観る
知る

【Interview】矢上恵子メモリアルガラ2025 #6 米沢唯～私は心からバレエが好き。夢の中でもバレエと一緒です

2025.02.15 若松圭子　Keiko WAKAMATSU

Videographer：Hiroya Fukuda

2025年2月15日（土）にティアラこうとう大ホールで上演される1日限りのステージ「踊れ、その身体がドラマになるまで～矢上恵子メモリアルガラ2025 in TOKYO」。1990年代から2010年代にかけて数々の作品を生み出し、国際的にも高く評価されながら、57歳の若さでこの世を去った振付家・矢上恵子の作品に、教え子であり矢上作品を身体で知り尽くす福岡雄大や福田圭吾、新国立劇場バレエ団プリンシパルの小野絢子、米沢唯、柴山紗帆、ファースト・ソリストの池田理沙子、木下嘉人などの人気ダンサーたちが挑みます。

公演に向けてのリハーサルの合間に、出演ダンサーのみなさんへインタビューを行いました。
ラストを飾るのは、新国立劇場バレエ団プリンシパルの米沢唯さんです。

愛知県出身。塚本洋子バレエスタジオで学ぶ。2006年に渡米しサンノゼ・バレエに入団。10年にソリストとして新国立劇場バレエ団に入団。13年プリンシパルに昇格。「パゴダの王子」「白鳥の湖」「くるみ割り人形」「ドン・キホーテ」「ジゼル」「火の鳥」「不思議の国のアリス」ほか数々の作品で主役を踊る。14年中川鋭之助賞、17年芸術選奨文部科学大臣新人賞、18年舞踊批評家協会新人賞、19年愛知県芸術文化選奨文化賞、20年芸術選奨文部科学大臣賞、橘秋子賞優秀賞、22年服部智恵子賞、23年中日文化賞、24年名古屋市芸術奨励賞。　©Ballet Channel

◆

初めての衣裳付き通し稽古を終えた今の気持ちを聞かせてください。: 米沢　今日のリハーサルには、東京の出演メンバーがほぼ全員集まりました。他の作品を観たのは今日が初めて。私自身はまだこれから詰めていく段階なのですが（※編集部注：取材は1月下旬）、みんなの踊りからたくさんエネルギーをもらって、これから本番に向けての覚悟も決まりました。

今回のガラ公演のオファーを受けた時、何を感じましたか？

米沢　ぜひ踊りたいと思いました。私は名古屋出身なので、矢上恵子先生のお姿は子どものころに出場していたコンクール会場でよくお見掛けしていました。福田圭吾さんと同じ年に出場したローザンヌ国際バレエコンクールでもお会いして、優しく声を掛けてくださったのを覚えています。

当時、まだコンテンポラリーというものがよくわかっていなかった私にとって、（福岡）雄大さんと圭吾さんが踊る作品はどれも憧れでした。恵子先生の作品を踊っている時のふたりは本当に輝いていて、「すごい！あんなふうに踊ってみたい！」と思っていたんです。地元で恵子先生のオープンクラスがあると聞き、参加したこともありましたが、先生の作品を踊る機会は訪れませんでした。

あれから何十年も経った今、やっと恵子先生の作品を踊らせていただけます。嬉しさでいっぱいの反面、先生はもうこの世にいらっしゃらないのだと思うと、少し複雑な思いが胸に押し寄せます。責任重大ですが、私ができる限りの踊りをしたいと思います。

米沢さんは木下嘉人さんと『FROZEN EYES～凍りついた目～』を踊ります。: 米沢　私は、恵子先生から作品の解釈や振付の意図を教えていただくことはできません。自分たちで探して作っていくしかないんですね。『FROZEN EYES』で私が演じる女性の心は狂ってしまっていて、木下嘉人さん演じるパートナーは彼女の心を取り戻そうとしている。ストーリーはシンプルです。でも、踊っている私の中には疑問がたくさん浮かんできます。なぜ彼女は精神を病んでしまったのか、男性とはどういう関係なのか、そして彼女が座っている椅子はどんな意味を持っているのか。そういう謎の一つひとつをちょっとずつ引き寄せながら手探りでリハーサルを続けてきました。最近になって、それらの答えはひとつではないこと、作品を踊るダンサーによってどのようにも解釈できることがわかってきました。今では、この場面はどうやろうかなと考えるたびにワクワクします。

今日の米沢さんの踊りからは、心を病んだ無の表情のいっぽうで、何かを強く求めるような激しさを感じました。: 米沢　タイトルにフローズンとあるとおり、この女性は精神を病むことで凍ってしまっています。私は、彼女が精神に異常をきたしてしまったのはなぜなのかをずっと考えていました。今日踊っている時にふと、彼女は自分の心の奥にものすごい熱量を持つなにかを抱えているのかもしれない、と感じたんです。踊りながら、彼女の心は容量を超えるほど激しく燃えたことで壊れ、凍ってしまったのだと実感できました。この気づきは本番に向けて、もう少し掘り下げていこうと思っています。

©Ballet Channel

公演以外のことも聞かせてください。米沢さんは、バレエをプライベートに持ち込むタイプですか？それともオンオフをしっかり分けていますか？: 米沢　100％持ち込んでいます（笑）。バレエと、バレエ団の舞台と、今抱えている公演の仕事で日常生活すべてが回っている感じです。

プライベートもバレエを欠かさないのは、プロとして意識の高さからですか？: 米沢　というよりも、趣味なんです。純粋にバレエが好き。ずっと楽しい気持ちでいたいから、起きていても寝ていてもずっとバレエと一緒にいます。

睡眠中も！: 米沢　寝ている間に習得できることもあるんですよ。「悩んでいたあのリフトは、こうやればいいんだ！」って閃いた瞬間に目が覚めたり（笑）。それくらい、私のすべてはバレエに、舞台に向かっていると思います。子どものころからバレエは大好きでしたけれど、新国立劇場バレエ団に入ってから、バレエに夢中になる事がすごく楽しく、幸せに感じるようになりました。