毎週木曜日の深夜、MBSドラマフィル枠にて放送中のオリジナルドラマ「バレエ男子!」。自らも踊りながら、パートナーのバレリーナを美しく支える“縁の下の力持ち”的存在でもある男性ダンサーたちの日常を描く、バレエ・お仕事・コメディドラマです。
主人公のナルシストなダンサー〈小林八誠〉役は戸塚純貴さん、八誠の頼れる先輩でキャラクテールの名手〈守山正信〉こと通称マモさん役は大東駿介さん、八誠の同期でプロレスオタクの天才肌のダンサー〈佐々木真白〉役は吉澤要人さん(原因は自分にある。)。人気俳優たちが、ほぼ吹き替えなしでバレエシーンに挑んでいるところも大きな見どころです。
本作のバレエ監修・指導を担当したのは、女優で元バレリーナの草刈民代さん。草刈さんは準備段階から本編撮影に至るまでバレエ指導を行い、バレエ監修の立場から編集にも携わるなど全面協力。さらに元・牧阿佐美バレヱ団プリンシパルの菊地研さんもバレエ指導に加わり、2人の全面サポートのもとで、本作のバレエシーンは撮影されました。
3月下旬、バレエシーンの撮影を終えたばかりの菊地研さんにお話を聞きました。

菊地研(きくち・けん)東京都出身。10歳よりバレエを始め、石井清子バレエ研究所、竹内ひとみバレエスクールで学ぶ。2001年、16歳で牧阿佐美バレヱ団に入団。同年、ローラン・プティより「デューク・エリントン・バレエ」のソリストに抜擢され、一躍注目を集める。ボリショイ・バレエ・アカデミーに短期留学。2003年「くるみ割り人形」で主役デビュー。以後、数々の作品で主役を務める。2024年に同団を退団。現在はフリーランスのダンサーとして活躍中。 ©Shinji Masakawa
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- 菊地さんは今回「バレエ指導」という立場で、俳優のみなさんが踊る場面のサポートや、バレエシーンの撮影に携わったとのこと。最初に本ドラマへの協力依頼を受けた時の率直な感想は?
- 菊地 このドラマは、牧阿佐美バレヱ団で一緒に踊っていた上原大也くんが、退団後に映画やテレビ番組などを制作する会社に転職し、プロデューサーとして企画したものです。かつての仲間が頑張って立ち上げた作品の力になれること、彼が僕に頼ってくれたことが、まずは何より嬉しかったです。
でも、いざ現場に入ってからは、思っていた以上の緊張感を感じました。というのも、バレエを題材にした映画やドラマを見る際、僕も含めてバレエを知っている人たちは、どうしてもその「見え方」が気になってしまうので。もちろん今回のドラマは、そういう面に関しても、監修・指導の草刈民代さんや綾部真弥監督が充分に考えた上で撮影が進められていました。そこに自分がどう関われば、バレエシーンがより良いものになるのか。その責任感を強く感じました。
- 「バレエの見え方が気になる」という感覚、わかる気がします。
- 菊地 バレエはやはり特殊なところがあって、幼い頃から鍛錬し続けなくてはいけないし、技術を習得するにも長い年月がかかり、最終的にごく限られた人しかプロにはなれない世界です。そのことを俳優のみなさんも深く理解しリスペクトしてくださっていたからこそ、彼らはバレエダンサー役を演じることにプレッシャーを感じていたように見えました。制作陣の方々も、「自分たちが作ったドラマによって、バレエのイメージが下がるようなことは絶対にしたくない」とおっしゃっていて。そんなみなさんの思いを前に、僕はどうすれば最良のかたちで力になれるのか。撮影期間中は、そればかりを考えていました。

バレエシーン撮影中のひとコマ。主人公・小林八誠役の戸塚純貴さんと ©Ballet Channel
- 実際に現場でバレエ指導にあたってみて、どうでしたか?
- 菊地 主人公・八誠役の戸塚純貴さんはダンス経験がないとのことでしたし、真白役の吉澤要人さんは子どもの頃にバレエを習っていたとはいえ、バレエダンサーというわけではありません。それでも最終的に本人たちが「バレエダンサー」のマインドを持って踊れるようにすることが、僕の仕事だと考えていました。
バレエは基本の型を体現するだけでも難しいダンスで、指先、腕、肩、首、頭、胸、腰、脚、足、つま先……すべてをトータルコーディネイトして、自分の身体を一つの造形美として完成させなくてはいけません。そのためにバレエダンサーは、一つひとつの型を幼い頃から何万回、何十万回と繰り返し練習して身体に染み込ませるわけですが、戸塚さんや大東さんや吉澤さんは、そういうことまでちゃんと理解した上で役を演じようとしてくれているのがわかりました。そして最初はセリフを覚えるように動きを覚えていたとしても、あるタイミングで、頭で理解した動きのイメージと実際の身体の動きが、彼らの中でピピッ!と合致する瞬間が訪れる。単なる「動きの模写」だったものが、「踊り」になる瞬間――そういう場面を、何度も目の当たりにしました。カメラが回り、監督から「本番!」と声がかかった時の集中力、スイッチの入り方も凄かった。彼らの表現者としての在り方から、僕もたくさんの刺激をもらいました。

これから撮影する踊りを何度も繰り返し練習する戸塚さんと、お手本を示しながら指導にあたる菊地さん ©Ballet Channel
- バレエシーンの撮影現場を取材した際、菊地さんが俳優さんたちに男性ダンサーならではの具体的なアドバイスをしたり、自ら踊ってお手本を見せたりしていた姿が印象に残りました。
- 菊地 あの時に撮影していたのは、ドラマの終盤のシーンでした。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、あの時、戸塚さんは本当にダンサーのマインドに入っていたと思います。踊りって、表面的な形を模写するだけでは決してたどり着けないものですよね。自分の中にある真の感情が、身体から表現として発せられてはじめて、その動きは「踊り」になる。あの時の戸塚さんは間違いなく「踊って」いて、僕は胸を打たれました。ダンス未経験だった戸塚さんが、主役として、このドラマに関わっているすべての人の思いを背負って、バレエに立ち向かっていた。だからこのドラマに込められたみなさんの思いが視聴者の方々に届くといいなと心から思うし、自分がそんな彼らの力に少しでもなれたとしたら、これ以上嬉しいことはありません。
- 俳優さんたちも、手本を見せる菊地さんも、リハーサル、カメラテスト、そして本番と、一つひとつのシーンを繰り返し踊り、納得がいかなければ何度でもやり直す。取材をしていても、想像以上の熱量をもってみなさんが撮影に臨んでいるのが伝わってきました。
- 菊地 制作スタッフのみなさんの物づくりにかける真摯な思い、俳優さんたちの一生懸命な姿……思い出すと、胸がいっぱいになってしまいます。そんなみなさんが「研さんがいてくれてよかったよ」と言ってくださったことは、僕にとって最大の宝物。このドラマを視聴者のみなさんがどうご覧になるかはわからないけれど、彼らのあの情熱だけは、どうか伝わってほしいと思います。
- とても良い現場、良いチームだったのですね。
- 菊地 すごく幸せな経験をさせてもらいました。ドラマの話から少し離れてしまうのですが、僕は昨年、長年にわたり在籍した牧阿佐美バレヱ団を退団して、フリーになりました。一度きりの人生、新しい世界に飛び込んでみたいと思ったのが、その理由です。16歳の時から育ててもらったバレエ団には感謝の気持ちしかないし、「籍は残したまま外部の活動を増やしたら?」と温かい助言をしてくださった方もいました。でも僕は、毎日みんなと苦楽を共にして、一緒に舞台を作り続けてこそのバレエ団だと思っていて。それができない以上はきちんとけじめをつけるのが、日々一生懸命頑張っている仲間たちに対する、僕なりの礼儀だと考えました。
だけど、慣れ親しんだ場所を離れ、次なる一歩を踏み出した時、僕は心に穴が開いたような気持ちになってしまいました。望んだとおり新たなチャレンジをしているはずなのに、「生きている」という実感がない。もしかしたら、僕はいろいろなことをめちゃくちゃにしてしまったのかもしれない……そう思うこともありました。
このドラマのお話をいただいたのは、そんなタイミングでのことでした。みんなで一緒に、時間をかけて、ひとつのものを作り上げていく。そういう場所に身を置かせてもらえたことが本当に嬉しかったし、ありがたかったです。

真剣なまなざしで撮影に臨む二人 ©Ballet Channel
- このドラマは、八誠が「これは僕がバレエをやめるまでの物語だ」と語るところから始まります。菊地さん自身もひとりのバレエダンサーとして、八誠と同じような思いを抱えたことがありますか?
- 菊地 ありました。八誠と理由は違うかもしれないけれど、僕も26歳くらいの時に、踊る意味を見出せなくなったことがありました。僕はありがたいことに10代の頃から主役をいただけるようになり、その状態が続くうちに、「こうして踊っていて何になるんだろう?」と思うようになってしまった。バレエという「答え」のないもの、出口のないものを突き詰めていることから来る孤独感もありました。仲間たちと一緒に稽古したり舞台に立ったりしていても、自分は一人ぼっちだという気持ちがどんどん強くなり、「もうバレエをやめよう」と考えるようになりました。
でもこれは僕だけでなく、バレエダンサーの多くは、何かしらの葛藤を抱えているのではないでしょうか。その意味でも、ドラマ「バレエ男子!」はとてもリアルだと思います。やはり、元バレエダンサーの上原くんが企画しただけのことはあるな、と。
- 八誠が最終的にどんな道を選ぶのかはドラマを最後まで見ないとわかりませんが、菊地さんがそれでもバレエをやめなかったのはなぜでしょうか?
- 菊地 バレエには魔力があるからです。「もういやだ、もうやめたい」と思っても、踊ったら、舞台に立ったら、役を生きたら、やめられない。進んでは立ち止まり、時には後戻りをして、また進む。それを何度でも繰り返しながら、僕たちはアーティストになっていくのだと思います。

©Ballet Channel
- ちなみに……今回、菊地さんはバレエ指導だけでなく、出演者としてもドラマの中に登場するそうですね?
- 菊地 はい……。当初その予定はなかったのですが、少しだけ出ることになりました。
- 菊地さんが第何話のどのシーンに登場するのか、楽しみにしています! 最後に、読者のみなさんにメッセージを。
- 菊地 バレエも、ドラマなどの映像作品も、夢を与えられる仕事だなと思うんですよ。例えば疲れて家に帰った時、迷ったり悩んだりしている時、何気なく見たドラマに背中を押されたり、心が動いて「明日も頑張ろう」と思えたりするような。そんな仕事に携われたことが、僕は本当に嬉しいです。このドラマに関わった俳優さんたちやスタッフさんたちの思いが、みなさんに届きますように。

©Shinji Masakawa
ヘアメイク:井手弓
スタイリング:藤長祥平
番組情報

©「バレエ男子!」製作委員会・MBS
ドラマフィル「バレエ男子!」
【キャスト】
戸塚純貴
大東駿介
吉澤要人(原因は自分にある。)
- 《あらすじ》
- 小森川バレエ団に所属するナルシストなバレエダンサー小林八誠(こばやし・はっせい)29歳。男子バレエをよりメジャーにするため、そして自分の顔を売るために、映像配信などの活動も積極的に行っている。ベテランダンサーの守山正信(もりやま・まさのぶ)と同期の佐々木真白(ささき・ましろ)とは、世代は違えど何となく集まってしまう仲の良い3人組。八誠たちは、昼間はバレエ団のリハーサル、夜はバレエ教室で教えるなど、何気ない日々を過ごしていたが、ある日の帰り道、トラブルが発生。その後、八誠は「俺、今年いっぱいでバレエやめるんだ。」と衝撃の告白をする。なぜ、八誠は「やめる」と決意したのか。誰よりもバレエ好きな八誠の、〈バレエと向き合う最後の一年〉の幕が上がる。
2025年5月1日(木)よりMBSドラマフィル枠にて放送中
監督:綾部真弥
脚本:岸本鮎佳
バレエ監修・指導:草刈民代
バレエ指導:菊地研
プロデューサー:上原大也、村島亘、池田卓行、大野貴裕
制作プロダクション:セディックドゥ
製作:「バレエ男子!」製作委員会・MBS
【放送】
MBS(毎日放送):毎週木曜 25:29~
テレビ神奈川:毎週木曜 25:00〜
テレビ埼⽟:毎週月曜 24:00~
群⾺テレビ:毎週火曜 24:30~
とちぎテレビ:毎週水曜 23:30~
チバテレ:毎週木曜 23:00~
RSK(山陽放送):毎週水曜 24:55~ ※6月25日放送スタート
【配信】
TVer、MBS動画イズムで見逃し配信1週間あり
MBS動画イズム、Hulu、U-NEXTで有料配信あり
【公式SNS】
ドラマ公式X:@dramaphil_mbs
ドラマ公式Instagram: @dramaphil_mbs
MBSドラマ公式TikTok:@drama_mbs
【ドラマ公式HP】
https://www.mbs.jp/ballet_danshi/