2024年4月27日(土)~5月5日(日)、新国立劇場バレエ団が牧阿佐美版『ラ・バヤデール』を上演します。
インドを舞台に繰り広げられる、寺院の舞姫ニキヤと戦士ソロルの禁断の恋、一筋縄ではいかない登場人物たちの愛憎にまみれた人間模様。踊りの見どころもたっぷりで、華麗なテクニックが楽しめるグラン・パ・ド・ドゥやソリストたちの踊り、そしてバレエ・ブランの最高峰とも言われる「影の王国」の群舞も必見です。
今回は4キャストが組まれているソロル役。そのうち初役での挑戦となるプリンシパルの速水渉悟さんに話を聞きました。
※このインタビューは2024年3月中旬、複数の媒体による合同取材として行われたものです
速水渉悟(はやみ・しょうご)京都府出身。ジョン・クランコ・バレエ学校を経て、2015年ヒューストン・バレエに入団。2018年新国立劇場バレエ団にソリストとして入団。2020年『ドン・キホーテ』で全幕主演デビュー。2021年ファースト・ソリスト、2023年プリンシパルに昇格。 ©︎Ballet Channel
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- 速水渉悟さんは今回初役でソロルを踊りますね。
- 速水 『ラ・バヤデール』は僕が新国立劇場バレエ団に入団して1年めに出演した作品で、その時は黄金の神像やパ・ダクシオンを踊りました。個人的にも大好きな作品なので、再び上演されることになって本当に嬉しいです。
- 役作りはどのように?
- 速水 2月に『ホフマン物語』を上演した時に、前芸術監督の大原永子先生に「あなたたちは役を演じてはだめ。役になりきらなくては」と言われたんです。この言葉が自分にはすごく響いたので、今回はただソロルとして、舞台上で生きられるようにしたい。自分なりにソロルという人間を解釈して、唯一無二というか、僕にしかできないソロルになりきれたらと思っています。
- その、ソロルの人物像について聞かせてください。ニキヤと禁断の愛を育みながら、権力には抗えず、ガムザッティの美貌によろめいて、さらには毒蛇に噛まれて瀕死のニキヤに背を向けて去っていく……そんなソロルはしばしば冗談まじりに「ダメな男」と言われるキャラクターです。役になりきるには、その役に対する理解なり共感なり何か手がかりが必要だと想像しますが、速水さんにとってソロルは「その気持ち、わかる」と思えるキャラクターですか?
- 速水 「わかる」というと僕がダメ男みたいですが(笑)、でも上からの命令に逆らえない気持ちはよく理解できます。それに古典バレエに登場する男性たちは、良くも悪くも素直な人が多いなと僕は思っていて。だからソロルもあまり深く考えすぎずに、踊りながら作り上げていくほうがやりやすい。踊るたびにニュアンスが変わってもいいと思うし、パートナーによっても、生まれてくる感情は変化するはずです。そういう変化じたいも、僕自身いつも楽しみにしている部分です。
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- あらかじめ考え抜いて決め込むのではなく、役になりきる。言葉にするとシンプルですが、簡単なことではないですよね……?
- 速水 もちろんお客様にお見せするものですから、「ここはこの角度でこう動く」みたいなことはある程度決めていますし、自分がいちばん綺麗に見えるアングルやポジションは意識しています。ただ、演技というのは他のダンサーと一緒に作り上げるものじゃないですか。例えば先日の『ホフマン物語』で、僕の出演日は福岡雄大さんがホフマン役だったのですが、雄大さんは段取りっぽく見えるようにはしないんです。なのに僕が「自分は必ずこうするんだ」と演技を決めていたら、芝居が噛み合わない瞬間が出てきてしまう。やはり舞台は生ものですし、相手から来たものに対して柔軟にリアクションを取れるだけの余白は持っておきたいなと思います。
- 例えば私たちのようにインタビューをする仕事でも、本来は相手の言葉に耳を傾けながらお話を掘り下げていかねばならないのに、駆け出しの頃はつい自分の段取りに追われてしまって、相手の話を聞いているようで聞いていない……ということがよくあります。ダンサーのみなさんも、きっと最初のうちは、相手の出方に合わせて臨機応変にリアクションするなんてできないのではないでしょうか? そうだとすれば、速水さんはいつ頃からできるようになりましたか?
- 速水 確かに、それはありますね。いまでも、相手によっては事前にしっかり話し合って準備したほうがうまくいく場合もありますし、逆に何も話さなくても、音楽が鳴って踊り始めたらお互いどんどん演技が膨らんでいく場合もあります。僕がいつからこんなふうになったのか、はっきりとはわかりません。ただ、やはり引き出しの多い先輩ダンサーたちと共演する機会をたくさんいただいてきたこと。その経験によって徐々に培われてきたものかなと思います。
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- 『ラ・バヤデール』は愛憎にまみれたストーリー展開や個性の濃いキャラクターたちの演技のおもしろさだけでなく、ダンスそのものの魅力もぎっしり詰まった作品です。ソロルにも、情熱的なパ・ド・ドゥもあればテクニカルなソロもありますが、踊りの面で速水さんが大事にしたいことはありますか?
- 速水 おっしゃるとおり、ソロルとガムザッティの婚約式のグラン・パ・ド・ドゥや影の王国のコール・ド・バレエなどはこの作品のハイライトですし、黄金の神像などインパクトのあるソロもあります。ソロルに関して言うと、彼の魅力のひとつは「力強さ」だと思うんですよ。そういう面を踊りの味付けとしてしっかり表せたらと考えています。
- ソロルはニキヤとガムザッティという二人のヒロインと踊りますね。ひとつの作品のなかでパートナーが二人もいて、大変ではないのでしょうか?
- 速水 僕はむしろ、そちらのほうがやりやすいです。それぞれのダンサーの魅力が、ソロルとしての感情をよりいっそう引き出してくれるので。もちろんテクニック的には、相手の身体条件が違えばパートナリングの感覚も変わりますから、その意味の難しさはあるかもしれません。
- 昨年はプリンシパルに昇格、今年に入ってからは芸術選奨文部科学大臣新人賞と中川鋭之助賞を立て続けに受賞。観客の私たちも速水さんの進化を確かに感じていますが、速水さん自身も変化や進化を実感していますか?
- 速水 過去に出演した演目を再び踊る時はいつも「前回以上のものを伝えよう」と意識していますし、実際に舞台に立つたびに、自分自身が少しずつ成長しているのは感じます。
- 先日の新国立劇場2024/2025シーズン舞踊ラインアップ説明会でも、吉田都芸術監督が「肝心なのは“リハーサルをどれだけ重ねるか”ではなく、“本番をどれだけ重ねていくか”」と話していました。
- 速水 それは間違いないです。やっぱり僕たちダンサーは、舞台上でしかレベルアップすることはできない。どれだけリハーサルをしても、舞台で踊れなかったら、真の成長にはつながらないと感じています。
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- あらためて、速水さんがとくにおすすめしたい『ラ・バヤデール』の見どころポイントは?
- 速水 僕はやっぱり“金ピカ”が好きです(笑)。黄金の神像。今回キャスティングされているダンサーたちも素晴らしい踊り手ばかりなので、僕も観るのをすごく楽しみにしています。
- 前回の上演時には速水さん自身が踊った役ですね。
- 速水 はい。黄金の神像役は全身を金色の塗料で塗り上げるのですが、スタッフさんが本当にきめ細かく丹念に塗ってくださるので、筋肉のラインもよく見えるし、ピカピカでとてもかっこいいんですよ。ただ、そのぶん塗料を落としきるのは大変で、本番を終えて数日経っても肌から金粉が出てくるくらいでした(笑)。黄金の神像はインパクトも強烈だし、照明の当て方も素晴らしくて、文字どおり光り輝くキャラクター。舞台を観て印象に残ったシーンは?と聞かれたら、「黄金の神像の踊り」と答えるお客様も多いのではないでしょうか。
- 最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。
- 速水 『ラ・バヤデール』は古典バレエの王道的な見どころがすべて詰まった作品。ストーリーや人間模様を堪能していただくためにも、とくに今回はじめて観る方は、ぜひ開演前にパンフレットであらすじを読んでおいていただくのがおすすめです。
みなさん、初役でまだ誰にも見せていない僕のソロルを、ぜひ劇場に観にいらしてください!
©︎Ballet Channel
公演情報
新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』
日程 |
2024年
4月27日(土)14:00
4月28日(日)13:00
4月28日(日)18:30
4月29日(月・祝)14:00
5月3日(金・祝)14:00
5月4日(土・祝)13:00
5月4日(土・祝)18:30
5月5日(日・祝)14:00
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会場 |
新国立劇場 オペラパレス
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詳細・問合せ
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新国立劇場 公演サイト
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その他 |
イベント
●バックステージツアー
4月29日(月・祝)、5月3日(金・祝)開催
●クラスレッスン見学会
5月3日(金・祝)開催
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