
©蓮見徹
2025年7月9日からミュージカル『ジェイミー』が開幕。東京建物 Brillia HALLを皮切りに、大阪と愛知の3都市で上演されます。
ミュージカル『ジェイミー』は、英国の公共放送局BBCのドキュメンタリー番組を基に制作された作品。ドラァグクイーンを夢見る高校生ジェイミーが、差別や偏見と闘いながら自分らしく生きていく物語です。2017年にシェフィールド劇場で初演され、ロンドン・ウェストエンドへ進出。ローレンス・オリヴィエ賞に5部門でノミネートされました。映画版の配信がスタートした2021年には、日本人キャストによるミュージカル版が初演されたことも話題に。4年ぶりとなる再演では、ジェイミー・ニュー役をWキャストの三浦宏規と髙橋颯(WATWING)、ジェイミーの母マーガレット・ニュー役を安蘭けいが演じます。日本版演出・振付は初演に引き続き、ビヨンセのMVやツアーのクリエイティブを務めたジェフリー・ペイジが担当します。
今回はジェイミー・ニュー役の三浦宏規さんに、本作への意気込みや役作りのこと、バレエへの特別な思いを聞きました。
- Story
- ジェイミーは、ドラァグクイーンになることを密かに夢見る高校生。
16歳の誕生日に母親マーガレットからプレゼントされたのは、ジェイミーがずっと欲しかった、ゴージャスな赤いハイヒールだった。喜んだジェイミーは、親友のプリティに教室でこっそりとハイヒールを見せ、同級生ディーンからの辱めにも抵抗して言い負かす。その姿を見たプリティは、高校生活の最大のイベントであるプロムにハイヒールと共にドレスを着て出ることを提案する。
夢に向かって強く突き進む思いを抱いたジェイミーだが、学校や周囲の保護者たちは猛反対。苦しむ息子をマーガレットは全力でサポートし、彼が自分のアイデンティティを自由に表現できるよう、強く、愛情深く背中を押してくれる。
偏見や差別に苦しみながらも、母との絆に支えられ、自分自身を偽らずに本当の自分を表現し続けるジェイミーの姿は、次第に周囲の目を変えていく……。
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- ミュージカル『ジェイミー』への出演が決まった時の気持ちを聞かせてください。
- 三浦 はじめに映像で観た時に、「なんでこの作品を知らなかったんだろう」って後悔したんです。そう思わせるくらいストーリーも音楽もすばらしいですし、どの役もキャラクター性に富んでいて、ミュージカルとして完成されています。
これは2017年にロンドン初演、2021年に日本初演という新しい作品です。ほかにもLGBTQを題材にした舞台は多くありますが、高校生がドラァグクイーンを目指すという物語は、きっと今の時代だから生まれたんだろうなと思います。ジェイミーは閉鎖的な空間で悩む主人公ではなく、明るく前進していくのが新しくていいですよね。前回ジェイミー役を演じた森崎ウィンくんも、続投の髙橋颯くんも素敵で、チャンスがあれば演じてみたいと思っていたので、出演できることになって嬉しいです。
- 本格的なお稽古が始まって1週間ほどだそうですね。*取材は5月下旬
- 三浦 想像していたよりも大変です。ジェイミーは明るい役で歌もダンスシーンも多く、すごくパワーを使いますが、楽しんで演じています。
演出のジェフリー・ペイジさんが稽古前に行う、30分ほどのワークショップが結構きつくて。内容はダンスのウォームアップで、彼が振付けた『ジェイミー』のステップを抜粋して反復練習しています。毎日カンパニーのみんなで一緒にやっているおかげで、絆も強くなっていますね。
- 4月に行われたプレイベントでも、赤いハイヒールを履いて素敵なポーズを披露していました。何か研究はしていますか?
- 三浦 ヒールにはかなり慣れてきたので、怪我さえしなければ大丈夫だろうと思っています。きっとトウシューズのほうが難しいですよ!
アーティストのビヨンセやドラァグクイーンたちの映像を参考に、まず模倣から始めて後から自分の味をつけるように楽しく研究しています。あらためて「やっぱりダンス好きなんだな」って実感しますね。昨夜もたまたま流れてきたダンスバトルの映像で、ヒールを履いたダンサーの踊りを見て、今回の作品にも使えそうだなと思いました。世の中には自分の糧になる材料がたくさん転がっているので、どんどん吸収していきたいですね。

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- ジェイミーという人物をどのように解釈していますか?
- 三浦 ジェイミーは明るいけれどつらい過去を持っています。ゲイであることを周りによく思われず、お父さんに気持ち悪いと言われたり、友だちにからかわれたりした経験がある。だからこそ、みんなの前では明るいけれど、ユーモアという殻でつらさを隠して、ピエロを演じている部分もあると思います。嘘の自分ではないけれど、そう振る舞うためには周りを巻き込まなきゃいけないですよね。大きな声で「やぁだ、もう!」とか言って、教室に入ってきただけで竜巻を起こしていくような人物。それがジェイミーだと思います。
- ジェイミー役を演じるうえで楽しみにしていることは?
- 三浦 ジェイミーのようなテンション高めのリアクションは、自分にはできないことです。話の途中でビヨンセウォークを始めたり、大きい声で叫んだり、舞台上で寝転がってみたりとか。そうやって自由に感情を出していくのって、解放感があるんじゃないかと思っています。
- 好きなシーンはありますか?
- 三浦 物語の序盤で、ジェイミーがお母さんに赤いヒールをプレゼントされるシーンがあります。その前に学校で同級生にからかわれ、先生にも理解されずに、少し凹んで家に帰ってくるので、場面の対比が印象的です。一瞬で大きなお母さんの愛に守られているのがわかって、とても好きなシーンです。
- 共演者の方々とのエピソードはありますか?
- 三浦 ダブルキャストの颯くんは、初共演で同い年。とにかく天真爛漫で、出会ったことのないタイプです。僕も昔、天真爛漫だねって言われていた時期もあったのですが、彼には敵いません。つねにハッピーなオーラで周りを巻き込んでいくし、全員を分け隔てなく愛しています。ただ底抜けに明るいだけではなく、自分に厳しくてちょっと自信がなくて。でもやる時は思いきって表現するところに、彼の人間としての魅力がつまっていると思います。
今回、ミュージカルに初挑戦する3時のヒロインのかなでさん(ミス・ヘッジ役)も度胸がある方。ご自身の稽古でも、「本当にはじめてですか?」と聞きたくなるくらい、一発目からとんでもない声量で歌っていますからね。声が大きすぎてオーケストラの音楽が聞こえなかったこともありました(笑)。

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- 三浦さんがバレエをはじめたきっかけは?
- 三浦 テレビで熊川哲也さんのドキュメンタリー映像を観た時に「この人になりたい」と思って、5歳でバレエを始めました。もし、熊川さんがバレエダンサーではなく指揮者だったら、指揮者になりたいと言っていたかもしれません。
それからバレエに目覚めて、地元の三重にあるバレエ教室に通いはじめました。その教室は支部だったので、少し大きくなってからは名古屋の本部に通うようになりました。
- 初舞台はどんな作品でしたか?
- 三浦 はじめての発表会は『白鳥の湖』で、5歳のロットバルトでした! まだ実家に写真が残っていると思います。めちゃくちゃ可愛かっただろうな(笑)。第2幕の白鳥たちが出てくる前のシーンで、ロットバルトが羽ばたくところの音楽があるじゃないですか。「♪タタタターンタンタタンタンタタンタンタタン」でエシャペしてました。当時はそれしかできなかったので。
- “5歳のロットバルト”は、なかなかのパワーワードですね! コンクールではどんなヴァリエーションを踊りましたか?
- 三浦 はじめて出場したのは小学校高学年で、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』の男性ヴァリエーションを踊りました。1位をいただいた思い出の曲は、『コッペリア』のフランツのヴァリエーション。『海賊』のアリもよく踊っていました。
- 作品はどのように決めていましたか?
- 三浦 先生に作品の希望を伝えて、相談して決めていました。身の丈に合ったものを言わなきゃいけないから、いちばん勇気がいるところでしたね。
僕は「『ドン・キホーテ』を踊りたい」って言えなかったんです。バジルのヴァリエーションの冒頭に出てくる、ソ・ド・バスク・ドゥーブルのアン・ドゥダンができなかったから。『海賊』のアリに出てくる、空中で両膝を曲げて跳ぶソ・ド・バスクは得意だったので、「『海賊』をやらせてください」と言っていました。今は昔のように跳べないけれど、バジル、やりたかったなあ……。
- SNSにバジルのヴァリエーションやピルエットの動画をあげていますね。いちばん好きなパはピルエットですか?
- 三浦 はい、昔から好きで得意だったんです。ピルエットをいちばん練習していたと思います。トゥール・アン・レールはいくら跳べたとしても、2回転もしくは3回転くらいじゃないですか。もちろんテクニックの精度は上げなければいけないけれど、ピルエットには上限がない。だから「〇回も回れた!」と言い合いながら、ずっと練習できちゃいます。
右か左でいうと、左のほうが得意です。振付は右回りのほうが多いと思うので、もしもプロのダンサーだったらコール・ド・バレエの時に少し苦戦しそうですよね。

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- バレエを続けていて楽しかったこととつらかったことは?
- 三浦 つらかったことはないです。きっと女の子のほうがいろいろありますよね。人数も多いし、トウシューズで足の爪も痛くなっちゃうし、犠牲にしなきゃいけないものが多いと思います。男性でつらいことがあるとしたら周りの偏見かもしれませんが、僕は感じませんでした。それよりも、毎日好きなことをやらせてもらえて楽しかったですし、続けさせてくれた両親にも感謝しています。帰り道で「明日はこれ練習しよう!」と考えながら、レッスンに通っていました。
- 忘れられない思い出はありますか?
- 三浦 小学6年生の時に怪我をして、膝の皿を割ってしまいました。コンクールにたくさん出られる時期に1年間何もできなかったので、周りの人たちが落ち込んでいたと思います。それからリハビリを頑張って、中学2年生でコンクールに復帰し、また1位をいただくことができました。結果オーライではあるけれど、休んでいる時は早く回りたい!跳びたい!と思っていましたね。
怪我をしてから膝が目立ってしまい、タイツをはけないなと悩んでいた時、東京に行く機会があってはじめてミュージカルを観ました。それまでバレエしか観てこなかったので、「あれ? 面白そうやん、ミュージカルって」と思ったんです。それがきっかけで俳優の道に進みました。
- バレエをやっていて良かったなと思う瞬間は?
- 三浦 コンクールに出場して、本気で向き合っていた経験は自信になっています。いちばん幸せを感じたのは、大好きなバレエを題材にした作品に出演できたこと。ミュージカルの世界に来たとき、「バレエの人でしょ」と言われるのが嫌で、一度自分のスキルを封じて勝負しようと決めたんです。踊りという武器を使ってトップを目指すことができたかもしれないけれど、それってかっこよくないから。ダンスなしでプリンシパルロールを掴んでから、「バレエの作品をやりたい」という思いが形になって、何よりも嬉しかったです。
僕にとってバレエは自分そのもの。歌や芝居だけで勝負したのも、土台に踊りがあったからこそだと思っています。バレエがなかったら三浦宏規じゃないです。
- バレエの好きなところは?
- 三浦 曲も踊りも全部が好きだから、観ているだけで幸せな気分になれます。劇場で客席に座って、オーバーチュア(序曲)を聴いた瞬間に「これだ!」と思う感覚は、他所では味わえません。総合芸術としてのすばらしさはもちろん、バレエの歴史にも惹かれます。それに、やっぱりダンサーってかっこいい。ほかの仕事をやればやるほど、バレエダンサーほどストイックな仕事はないと感じます。彼らが現役で踊れる時間は限られているからこそ、生で観られるのはとても貴重なことだし、舞台は宝だと思うんです。バレエの動きは非現実的で、どれも一日では身につかないようなものばかりじゃないですか。誰しもが何十年にもわたって人生をかけているから、公演を観るたびにグッときます。
- 最近観たバレエ作品や、好きなバレエ作品はありますか?
- 三浦 2024年の6月にロンドンのオペラハウスで、英国ロイヤル・バレエの『白鳥の湖』を観ました。憧れの場所だったので感慨深かったし、公演もとてもよかったです。
好きなバレエ作品は……難しい。いろんな演目があるけれど、今めっちゃ『くるみ割り人形』が好きなんですよ。クリスマスになったら絶対に観ています。お菓子の国の個性豊かな踊りも、夢と希望にあふれた物語も、チャイコフスキーの楽曲も、どれをとってもすばらしい。そしてダンサーには高度なテクニックも求められます。『くるみ割り人形』は、王道にして頂点の完璧な作品だと思います。
昔は第1幕の雪の精のシーンの良さがわからなかったけれど、今は大好き。とても綺麗なコール・ド・バレエですよね。音楽に耳を傾けると途中からコーラスが入ってきて、誰が歌っているんだろう?と思ったり、新たな発見もありました。
- 最後に読者に向けてメッセージを。
- 三浦 『ジェイミー』は本当に素敵な作品なので、老若男女どの世代の人が観ても楽しめると思います。ハッピーで明るいミュージカルとして、あまり難しく考えずに観に来てほしいです。個人的な目標としては、15センチのヒールをはいて2回転のピルエットに挑戦するので、バレエをやっている方もぜひ楽しみにしてください!

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- 三浦宏規 Hiroki Miura
- 三重県出身。5歳よりクラシック・バレエを始める。第22回全国バレエコンクールin Nagoya男子ジュニアA部門第1位、第18回NBAバレエコンクール コンテンポラリー部門第3位受賞。おもな代表作にミュージカル『刀剣乱舞』シリーズ髭切役、ミュージカル『レ・ミゼラブル』マリウス役、舞台『千と千尋の神隠し』ハク役、『赤と黒』のジュリアン・ソレル役、『のだめカンタービレ』千秋真一役、ミュージカル『ナビレラ』イ・チェロク役など。2024年、第49回菊田一夫演劇賞受賞。2025年7月からミュージカル『ジェイミー』、9月にミュージカル『のだめカンタービレ』シンフォニックコンサート、11月から『デスノート THE MUSICAL』に出演。
オフィシャルサイト
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公式Instagram
公演情報
ミュージカル『ジェイミー』

東京公演
【日程】2025年7月9日(水)~7月27日(日)
【会場】東京建物 Brillia HALL
大阪公演
【日程】8月1日(金)~8月3日(日)
【会場】新歌舞伎座
愛知公演
【日程】8月9日(土)~8月11日(月祝)
【会場】愛知県芸術劇場 大ホール
【スタッフ】
音楽:ダン・ギレスピー・セルズ
作:トム・マックレー
日本版演出・振付:ジェフリー・ペイジ
翻訳・訳詞:福田響志
HoriPro in association with Nica Burns presents
By Dan Gillespie Sells and Tom Macrae
From an original idea by Jonathan Butterell
【出演】
ジェイミー・ニュー(Wキャスト) 三浦宏規、髙橋颯(WATWING)
マーガレット・ニュー 安蘭けい
プリティ(Wキャスト) 唯月ふうか、遥海
ディーン・パクストン(Wキャスト) 神里優希、吉高志音
ベックス 小向なる
サイード 里中将道
ファティマ 澤田真里愛
ミッキー 東間一貴
サイ 星野勇太
リーバイ MAOTO
ベッカ 元榮菜摘
ヴィッキー リコ(HUNNY BEE)
ライカ・バージン 泉見洋平
トレイ・ソフィスティケイ 渡辺大輔
ミス・ヘッジ(Wキャスト) かなで(3時のヒロイン)、栗山絵美
ジェイミーの父/サンドラ 岸 祐二
レイ 保坂知寿
ヒューゴ/ロコ・シャネル 石川 禅
【公演に関するお問合せ】
〈東京公演〉
ホリプロチケットセンター 03-3490-4949(平日11:00~18:00 ※土日祝休)
https://horipro-stage.jp/news/jamie2025_ticket/
〈大阪公演〉
新歌舞伎座テレホン予約センター 06-7730-2222(10:00~16:00)
https://www.shinkabukiza.co.jp/perf_info/20250801.html
〈愛知公演〉
キョードー東海 052‐972-7466(月~金12:00-18:00 土10:00-13:00 ※日祝休)
https://kyodotokai.co.jp/events/detail/3163
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