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【インタビュー】英国ロイヤル・バレエ① マヤラ・マグリ

阿部さや子 Sayako ABE

©︎Ballet Channel

2019年6月21日、東京文化会館。
割れんばかりの拍手喝采が轟き、英国ロイヤル・バレエ日本公演が華々しく開幕しました!

演目はカルロス・アコスタ版『ドン・キホーテ』。
バレエチャンネルでは、2日目となる6月22日(土)のマチネとソワレにそれぞれ主演する2人のダンサー、マヤラ・マグリマルセリーノ・サンべに早速インタビューしてきました。

まずは1人目、ファースト・ソリストのマヤラ・マグリのインタビューをお届けします。

22日(土)昼公演でキトリを踊るマグリ。
強靭なテクニック、深いブラウンのドラマティックな瞳を持つ、ブラジル人ダンサーです。

***

キトリは私の強みが出せる役

初めてキトリを踊ったのはいつですか?
今年4月にロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスでキトリ・デビューしたばかりです。その時のパートナーも今回の日本公演と同じアレクサンダー・キャンベル。舞台はとてもうまくいきました! キトリには私自身のパーソナリティーとの共通点がたくさんあります。またテクニック面でもシャープな足さばきやジャンプがとても多いので、これはまさに私の強みが出せる役。初めて踊った時からあまり苦労はしませんでした。
マグリさんはブラジル出身ですから、お互い“ラテン系の女性”だというところも共通点ですね。
ええ、私はリオデジャネイロ出身です。ちょっと喧嘩っ早くて、陽気で遊び心があって……そういうキトリのスペイン気質は、すごく私に合うと思いますよ(笑)。
キトリはとても自由な心の持ち主です。自分の好きなように生きて、自分の好きな人と幸せになりたい。お金持ちになんてならなくていいから、床屋のバジルと一緒にいられたらそれでいいという人です。父親のロレンツォはお金のほうを期待しているけれど。そういうシンプルさも演じていて楽しいですね。

Mayara Magri as Kitri in Don Quixote, photo by Andrej Uspenski / ROH

あなたの思う、アコスタ版『ドン・キホーテ』の魅力とは?
パントマイムも振付も、何もかもがとても自然なところでしょうか。ダンサーとしてのカルロスがまさにそうであったように、彼のバージョンには大げさすぎる芝居やわざとらしさがありません。現実の私たちがその状況にあれば どう行動するかが、とてもリアルに表現されているんです。もともと物語もシンプルだし、登場人物どうしのやりとりも明快。もしバレエ『ドン・キホーテ』のあらすじを知らなくて観る人がいても楽しめるんじゃないかしら?
とくに好きなシーンはありますか?
まず第1幕が本当に楽しい。そこから2幕、3幕とキトリが変化していく様子を表現するのも大好きです。最初は本当に小さな女の子のように無邪気だけれど、第2幕では明るい街を離れ、たどり着いたジプシーの野営地で、バジルと親密なパ・ド・ドゥを踊ります。そこで彼女のなかの“女性”が出てきて、第3幕では完成された大人になる。ひとりの人物のなかにあるいろいろな表情や性質を表現できるというのは、とても演じがいのある素敵なことです。
でも、いちばんのお気に入りといったら、第2幕の「夢の場」ですね。このシーンはきらめくような明るさに満ちていて、蔦と花に囲まれた舞台セットはまるで美しい小さな庭のよう。そしてドルシネアのソロの、あの音楽も大好きです。比較的ゆったりしたテンポで始まって、終盤一気にスピードアップするんです。音楽のなかで遊べるし、じつはキトリのパーソナリティもよく表れているのではないかしら。ホップしたり、トコトコトコっと小さく走ったり。この場面は衣裳も素敵。白くて豪華で、わた菓子みたいなクラシック・チュチュなんですよ。第1幕や3幕とはまったく雰囲気が違っていて、ここでいったん新鮮なエネルギーがチャージされる感じがします。
パートナーのアレクサンダー・キャンベルはどんなダンサーですか?
彼ほど魅力的でエネルギーに満ちた人はいません! 4月にコヴェントガーデンで組んだ時、私は初のキトリ役、彼はすでにバジルをもう何度も踊ったことがあったのですが、彼と踊っていると、私もすでに何度もキトリを演じたことがあるかのような錯覚を覚えたんです。それはきっと、彼が私を自由に踊らせてくれたおかげ。私がどんな風に演じても、アレックスは自然に受け止めてくれました。私は自分が思う通りにキトリを演じ、自分から湧き上がる感情や、心地よいと感じる動きを、何ひとつ変える必要がなかった。私にとってアレックスは間違いなく最高のパートナーのひとりです。舞台上で素敵なケミストリーが起こることは、『ドン・キホーテ』のような物語バレエにはとても大切なことだと思います。

Mayara Magri and Alexander Campbell in Don Quixote, photo by Andrej Uspenski / ROH

コヴェントガーデンでは他にどんな作品に主演していますか?
まずアシュトンの『シルヴィア』。これも強いテクニックが必要で、私にうってつけの作品です。それから『ラ・バヤデール』ではガムザッティを踊りました。この時はナタリア・マカロワと仕事ができたことが私にとってはとても大きな財産です。ごく最近では『火の鳥』。モニカ・メイソンが私を選び、コーチしてくれたんですよ! これも素晴らしい経験でした。

ブラジルから英国へ

これまでの経歴についても聞かせてください。バレエを始めたのは何歳ですか?
8歳です。女の子がバレエを始める年齢としては遅いほうですが、これは両親が私にバレエを習わせるだけの経済的余裕がなかったから。私は3人姉妹の真ん中っ子で、姉と妹と3人で一緒にバレエを習うには、私たちの家族はスカラシップを出してくれるスクールを探さなくてはいけませんでした。それでついに授業料免除のスカラシップを受けられる学校が見つかったのが8歳の時。プティ・ダンス・スクールというプライベートの学校で、先生はシュツットガルト・バレエ団で11年間踊っていたパトリシア・サルガドです。
そして12歳の頃にはもうトウシューズを履いてバンバン踊っていました。というのも、ブラジルではショッピングモールや小さな劇場など、とにかくいろんなところで子どもたちにパフォーマンスをさせるんです。これはブラジルならではのカルチャーだと思うのだけど。そうした経験を通して、子どもたちはどんどん舞台度胸をつけていきます。
私が師事していたパトリシア先生は素晴らしい方でした。彼女のおかげで私は緊張せずに舞台を楽しめるようになったし、失敗を恐れず思いきって回転する勇気を身につけられたんです。それから、グラン・パ・ド・ドゥを踊るというプレッシャーも与えてもらいましたね。私、初めてのグラン・パ・ド・ドゥ体験は14歳の時なんですよ。
14歳! その時は何を踊ったのですか?
『海賊』です。いま振り返るとちょっとクレイジーだと思うわ(笑)。13歳から14歳になる頃で、その時の映像はいまでもYouTubeに残っているんじゃないかしら。でも、私がいま何事にも怖気づくことなく取り組めるのは、あの経験のおかげ。チャンスを掴むには大きなプレッシャーがつきものだけど、いつだって「大丈夫、できるわ。だって、あの時もちゃんとできたじゃない?」と思えるんです。
その後、ロイヤル・バレエ・スクールに留学しましたね。
ローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップを受賞したのをきっかけに、16歳で入学しました。ブラジル人ダンサーの多くはアメリカのバレエ団を目指しますが、パトリシア先生が「ヨーロッパに行きなさい」と。“ダンサー”という職業がきちんと確立しているし、あなたにはヨーロッパの方が合うから、と勧めてくださったんです。あの時の私を正しい方向に導いてくださった先生には、本当に感謝しています。
ロイヤル・バレエ・スクールで学んだのは1年間だけですが、その1年で心身ともにプロになる準備ができたし、それまでまったく話せなかった英語を習得できました。そして17歳でロイヤル・バレエに入団。いまは25歳で入団7年目、7シーズン目が終わろうとしているところです。
入団後はとても順調にキャリアを重ねていますね。
ロイヤル・バレエは、ダンサーに一つひとつの段階をきちんと踏ませることを重視しています。入団したら、まずはコール・ド・バレエで数年間の経験を積む。でもそんな中でもケヴィン・オヘア芸術監督は時々小さなチャンスを与えてくれて、私が前向きに頑張れるよう励まし続けてくれました。おかげで私は技術もモチベーションも、何も失うことなく着実にステップアップできました。そして今シーズンに入ってからは本当にたくさんの役をいただき、キトリ役を踊るとなって周りを見れば、マリアネラ・ヌニェスやナタリア・オシポワといった素晴らしい先輩たちがいて……これはもう、天の恵みとしか言いようがありません。

Mayara Magri as Kitri in Don Quixote, photo by Andrej Uspenski / ROH

マグリさんは現在ファースト・ソリスト。プリンシパルまで あと一歩ですね。
ロイヤル・バレエには95人もの団員がいて、その誰もが素晴らしいダンサーです。そのような中で自分の道を見つけ、頭角を現すのは本当に難しい。私にできることはただひとつ、バレエに対して謙虚に身を尽くすこと。一生懸命努力をすることだけです。
このカンパニーの頂点には素晴らしいプリンシパルがずらりと並んでいますが、彼ら・彼女らが背負っている重圧は計り知れません。私もファースト・ソリストながら多くの主役を踊っていますが、プリンシパルとして主役を踊るプレッシャーに比べたら、ずっと気楽なものです。ですからまずはいま、この階級であるうちにたくさんの挑戦をして、できる限りの経験を積み、自信をつけたい。私はまだ25歳。焦る必要はまったくないし、“プリンシパル”がダンサーとしての最終目標でもありません。一つひとつの役を一生懸命生きて、オヘア芸術監督、そしてバレエを愛するお客様の信頼に、丁寧に応えていきたいと思います。
まずは22日の『ドン・キホーテ』、日本のみなさんに楽しんでいただけるよう心を込めて踊ります!

©︎Ballet Channel

★公演の詳細はNBS日本舞台芸術振興会のホームページをご覧ください

 

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