【リハ動画つき】世界初演！新国立劇場バレエ団「くるみ割り人形」特集④奥村康祐（ドロッセルマイヤーの助手／くるみ割りの王子）インタビュー〜これは、少年と少女が恋をして成長する物語です

12月初旬、新国立劇場バレエ団が新制作する「くるみ割り人形」のリハーサルを動画取材。ネタバレにならないよう、今回は短めの動画にしています！
動画撮影：大久保嘉之／動画編集：星野一翔（STARTS）

2025年12月19日〜2026年1月4日、新国立劇場バレエ団が新制作の『くるみ割り人形』を世界初演します。演出・振付は、演劇など他ジャンルでも多彩な作品を手がけている英国の振付家、ウィル・タケットです。

12月初旬、本作で主演を務める奥村康祐にインタビュー。シーズン・ゲスト・プリンシパル就任への想いや、タケット版『くるみ割り人形』の見どころ等について聞きました。

奥村康祐　Kosuke Okumura
大阪府出身。地主薫に師事。2003年地主薫バレエ団に入団。12年新国立劇場バレエ団にソリストとして入団。16年プリンシパルに昇格。「白鳥の湖」「くるみ割り人形」「眠れる森の美女」「パゴダの王子」「アラジン」「シンデレラ」「ペトルーシュカ」などで主役を踊っている。2025/2026シーズンよりシーズン・ゲスト・プリンシパル。10年文化庁芸術祭新人賞、12年大阪文化祭賞奨励賞、14年舞踊批評家協会新人賞、16年中川鋭之助賞、22年芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。　©Ballet Channel

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今シーズンから奥村さんは「シーズン・ゲスト・プリンシパル」という新たなポストに就きました。

奥村　シーズン・ゲスト・プリンシパルという新しい肩書きをいただいたからには、その期待に応えられるように頑張らないと、と気が引き締まる思いです。同時に、プリンシパルとして舞台に立ち続けるプレッシャーからは少し解放され、心にゆとりができた気もしています。これまでよりもバレエ団全体を俯瞰するような感覚で、客観的に見られるようになりました。今シーズンも僕はいくつかの公演に出演しますし、バレエ団にはいいダンサーがたくさんいるので、ぜひたくさんの方に観ていただけたら嬉しいです。

新制作『くるみ割り人形』で、奥村さんはドロッセルマイヤーの助手、くるみ割りの王子役を演じます。

奥村　冒頭と幕切れのシーンで演じるドロッセルマイヤーの助手は、クララの初恋の男性です。名前のとおり、ドロッセルマイヤーの元で下働きをしている少年で、年齢は10代後半くらいの設定。彼とクララは同年代で、少し年上です。
クララの夢の中で、彼はくるみ割り人形に変身し、やがてお菓子の国の王子として現れます。夢の中は、たくさんのお菓子が登場するおとぎ話の世界そのもの。ですが、クララとドロッセルマイヤーの助手の関係性に着目すると、現実の世界で出会った少年と少女が恋をして成長していく過程を描いた物語になっています。

パートナーとなるクララ／金平糖の精役は、東真帆さんですね。

奥村　東さんは今回が主演デビューで、クララにぴったりの可愛らしい雰囲気を持っています。とてもフレッシュなクララなので、同年代のドロッセルマイヤーの助手に見えるように僕も意識しています。

演出・振付を手がけるウィル・タケットさんのこだわりを感じるところは？

奥村　ところどころに、ウィルさんならではの演劇やミュージカルに近いお芝居の見せ方が用いられています。いい意味で古典の全幕バレエっぽくないですね。たとえば客間のシーンでは、舞台の中央に立っているキャラクターだけではなく舞台の周りに立っている人たちにもスポットが当たる瞬間が何度かあります。その周りの人たちのお芝居もウィルさんがお手本で見せてくださるのですが、一つひとつがとてもはっきりとしていてわかりやすいんです。いざウィルさんのようにやろうとしてもぎこちなくなってしまって、ダンサーたちはみんな必死に食らいついています（笑）。
また、踊りのフォーメーションもスピーディーに変化し、舞台セットも次々に展開して、まるで映画を観ているようなスペクタクルを味わえると思います。

ウィル・タケットさんの指導で印象的だったことは？

奥村　まさに、このインタビューの直前に教えていただいたことです。幕切れのシーンの演出について、クララの周りの人々が彼女に対してどういった感情を持っているのかを説明してくださいました。クララの両親の想いと、シュタルバウム家に仕える使用人の想い。繊細な部分で違いを見せるにはどうすればいいかを丁寧に実演してくださったのが、印象に残っています。
ウィルさんは、役柄の感情をダンサーの解釈に委ねるのではなく、一つひとつの台詞を具体的に提示して、細やかに説明してくださいます。そうやってダンサーと一緒に物語を組み立てていくやり方を目の当たりにして、彼は“お芝居の人”なんだと感じました。ウィルさんの頭の中には、きっと一本の映画が出来ているのだと思います。彼の思い描いたワンシーンを僕たちダンサーがどうやって表現するのか。とても難しいのですが、ウィルさんの期待に応えられるように毎日リハーサルに励んでいます。

奥村さんが好きなシーンはありますか？

奥村　さまざまな種類のお菓子が出てくる第2幕が好きです。少しネタバレをしてもいいのであれば……ゼリーがおもしろい踊りになっています。定番のお菓子とは一味違うものが登場するので、楽しみにしていただきたいです。ほかにも、カラフルな舞台衣裳や美術、あちこちに仕掛けられたマジックなど、見どころもたくさんあります。

お菓子の国にちなんで、好きなクリスマスのお菓子は？

奥村　クリスマスケーキが一番好きです。僕は苺のショートケーキに惹かれます。

東 真帆（クララ／金平糖の精）、奥村康祐（ドロッセルマイヤーの助手／くるみ割りの王子） ©奥田祥智

奥村さんご自身のお話を伺います。これまでのキャリアを振り返って、ターニングポイントになったと思う作品は？

奥村　一つに絞るのはとても難しいので、二作品選びたいと思います。
まずは、2018／2019シーズンの「ニューイヤー・バレエ」で踊らせていただいた『ペトルーシュカ』。ペトルーシュカは人形ですが、彼の持つ感情は人間のように複雑。嬉しいとか悲しいといった感情では割り切れない、卑屈さを心に宿したキャラクターです。劣等感で爆発寸前の不安定な状態を表現するのに、僕はとても苦労しました。ストレスを発散するために攻撃的な想像もするけれど、行動に移すほどの勇気はない。そういった葛藤は人間にもありますよね。そこで、もしペトルーシュカが現代にいたら？と想像してみたんです。SNSでは虚勢を張っているけれど、現実の世界では部屋の隅に縮こまって泣いているかもしれません。こうしてさまざまな角度から役を掘り下げることで、演技の幅が広がり、キャラクターに深い感情を与えることを意識できるようになったと思います。
そしてもう一つは、2022／2023シーズンに上演された「シェイクスピア・ダブルビル」の『マクベス』。新制作『くるみ割り人形』と同じく、ウィル・タケットさんが振付を手がけた作品です。『マクベス』はキャラクターの設定が複雑で難しく、お芝居の流れをしっかりと作るように求められました。ウィルさんの言葉のすべてが勉強になりましたが、とくに印象に残っているのは、「冒頭からアクセル全開で感情をのせた演技をしない」ということ。全体を通してどこにピークを持っていくかを考えるようにとご指導いただきました。激しい喜怒哀楽の感情を表現するだけでは、殺人など衝撃的な出来事が次々と起こっていく中で高ぶった状態が続いてしまって、ストーリーが見えない、と。それ以降、僕は地図を書くような気持ちで、役の感情の起伏を整理して舞台に臨んでいます。

踊るうえで大切にしていることは？

奥村　自分の持っているものすべてをさらけ出す覚悟で舞台に立つこと。そこにあるのは自分の身体だけで、余計なことは考えずに取り繕わず、ひたすら踊り続けよう。袖から一歩足を踏み出した瞬間、そういう気持ちになるんです。公演は一人では成り立たないものであり、まわりの人の努力も思いも背負って僕たちは舞台に立っています。あの場所に立つと、自然に「すべてを捧げなければならない」と思わされるのかもしれません。

最後にメッセージを。

奥村　楽しいクリスマスのひと時を味わえる作品になっています。ウィルさんの素敵なアイディアが詰まった、これまでにない『くるみ割り人形』になっているので、ぜひ新鮮な気持ちで観ていただけたら嬉しいです。オペラパレスでお待ちしています！

東 真帆（クララ／金平糖の精）、奥村康祐（ドロッセルマイヤーの助手／くるみ割りの王子）©奥田祥智

公演情報

新国立劇場バレエ団「くるみ割り人形」〈新制作〉