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【ミュージカル「Frog and Toad」】振付・松田尚子インタビュー〜ミュージカルの振付は“引き算”。歌・芝居・踊りで100%になるように

阿部さや子 Sayako ABE

絵本作家アーノルド・ローベルの代表作「Frog and Toad(フロッグ・アンド・トード)」シリーズ(邦題:がまくんとかえるくん)。日本でも1980年から小学校の国語の教科書に採用されるなど、時代を超えて世界中で愛されている名作絵本です。

この「Frog and Toad」シリーズを原作としたミュージカル『A Year with Frog and Toad』がブロードウェイで初演されたのは2003年のこと。「ふたりはともだち」「ふたりはきょうも」「ふたりはいっしょ」「ふたりはいつも」の4作のエピソードを盛り込んだ同作は、トニー賞で3部門にノミネートされるなど高い評価を得ました。日本では2006年に初演。以降、2007年、2009年、2015年、2017年と再演を重ねてきた本作が、8年ぶりに新たなクリエイティブチーム&キャストで上演されます。

本作の主人公、かえるくんとがまくんを演じるのは越岡裕貴松崎祐介(ふぉ~ゆ~)。共演には原田優一上川一哉MARIA-E壮 一帆と実力派の俳優陣が揃い、個性豊かな動物たちを演じます。

そんな動物たちの楽しいダンスを振付けるのは、ミュージカルやコンサートの振付も数多く手がけるダンサーの松田尚子。稽古が始まって間もない2025年5月初旬、出演者たちに振付を行っている最中の松田さんに、

  • ダンス作品とミュージカルの振付の違い
  • ミュージカルのダンスならではのこだわり

等について、話を聞きました。

松田尚子(まつだ・なおこ)プレーヤーとして国内外で活動する他、近年は、ミュージカル、コンサートの振付を手掛ける。最近の振付作に、『チャーリーとチョコレート工場』『HERO』『ボニー&クライド』『モダン・ミリー』『ファインディング・ネバーランド』『マリー・キュリー』、『山崎育三郎全国TOUR2024「THE HANDSOME」』『郷ひろみコンサート「Hiromi Go Theater MILANO-Za」』『香取慎吾楽曲「シンゴペーション」』などがある。その振付スタイルはジャズを基調にしながらも、コンテンポラリーやストリートダンスを融合し、エンターテインメントと芸術表現の調和が称賛を集めている。 ©Ballet Channel

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まずは松田さんのダンス経験を教えてください。
松田 ダンスを始めたは中学2年生の時。きっかけは「少年隊」です。当時、少年隊が青山劇場で年に1回ミュージカルを上演していて、知り合いが「チケットが1枚あるから、一緒に行かない?」と誘ってくれたんです。私はそれまで少年隊のことを全然知らなかったのですが、舞台を観たら、衝撃を受けてしまって。すっかり大ファンになり、「私も少年隊みたいに踊りたい!」と思ってダンスを始めました。
少年隊がきっかけだったとは、想像もしていませんでした(笑)。しかし少年隊のダンスに憧れたということは、つまりジャズダンスを習い始めたということですか?
松田 はい、ジャズダンスです。まずは中学校のダンス部に入り、それだけではダメだと思って、ダンススタジオにも通い始めました。
舞台で踊る松田さんは、脚を上げた時のポジションやつま先のラインが美しいので、てっきり子どもの頃からバレエを習っていたのかと思っていました。
松田 バレエは基礎として必要だからということで少しだけ習いましたけれど、ベースはずっとジャズでした。ただ、ジャズダンスはとても多様で、ストリートダンス寄りのもの、コンテンポラリーダンス寄りのものなど、いろいろなスタイルがあります。私が最初に始めたのはバレエ寄りのジャズダンスだったので、その影響もあるかもしれません。
そんな松田さんが「ダンスの道で生きていこう」と考えるようになったのはいつ頃ですか?
松田 ダンスを始めてから、踊ることがもう楽しくて仕方なくて。とにかく毎日スタジオに通い詰め、大学にも進学はしたものの、「もしも何かダンス関係の仕事が決まったら、大学を辞めてダンスの道で生きていこう」と考えていました。そして19歳の時、お世話になっていたスタジオから「1クラス、教えてみませんか?」と声をかけていただいて。それを機に大学は中退しました。たった1クラスを受け持っただけなので、アルバイトもしながらでしたけれど、「ダンスで食べていけるように頑張ろう」と決めたのは、その時でした。
ジャズダンスのレッスンは、先生が作った振付をみんなで覚えて踊る、というのが基本的なスタイルかと思います。つまり、先生は毎回のようにオリジナル作品を振付けることが求められますよね……?
松田 そうですね、振付は毎回作ります。でもそれは“慣れ”というか、自分が「これなら作れる」と思う曲が見つかれば、意外とすんなり作れたりするんです。だから振付を考えることよりも、曲選びのほうに時間がかかることもよくあります。
プロのダンサーとしてのキャリア、つまり舞台で踊る仕事は、どのようにしてスタートしたのですか?
松田 やはりスタジオのダンス公演で舞台に立ち始めたのが最初で、そこからいろいろな人たちと繋がりができ、少しずつ声がかかるようになっていきました。私たちダンサーは基本的にみんなフリーランスなので、“最初の1回”が決まるまでが大変なんです。でも舞台に出られるようになってくると、そこでできた人脈が伝手になり、また次の舞台に繋がって……と、しだいにチャンスが広がっていく。私の場合は、最初は自分が通っていたダンススタジオの公演から始まって、少しずつ外部の商業舞台の仕事に繋がっていったかたちです。

©Ballet Channel

ミュージカルの仕事を始めたのも、そうした繋がりから?
松田 そうですね。私はミュージカルに出演した経験は2回くらいしかないし、観たこともほとんどなかったのですが、ダンスの友人がミュージカルの振付をしていて。その人からの誘いで、少しずつお仕事をいただくようになりました。
ミュージカルの場合は演出家の意図に沿った振付を作らなくてはいけなかったり、俳優が歌ったり芝居したりしながら踊れる振付にしなくてはいけなかったりと、ダンス作品を作るのとはかなり勝手が違いそうです。
松田 全然違います。おっしゃる通り、ミュージカルには歌・芝居・踊りという3つの表現方法がありますから、振付を作る際に意識しているのは「引き算すること」です。踊りで100%埋めるのではなく、歌と芝居と踊りで合計100%になるように。そしてその割合も、「この場面は歌を聞かせたいから踊りは5%」「ここはガッツリ踊ったほうがいいから90%」「ここはセリフをじっくり届けたいから踊りは0%」等々、場面ごとに考えていきます。私がミュージカルの振付をするようになってちょうど10年ほど経ちますが、いま振り返ると、最初の頃はとてつもなく振りを詰め込んだり、すごく歌いづらい格好で歌わせてしまうような振付を作ったりしていたと思います。

また、ミュージカルの場合は楽曲ごと、シーンごとに、物語や登場人物の感情など「見せなくてないけないもの」があります。ですから振付を開始する前に、まず演出家と打ち合わせをして、「このシーンではこれを大事にしたい」「このナンバーではこういう感情の変化を見せたい」といった演出意図を聞くんです。その上で、見せるべきものを見せるための振付を作っていく。そして、例えばダンス作品なら「悲しい」という感情ひとつで1曲踊ったりするけれど、ミュージカルは1曲の間にも物語が進んでいくので、その展開も見せなくてはいけません。そういう意味でも、ミュージカルの振付は、普通のダンスを作るのとはまったく違います。

歌詞の内容は、どのくらい振付に加味していますか?
松田 振付をする上で、歌詞はすごく大事な材料です。歌詞にあることをわかりやすく説明するような動きにするのか、それとも何となく意味を感じてもらえるくらいの動きにするのかは、その時どきで違いますけれど。
演出意図、芝居、歌、歌詞など、いろいろな “制約”があるなかで振付を作るのは、難しくありませんか?
松田 難しいです。でも、そこが楽しいです。私の師匠が川崎悦子先生という劇団☆新感線や宝塚歌劇団などの振付をしている方で、そのお仕事をずっと見てきた影響か、私も芝居の中の振付をするのがすごく好きで。「この役がこういう気持ちの時はどんな動きをするかな?」と想像したり、踊りがあまり得意ではない役者さんにどんな動きをつけたら効果的かを考えたりするのもおもしろい。それに役者さんはやはり芝居心がありますから、各人が自由に振付を成長させてくれるんです。私は事前にある程度は振付を考えてからスタジオ入りするのですが、それより役者さん自身の発想に任せて動いてもらったほうが、ぐんとおもしろい踊りになることもよくあります。
本作の中には、〈水中バレエ〉〈スノー・バレエ〉と名のついた、全幕バレエでいうところの間奏曲みたいな場面があるそうですが、ひょっとして、動物たちがバレエを踊るのでしょうか?
松田 いいえ、残念ながらバレエを踊るわけではありません(笑)。ただ、本当に少しだけですが、〈水中バレエ〉に「四羽の白鳥」を意識した振付を入れようかな……とは考えています。その場面は壮一帆さんがリードするかたちにしたいと思っていて、壮さんが本当に美しいので、バレエのパを少し入れたいなと。
楽しみです……! 松田さんが、振付を作る上で大切にしていることを教えてください。
松田 舞台全体を1枚の絵として、俯瞰的に振付をすることです。こういう言い方が合っているのかわかりませんが、私は振付自体にこだわりがあるわけではないんです。例えば舞台の上手側はガチャガチャせわしなく動いている、下手側はそれを静かな動きで見ている、という絵を作りたい時に、その“ガチャガチャ”を表現する振付は、ガチャガチャに見えれば何でもいい。ただそのガチャガチャの質感にはとてもこだわります。とくにミュージカルの場合、その場面でどんな絵を見せるべきなのか、何をお客様に届けなくてはいけないかが明確にイメージできてさえいれば、振付に迷うことはほとんどありません。逆に言えば、まずは台本を読み、演出家の意図を聞き、衣裳やセットや小道具がどんな感じかを把握しなければ、最初のひと振りが出てこない。そのくらい、私は振りそのもののディテイルよりも、全体としての絵作りを優先して振付を考えるようにしています。

だから私は、自分が振付を作る作品には出演したくないんです。自分が出ていると、絶対に“一枚絵”を見ることができないし、舞台の完成形を見ることも永遠にできないから。人によっては自分も出演しながら演出や振付ができる方もいて、「すごいな……」といつも思います。でも私の場合は、“踊り手”でいることと“作り手”でいることは、使う脳がまったく違います。自分のモードが完全に切り替わるような感覚です。

では、松田さんがダンサーとして踊る時に大事にしていることは?
松田 演出家や振付師が描きたいものを、しっかり理解すること。自分も振付を手がけるようになってから、“自分がどう踊るか”よりも、“この作品の中で自分はどう在るべきか”を、いっそう大切に考えるようになりました。そういう意味では、先ほどお話しした「振付を作る上で大切にしていること」と、目指すところは同じなのかもしれません。
最後に、ミュージカル『Frog and Toad』の好きなところや、松田さんの思う見どころをぜひ教えてください。
松田 今回のお話をいただいてすぐに原作を読んだのですが、その絵本が本当に良くて。読んでいる間じゅう、ずっと胸がじんわり温かい。まさにその感じが、この舞台にはよく表れていると思います。大人も子どもも、みんな心が解けていく。本当に素敵な作品ですので、みなさんぜひ観にいらしてください。

公演情報

ブロードウェイミュージカル
『A Year with Frog and Toad〜がまくんとかえるくん』

【愛知公演】
2025年5月31日(土)~ 6月1日(日)
春日井市民会館

【大阪公演】
2025年6月6日(金)~8日(日)
サンケイホールブリーゼ

【東京公演】
2025年6月12日(木)~22日(日)
サンシャイン劇場

翻訳・訳詞:小田島創志
演出:元吉庸泰
音楽監督:堀 倉彰
振付:松田尚子
出演:
越岡裕貴 松崎祐介(ふぉ~ゆ~)
原田 優一 上川一哉 MARIA-E 壮 一帆 ほか

公式サイト http://musical-frogandtoad.jp/
公式X @frogandtoadJP

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