2026年3月より、ミュージカル『メリー・ポピンズ』が開幕します。風に乗ってやってきた不思議な家庭教師、メリー・ポピンズの物語は、P.L.トラバースの小説を原作に、ウォルト・ディズニー・カンパニーの手で映画化され、世界中で愛されています。ミュージカル版は『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』のプロデューサー、キャメロン・マッキントッシュの手で2004年に初演。日本版は2018年、2022年に続き3度目の上演となります。
今回は、『メリー・ポピンズ』のストーリーテラー、バート役のトリプルキャストを務める大貫勇輔(おおぬき・ゆうすけ)さん、小野田龍之介(おのだ・りゅうのすけ)さん、上川一哉(かみかわ・かずや)さんにインタビュー。2025年12月、製作発表イベントを終えたばかりの3人に、バート役について、作品の魅力について聞きました。

左から:小野田龍之介、大貫勇輔、上川一哉 ©Toru Hasumi
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- 今日(2025年12月16日)の製作発表イベントはいかがでしたか?
- 大貫 オーディエンスのみなさんの熱量を肌で感じました。一般オーディエンスのみなさんからの質問に答えるコーナーでは原作からのファンという方もいて、メリーはこんなにもみなさんに愛されているんだ、すごいなって。
上川 驚きました。素敵な質問でしたしね。
小野田 ポジティブな空気がいっぱいの作品だから会場じゅうがあたたかくて、「やっぱり『メリー・ポピンズ』っていいな!」と思った。ところで上川さん、どうでした? 今日の歌唱披露。バート役の初お披露目になったわけですけれど。
上川 いやぁ……(苦笑い)。
大貫 初役でイベントの第一声を飾る、っていう。あれは緊張するよ。
小野田 しかもディナーショーみたいなスタートでね。
上川 (笑)
小野田 いや、すごくよかったですよ! 初参加ということで、このカンパニーの印象も聞いてみたいです。
上川 コメントを言う時から、みなさん役のキャラクターがにじみ出ている感じがして、これからが楽しみです。あと、ブーム提督(バンクス家の隣人で退役海軍軍人)と頭取役を演じる、コング桑田さんのパワーにびっくりしました。
小野田 コングさんは初演の時からずっとあのパワーなんですよ。
上川 そうなんだ!
小野田 やっぱり久しぶりにカンパニーが揃うと、一気に家族のような空気が流れますね。

大貫勇輔 Yusuke Onuki
1988年生まれ。神奈川県出身。ホリプロ所属。7歳でダンスを始め、17歳からプロダンサーとして数々の作品に出演。バレエ、コンテンポラリー、ストリートなど、ジャンルを超えたダンスを踊る。おもな出演作品に『ロミオ&ジュリエット』『マシュー・ボーンのドリアン・グレイ』『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』『メリー・ポピンズ』『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』『ハリー・ポッターと呪いの子』『天保十二年のシェイクスピア』、ドラマ『ルパンの娘』など。映画『キャッツ』ではスティーヴン・マックレーの声の吹替を担当した ©Toru Hasumi
- みなさんが演じるバートは、この作品のストーリーテラーですね。
- 小野田 メリーと他の人々とを繋ぐ架け橋です。
大貫 でも……演じているほうはなかなか大変なんですよ。
小野田 うん。「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス(「スパカリ」)」みたいなビッグナンバーはダンスも歌も盛りだくさんで、リプライズ(同じナンバーをふたたび歌うこと)も多い。それを仕切るのはバートだからね。
大貫 「ステップ・イン・タイム」では、ハーネスをつけた状態で歌い、踊り、息つく間もなく壁を登り、宙づりにされて……お客さんたちが「わぁ、素敵!」って幸せな気持ちになっている時ほど、こちらはもう、ヒーヒーですよ。
小野田 いや、ホントに体力勝負、精神力勝負。でも、めげない(笑)。メリーの魔法にどっぷり浸からせてもらって、頑張って乗り切るんです。
大貫 上川さん、どう?
上川 いやぁ……観るは天国、だったけど、
小野田 演じるは地獄(笑)?
上川 とは言わないけれど(笑)。聞いていた以上に、頑張らないといけないことが多そうですね。でも大貫くんが会見で「ステージの天井で逆さまになって歌うところで、バートだけが見ることができる素晴らしい景色がある」って言っていたでしょう? 僕もそれを見たいです。
大貫 観ている人が幸せな気持ちになる場面。だから大変でもやりがいがありますね。

小野田龍之介 Ryunosuke Onoda
1991年生まれ。神奈川県出身。ホリプロ所属。幼少よりジャズ、タップ、バレエを始める。ダンスで舞台経験を積みミュージカルに出演。2011年シルヴェスター・リーヴァイ国際ミュージカル歌唱コンサート・コンクールで特別賞を受賞。おもな出演作品は『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『West Side Story』『メリー・ポピンズ』『マチルダ』『ラブ・ネバー・ダイ』『マリー・アントワネット』『ベートーヴェン』『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』『フットルース』『ピーター・パン』など多数 ©Toru Hasumi
- 大貫さんは前回・前々回、小野田さんは前回に続いてバート役を努めますね。いままでの公演を振り返っていかがですか?
- 小野田 僕は初演ではロバートソン・アイ(バンクス家で働く、少しドジなハウスボーイ)役で出演していたんですけれど、ハウスボーイとしてバンクス家の人々を俯瞰して見ることができたし、出番が被らないバートの場面を見学する時間もたくさんあった。あの経験は再演でバート役に挑戦した時に、とても役立ちました。
大貫 再演の稽古場で龍ちゃん(小野田)のバートを見た時のことは覚えてる。すごく面白かったんだよ。仕草や動き一つひとつが新鮮で、茶目っ気があって、「そんなやり方もあったんだ!」って。一番びっくりしたのは歌。強調する言葉が僕とまったく違ったんだよね。あの時に受けた刺激は、僕の中のバートの幅を広げる助けにもなった。上川さんとの稽古も今からワクワクしています。
小野田 『メリー・ポピンズ』って、役に自分らしさを投影しやすい作品だと思う。特にバートはそういうキャラクターじゃないかな。各々が自分らしさを大切にしつつ、シンプルに役に重ねていけたらいいなと思います。上川さんのバートからはどんなふうに上川さんらしさが滲み出てくるのか、早く見てみたいですよ。
上川 頑張ります。

上川一哉 Kazuya Kamikawa
1986年生まれ。島根県出身。ワタナベエンターテインメント所属。12歳でジャズダンスを始め、2005年劇団四季研究所へ入所。劇団四季では『人間になりたがった猫』『ウェストサイド物語』『ウィキッド』『春のめざめ』『キャッツ』『ユタと不思議な仲間たち』『リトルマーメイド』『恋に落ちたシェイクスピア』などに出演した。2021年に劇団四季を退団後も『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』『アンドレ・デジール 最後の作品』『イザボー』『20世紀号に乗って』『ケイン&アベル』『A Year with Frog and Toad〜がまくんとかえるくん』『ある男』など、多くの舞台で活躍している ©Toru Hasumi
- ところでバートとはどういう人物なのでしょう。作品の中では意外と語られていない印象があります。
- 大貫 『メリー・ポピンズ』の背景には、当時のイギリスの階級制度が描かれています。メリーを家庭教師として雇っているバンクス家は、銀行員を父に持つ中流階級。
小野田 いっぽう、バートは労働者階級で煙突掃除をしている男なんですよ。演出からもそれを何よりも大事に演じてほしいと言われていますし、ダンスや歌でもパフォーマンスに意識を向けすぎると「普通の労働者階級の人間がステップを踏んでいるように踊って」「もっと“土っぽさ”のある歌を」と注意を受けます。労働者らしさを表現するために、地に足を付けて、泥臭く……バートは王子様でも魔法使いでもないですからね。マジカルなのは、あくまでもメリー・ポピンズだけなんです。
- みなさんのバートはメリーに対してどんな思いを持っていますか?
- 大貫 分かりやすく言うと、メリーは初めて好きになった保育園の先生みたいなイメージです。尊敬と憧れで「先生、好き」って言っちゃう子どもみたいな気持ち。それは大人になって再会した今も変わっていないけれど、もう「好き」って気持ちは出さない、って感じかな。
小野田 初恋の人みたいな気持ちは僕も同じですね。僕の演じるバートにとって、メリーは希望。出会っただけで幸せでいっぱいになるし、再会するたびに、何を喋っていいかわからなくってドキドキします。だから、ちょっとカッコつけちゃうんです。

大貫勇輔 ©Toru Hasumi
- それぞれ、どんなバートを演じたいと考えていますか?
- 小野田 自己主張するタイプの役ではないので、お客様に彼の内面を深掘りされてしまうのもちょっと困るんですね。目指しているのは「ふと気づくと自分の隣にいるような人」。バートって、どこにでもいる人だと思うんです。そんな彼の「普通さ」をいちばん大切にしています。
大貫 僕は、彼のエンターテインメント好きなところも少し膨らませようと。あくまでも役の設定を変えない程度にですが、せっかく素敵なダンスや歌がたくさんあるので、身体を活かして演じられたらと思っています。
上川 (取材日時点で)これから台本をいただくから、具体的なキャラクターイメージは考えていないというか、まだ創らないようにしています。でもお二人の話を聞いていると、役づくりのヒントになりそうなものがたくさんあるので、それを活かしてどう組み立てていけるか。お二人とはまた違う、上川一哉らしいバート像を創りたいですね。
大貫 僕、まだまだもっといろんなことができるだろうなって思っているんです。今回の稽古場でも、言葉のどこに重きを置くかとか、細かなことを試してみたい。
小野田 ふとした瞬間のセリフの語尾とか、立ち居振る舞いとかね。『メリー・ポピンズ』はそのマジカルさを演出するためにも決まりごとがたくさんあるから、ふたつのバランスをとるのがなかなか難しいけれど、チャレンジしていきたいよね。

小野田龍之介 ©Toru Hasumi
- ミュージカル版の振付、マシュー・ボーンさんのダンスの特徴は?
- 大貫 マシューの振りは先が読めないんですよ! 次にどう動くのかまったく想像できないので、ついお客様も見入ってしまう。面白くて意外性があって『メリー・ポピンズ』のマジカルな感じにもぴったりですよね。そういえば最近、K-POPなどで歌詞に合わせて細かい手振りをつけるダンスが流行っていますけれど、「スパカリ」で“Supercalifragilisticexpialidocious”の34文字を一つひとつ、S、U、P、E、R……と身体で綴っていく振付は、その先駆けとも言えるんじゃないかな。 また、マシューはバレエならマイムに該当するような決まった動きを使わずに、まったく新しい身体表現に変えてしまったりもします。日常の動きを誇張して踊りに取り入れるのも振付の特徴で、まさに彼の個性だと思う。
小野田 銀行員たちが書類を持って歩いて来るとか、埃をさっと払うとか、ちょっとした動きもダンスになっているんです。だからバレエやダンスが好きな方も楽しんでもらえると思いますよ。
- この作品をどんな方に楽しんでもらいたいですか?
- 大貫 ちょっと話がそれちゃうんだけど、いい? 『ハリー・ポッターと呪いの子』に出演していた時、聴覚障害を持ったお客様に舞台手話通訳公演(*)を実施したことがあったのね。通訳をつうじて夢中になって楽しんでくださっているのが、舞台の上まで伝わってきて、こういう試みって素晴らしいなと思ったんです。
上川 僕も別の舞台で拝見したことがあるんだけれど、同時手話通訳される方のパワーに感動した。役のひとりとして演じながら表情豊かに通訳されていて「これはすごいや……!」って。
小野田 公演期間が長い作品は、どの舞台でもそういう観劇の機会があったらいいね。視覚障害の方や聴覚障害の方もきっと『メリー・ポピンズ』は楽しんでもらえると思わない?
上川 はい。ぜひ観ていただきたい。
大貫 僕たちが舞台に立つ時に、聴覚と視覚それぞれに訴える力をもっと意識したら、表現の可能性も大きく広がると思う。声と肉体のパワーをみなさんに楽しんでもらえるように、声と肉体と向き合っていく作業を大事にしていきたいなと思っています。
(* 2025年12月の『ハリー・ポッターと呪いの子』公演で実施。舞台前方の客席エリアに、グリフィンドールのローブ姿で通訳者が立ち、舞台の進行に合わせて手話通訳を行った)

上川一哉 ©Toru Hasumi
- 『メリー・ポピンズ』が世界中で愛される理由は何だと思いますか?
- 小野田 エンターテインメントとしての華やかさがあるいっぽうで、陽気なだけのミュージカルではないところだと思います。マジカルで明るい物語の根底に流れているドラマには、誰でも必ず心に刺さるところがある。
- イチオシのシーンは?
- 大貫 メリーが空に帰っていくラストシーン。あそこは最高に美しいんですよ。
小野田 メリー・ポピンズが飛び立つ時はみんなで舞台袖に集まって、空に消えていくメリーとお別れをするんです。
大貫 寂しいよね。僕たちなんて、ほっぺにキスされてお別れするんだよ。
小野田 うん。あそこは泣いちゃうよな。
大貫 胸が痛くなるよね。
小野田 寂しすぎてその後のシーンができなくなりそうになる。だからもう1回キスを増やしてもらおうかな、って思っているくらいです(笑)。
- 最後に、舞台を楽しみにしているみなさんに、メッセージをお願いします。
- 上川 ファンタジーのなかにたくさんのメッセージが込められていて、大人から子どもまで楽しめる作品です。舞台を観に行くというよりも、お客様も僕たちと一緒にメリー・ポピンズの世界を体験できるような空間をお届けできればいいなと思います。
小野田 音楽、振付、完璧なドラマ。感動がたくさん詰まったこの作品を、さらにパワーアップして観ていただけると思います。観たことがある方もそうでない方も、劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。
大貫 僕は今回の『メリー・ポピンズ』で、4歳の息子を初観劇させるつもりなんです。観劇デビューにもぴったりなミュージカルだと思うので、ぜひ同じ体験をしてみてもらいたいですね。
小野田 家に帰ってから、お父さんみたいに天井を歩こうとするかもしれないね(笑)。

左から:小野田龍之介、大貫勇輔、上川一哉 ©Toru Hasumi
大貫勇輔 ヘアメイク:荒木由希子 スタイリスト:立山功
小野田龍之介 ヘアメイク:高原優子 スタイリスト:津野真吾(impiger)
上川一哉 ヘアメイク:浜香奈子 スタイリスト:綾部秀美
★2025年12月に行われた製作発表レポート記事はこちら
公演情報
ミュージカル『メリー・ポピンズ』

東京公演
【日程】
プレビュー公演 2026年3月21日(土)~3月27日(金)
本公演 2026年3月28日(土)~5月9日(土)
【会場】東急シアターオーブ 渋谷ヒカリエ11階
大阪公演
【日程】2026 年5月21日(木)~6月6日(土)
【会場】 梅田芸術劇場 メインホール
【クリエイティブ】
原案:P.L.トラバース
オリジナル音楽&歌詞:リチャード・M・シャーマン&ロバート・B・シャーマン
脚本:ジュリアン・フェローズ
新規楽曲/追加歌詞&音楽:ジョージ・スタイルズ&アンソニー・ドリュー
共同製作:キャメロン・マッキントッシュ
翻訳:常田景子
訳詞:高橋亜子
【キャスト】
メリー・ポピンズ:濱田めぐみ・笹本玲奈・朝夏まなと(トリプルキャスト)
バート:大貫勇輔・小野田龍之介・上川一哉(トリプルキャスト)
ジョージ・バンクス:小西遼生・福士誠治(Wキャスト)
ウィニフレッド・バンクス:木村花代・知念里奈 (Wキャスト)
バードウーマン/ミス・アンドリュー:島田歌穂・樹里咲穂(Wキャスト)
ブーム提督/頭取:コング桑田・安崎 求(Wキャスト)
ミセス・ブリル:浦嶋りんこ・久保田磨希(Wキャスト)
ロバートソン・アイ:石川新太・DION(Wキャスト)
ジェーン・バンクス:市川桃子・久住星空・辻乃之花・室岡星愛(クワトロキャスト)
マイケル・バンクス:張 浩一・中西 緑・中込佑玖・深澤 統(クワトロキャスト)
ほか
【公演に関するお問合せ】
ホリプロチケットセンター 03-3490-4949 (平日11:00~18:00)
大阪公演:梅田芸術劇場 06-6377-3800(10:00~13:00/14:00~18:00)
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