©Elena Festisova
ボリショイ・バレエの舞台を全国の映画館で上演するシリーズ〈ボリショイ・バレエ in シネマ Season 2018−2019〉。本日(6月26日)の上映をもって今シーズンのシリーズは終了する。
ラストを飾る演目は『カルメン組曲/ペトルーシュカ』。
この『ペトルーシュカ』をボリショイ・バレエのために新たに演出した振付家エドワード・クルグにインタビューを行った。
- エドワード・クルグ Edward Clug
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振付家
1973年ルーマニアのベイウシュ生まれ。1983年、チャウシェスク独裁政権の抑圧から逃れるべくクルジュ=ナポカのルーマニア国立バレエ学校に入学。1991年、同校を卒業。同年、スロベニア国立マリボル歌劇場バレエ(SNG)に入団。ソリストとして活躍する傍ら、振付活動も開始する。2003年アーティスティック・ディレクターに任命される。カンパニーを独自路線で導きながら振付家としても『Radio & Juliet』(2005年)など次々と優れた作品を発表、国際的にも高い評価を受けている。シュツットガルト・バレエ、チューリッヒ・バレエ、ロイヤル・バレエ・フランダース、ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)等、各国の名門バレエ団にも繰り返し招かれ、振付を行なっている。
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©Elena Festisova
- 今回ボリショイ・バレエに新作を振付けるにあたり、『ペトルーシュカ』を選んだのはなぜですか?
- 『ペトルーシュカ』は僕を惹きつける要素にあふれていますが、最大の魅力は何といっても音楽です。僕はストラヴィンスキーがもともと大好きで、これまでに『春の祭典』と『結婚』を振付けました。その時から、僕は近い将来に必ず『ペトルーシュカ』を振付けることになるだろうと確信していました。
- あなたの『ペトルーシュカ』のコンセプトは?
- ストラヴィンスキーが書いた「ペトルーシュカ」という音楽は、本当に豊かで美しい一方で、非常にくっきりと物語を語っています。ですから、いくら新演出版を作るといっても、本来のストーリーラインから逸脱することはまず不可能です。僕はオリジナルの台本を変えることなしに、この物語を新たな美学とダンス言語でいかに語り直すか、ということに挑みました。
この作品で意図したのは、ロシア文化の本質をはっきりと具象化することです。それを現代ならではの新しい美意識で描き出すことによって、光を当てたかった。そうすることで、『ペトルーシュカ』という物語は正しいやり方で再解釈できると考えました。
装置も、衣裳も、振付も、もちろん音楽も――この作品に含まれるすべての要素は、ロシアの民間伝承と伝統に忠実に基づいて創られています。最も難しかったことと言えば、観客に「これは使われている言語と見た目は違うけれども、まさに自分たちがよく知るおとぎ話の『ペトルーシュカ』と同じだ」と感じてもらえるかどうか、という点でした。
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- あなたの『ペトルーシュカ』は、非常にコンテンポラリーなスタイルの振付ですね。正統的クラシック・バレエの体現者とも言えるボリショイ・バレエのダンサーたちとのコラボレーションはいかがでしたか?
- ダンサーたちはみんな好奇心旺盛で、とてもオープンでした。確かに今回の振付語彙は彼らにとってとても新しいものだったと思いますが、僕自身にとっても全く新しいものだったんですよ。というのも、僕が創る振付のスタイルは、題材にする物語や音楽の性質によって変化します。今回の振付も『ペトルーシュカ』だからこそ生まれたものであって、他のどの作品とも違う。いわばこの振付は、“ペトルーシュカ・スタイル”としか言いようのないものです。そして僕が振付家として最も重視しているのは、物語と音楽をいかに調和させるかと、その調和のなかでどう動き、振る舞うべきかを見つけ出すことです。
- あなたの『ペトルーシュカ』では、バレリーナ役のダンサーもバレエシューズで踊っていますね。バレリーナの象徴とも言えるトウシューズを使わずにこの役を表現しようと考えたのはなぜですか?
- 足先をより繊細に使えるバレエシューズの方が、意外な動きが生まれやすいから、でしょうか。そのほうがバレリーナをより柔らかく見せることができ、この振付を的確に表現できるのではないかと。
©Damir Yusupov
- シネマであなたの作品に出会う日本の観客にメッセージをお願いします。
- 日本のみなさんがこの『ペトルーシュカ』を気に入ってくださったなら、これ以上嬉しいことはありません。この美しいおとぎ話とダンスの魔法が、みなさんと私たちを結びつけてくれますように!
©Damir Yusupov
上映情報
ボリショイ・バレエ in シネマ Season 2018–2019
2019年6月26日(水)19:15開演 カルメン組曲/ペトルーシュカ
詳細: https://liveviewing.jp/contents/bolshoi-cinema2018-19/