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小林十市 連載エッセイ「南仏の街で、僕はバレエのことを考えた。」【第31回】星空を見上げて願うこと。

小林 十市

ベジャール・バレエ・ローザンヌ(BBL)のスターダンサーとして世界中の舞台で活躍。
現在はBBL時代の同僚であった奥様のクリスティーヌ・ブランさんと、フランスの街で暮らしている小林十市さん。

いまあらためて、その目に映るバレエとダンスの世界のこと。
いまも色褪せることのない、モーリス・ベジャールとの思い出とその作品のこと−−。

南仏オランジュの街から、十市さんご本人が言葉と写真で綴るエッセイを月1回お届けします。

🇫🇷

夜空を見上げ天に願い事をする。ここは田舎なので雲もなく空気が澄んでいれば星空はプラネタリウムのように綺麗に見える。しばらく星空を見上げイメージする。スーッと上に引っ張られ宇宙空間から地球を眺めてみる。最近では宇宙ステーションからの映像だったり映画でのCGだったり宇宙から見る地球は誰でもイメージしやすいのではないだろうか? そして僕が宇宙人で地球を訪ね、最初に降りた場所で戦争をしていたら……とか考えてしまった。そして世の中には一般市民が決して知らされることのない裏のシナリオがあり、我々はただその出来事に巻き込まれてしまっているだけなのかもしれない。とはいえウクライナで起こっていることは現実であり、毎日ニュースで見る光景には心痛むものがあり当事者の方々のことを想像するだけでもとてもつらいものがあります。僕もフランス赤十字慈善団体を通して寄付をしたけれど、戦争が終結し人々が1日も早く安心して生活ができることを祈るばかりです。

日常生活でやることをやって、さて何をしようと考えた末に靴磨きができる生活って……平和な証拠ですよねってなんとなく思いました。ウクライナの人々の平穏な日常が戻ることを心より願っております

フランスでは戦争が始まってからコロナ関連のニュースをまったく見なくなった。そして今月14日からは公共交通機関と病院以外でのマスク義務が解除される。あれだけ3回目のワクチン接種をしろと唱えていたフランス政府だけど、感染者がいなくなってきたわけではないこの時期にワクチンパスも要らなくなるというのはどういうことだろう? と正直思う。あとはフランス大統領選関連のニュースとかが多く報じられている。

ここ最近よく見るようになったジェンダーによる差別を解消しようとしているテレビコマーシャルがフランスでは多く、それを見ては思うのだけど、だったら国境さえもなくしてしまって我々は皆同じ一つの星に住んでいる「地球人です!」ってなれば良いのになあ……って何となく思う。資源が豊富な場所は別の場所にシェアするとか所有するという考えをなくして皆対等にとかは宇宙人のリトルグレイのように容姿が皆まったく同じとかにならないと目覚めない意識かもしれないし、それを考えると地球上ではあと数百年くらいは真の平等なんて訪れないかもしれない。でもある意味ベジャールさんは昔からそういう意識の持ち主だったのではと思う。バレエ団には様々な国籍のダンサーがいて、皆「ベジャールダンサー」という一つの意識のもと生活していたわけで、やはりベジャールさんは時代の先端をいっている人だったのだなあ……とはいえこの世は二元性で、良い悪い、白い黒い、綺麗汚いと常に揺れ動き、なかなか人類皆兄弟的な平等意識を持つ状況にたどり着くのは難しいであろうと思うわけです。

まあ、どう社会が変わろうと踊りの世界での本質的部分は変わらないでしょうきっと。毎日レッスンをして上達して、稽古をして舞台に立って、と。ダンサーが平等意識を持つのって難しいというか、必要ないと思うし、肩を並べてみんなと一緒に仲良くして踊ろう! ってことは表面的にはあってもアーティストとしての本質的なあり方にはあり得ない気がするのです、「右へ倣え」はあり得ないという意味で。競争意識は上達をするためには必要だと思う。やはり個人個人の努力、鍛錬を積み重ね、つねに上を目指すという姿勢は何においても大事な気がするし、それを支える強い精神力も養わねばならない。ほんとアスリートの世界と同じなのだ。点がつけられないだけで。

ローザンヌから戻って4週目。やっとというか自主練を再開した。元々不規則にやる気がある時だけやっていたから再開っていうと何か変だけど……しかし自主練を始めたのはやはり「不安」からきている要素が多いからだと思う。このまま動けなくなったらどうしよう? とか、太っておじさん化してしまったらどうしよう? とか時代に乗り遅れたら!? とかいろいろ。「十市さんはダンサーなんだよ」と金森穣君にも言われたけど、根が元々プレイヤーなのだと思う。完全に指導者としていようと割り切っていれば、もっと違う生き方があったのではないか? と思うこともたまにある……。コネも繋がりもない自分が何とかフリーランスとして活動していきたいという焦りの中で、先の見えない不安と戦いながらの自主練なのだ。動いていればチャンスの波が来た時に乗れる! と自分自身を鼓舞している。

チャンスといえば、去年の11月日本からフランスへ戻ってくる前に赤レンガのスタッフさんを通して伊藤郁女(いとう・かおり)さんを紹介してもらった。暮れに彼女の舞台を観た人もいるのではないでしょうか? 郁女さんとは横浜でのダンスフェスティバルの話をし、郁女さんがローザンヌでベジャールさんに会った時の話とかからの流れでアヴィニョンのオペラ座に新作を創るという話になり、聞いていくとダンサーとアマチュアの合同作品になるという。僕はオランジュに住んでいてアヴィニョンは近いからそのアマチュア枠に入れてもらうことは可能だろうか? と早速自分を売り込んだ(笑)。そして郁女さんは喜んで受け入れてくれて、その記念すべき作品の稽古初日が昨日22日にあった。

稽古時間が20時から23時というあまり経験しない夜稽古。郁女さんはこの日、すでにダンサーたちと稽古をしていた。アマチュア=一般の人?なのかどうなのか実際僕にはよくわからないのだけど結構年齢的に上の人もいて、郁女さんのカンパニーのダンサーであるルイさんのもと、ウォームアップからワークショップ的なことをして、そして昼間ダンサーたちに振付けた踊りを踊らされた! まさかこんなに動くとは思ってもいなかったけど、たぶん稽古初日でいろいろ探っているのではないだろうか? だってアマチュア枠ってどんな枠よ? と思ったけれど、みんな踊り心はあるようで一生懸命動いていた。どんな作品になるのか? まだまだ全貌は見えないけど、この企画に参加できて良かったと思う。週に1回の個人レッスンの教えがあるだけで何もしていない自分には好都合なのだから。そして何よりも創作現場は緊張感があり楽しい。

郁女さんが主宰する「Compagnie Himé」はツアーがとても多い。サイトを見てもらえばわかるんだけど、フランス、ベルギー、スイスと、今回の創作もツアーの合間を縫っての限られた時間の中で行われている。

伊藤郁女さんと

ツアーに関しては、とくにヨーロッパでは小規模のカンパニーのほうが各地をまわりやすいのだと思う、バジェット的に。僕はベジャール・バレエで長期ツアーなどたくさん経験してきたけれど、今はきっとそういう時代ではないのかもしれない。

今月もお読みいただきありがとうございます。

小林十市

★次回更新は2022年4月27日(水)の予定です

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元ベジャール・バレエ・ローザンヌ、振付家、俳優。 10歳より小林紀子バレエシアターにてバレエを始める。17歳で渡米し、スクール・オブ・アメリカン・バレエに3年間留学。20歳でスイス・ローザンヌのベジャール・バレエ・ローザンヌに入団。以後、数々の作品で主役をはじめ主要な役を踊る。2003年に腰椎椎間板変性症のため退団。以後、世界各国のバレエ団でベジャール作品の指導を行うほか、日本バレエ協会、宝塚雪組などにも振付を行う。また舞台やテレビ、映画への出演も多数。

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