東京バレエ団『火の鳥』©️Enrico Nawrath
2022年7月22日(金)・23日(土)・24日(日)の3日間、東京バレエ団が「ベジャール・ガラ」を上演! 20世紀最高の振付家のひとりであるモーリス・ベジャールの傑作『ボレロ』を同団が初めてレパートリーにしたのは1982年のこと。それからちょうど40年、今回の公演では『ギリシャの踊り』、『ロミオとジュリエット』よりパ・ド・ドゥ、『バクチⅢ』、『火の鳥』の4作品が上演されます。
なかでもベジャール三大傑作のひとつとされる『火の鳥』を東京バレエ団が上演するのは9年ぶり。指導には、元ベジャール・バレエの小林十市さんがあたっています。20世紀の初頭にバレエ・リュスが初演したフォーキン振付の『火の鳥』はロシア民話に材を取ったものであったのに対して、ベジャールの『火の鳥』が設定しているのはパルチザンの闘争です。
今回は、タイトルロールの火の鳥役を共に初役で演じるファーストソリストの池本祥真さんとソリストの大塚卓さんにインタビュー。
まずは7月22日(金)・23日(土)に登場する池本祥真さんのお話をお届けします。
池本祥真(東京バレエ団 ファーストソリスト)©︎Ballet Channel
【東京バレエ団「火の鳥」特集②】大塚卓インタビュー「ビシッと揃うのとは違う。でも一丸となって迫ってくる。それがベジャールの群舞の魅力」はこちら
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池本祥真 Shoma IKEMOTO
7/22・23 火の鳥役
- 池本祥真さんは今回初めて火の鳥役を演じるそうですが、実際にリハーサルをしてみての感想は?(編集部注:取材は7月初旬)
- 池本 すごくしんどいです。身体を極限まで使うような振りが多いので、本当に体力が必要です。今回直接指導してくださっている小林十市さんは、この役を長年にわたって踊っていらしたと聞きました。それはすごいことだなと思います。
- 高い身体能力を持つ池本さんをもってしても、そんなにしんどいのですか……。
- 池本 いやいや(笑)。当初、「『火の鳥』はクラシック・ベースの作品だから大丈夫だよ」という話をちらりと聞いていたんです。ところが実際にやってみると、クラシック・バレエの動きからもうひとつ先まで身体を使うようなポーズがすごく多くて。自分がイメージしていた以上のところまで動くというのがなかなか身体に馴染まなくて、苦戦しています。
- 小林十市さんのご指導はいかがですか?
- 池本 いちばん感じるのは「かっこいい」ということ。事前に自分で映像を見ながらやってみても、正直「いまいちピンとこないな……かっこ悪いな……」と思うのに、十市さんがいらして「こうだよ」ってお手本を見せてくださると、それがびっくりするくらいかっこいい。何が違うのかと言えば、本当にわずかな手の角度とか、そういうちょっとしたことなんです。でも、十市さんの真似をしてみると、何となく形が取れて、「ああ、ベジャールさんぽい動きになった」となる(笑)。本当に素晴らしいお手本がそこにいてくださるという感じで、ありがたいです。
- 今日はリハーサルも少し見学させていただきましたが、火の鳥役は腕の使い方が大きなポイントなのですね。
- 池本 僕は腕をピンと伸ばして使ってしまいがちで、それは芸術監督の斎藤友佳理さんにもご指導いただくことがあります。でも、とくにこの火の鳥は、呼吸と一緒に腕を大きく動かすのだと。『白鳥の湖』で女性ダンサーたちがやるように、腕を羽ばたかせることがとても大事だと教わっています。
- よくよく考えると、白鳥の羽ばたきみたいな動きを練習する機会って、男性ダンサーにはあまりないのでは?
- 池本 そうですね、男性はそもそも鳥の役を演じることがあまりないですね。……あっ、でもブルーバードがあります(笑)。
- ブルーバードがありました(笑)。今日のリハーサルでは、他にも足先の小さな動きのアクセントとか、腕を羽ばたかせるタイミングとか、火の鳥の踊りってこんな細かいディテイルの積み重ねでできているのだと驚きました。
- 池本 おっしゃる通り、足の出し方、首の付け方や角度、呼吸の仕方、胸の開き方……本当に細かい部分をひとつずつ緻密に直していって、直し尽くした時に、作品としての良さが出るという感じがします。
- 先ほど「ベジャールさんっぽい」という言葉がありましたが、池本さんはどんなところにベジャール作品ならではの特徴を感じますか?
- 池本 言葉にするのは難しいのですが、クラシックがベースであってもクラシックそのものではない、「ベジャール・バレエ」と呼ぶべき独特の形をもっているなと感じます。それは例えば腕を横に開いて親指を折りたたむとか、そのくらいの小さな変化で、「これは“クラシック・バレエ”ではない。“ベジャール・バレエ”だ」とはっきり感じられるんです。
- 表現面についてはどうでしょうか。何かとくに指導されていることなどはありますか?
- 池本 今回に限らず、僕が十市さんにご指導いただいていて感じるのは、「これは○○を表現している動きだから」というような具体的な説明をいただくことはほぼないな、ということです。例えば腕を大きく動かす振りがあったとして、「劇場じゅうを支配するように」と動きのニュアンスやイメージをアドバイスしていただくことはあるけれど、「それは人々を支配する動きだから」と説明されることはありません。つまり、この『火の鳥』含め、ベジャールさんの振付は何かを説明するためのものではないのだろうと。そうではなくて、一つひとつの動きや形がまとうイメージが一個一個積み重なっていった結果、あの素晴らしい作品世界ができ上がるということなのだろうと思っています。
東京バレエ団『火の鳥』©️Enrico Nawrath
- 面白いですね。一つひとつの動きや形は細かいところまで具体的に決まっているけれど、それが何を表現しているかはまったく具体的ではないと。でもそうだとすると、祥真さんたちダンサーは、頭にハテナが浮かんだまま踊ることにはならないのでしょうか?
- 池本 その踊りの意味は、踊り込んでいくうちに自分の中で何となく発見できていくものだという気がします。振付の一つひとつを細部まで指導していただきながら積み重ねていくうちに、自分なりの気持ちが入ったり、何か「納得できるな」という気持ちになったり。あるいはリハーサルではそこまでたどり着けなくても、舞台に出て、セットの中に入った時に、ハッと気持ちが生まれることもあります。ベジャールさんの作品というのは、振付として与えられた動きや形、指導の先生に言われたことをきっちりきっちりやっていくことで、素晴らしい世界ができ上がる。僕が前もって「ここはこうして……ここはこういう気持ちで……」などと考える必要は一切ありません。むしろ自分の感情から先に入ろうとするなんておこがましい、とすら思います。
- 音楽はストラヴィンスキーですね。
- 池本 変化に富んでいて、楽しいです。でも踊るのは難しい。『春の祭典』もそうだったのですが、例えばカウントを取るにも「こっちでも取れるし、あっちでも取れる。どこで取っても良さそうだけど、正解は一体?」みたいになることがあります。ただ、その難解な楽曲に対して「もうこの振付しか考えられない」と思えるような振りが付いているのがベジャールさんの『火の鳥』。そこが本当に素晴らしいなと思います。
- 以前別の取材の際に、「ベジャール作品はとくに男性ダンサーに人気がある」という話を聞きました。池本さんは、ベジャール作品のどんなところが好きですか?
- 池本 やっぱり、かっこいいですよね。クラシックにはない独特のポーズを表現できるのは体験として貴重だと思うし、喜びも感じます。それから、男性群舞。クラシック作品だと、じつは男性群舞ってあまりないなと思うのですが、ベジャール作品には男性みんなで力の限り踊る!みたいな振付がいろいろとあります。『ザ・カブキ』しかり、『春の祭典』しかり。男同士でワイワイやる部活感というか(笑)、「よし、やるぞ!」「俺がいちばん跳んでやるぞ!」みたいな気持ちにもなれる、そんな楽しさがあります。
- 今回の『火の鳥』にかける意気込みを聞かせてください!
- 池本 尊敬する十市さんが長年踊ってこられた役であり、東京バレエ団にとって大切なレパートリーでもあるこの作品を僕が踊らせていただくというのは、本当に光栄なことだと思っています。先輩方が踊り継いでこられたものを僕が受け継ぐ……と言うと少しおこがましいのですが、でも、できる限りのものを受け止めて、舞台の上でしっかり出せるように頑張ります。
公演情報
東京バレエ団「ベジャール・ガラ」
日程 |
2022年
7月22日(金)19:00
7月23日(土)14:00
7月24日(日)14:00
※上演時間:約2時間15分(休憩2回含む) |
演目 |
『ギリシャの踊り』
音楽:ミキス・テオドラキス
ソロ:
樋口 祐輝(7/22)
柄本 弾(7/23)
池本 祥真(7/24)
『ロミオとジュリエット』パ・ド・ドゥ
音楽:エクトル・ベルリオーズ
秋山 瑛、大塚 卓(7/22、23)
足立 真里亜、樋口 祐輝(7/24)
『バクチIII』
音楽:インドの伝統音楽
上野 水香、柄本 弾(7/22、24)
伝田 陽美、宮川 新大(7/23)
『火の鳥』
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
火の鳥:
池本 祥真(7/22、23)
大塚 卓(7/24)
フェニックス:柄本 弾(7/22、23、24)
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会場 |
東京文化会館(上野)
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詳細 |
東京バレエ団WEBサイト |