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2019年6月21日、待ちに待った英国ロイヤル・バレエ日本公演が華々しく開幕!
バレエチャンネルでは、今回の上演演目『ドン・キホーテ』(カルロス・アコスタ版)に主演する2人のダンサー、マヤラ・マグリとマルセリーノ・サンべに急遽取材してきました。
※マヤラ・マグリのインタビューはこちら
インタビュー2人目は、マルセリーノ・サンべ。
サンべといえば、次の2019/2020シーズンよりプリンシパルに昇格することが発表された話題の人!
今回の日本公演では、6月22日(土)夜と6月25日(火)にバジル役を踊ります。
アフリカにルーツを持ち、“踊ることこそ僕の本能”と言わんばかりに躍動する、ポルトガル人ダンサーです。
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プリンシパルに昇格!
- 次シーズンからのプリンシパル昇格、おめでとうございます!
- 昇格を知らされた時は、とにかくたくさんの感情がごちゃ混ぜになって押し寄せてきました。いま起こっていることが信じられなくて、何度も何度も自分のほっぺたを叩きました(笑)。僕はバレエを始めた時からずっと長い間この瞬間を夢見てきました。ここまでの道のりは決して平坦ではなく、本当にいろいろなことがあった。でも突然、夢のステージにたどり着きました。僕の大きな大きな夢が叶います。
- 昇格はどのように告げられたのですか?
- カンパニーでは毎年、芸術監督が団員一人ひとりと個人面談をします。通常は事前にスケジュールが組まれるのですが、今回なぜか僕は予定に入れられていなくて、突然電話で「すぐに事務所に来てください」と呼び出された。行ってみると、ケヴィン(・オヘア芸術監督)が今にも感情が溢れ出しそうな表情で待っていました。そして僕の目を見てひと言、こう言いました。「君はロイヤル・バレエのプリンシパルだ」と。ケヴィンは僕がまだバレエスクールにいた頃から何かと目をかけてくれていたので、彼も胸がいっぱいだったのだと思います。
その後僕は休みを取り、ポルトガルの両親や友人に電話して、素晴らしいディナーを食べに行きました。
- サンべさんはロイヤル・バレエ・スクールで学んだのですね。
- ええ、16歳で入学しました。それまではリスボンのコンセルバトワールで学んでいたのですが、ローザンヌ国際バレエコンクールに出場し、そこでスカラシップを受賞してロイヤル・バレエ・スクールに編入しました。本当は3年間学ぶことになっていたのですが、2年目でカンパニーの契約をもらって、ロイヤル・バレエに入団しました。いまは7年目です。
- 2013年に入団、2014年にファースト・アーティストに昇格、2015年ソリスト、2017年ファースト・ソリスト、そして2019年プリンシパルに昇格。一気にプリンシパルまで駆け上がりましたね。
- そうですね。だけど僕はこのカンパニーで上にのぼっていくことは決して簡単ではないと思っていたし、実際その通りでした。必死に努力したのはもちろんですが、ひとつだけ他のダンサーと違っているのは、僕がさまざまなジャンルのダンスを踊るパフォーマーだということです。僕はコンテンポラリー・ダンスが好きだし、ヒップホップも好き。もちろんクラシック・バレエも大好き。あらゆるスタイルのダンスが好きなんです。あまりに何でも踊るので、芸術監督にとっては、僕がどんなダンサーなのかを見極めるのが難しかったかもしれません。それでも僕はあらゆるダンスを踊りたい。こうした個性が昇格を早めてくれたのかなと思います。
- それほど多種多様なダンスをどのようにして学んだのですか?
- 僕の父はギニア人で、息子にはアフリカのスピリットをもつ人間になってほしいと考えていました。それで僕はまず5歳からアフリカン・ダンスを習い始めたのですが、生まれつき体が柔らかく、6歳になる頃にはもう完璧なスプリット(開脚)ができたのです。それを見た先生が「きみはバレエもやってみるといい」と勧めてくださり、バレエにも通い始めました。さらにそのバレエスクールがコンテンポラリー・ダンスにも積極的に取り組んでいて……と、このようにしてだんだん僕のなかにいろいろなダンスが混在するようになっていったわけです。
あらゆるジャンル、あらゆるスタイルに対して、オープンなスタンスでトレーニングを受けられたこと。これは僕がオールラウンドなアーティストへと成長していくために、決定的に重要でした。本当にあらゆるダンスが好きですが、なかでもいちばん愛しているのは、やはりクラシック・バレエです。
Marcelino Sambé in Don Quixote, photo by Andrej Uspenski / ROH
アフリカ&ラテンの血が騒ぐ!
- あなたがプリンシパルに昇格する決め手となった理由のひとつには、『ドン・キホーテ』での素晴らしい活躍があったそうですね。
- 『ドン・キホーテ』は僕のキャリアにおけるハイライトです。何といっても、カルロス・アコスタと一緒に仕事ができた。僕は幼い頃からカルロスに憧れ、彼のようなアーティストになりたくて、その背中を追いかけてきました。そのカルロス自身から、直接指導を受けることができたのです。テクニック、スタイル、カリスマ性……彼が備えている素晴らしい要素のすべてを、僕に惜しみなく伝授してくれました。
- 今シーズンのもうひとつのハイライトは『ロミオとジュリエット』のタイトルロールを踊れたことです。ロミオも「いつか絶対に踊りたい」と強く願い続けてきた役。キャスティングされた時、「大丈夫だ。僕はもうこの役を踊る準備はできている」と思えました。これも非常に重要なデビューとなりました。
- あなたは現時点ではファースト・ソリストですが、すでに主役をたくさん経験していますね。
- 幸せなことです。でもロイヤル・バレエではよくあることなんですよ。ケヴィンが「将来のプリンシパル候補だ」と目したダンサーにいろいろな役を踊らせて、彼・彼女の力量を試しながら成長を促すんです。
- 今回スティーヴン・マクレイが怪我で降板したのは本当に残念でしたが、新プリンシパル・サンべさんのバジルを観られることはとても嬉しいです。
- スティーヴンは心優しく素晴らしい仲間であり、英国のみならず日本でも絶大な人気を誇るプリンシパルです。僕は数年前にスティーヴンと一緒に日本で踊ったことがあり、その時に日本のみなさんが彼に対して熱狂的な拍手喝采を送る様子を目の当たりにしました。その彼が踊るはずだった舞台に立つなんて、これほど名誉なことはありません。僕はスティーヴンとはまったく違うタイプのパフォーマーですが、みなさんに「僕はマルセリーノ・サンべです。僕はこのようなダンサーです」と自己紹介するつもりで、精一杯踊りたい。その結果、みなさんが僕に何かしらの魅力や価値を感じてくださったら最高です。
- あなたの思う、アコスタ版『ドン・キホーテ』の特徴は?
- とてもキューバ的だということ。これはまさしくキューバ人の感性で描かれた『ドン・キホーテ』です。そしてアフリカとラテンの血を併せ持つ僕にとって、このバージョンのバジルを演じることがどんなに気持ちいか、もう言うまでもないでしょう!
- バジルとあなたは、性格的に似ているところがありますか?
- 僕の解釈では、バジルはとても温かみがあって、若々しさに溢れていて、愛情深い男です。キトリのことが心の底から大好きで、彼の行動はすべて彼女の気を引くためのものだと思います。バジルと僕が似ているところ……そうですね、人懐っこくて、誰にでも近づいていってハグしたりキスしたりするところかな?(笑)
Marcelino Sambé and Yasmine Naghdi in Don Quixote. Photo by Andrej Uspenski / ROH
- パートナーはプリンシパルのヤスミン・ナグディですね。
- ヤスミンは年齢からは信じられないほど深い表現のできるダンサーです。美しく、聡明で、テクニックも完璧。一緒に踊るとたくさんのインスピレーションを与えてくれるバレリーナです。どうすれば観客を夢中にさせることができるか、どうすれば作品がいちばん美しく見えるかを、瞬時につかむことができる。とても知的なダンサーなんですよ。
”僕”という旅を、前に進めるために
- 少し遡りますが、10代だったあなたがロイヤル・バレエを目指したのはなぜですか?
- 子どもの頃、毎年夏になると両親と一緒にロンドンを訪れていたんです。1〜2週間くらい滞在して、英語を学んだり、美術館に行ったり、ロイヤル・バレエを観たり、その他いろんな種類のショーやミュージカルを観たりして過ごしていました。それで10代前半の頃だったかな、通りを歩いていた時に、「ああ、この街にはあらゆる人がいる」と、ハッとしたのです。バレエ、ミュージカル、演劇、音楽、美術……何を観に行っても、そこにはあらゆる人種、あらゆる国籍、あらゆる個性、あらゆるスタイルの人たちが舞台に立っていました。この街では、肌や目や髪がどんな色をしていても関係ない。「そうか、ここなら僕は本当に心地よく生きていける。」そう思いました。
例えばもし僕がロシアのバレエ団に行ったらどうだろう? あれほどまでに容姿もダンススタイルも揃っているなかに入ったら、きっと僕は目立ってしかたないでしょう。
じゃあ、もしパリのバレエ団に行ったら? やはり、僕は浮いてしまうと思う。
でも英国なら、僕は“どういう見た目か”よりも、“何を見せられるか”で勝負ができる。
それが、ロイヤル・バレエを選んだいちばんの理由です。
Marcelino Sambé and Yasmine Naghdi in Don Quixote. Photo by Andrej Uspenski / ROH
- また、サンべさんは10代の頃から振付もしていると聞きました。
- ええ、振付を創ることも大好きです。ロイヤル・バレエ・スクールには生徒が参加できるいろいろなプロジェクトが用意されていて、そのなかにあったコレオグラフィック・プロジェクトに挑戦したのが始まりです。踊ることや振付だけでなく、僕はとにかく何でもトライすることが好き。40歳になって振り返った時、「何てことだ、僕は何も挑戦してこなかったじゃないか」と後悔したくないから(笑)。
実際、振付ができることは僕の強みです。コンクール出場のためにコンテンポラリーのソロを用意しなくてはいけない時など、自分をいちばん表現できるソロを、自分自身で創ることができるんです。もっとも、それは勇気の要ることでもあります。振付を創るとは、自分が何を考え、感じているのかを、観客の前にさらけ出すということですから。
- ちなみに、あなたはどんなスタイルの作品を創るのですか?
- 完全にコンテンポラリーだと思います。踊るのはクラシック作品が大好きですが、振付となるとコンテンポラリーなスタイルにより大きな興味があります。“僕はこれを伝えたい、表現したい”という情熱が肚の底から突き上げてきて、自分の中からムーヴメントが吐き出される。そこに、その人の本能の像(かたち)が表れると思います。その意味では、僕の本能はコンテンポラリー・ダンス的な動きであり、そうしたスタイルが自分をいちばん表現できると感じています。
それに、クラシック・バレエのテクニックで振付けるのは、コンテンポラリー作品を創るよりもずっと難しいと僕は思う。決められた型、限られたステップの範囲で振付るのですからね。その意味でもクリストファー・ウィールドンやリアム・スカーレットは素晴らしい。心から尊敬しています。
- 最後は少し抽象的な質問です。あなたはなぜ踊るのでしょうか?
- “僕”という旅を、前に進めたいからです。僕はダンスという才能を神から与えられました。しかしこの才能は、まだまだ進化しています。踊っていると、時々自分で自分に驚くのです。突然、いままで感じたことのないことを感じたり、この体が動いたことのないかたちに動いたりすることに。
5年後の僕は、きっといまの僕とは全然違う。それをこの目で確かめたいから、僕は踊るのだと思います。
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★公演の詳細はNBS日本舞台芸術振興会のホームページをご覧ください