️Tomohiro Ichimura
「東京バレエ団にとっては、50周年よりも5年後の60周年よりも、この55周年のタイミングの方が実は重要です。いまこそ、東京バレエ団が大きく変わる、変わらなければならないタイミングなのではないかと思っています」
東京バレエ団を擁する日本舞台芸術振興会(NBS)専務理事・高橋典夫は、開口一番、こう語った。
今年で創立55周年を迎えた東京バレエ団。
この周年を記念する公演シリーズの全貌と詳細についての記者会見が、2019年6月4日、東京・帝国ホテルにて行われた。
登壇者は以下の8名。
●公益財団法人日本舞台芸術振興会/NBS専務理事
高橋典夫
●東京バレエ団芸術監督
斎藤友佳理
●東京バレエ団プリンシパル
上野水香
川島麻実子
沖香菜子
柄本弾
秋元康臣
宮川新大
***
まずは55周年記念シリーズの全体像から。
- 2019年 東京バレエ団公演ラインナップ
- 1:プティパ生誕200年記念『海賊』 2019年3月
2:上野の森バレエホリディ『白鳥の湖』(ブルメイステル版) 2019年4月
3:第34次海外公演 2019年6月~7月
①ポーランド(日本・ポーランド国交樹立100周年)
*ウッチ歌劇場「第25回ウッチ・バレエフェスティバル」
『ザ・カブキ』2回上演
*カラカラ野外劇場
『ラ・バヤデール』より”影の王国” 『タムタム』『春の祭典』
②オーストリア(日本・オーストリア友好150周年)
*ウイーン国立歌劇場
『ザ・カブキ』3回上演
③イタリア
*ネルヴィ国際ダンスフェスティバル
『ラ・バヤデール』より”影の王国” 『タムタム』他
*ミラノ・スカラ座
A/『セレナーデ』『ドリーム・タイム』『春の祭典』 B/『ザ・カブキ』 A,B各2回上演
4:第7回めぐろバレエ祭り『サマー・バレエ・コンサート』/子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』 2019年8月
5:東京バレエ団×勅使川原三郎新作<世界初演>/バランシン『セレナーデ』/ベジャール『春の祭典』 2019年10月
6:『くるみ割り人形』(新制作) 2019年12月
7:『ラ・シルフィード』(ラコット版) 2020年3月
直近の注目は、この6月から7月にかけて行われる〈第34次海外公演〉。
「このヨーロッパ公演は、55周年に向けて長い時間をかけ準備したものです。ウイーン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座という、世界でも最高峰のオペラハウスに、同時に出演するというのも、なかなか他の団体ではできないことではないかと自負しています」(高橋)。
このツアーには、先ごろ刊行したばかりの「バレエで世界に挑んだ男」(桜沢エリカ/光文社刊)の英語版(新書館刊)を持参し、各国の関係者に配布する予定だという。
また10月末には、勅使川原三郎の新作が待つ。
「これは近い将来、海外で上演することを想定しています。これまでも東京バレエ団には”どうして日本人の振付家の作品がないのか?”という声がありました。先代の佐々木忠次はベジャールやノイマイヤーに、日本を題材にした創作を依頼しました。当時は佐々木の眼鏡にかなう日本人の振付家はいなかったのかもしれません。今回作品を委嘱する勅使川原さんはご承知の通り海外でも活躍し、評価を受けている振付家です。音楽は武満徹さんの作品が使われる予定で、素晴らしい作品が出来上がるかと期待しております。この勅使川原さんの作品は、日本人の振付家の作品ということで、これから海外に発信していきたいと思います」(高橋)
また今回の会見においては、東京バレエ団の母体である〈チャイコフスキー記念東京バレエ学校〉の意義や、今後のバレエ団との連携の強化等についても強調された。
「東京バレエ団は今年で55周年ですが、その母体であるチャイコフスキー記念東京バレエ学校は、来年で60周年を迎えます。この辺のことに関しましては斎藤慶子さんが執筆中である「チャイコフスキー記念東京バレエ学校(仮題)」(文藝春秋刊)を、12月の新制作『くるみ割り人形』の上演に合わせて出版する予定です。東京バレエ学校という存在がいかに重要だったか。これは日本のバレエ史に於いても一石を投じることになるのではと思っています。
併せて、これからは東京バレエ団と東京バレエ学校との連携を強める必要があるかなと。ボリショイ・バレエ学校や英国ロイヤル・バレエ・スクール、パリ・オペラ座バレエ学校のように、そこから優れた人材を引き上げていくという形が必要なのだと思います。
来年8月の東京バレエ学校開校60周年を記念して、ジョン・ノイマイヤーがバレエ学校の生徒たちに振り付けた作品『ヨンダーリング』を上演する予定です。こちらは東京バレエ学校の生徒のみならず、日本全国から若い優秀な人材に参加してもらいたいなと思っております。7月にはジョン・ノイマイヤー自身が来日してオーディションを行い、彼のバレエ学校のスタッフが来日して指導し、ノイマイヤーが仕上げたうえで上演する運びとなる予定です」(高橋)
「一言でいえば、55周年のテーマは”東京バレエ団のブランディング”です。竹の節目のように、この55周年記念シリーズを通じて成長の節目にしたい」(高橋)
各公演の詳細について
続いて芸術監督の斎藤友佳理から、創立55周年記念シリーズの公演ラインナップについての詳細が語られた。
©️Tomohiro Ichimura
1:プティパ生誕200年記念『海賊』 2019年3月
斎藤 3月に『海賊』全幕上演を実現することが出来ました。日本のバレエ団の中で唯一東京バレエ団だけが、プティパ生誕200年ということを意識して公演出来たことと思います。歳を重ねるごとに若い世代の人たちに少しでも歴史を振り返ってもらいたいという気持ちが増してきていまして、今回についてはとても誇りに思っています。
2:上野の森バレエホリディ『白鳥の湖』(ブルメイステル版) 2019年4月
斎藤 4月は〈上野の森のバレエホリディ〉でブルメイステル版『白鳥の湖』全幕、そして子どものために1時間に凝縮した「はじめての『白鳥の湖』〜楽しいお話と第3幕〜」に初挑戦しました。『白鳥の湖』はバレエの代名詞のようなものですし、子どもたちが劇場に足を運ぶきっかけやチャンスを出来るだけ作りたい、少しでもバレエに興味を持ってもらい、バレエを愛してくれる観客を育てていかなければいけないと感じています。今年の〈上野の森バレエホリデイ〉は来場者数が8万3千人以上でした。また「はじめての『白鳥の湖』」には親子連れのお子さんがたくさんいらして、「バレエをやってる人、手を挙げて!」と尋ねたら、本当に多くの手が挙がってびっくりしました。
3:第34次海外公演 2019年6月~7月
斎藤 先ず海外公演の最初は、ポーランドのウッチ歌劇場。「日本・ポーランド国交樹立100周年」ということです。このウッチ歌劇場の『ザ・カブキ』の初日に、東京バレエ団の『ザ・カブキ』は上演200回目を迎えることになります。
そしてローマのカラカラ野外劇場、これは2014年に続く2度目の実現です。野外劇場で『ラ・バヤデール』の“影の王国”と『春の祭典』。この2つだけでは少し物足りないので、両方の作品を活かすには何が一番いいのだろうかと考え、『タムタム』を間に入れて上演することにしました。
その次はウイーン国立歌劇場で『ザ・カブキ』を3回。「日本・オーストリア友好150周年」ということです。前回ウイーンで公演を行ったのは1989年でしたので、今回まさに30年ぶりで3度目になります。’89年の時は私も『ラ・シルフィード』を踊りました。
そして「ネルヴィ国際フェスティバル」。これは2度目の参加になります。
それからミラノ・スカラ座で『ザ・カブキ』と『ミックスプロ』(バランシン『セレナーデ』、キリアン『ドリームタイム』、ベジャール『春の祭典』)です。
4:第7回めぐろバレエ祭り『サマー・バレエ・コンサート』/子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』 2019年8月
斎藤 『ドン・キホーテの夢』は、去年のバレエ祭りでも上演したのですが、地方の劇場や会場の方たちから「ぜひ子どもの『ドン・キホーテ』を持って来て欲しい」というご要望がありました。
それと同時に『サマー・バレエ・コンサート』を上演します。これにつきましては、私が就任して3つの大きな目的があります。
1つ目は、「コレオグラフィック・プロジェクト」の成果をここでぜひ皆さんに披露したいということ。
2つ目は、バレエ団にひとつでも多くのレパートリーを増やしていきたいということ。
3つ目は、先ほど言ったように、歴史を伝えていきたいということ。
まずコレオグラフィック・プロジェクトの成果という点では、今回観客賞で選ばれましたブラウリオ・アルバレスの『夜叉』、そして昨年ギエムさんやノイマイヤーさんにアドバイスを頂いた、岡崎隼也の『理由』という作品を上演します。
そしてひとつでも多くのレパートリーを増やすべく、ワガノワ生誕140周年でもありますので、彼女の代表作『ディアナとアクテオン』を上演しようと思っています。
そして歴史を伝えていきたいということについて。ワガノワという人物については、本当に知られていません。日本の子供たちに「ワガノワって誰?」と聞いてもワガノワ・バレエ・アカデミーしか知らない。ダンサーたちでも”ワガノワ・メソッドを作った人”という程度の知識なのです。ですからこの140周年という機会に、ワガノワという人がどういう人だったのかということを、『ディアナとアクテオン』を通して知ってもらえるチャンスになればいいなと思っています。
5:東京バレエ団×勅使川原三郎新作<世界初演>/バランシン『セレナーデ』/ベジャール『春の祭典』 2019年10月
斎藤 どうして55年の歴史があるにも関わらず、日本人の振付家は誰も東京バレエ団のために作品を作っていないのか。私自身もとても不思議でした。でも時代は変わり、勅使川原さんというヨーロッパでも名が通り、パリ・オペラ座で3回も作品を作った日本人の振付家がいる。これから先は勅使川原さんだけでなく日本人の色々な振付家の方に作品を依頼したいと思っており、今回はその第一弾となります。
勅使川原さんには大変申し訳なかったのですが、最初に作品を依頼した時、私はこうお願いしました。「東京バレエ団にしかできない、真珠のような作品を作ってください。そして海外でも日本でも受け入れられるようなもの。海外に持って行きやすいよう装置はあまり大掛かりでないもの。話題性があり、大成功する作品を作ってください」と(会場笑)。プレッシャーをかけてしまって大変申し訳なかったのですが、とても楽しみにしています。プログラムは勅使川原さんのその作品が活かせるように、前後にはバランシンの『セレナーデ』とベジャールの『春の祭典』を持ってきました。
6:『くるみ割り人形』(新制作) 2019年12月
斎藤 全部をありのままに言ってしまいますと……私はダンサーとして踊っていた時から、何かこう、納得がいかなかったのです。東京バレエ団の『くるみ割り人形』は〈ワイノーネン版〉と打ち出しています。でも私はロシアでワイノーネン版を散々観てきただけに、「これは正式なワイノーネン版ではないのに、なぜ?」と、とても不思議な思いで踊っていました。ですから自分が芸術監督になってから、この問題をいちばん良い形で解決しなければいけないと思い続けていました。前回上演した際は、私が監督になって直ぐの頃だったのでそこまで手が回らず、「どうしてもここは」という雪のシーンの男性パートに手を加えただけで、根本的に変えることはできませんでした。その後もどういう形にするのがいちばん良いのか模索し、チャンスがあれば世界中の『くるみ割り人形』を観てきましたが、良いところもあれば納得いかないところもありました。そして20年以上踊ってきた東京バレエ団の『くるみ割り人形』に対して、本当に愛着があるのだということもあらためて分かりました。クレジットの面はハッキリしていないけれども、作品自体はとてもよく出来ているのです。
去年の12月、『ザ・カブキ』の最中に、高橋さんが今年度のラインナップに「新制作」という3つの文字を入れてしまいました(会場笑)。「この55周年の機会で、東京バレエ団の『くるみ割り人形』は変えなくてはいけないんだ」と。
今回の『くるみ割り人形』は、先ず衣裳と装置はリニューアルする。そして柱となる”東京バレエ団バージョン”の演出的なところはそのまま残し、私が踊っていた頃から気になっていた部分を付け加えての新制作、という形です。装置は37年前に作られたもので、劣化が進んでいるため、私が監督になったときには既にプロジェクションマッピングが導入されていました。このプロジェクションマッピングを使った演出は苦肉の策だったと聞いています。ですから今回はそれをメインにするつもりはありません。
7:『ラ・シルフィード』(ラコット版) 2020年3月
斎藤 最後に、創立55周年にふさわしいこの『ラ・シルフィード』は、私の原点、全てにおいての原点です。ダンサーとしても、東京バレエ団との関係においても、そして指導者としても原点。その作品に戻りたいと思っています。
©️Tomohiro Ichimura
プリンシパルたちの抱負
ここからマイクは登壇していたプリンシパルたちへ。まずは間近に迫ったヨーロッパツアーについて、6人のダンサーたちがひと言ずつ意気込みを述べた。
上野 昨日モスクワの野外劇場で踊って来ましたが、そのときに今回の海外ツアーにも野外公演があることが頭に浮かびました。作品は『ザ・カブキ』『セレナーデ』『ラ・バヤデール』の影の場面を踊らせていただきます。今回は代表的なオペラハウスですとか、素敵な場所にたくさん行けると思うので、それぞれの場所のそれぞれの雰囲気だったり、お客さんだったり、そういったものを感じながら、ひとつひとつ大切に踊りたいと思います。
上野水香 ©️Tomohiro Ichimura
川島 私は『ザ・カブキ』『セレナーデ』そして『ドン・キホーテ』のグラン・パ・ド・ドゥを踊らせていただきます。今までに訪れたことのある場所、そして初めて訪れる場所、この10何年東京バレエ団にいて海外ツアーに何回も参加させて頂けて、この創立55周年という節目の年にも参加できることを本当に誇りに思いますし、身の引き締まる思いです。日本でやっている演目も、場所が変わればお客様の反応が違うと思いますし、それぞれの劇場の雰囲気や日常などで感じる空気だったりが、自分にフレッシュに入ってくると思うので、また新しい気持ちで、丁寧にひとつずつ踊って来たいと思います。
川島麻実子 ©️Tomohiro Ichimura
沖 私が入団してから1カ月間の海外ツアーは初めて、またこれだけの作品数が上演されるのも初めてです。未だどのようなツアーになるのか自分でも想像がついていません。ダンサーにとってたくさんの振付家の作品を踊らせていただくということは、それぞれの振付家のスタイルを踊るということで、全てを身に着けなければいけないという難しさもあるのですが、それを挑戦させて頂けるのはこの東京バレエ団にいるからだなと思います。そのありがたさを感じながら、また海外で踊れることに嬉しく思っておりますし、無事成功できるように頑張って踊って来たいと思います。
沖香菜子 ©️Tomohiro Ichimura
柄本 今回、僕は『ザ・カブキ』『ラ・バヤデール』『春の祭典』に出させて頂く予定です。特にミラノ・スカラ座の『ザ・カブキ』については、前回の時は僕はコール・ド・バレエだったので、今回そこで由良之助を踊らせていただけるというのが、自分のなかではすごく楽しみです。斜舞台であることは自分にとっての課題かなと思うので、しっかり調整しつつ、その場その場の舞台を楽しみながら、やっていけたらと思っています。
柄本弾 ©️Tomohiro Ichimura
秋元 今回は『ザ・カブキ』『セレナーデ』『ドン・キホーテ』そして『春の祭典』は初挑戦させていただきます。入団して日も浅いので、長期海外ツアーに出るのは初めてなんですけれども、ウイーン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座という歴史が深い劇場で踊れることを、すごく幸せに思います。これは日本では東京バレエ団でしかできない貴重な経験だと思いますので、そういう雰囲気を味わいながら、そして何より、日本でまた同じ演目をするときに、その空気感を皆さんにお届けできるように、しっかり頑張って来たいと思っております。
秋元康臣 ©️Tomohiro Ichimura
宮川 今回は『ザ・カブキ』『タムタム』『ドリームタイム』を踊らせていただきます。僕自身、ヨーロッパ生活というか、海外ですごしてきた時間が長いので、東京バレエ団の海外ツアーは、僕にとっては一種の里帰りみたいな感じで(笑)、毎回楽しみです。自分の作品についてももちろんですが、各地にいる友達と連絡を取り合って、劇場で再会できたりするのも、また楽しみのひとつとなっております。
宮川新大 ©️Tomohiro Ichimura
記者との質疑応答
- 記者1 海外公演に関して、観客の反応や観客層の変化みたいなのは感じられますか?
- 斎藤 私は、バレエ団の最後の方は海外公演は出来るだけ行かずに大学の勉強の時間に使っていたので、今と昔をはっきりと比べることはできないのですが、例えば『カブキ』でも、日本でうける場面とヨーロッパでうける場面は違います。「ああ、ヨーロッパの人たちはこういうことで喜んで下さるんだ」ということが多く、また昔はフェスティバルの一参加者であったようなところもありましたが、最近は、東京バレエ団の公演をお客様が待ち望んでいて下さると肌で感じることが出来ます。
上野 友佳理さんがおっしゃっていたように、東京バレエ団は何度も何度も海外公演を重ねてきていて、私のダンサー仲間もそうなのですが、海外では「日本といえば東京バレエ団」と思っている方がすごく多く、やはり人気のある有名なバレエ団なのだと思います。海外ツアーを重ねていくにつれて、歓迎ムードはどんどん高まってきているのを感じています。
©️Tomohiro Ichimura
- 記者2 勅使川原さんは新しい身体芸術の可能性を世界に向かって開いた方で、バレエとは違うテクニックや、人間の身体の可能性を求めて、いろんな化学反応を起こす方だと思います。いろいろと劇薬になるところもあるかもしれませんが、斎藤監督としては、このバレエ団を未来につなぐ新しい挑戦についてどんな期待を持っていますか?
- 斎藤 この勅使川原さんとのお仕事はこれが初めてでなく、ダンサー達もみんな初対面ではありません。名古屋で『魔笛』の演出・振付をなさった時に、勅使川原さんからのご提案で東京バレエ団のダンサーを使ってくださいました。その時に、先ずある程度ダンサー達が理解し、時間をかけて身体に入れなければ何もできないということで、彼のワークショップの時間を何回か取って、ダンサー達全員が参加しました。そのなかで彼が選んだダンサーによって上演されたのが『魔笛』です。東京バレエ団はあくまでもクラシック・バレエ団であるので、その歴史を大切にしていきたいと思いますが、でも今の時代は、振付家がそれぞれのテイスト、まったく違う色をもっているんですよね。ですから勅使川原さんにしか出せない独特な世界観は、ダンサー達にとっても刺激になると思いますし、私もその化学反応を楽しみに見守っていきたいと思います。きっと何かいい結果がそこで生まれると信じております。そして海外で、東京バレエ団の勅使川原三郎の作品を観たいという話題に繋がっていけると思います。
- 記者3 55周年ということで、佐々木さんの時代と、高橋さんが引っ張っていく東京バレエ団の大きな違いとは?
- 高橋 いちばん大きなことは、完全に時代背景が違っているということです。例えば今、日本人の若手のダンサー達がどんどん海外に出て行って、向こうで活躍するのが当たり前になってしまっていること。また、もうずいぶん前の話ですけれども、バーミンガム・ロイヤル・バレエをNBSが招聘した時、吉田都さんが主役で踊ったことがあるんです。発表したら一般のお客さんから「どうしてイギリスのバレエ団なのに日本人を踊らせるんだ」と。ところがいまは完全に逆です。例えばロイヤル・バレエ公演でも、真っ先にチケットが売れるのが(今回は降板されますが)高田茜さんであったりする。つまり、超ビッグスターではどうか分かりませんけれども、ややもしたら日本人のダンサーの方が逆に人気があったりもしますね。そうした状況に合わせて、我々がどう手を打っていくかが課題です。明らかに時代は変わっている。それが一番痛感しているところです。
訂正のお知らせ
*2019年6月10日訂正
「2019年 東京バレエ団公演ラインナップ」にあります〈ネルヴィ国際ダンスフェスティバル〉を〈オーストリア〉に分類しておりましたが、正しくは〈イタリア〉でしたので、訂正しました。