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【バレエ目線で堪能!】ミュージカル「ナビレラ-それでも蝶は舞う-」編集部座談会

バレエチャンネル

撮影・編集:Kazuto Hoshino

2024年5月18日から6月8日までシアタークリエで上演された、ミュージカル『ナビレラ-それでも蝶は舞う-』

2016年に韓国のWEB漫画として生まれ、Netflixドラマでも大ヒットした、バレエを踊ることを夢見る老人とバレエダンサーを目指す青年の物語。今回の上演は、2019年にソウル芸術団が舞台化した韓国ミュージカル『ナビレラ』の日本版初演。一流バレエダンサーを目指す若者イ・チェロク役は、自身も5歳からクラシック・バレエを習いコンクール入賞経験も持つ三浦宏規、そしてバレエに魅せられた老人シム・ドクチュル役を川平慈英が演じました。

あらすじ
一流のバレエダンサーを目指すイ・チェロクは才能を持ちながらも、自身を取り巻く厳しい現実に将来を見出せず、スランプに陥っていた。一方、郵便配達員として家族のため長年働いたシム・ドクチュルは定年を迎え、残りの人生を考え始める。
ある日、ドクチュルはダンススタジオを通りかかり、そこでチェロクが踊る姿に心を奪われる。ドクチュルは子どもの頃バレエダンサーに憧れていたが、家庭は貧しく、実現できる環境ではなかったのだ。かつて諦めた夢に挑戦しようと、チェロクが踊っていたスタジオを訪ね、バレエのレッスンを受けたいと伝えるが、チェロクは相手にしない。それでも熱心に通い続けるドクチュルを見たバレエスタジオの団長から、チェロクはドクチュルのバレエの指導者になるよう、そしてドクチュルはチェロクのマネージャーになるよう、言い渡される。
こうして、若者と老人、一見奇妙な2人のバレエレッスンが始まった―。

バレエを軸にしたストーリー、三浦宏規さんを中心にダンスシーンもたっぷりとなれば、これは観るしかない!…… と、バレエチャンネル編集部のミュージカル班3名が鑑賞。バレエ目線からも大いに楽しめた『ナビレラ-それでも蝶は舞う-』について、編集部座談会を開催しました。

\座談会メンバーはこちら/

バレエチャンネル編集長。好きなパはファイイ・アッサンブレとランヴェルセ
かつて小劇団を主宰し、脚本・演出を手掛けていた異色の編集部員
元バレリーナ編集部員。アラームは『エリザベート』の「最後のダンス」

~🦋~

まずは感想から!

『ナビレラ-それでも蝶は舞う-』、どうでしたか?
涙を浮かべながら一生懸命笑顔を作ろうとするチェロクの表情の変化や、病気が進行していく自分が恐ろしくなってしまうドクチュルの表情をかぶりつきで観ることができて、ものすごい没入感でした。間近で三浦宏規さんのダイナミックなジャンプを観られたのも衝撃で、ミュージカル公演でバレエにフィーチャーした作品を観られたのは嬉しかったです。いいなと思ったのは、日本版のミュージカルとして、日本に住む私たちがリアルに感じられる設定になっていたところ。最後の最後まで伏線をきちんと回収していく台本も良かったと思います。

三浦宏規(チェロク) ©Ballet Channel

私はまず、作品からバレエへの愛やリスペクトを感じられたのが何より嬉しかったです。チェロクとドクチュルだけでなく、ドクチュルの家族やバレエ団の仲間たちとのやり取りからも、「バレエは何歳から始めてもいい。誰もが一歩を踏み出せる世界なんだ」というメッセージが伝わってきました。

舞台中央左から:三浦宏規(チェロク)、川平慈英(ドクチュル) ©Ballet Channel

客席に入った瞬間にバレエ音楽が流れていて、のっけから嬉しかった!『白鳥の湖』第2幕のアダージオや、『眠れる森の美女』第3幕のオーロラのヴァリエーション、『ドン・キホーテ』の森の女王のヴァリエーションやバジルのヴァリエーション、そして『ライモンダ』や『シルヴィア』まで……選曲もなかなか味がありました。
一同 そうそう!
あと新鮮だったのは、バレエ用語が歌詞になった歌。「♪プリエ」とか「♪グラン・ジュテ」とか「歌になってる〜!」と思いました(笑)。第2幕で、チェロクが「バレエが好きだ!」と叫んでいたのも嬉しかった。最終的には「こんなにも”バレエ”って連呼してくれて『ナビレラ』ありがとう(涙)」という気持ちになりましたよね。
ほんとうに! あれだけバレエのパの名前が出てくる歌を聴いたのは、はじめてでした。グラン・プリエにタンデュ、パッセ……。

三浦宏規(チェロク) ©Ballet Channel

作品に欠かせないバレエシーン!

あと、われわれ的に大注目だったバレエシーンについて。これはあくまでも私の考えだけど、この舞台のバレエシーンは「バレエそのもの」として観るよりも、「ミュージカルバレエ」というひとつのスタイルとして観たほうがおもしろいと思いました。
「ミュージカルバレエ」とは?
私たちがいつも観ているバレエって、すごく繊細なダンスだと思うんです。空気に溶けていくような静かさや柔らかさが大切で、基本的にあまりくっきりとしたアクセントはつけずに踊る。でもそれをそのままミュージカルの舞台に載せたとしたら、その繊細さがすごく「ぼんやりした踊り」に見えてしまうと思うの。人の声や言葉といったものすごく強い要素がそこにあるから、ダンスにもくっきりとしたアクセント、くっきりしたムーヴメントが必要なんだと思う。細部に宿る繊細な美よりも、きっちり表に出てくる強さやインパクトのほうが必要というか。『ナビレラ』のキャストのみなさんが踊っていたのは、まさにそういうバレエだと思った。だから私は、今回のバレエシーンを「新たなスタイルのバレエ」として楽しめました。

舞台中央:川平慈英(ドクチュル)、舞台前列左:狩野英孝(ソングァン) ©Ballet Channel

バレエシーンと言えば、チェロク役の三浦さんが大活躍していましたね! 第1幕の冒頭から第2幕のラストシーンまで、たくさん踊っていました。
三浦さんの踊りから感じたのは、ご自身が今でもバレエを好きで、バレエを誇りに思い続けているんだということ。その気持ちが、すごくよく表れたダンスだったなと。彼の踊りもやはりアクセントがはっきりしていて、例えば腕をアン・バーにするにも「ふんわり」ではなく「かっちり」決める。一つひとつのポジションをショーアップしていくような見せ方で、非常に興味深かったです。それに、シアタークリエの舞台の床は、きっと「バレエ床」(床の下にパレットを敷いて、少し弾力を持たせた床)ではないですよね?! おそらくかなり硬いであろう床の上で、あんなに高さのあるアン・レールやカブリオールをたくさん跳ぶ。そのために、彼は着地のプリエをすごく深くして、衝撃を和らげる踊り方を選んでいるように見えました。
三浦さんが最初バレエ団に現れるシーンのとき、鞄を放り投げたかと思ったらもういきなり力強いジュテ・アン・トゥールナンを披露していて、すごい瞬発力でした。あと、キレのあるピルエットもすごく印象に残りました。平均5〜6回転はしていたし、首の切り方も素早かったですよね。ご自身も踊ったことがあるそうですが、まさに『ドン・キホーテ』のバジルや『海賊』のアリがぴったりの、パワフルな踊り方だと感じました。
あと非常に斬新だったのは、青木さんの言うそのシーンで『白鳥の湖』第3幕のマズルカが使われていたこと! 冒頭のバー・レッスンの場面やセンター・レッスンの大きなジャンプの場面でも同じマズルカの曲が使われていたでしょう? 例えば白鳥のテーマや黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥの曲のように「バレエ『白鳥の湖』といえばこれ」みたいな曲ではなく、キャラクターダンスのひとつであるマズルカを持ってくるというアイディア。これは、バレエ専門だとなかなか出てこない発想だなと思いました。

三浦宏規(チェロク) ©Ballet Channel

私はとにかくラストシーンのポーズが印象的でした! ライトに照らされたチェロクが、『ナビレラ』の公演ポスターと同じジャンプを跳び、すぐに暗転になる。そのポーズがしばらく目に焼き付いていました。
そうそう! ここで伏線回収か!と思いました。
あと、これもごく私的な推しポイントだったんだけど、「ファイイ・アッサンブレ」や「ランヴェルセ」が重要なカギとなる振付に使われていたこと。数あるバレエのパのなかで、私の大好きなファイイ・アッサンブレとランヴェルセを選んでくださるとは……。こういうパって、例えばアラベスクとかピルエットとかグラン・ジュテとかみたいに“メジャー”ではないと思うんです。でも、レッスンには確かに出てくるステップではある。そういうパが選ばれているところも、リアリティがあってとてもよかったです。
たしかに。センター・レッスンのピルエットやワルツのアンシェヌマンには、ランヴェルセもファイイ・アッサンブレもよく出てきますよね。

三浦宏規(チェロク) 写真のパがアティテュードのランヴェルセ ©東宝演劇部

ほかの役で、ダンスが印象的だった俳優さんは?
バレエ団長役の舘形比呂一さん。ダンスチーム「THE CONVOY SHOW」のオリジナルメンバーである舘形さんは、立ち姿からしてさすがの美しさだったし、一つひとつのポジションやアームスの運びが群を抜いて素敵でした。バレエ団の団長という役どころにもふさわしかった。

舞台中央:舘形比呂一(バレエ団長) ©Ballet Channel

川平慈英さんのアン・オーが、肩から爪の先までが弧を描くようにスッと伸びていて素敵でした。バレエのアームスは力みすぎてもいけないし、かといって力が抜けてだらしなくなってもいけないので、正しいポジションを習得するのに時間がかかる。とくにはじめてバレエを習う方には難しいポイントだと思うのですが、川平さんが懸命にルルヴェをしながらアン・オーをする姿に感動しました。

川平慈英(ドクチュル) ©Ballet Channel

バレエ団員役を演じていた政田洋平さんの上半身が美しくて、アロンジェした時の遠くまで伸びていくようなアームスが綺麗でした。だからこそ彼の「バレエ舐めやがって!」の台詞はリアルに感じました。

舞台左:政田洋平(バレエ団員) ©Ballet Channel

心に響いたシーンは?

第2幕でドクチュルと妻のブンイが歌う「星のように」というナンバー。久しぶりにバレエを踊ったドクチュルが帰宅して、岡まゆみさん演じるブンイが労わりながら脚に湿布を貼ってあげる場面で、舞台背景に浮かぶ一面の星空がとても綺麗でした。長年の夢を叶えてバレエに挑戦するドクチュルをあたたかく見守る彼女の演技に、涙が溢れました。
ドクチュルはこの場面できっと自分の病気のことを打ち明けるはずだったけれど、ブンイはすべてわかった上で「何も言わなくていい」って言うじゃない? もうそれだけで、この夫婦がどんなふうに一緒に生きてきたのかが伝わってきて、沁みました。

舞台左から:岡まゆみ(ブンイ)、川平慈英(ドクチュル) ©Ballet Channel

私がすごく好きだったのは第2幕、チェロクの元サッカー仲間のソンチョル(瀧澤翼さん)がもう一度サッカーをやってみようかと悩んでいる時に、ドクチュルが言葉をかけるところ。「私がバレエを始めてから何より悔しいと思うのは、“あと10年早く始めていたら”ってことだ」みたいなセリフだったと思うのだけど。ドクチュルはこの言葉を自分の弱音としてではなく、未来の時間も可能性もある若者への励ましとして言うの。そこがとても良かったし、これは大人からバレエを始めた人にもグッとくる言葉だと思う。私も18歳でやっとバレエを始められたから、街でお団子頭のバレエ少女を見かけるたび、いつも切なかった。「子どもの頃から習えてうらやましいな」って。そういう大人バレエの人たちにも寄り添うセリフが、舞台で割愛されることなくちゃんといいシーンで使われていたのも嬉しかった。
私は物心つく前からバレエを習っていて、いつの間にかバレエが人生の一部でした。でも壁にぶつかった時に、踊りたい一心でバレエを始めた人たちがとても輝いていて、その姿に励まされたんです。観ているうちに私も踊りたくなって、「やっぱり、私もバレエが大好きなんだ」と思いました。ソンチョルとドクチュルのシーンは、自分の中にある好きな気持ちを再確認できる、そんな場面でした。

舞台左から:瀧澤翼(ソンチョル)、川平慈英(ドクチュル) ©Ballet Channel

ドクチュルをめぐって、病気のことを明るく受け止められる時とそうでない時があるブンイや、心配だからバレエを辞めさせて同居したいと言う長男ソンサンと、好きなことをやらせてあげたいという次男ソングァン。家族たちの葛藤がリアルに描かれていますよね。とくに狩野英孝さん演じるソングァンが、プロデューサーとしてお父さんの姿をドキュメンタリーに残したいと考えたのに共感しました。狩野さんは初舞台と思えないほど自然なお芝居。トランプをしながら間を考えて自然に会話をするという演技は難しいと思うのですが、さらりと演じていてセンスを感じました。

舞台左から:狩野英孝(ソングァン)、井上音生(ドクチュルの孫娘) ©Ballet Channel

バレエの公演本番に症状が出て舞台に立てなくなってしまったドクチュルを連れて、家族で謝りにくるシーンも印象的でした。ブンイを演じる岡さんが必死に頭を下げ、チェロクがドクチュルに向かって懸命に話しかける姿に思わず泣いてしまうところもグッときました。
いちばん心に残っているのは、第2幕の終盤にオレノグラフィティさん演じるソンサンが、車いすのドクチュルを押しながら登場するところ。「症状が進み、家族のことも分からなくなってしまったので気にしないでほしい」と言えるようになるまでには、きっとものすごく時間がかかっていると思うんです。そして、ドクチュルがチェロクに言う「泣くな、ちびすけ」。キーワードでもあり、彼の愛情の深さが伝わる素敵な台詞で、最後の最後に胸が締め付けられました。
この作品に登場する人物は誰ひとりとして悪者がいない。まさにヒューマンドラマだと思いました。

舞台左から:岡まゆみ(ブンイ)、三浦宏規(チェロク)、川平慈英(ドクチュル) ©Ballet Channel

最後に、「自分ならこの役を演じてみたい!」を各自挙げて、座談会を締めたいと思います!
想像するだけでも僭越ですが……私はぜひともチェロク役を。三浦さんのようには踊れないけど、あんなふうにいっぱい踊ってみたい!

三浦宏規(チェロク) ©Ballet Channel

私はドクチュルの次男のソングァンか、チェロクの元サッカー仲間のスンチョルを演じてみたいです。バレエが好きな人を見守り、応援する立場にいる彼らの台詞や行動にうなずけるところが多く、きっとリアルに演じられると思います。とくに次男は、同じメディアの仕事をしている者としても共感できて、私だったらどんなドキュメンタリーを撮るだろうと想像してしまいました。

狩野英孝(ソングァン) ©Ballet Channel

もしあの作品の中で演じるなら、私はドクチュル役に挑戦したいです。長年夢見ていたバレエを始める時の喜びを味わってみたいし、今の自分とは違う人生でバレエに出会ってみたいです。

舞台中央:川平慈英(ドクチュル)、舞台奥:三浦宏規(チェロク) ©Ballet Channel

公演情報

ミュージカル「ナビレラ―それでも蝶は舞う―」

【日程】
2024年2024年5月18日(土)~6月8日(土)

【会場】
日比谷シアタークリエ

【スタッフ】
オリジナル台本・作詞:パク・ヘリム
作曲:キム・ヒョウン
上演台本・演出:桑原裕子
振付:富田彩

【キャスト】
三浦宏規、川平慈英
岡まゆみ、狩野英孝、オレノグラフィティ、瀧澤翼
青山なぎさ/井上音生(Wキャスト)
舘形比呂一
ほか

◆公式サイトはこちら

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