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【第46回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!ープロムナード(2)

海野 敏

文/海野 敏(舞踊評論家)

第46回 プロムナード(2)

■『白鳥の湖』第2幕、オデットのプロムナード

前回(第45回)は、男性がサポートして女性が軸脚をポワント(つま先立ち)にして回るプロムナードについて説明し、それが古典全幕バレエで印象的に使われている場面を、『眠れる森の美女』と『ライモンダ』の2作品から紹介しました。今回は『白鳥の湖』『ドン・キホーテ』から紹介します。

『白鳥の湖』第2幕、夜の湖畔で踊るオデットと王子のパ・ド・ドゥは、19世紀末にレフ・イワーノフが振付けた傑作です。その後、多くの振付家が『白鳥の湖』を改訂・再振付していますが、このパ・ド・ドゥのアダージオは、基本的な流れに大きな違いがないように思われます。女性主役がサポート付きプロムナードを行う場面は、私が確認した限りでは、少ない場合でも4箇所、多い場合に6箇所ありました。

序盤、王子が後ろから両手でオデットの腰を支え、オデットはアラベスク・パンシェ(アラベスクして身体を前へ傾けたポーズ)をして、プロムナード・アン・ドゥダンで1周します。通常、オデットは右を軸脚にして、右腕は前方へ、左腕は後方へ伸ばします。伸ばした右手を少し羽ばくように動かすダンサーもいます。

中盤、主旋律がヴァイオリンからチェロに交替した後には、オデットがアティテュード・デリエール・パンシェをし、王子は背後からオデットの伸ばした両腕の手首を軽く握って支え、プロムナード・アン・ドゥダンで1周します(注1)。その後、上手側へ移動して、もう一度アティテュード・デリエール・パンシェの姿勢で、王子がオデットの両手首を握ってプロムナードで1周します(注2)。しかし、このときは軸脚が右から左へ変わっているので、プロムナード・アン・ドゥオールになっています。とても似た姿勢でのプロムナードにもかかわらず、少し趣きが異なることに気づかれるでしょうか。

終盤には、たいへん特徴的なプロムナードが登場します。オデットは右手を頭上に上げ、左手を横に開き、それぞれの手を男性とつなぎます。そして左脚を軸脚として、右脚の膝下を細かく打ちながら(バッチュ)、プロムナード・アン・ドゥオールでゆっくり1周し、次にフェッテからゆっくりサポート付きピルエット・アン・ドゥオールでゆっくり回転します。この「バッチュしながらのプロムナード→フェッテからのピルエット」を3回繰り返します。ピルエット連続回転は、1回、2回、3回と増やしてゆくダンサーが多いと思います。右脚のバッチュが白鳥の震えるような羽ばたきに見える印象的な場面です。

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英国ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』より第2幕のパ・ド・ドゥです。オデットをフランチェスカ・ヘイワード、王子をセザール・コラレスが演じています。序盤の振付は2分4秒から。中盤の振付は6分31秒〜7分8秒あたりにかけて、プロムナードのアン・ドゥダンとアン・ドゥオールの趣の違いをぜひご覧ください。終盤の震えるようなバッチュのプロムナードは、8分ちょうどから観ることができます。

以上の4箇所以外に、楽曲をつなく間奏的なパート(コール・ド・バレエがフォーメーションを変えてゆくことが多い)で、アティテュード・パンシェのサポート付きプロムナードが入ることもあります。

■『白鳥の湖』第3幕、オディールのプロムナード

第3幕のオディール(黒鳥)と王子のアダージオは、第2幕のオデットと王子のアダージオに比べて振付のバリエーションが少なくありません。私が確認した限りでは、プロムナードが1箇所だけの振付から、4箇所ある振付までありました。いずれのプロムナードも、中盤で音楽のテンポが遅くなって以降に登場します。

比較的共通して入る箇所は、窓の外にオデットが姿を見せる直前の場面です。オディールが右手を頭上に上げ、左手を横に開き、それぞれの手を向かい合った王子とつなぎ、アティテュード・デリエールの姿勢でプロムナード・アン・ドゥオールで1周します。

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静岡県遠州地方のための舞踊芸術育成プロジェクト「Dance of Blue」のオンライン公演『ONLINE SHOWCASE 2.0』映像より、中森理恵 (東京シティ・バレエ団)と刑部星矢 (NBAバレエ団)による演技です。一連のプロムナードは3分24秒あたりから。

パリ・オペラ座バレエが上演するヌレエフ版『白鳥の湖』では、このアダージオが、オディール、王子、ロットバルトのパ・ド・トロワになっていて、少し変わったプロムナードが登場します。アダージオの中盤、オディールがアティテュード・デリエールで立って両腕を広げ、右手を王子と、左手をロットバルトとつなぎます。そして、まず王子とオディールのつないだ腕のアーチを、ロットバルトが左手をつないだままをくぐると、プロムナード・アン・ドゥオールでの1回転となります。次にロットバルトとオディールのつないだ腕のアーチを、王子が右手をつないだままくぐると、プロムナード・アン・ドゥオールでもう1回転することになります。

『ドン・キホーテ』第3幕、キトリのプロムナード

『ドン・キホーテ』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥのアダージオにも、たいがいプロムナードが入るのですが、振付のヴァリエーションはとても多く、私が確認した限りでは、プロムナードが2箇所、3箇所、4箇所の振付がありました。

比較的共通して入る箇所は、中盤、テンポがゆっくりに変わり、キトリとバジルが近づいた直後です。キトリが向かい合ったバジルと右手をつなぎ、左腕は頭上へ上げたアティテュード・デリエールの姿勢で、プロムナード・アン・ドゥダンで1周します。そしてこの後、楽曲の同じフレーズが繰り返されるところでもう一度プロムナードをします。この場面の他のパターンとしては、バジルが背後から両手でキトリの腰を支え、キトリはアラベスク・パンシェの姿勢でプロムナード・アン・ドゥダンで1周することもあります。

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ウクライナ国立バレエ『ドン・キホーテ』の全幕映像です。キトリをオリガ・ゴリッツァ、バジルをニキータ・スハルコフが演じています。序盤のプロムナードは、1時間33分57秒から。

パリ・オペラ座バレエのヌレエフ版『ドン・キホーテ』では、同じ箇所で、ちょっとお洒落でかっこいいプロムナードが演じられます。テンポがゆっくりに変わってキトリとバジルが近づくと、キトリは右手をバジルの右肩に置き、バジルは右手をキトリの右肩に置いて、キトリは左腕は頭上へ上げたアティテュード・デリエールの姿勢で、プロムナード・アン・ドゥダンで1周します。1周したあと、同じタイミングで2人がさっと見つめ合う演出も洒落ています。そして、楽曲の同じフレーズが繰り返されるところで、同じ姿勢になってもう1周し、もう一度見つめ合います。

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パリ・オペラ座『ドン・キホーテ』より、第3幕のグラン・パ・ド・ドゥのアダージオです。ヴァランティーヌ・コラサンテがキトリを、ポール・マルクがバジルを演じています。お洒落なプロムナードは1分22秒から。

英国ロイヤル・バレエやアメリカン・バレエ・シアターが上演するバージョンでは、このアダージオのフィニッシュ直前に、特徴的なプロムナードが入ります。キトリが両腕を横に広げ、向かい合ったバジルと両手をつなぎ、アティテュード・デリエールの姿勢になります。そしてプロムナード・アン・ドゥダンで半周したところで男性がはずみをつけてキトリの手を放すと、キトリはそのままアティテュード・トゥールで2回転し、そのまま腰を下ろして膝を床に付けたポーズになります。床に膝を付け、手を腰に当てたキトリと、やはり手を腰に当てたバジルが見つめ合う瞬間は、ほんとうに一瞬なのですが、鑑賞者にとって見逃せない小粋な見せ場になっていると思います(注3)

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英国ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』より、第3幕のグラン・パ・ド・ドゥのアダージオです。キトリをマリアネラ・ヌニェス、バジルをワディム・ムンタギロフが演じています。5分4秒からのシークエンス、トップ・プリンシパルたちの見事な演技をぜひ堪能してください。

(注1)下手向きの姿勢から正面向きになるまで回るので、4分の3回転(0.75周)と言ったほうが正確かもしれません。

(注2)上手向きの姿勢から正面向きになるまで回るので、1と4分の1回転(1.25周)と言ったほうが正確かもしれません。

(注3)キトリが床に膝を付けず、立ってポーズをするパターンもあります。

(発行日:2023年5月25日)

次回は…

第47回も引き続き特徴的な「サポート付きプロムナード」を紹介します。『ジゼル』、『ラ・バヤデール』、『パキータ』、さらに20世紀の作品も取り上げる予定です。発行予定日は2023年6月25日です。

【鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!-総目次】
http://bibliognost.net/umino/ballet_tech_contents.html

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うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。早稲田大学、立教大学でも講師を務める。バレエ、コンテンポラリーダンスの舞台評・解説を『ダンスマガジン』、『クララ』などのマスコミ紙誌や公演パンフレットに執筆。研究としてコンテンポラリーダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発中。著書に『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』、『バレエ パーフェクト・ガイド』、『電子書籍と電子ジャーナル』(以上全て共著)など。

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