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【リハーサル取材会レポート】「踊れ、その身体がドラマになるまで~矢上恵子メモリアルガラ2025 in TOKYO」

加藤 智子

©Yoshitomo Okuda

1月16日、都内のスタジオにて「踊れ、その身体がドラマになるまで~矢上恵子メモリアルガラ2025 in TOKYO」のリハーサル取材会が実施された。本公演の芸術監督は、2019年に他界した振付家・矢上恵子の愛弟子の一人として知られる福田圭吾。スタジオではリハーサルを主導する福田と、やはり矢上恵子の指導によりダンサーとして大きく羽ばたいた新国立劇場バレエ団プリンシパル福岡雄大が中心となり、出演ダンサーたちが矢上恵子作品に意欲的に取り組んでいた。当日行われた福田、福岡の囲み取材の模様とともにレポートする。

リハーサル取材会

東京在住の出演者たちが参加したこの日のリハーサル。冒頭、取材陣に「芸術監督といっても、椅子を運んだり雑務的なことばかりやっています」と福田がおどけて挨拶、矢上恵子の偉業を伝えるべく、スタッフ、ダンサーとともに手作りで舞台に取り組んでいる様子だ。

公演では矢上恵子振付の7つの作品が上演されるが、この日はじめに公開されたのは、ガラの第2部に登場する『Toi Toi』。「20分くらいの、ひたすら観る側の魂に訴えかける作品です」と福田は言う。約20名のダンサーによる作品を、今回は矢上恵子の拠点であった大阪・K★BALLET STUDIOの門下生を中心としたダンサーと、東京在住のダンサーが合同出演する。

©Yoshitomo Okuda

まずは福岡と木下嘉人(新国立劇場バレエ団)が踊る場面。音楽は、ともすると身体ごと呑み込まれてしまいそうなパーカッションのリズムの洪水だが、福岡はフロアを縦横無尽に移動しつつ、一つひとつの音符それぞれに振りが割り当てられたかのような込み入った動きを、極めてクリアに、澱むことなく繰り出してゆく。昨年初めて矢上恵子作品に挑戦したという木下は、そのスピード感あふれる振付に果敢に食らいつき、身体に取り込んでいく。続く福田と宇賀大将(新国立劇場バレエ団)のパートでは、福田がエネルギッシュに踊りつつ、身体のどこをどう使い、どう意識すべきかを的確にアドバイス。K★BALLET STUDIO出身の井後麻友美が、また菊川萌香が加わると、ダンサーが入れ替わり立ち替わり現れての目眩くダンスが展開し、じわじわと大きなうねりに巻き込まれていくような感覚に。大阪チームと合流した時、どれだけパワフルな舞台が誕生するのか期待される。

©Yoshitomo Okuda

©Yoshitomo Okuda

続いての『Cheminer(シュミネ)』は、新国立劇場バレエ団プリンシパルの小野絢子を中心に、同バレエ団の柴山紗帆池田理沙子五月女遥川口藍金城帆香橋本真央ら女性ダンサーたちが踊る。

©Yoshitomo Okuda

音楽はラヴェルの「ボレロ」。小野は矢上恵子作品初挑戦というが、かつて矢上恵子自身が踊ったというメインパートの、燃えたぎるエネルギーを内に秘めたような振付を、ダイナミックに、かつ丁寧に、噛み締めるようにして踊る姿が印象的だ。優雅で柔らかな動きに傾きがちな6人のダンサーたちも、福田のアドバイスでぐんと鋭さを増す。過去に男性ダンサーによる上演もあったという本作を、彼女たちがどのように舞台に出現させるか、楽しみだ。

©Yoshitomo Okuda

©Yoshitomo Okuda

©Yoshitomo Okuda

囲み取材

その後、実施された福田圭吾、福岡雄大の囲み取材では、記者から様々な質問が寄せられた。その一部を紹介する。

矢上恵子作品の素晴らしさは、どんなところにあると感じますか。
福田 観る者にかならず何かを訴えかけてくるパワーです。今回上演する作品も、いずれも明確なストーリーがないにもかかわらず、観終わった後に何かが感じられる作りになっていると思います。
今回上演する作品はどんな理由で選ばれたのでしょうか。
福田 矢上恵子作品のいろいろなところを観ていただきたいと思ったので、テイストの違うものも入れました。また『Cheminer』など、「この作品を彼女たちの踊りで観てみたい」という思いから選んだものもあります。
プログラムの曲順などにこだわりはありますか?
福田 恵子先生は小品をいくつか発表する時、作品が終わるたびにダンサーがレヴェランスをして退場、という繰り返しにせず、作品と作品が途切れないように踊りを挟む演出(プロムナード)を取り入れていました。今回の第1部ではそれに挑戦して、6つの演目にひとつの繋がりがあるように観てもらえればと思っています。
今回、矢上恵子作品とあらためて向き合い、思い出すエピソードはありますか。
福岡 今でも矢上恵子作品を踊っていると、先生から当時受けた注意が頭の中にスパン!と飛び込んでくるんです。移転してしまった当時の大阪のスタジオの風景も一緒に思い出されて切なくなったり、あのころの楽しかったことを思い出されるのはすごいなと思います。先生はとても厳しく、作品に対して妥協しない。その教えを受けた結果、今の僕は「こうなりました」という感じです(笑)。
福田 先生は厳しかったですね。今、こうして作品に向き合い、ダンサーたちに伝えていますが、「いや、全然足りひんぞ」と怒られているような気分です。今日も怒っていらっしゃると思います(笑)。
ダンサーたちに矢上恵子作品の振付を渡すにあたり、どんなことに気を配っていますか。
福田 恵子先生の指導は本当に怖くて、その追い込み方によって引き上げられるダンサーが数多くいました。ただ、そのアプローチの仕方は僕には無理。僕自身ダンサーとして矢上恵子作品を踊ってきて、自分の中で解析できた部分が多くある。それを、そのダンサーに合った言葉で伝えたり、環境を作ったりということに注意を払い、ダンサーが能動的に動けるように、前向きなエネルギーを引き出すようにと心がけています。
福岡 バレエとは少し動き方や重心移動の仕方が違っていたりするので、いきなり踊るのはやはり難しい。パとパの繋ぎ方(コーディネーション)をしっかり教えたうえで僕のアイディアを伝えると、みんなプロのダンサーですから、うまくもっていってくれます。ただ、僕はアドバイス程度で表立って指導していないので、監督ほど気を遣ってはいませんね。

福岡の言葉を受け、「最近 “圭吾”って呼ばへんやん。距離を感じる……」と寂しそうな福田だが、福岡は「2月の公演が終わるまでは“監督”やから(笑)」とドライに対応。──厳格な指導者、矢上恵子のもとで切磋琢磨してきたふたりだからこその絶妙なチームワークも、この公演の魅力の鍵かもしれない。

©Ballet Channel

公演情報

「踊れ、その身体がドラマになるまで
〜矢上恵子メモリアルガラ2025 in TOKYO〜」

【日時】
2025年2月15日(土)14時〜

【会場】
ティアラこうとう 大ホール(東京都江東区住吉2-28-36)

【出演(予定)】
小野絢子
米沢唯
柴山紗帆
福岡雄大
池田理沙子
木下嘉人
五月女遥
川口藍
宇賀大将
金城帆香
橋本真央
(以上、新国立劇場バレエ団)

福田圭吾

石川真理子
井本星那 ほか

【演目】
『Witz』
Multiplex Personality(多重人格)
『FROZEN EYES 〜凍りついた目〜』
『Butterfly』
『Bourbier』(ブルビエール)
『Cheminer』(シュミネ)
『Toi Toi』

【芸術監督】
福田圭吾

【監修】
矢上久留美

【主催】
株式会社 新書館

【企画・制作】
矢上恵子メモリアルガラ実行委員会

【協力】
公益財団法人江東区文化コミュニティ財団 ティアラこうとう

【特別協力】
K★BALLET STUDIO
株式会社 代地

【メディアパートナー】
バレエチャンネル

【公演事務局・問合せ】

矢上恵子メモリアルガラ公式ホームページ

◆公演詳細はこちら

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