本編撮影:奥田祥智、編集:星野一翔、ティーザー:福田紘也
2025年2月15日(土)にティアラこうとう大ホールで上演される1日限りのステージ「踊れ、その身体がドラマになるまで~矢上恵子メモリアルガラ2025 in TOKYO」。1990年代から2010年代にかけて数々の作品を生み出し、国際的にも高く評価されながら、57歳の若さでこの世を去った振付家・矢上恵子の作品に、教え子であり矢上作品を身体で知り尽くす福岡雄大や福田圭吾、新国立劇場バレエ団プリンシパルの小野絢子、米沢唯、柴山紗帆、ファースト・ソリストの池田理沙子、木下嘉人などの人気ダンサーたちが挑みます。
公演に向けてのリハーサルの合間に、出演ダンサーのみなさんへインタビューを行いました。
第4回目は新国立劇場バレエ団ファースト・ソリストの池田理沙子さんです。

東京都出身。バレエスタジオDUOで田中洋子に師事。ハンガリー国立ブダペスト・バレエ学校に留学。Kバレエカンパニーを経て、2016年新国立劇場バレエ団にソリストとして入団。19年ファースト・ソリストに昇格。「シンデレラ」「コッペリア」「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」「ジゼル」「アラジン」「不思議の国のアリス」などの主役、「ペトルーシュカ」バレリーナ、「ソワレ・ド・バレエ」、平山素子「春の祭典」など主要な役を踊っている。©Ballet Channel
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- 矢上恵子の振付作品を観たことはありましたか?
- 池田 ローザンヌ国際バレエコンクールなどで踊られていた作品を映像で観ていました。画面越しではなく、生で踊られるのを客席で観たこともあって、そのひとつが『Bourbier』(ブルビエール)です。この作品を踊っていた山本勝利くんが「ここまで身体が限界を迎える作品はない」と言っているのを聞き、コンテンポラリー作品を得意とするダンサーにとっても大変な作品なのだとあらためて感じました。
出演のお話をいただいてからは、自分がどこまで挑戦できるのかという怖さもありましたが、なによりも感じたのは「矢上恵子先生の作品を踊れるんだ!」という嬉しさでした。
- 作品を踊るうえで意識していることは?
- 池田 矢上恵子先生にはメソッドがあります。振付をいただいてから、最初は見よう見まねでとにかく振りのとおりに踊っていました。ですが撮影した動画を見返すと、まったく格好がついていないんです。恵子先生の作品を踊り慣れている方々の動画と見比べたときに、形がどうしても決まっていない。これは恵子先生のメソッドをまず自分の身体の中に入れなければと思いました。
私たちが踊る『Cheminer』(シュミネ)という作品は、ひとつの音に振りがひとつというよりも、ひとつの音に振りがふたつも入っているような作品。15分もの間、ずっと音楽をカウントし続ける集中力も必要です。そしてたびたびフォーメーションが変わるので、スムーズに移動するにはどうすればよいのかも意識しています。作中で効果的に使われる小道具の椅子もポイントのひとつ。意識すべきことがたくさんあるので、毎日繰り返し自分の身体になじむまで練習するように心がけています。
- 今回の公演では『Cheminer』を新国立劇場バレエ団のダンサー7名で踊ります。リハーサルで手ごたえを感じていますか?
- 池田 今の段階(※編集部注:取材は1月中旬)では振付を身体に入れることをいちばんに考えているので、バレエ団でも空き時間を見つけて振りの確認をしています。本当に細かいところの脚の角度や手の角度、顔の向きを話し合いながら合わせています。
『Cheminer』の前半には、どちらかというと無機質な音楽が使われています。そういった聞きなじみのない音の中で、テンポを間違えず、一音も聞き漏らさずに振りをこなしていくのに苦労しています。音楽と同じようにはじめはどこか無機的だった動きが、だんだんと有機的な動きに変わっていく。そこにストーリー性があるわけではないけれど、その舞台を観た人は、何かが成長する過程を最初から最後まで見届けたような感覚になるのではないかと思います。そう感じていただけるように、今はリハーサルに励んでいます。

©Ballet channel
- じっさいに矢上恵子の振付作品を踊ってみて感じることは?
- 池田 観るのと踊るのでは全然違うと感じています。フィジカル的には身体の限界まで踊るとともに、つねに頭の中でカウントを刻みながら、次にどの動きが来るのかを考えながら踊っています。
コンテンポラリー作品はクラシックの作品とは異なり、必ずしも自然な身体の動きや流れに沿って振付けられているわけではありません。とくに矢上恵子先生の作品は、意表を突くようなステップや緩急自在なムーヴメントなど、質の違う動きがちりばめられています。ですから、踊りきるには頭も身体も酷使しなくてはいけません。
『Cheminer』を踊り終えた直後は、空っぽになったような感覚になります。疲れたとかやり切ったみたいな感情の前に、何も考えられなくなる。いままで踊った作品にはない、矢上恵子先生の作品の特徴かもしれません。
- 矢上恵子の振付の特徴はどこにあると感じていますか?
- 池田 とにかく引き出しの豊富さを感じる振付で、そこでこう来るか!というサプライズ感があります。音の使い方も天才的。音にあてはめている振りもあれば、あえてずらしている振りもあって、音を巧みに使うテクニックもすばらしい。パッションが感じられるステップや、それを組み合わせることでドラマが生まれるような振付の構成も、すごいとしか言いようがありません。さらに小道具を効果的に使って、ダンサーと小道具をうまく融合させた新しい動きも特徴的だと感じています。
- ポワントをはくことが多いクラシック作品と比べて、コンテンポラリー作品を踊る時に意識している身体の使い方はありますか?
- 池田 トウシューズの場合は重心を上に意識して使っているのですが、『Cheminer』のように重さが必要な作品ではできるだけ重心を下にしています。しっかり床を押して一つひとつのステップに重厚さを持たせるいっぽうで、ときには軽いステップも必要になるので、その切り替えをすばやく行っています。踊り手としてはハードな作品ですが、とてもやりがいを感じています。今回はふだんはくことが少ないジャズシューズなので、使い方もマスターしていきたいです。
- 『Cheminer』にはフランス語で「歩く」という意味があります。池田さんにとって「歩く」とは?
- 池田 人間として歩かないという日はなくて、日々の生活の一部分だと思います。人生には、嬉しいことも辛いこともあります。歩くという当たり前の行為のなかで、たくさんの人に出会い、たくさんの作品に出会って、いろいろなことを与えてもらう。いただいたものをバレエやさまざまな活動を通してお返しする、そのひとつの軸が「歩く」ことだと思います。

©Yoshitomo Okuda
- リハーサル中、芸術監督の福田圭吾さんからの指導で印象に残っていることは?
- 池田 「いいよ」しか言わないんです(笑)。できていなくても、とにかく「感動した!」と。もちろん雰囲気を和ませるためにそう言ってくださるのですが、より身が引き締まります。できるだけ矢上恵子先生の意図している方向に導いてくださっていると感じますし、いつも圭吾さんの言葉に勇気をいただいています。
- 池田さんは、福田圭吾さんのアデュー公演となった『アラジン』でパートナーを務めました。福田さんにはどんな魅力があると感じますか?
- 池田 私が新国立劇場バレエ団に入団したときからずっと、圭吾さんの周りには必ず人が集まります。圭吾さんは人を幸せにする力を持っている方。茶目っ気の部分もありながら、リハーサルでバレエと向き合う姿勢は真剣そのもので、みんなそういったギャップにも魅力を感じているのだと思います。パートナーとして組んでわかったのは、圭吾さんはとても細やかな心遣いをされること。踊りだけでなく、人との接し方ひとつにもその丁寧さや繊細さが表れていると感じます。
- 最後に公演への意気込みをお願いします。
- 池田 矢上恵子先生の作品に出演できるという幸せな機会は、一生に一度あるかないかのこと。恵子先生の生み出したすばらしい作品を一生懸命に、心を込めて踊りますので、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。

©Ballet channel
公演情報
「踊れ、その身体がドラマになるまで
〜矢上恵子メモリアルガラ2025 in TOKYO〜」

【日時】
2025年2月15日(土)14時〜
【会場】
ティアラこうとう 大ホール(東京都江東区住吉2-28-36)
【出演(予定)】
小野絢子
米沢唯
柴山紗帆
福岡雄大
池田理沙子
木下嘉人
五月女遥
川口藍
宇賀大将
金城帆香
橋本真央
(以上、新国立劇場バレエ団)
福田圭吾
石川真理子
井本星那 ほか
【演目】
『Witz』
『Multiplex Personality(多重人格)』
『FROZEN EYES 〜凍りついた目〜』
『Butterfly』
『Bourbier』(ブルビエール)
『Cheminer』(シュミネ)
『Toi Toi』
【芸術監督】
福田圭吾
【監修】
矢上久留美
【主催】
株式会社 新書館
【企画・制作】
矢上恵子メモリアルガラ実行委員会
【協力】
公益財団法人江東区文化コミュニティ財団 ティアラこうとう
【特別協力】
K★BALLET STUDIO
株式会社 代地
【メディアパートナー】
バレエチャンネル
【公演事務局・問合せ】
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矢上恵子メモリアルガラ公式ホームページ
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