みなさんは、「日本舞踊」を見たことがありますか?
お恥ずかしながら私は、見たことはあったけれど、正直「見方がわからない……」と、ずっと思っていました。
その踊りは何を表現しているのか? どんな踊りが素晴らしいと言えるのか??
見るのはもちろん楽しいけど、見ても何と感想を言えばいいのかわからない。
「バレエを初めて見る人や、バレエを知らない人も、こんな感じなのかな」と思ったりもしてました。
でも!
ダンス好きたるもの、日本オリジナルのダンスである日本舞踊を知らないのは残念すぎる……とかねてより思っていたところ、このたびご縁あって、日本舞踊の“基本のキ”を教えていただくことができました。
教えてくださったのは、バレエにも造詣の深い日本舞踊家の藤間蘭黄さん。
藤間蘭黄さん ©︎篠山紀信
蘭黄さんは、4代続く日本舞踊の家のお生まれ。2016年には文化庁文化交流使として10ケ国14都市で公演、ワークショップ、レクチャーなどの活動を行う等、文字通り世界をまたにかけて活躍する人気の舞踊家です。
「こんなことを聞いてしまってもいいのだろうか……」と若干躊躇ったほど素朴な質問・疑問にも、時に踊りながら解説してくださった蘭黄さん。
それが本当にわかりやすく、おもしろく、そしてあまりにも素敵だったので、動画をたくさん撮らせていただきました!
動画はそれぞれ、1〜2分くらいの短さですが、とてもおもしろいです。
見ていると、たぶんちょっと真似してみたくなります。
日本が世界に誇る”ジャパニーズ・クラシカル・ダンス”、動画はぜひ音声とともにお楽しみください!
動画撮影:清水健太
動画編集:山倉一樹
写真:Ballet Channel
動画で知る、日本舞踊の基本のキ
●日本舞踊もエポールマン!? 顔と体の角度
バレエの基本姿勢、エポールマン。腰の位置は変えずに、上体をひねるようにして立体的に見せることを指しますが、日本舞踊にもよく似たきまりがありました!
●くるっと回って変身!
踊り手がくるっと回るーーそれは別のキャラに変身する合図!
個人的に、今回いちばんおもしろいと思う動画はこちらです。
バレエで“一人二役”といえば『白鳥の湖』のオデット/オディールですが、日本舞踊では1曲の中で一人何役も演じるのが当たり前とのこと(°_°)
しかも、男性と女性、人間と動物etc.……性別も生物の種類(?)も超えてしまうという、驚きの表現力をご覧ください(°_°)
●動物にもなります。
というわけで、着ぐるみどころか衣裳すら変えず、動きひとつで動物にもなってしまうのが日本舞踊のおもしろいところ。
個人的には、つま先をキュッとポワントに伸ばす動作がすごくかわいい、と思いました。
●表現力の見せどころ!「酔っぱらい」ダンス
『マノン』のレスコーや『くるみ割り人形』のパーティーシーンの客人など、バレエでも時どき名人芸(?)が楽しめる“酔っぱらい”キャラ。
日本舞踊にはいろんなタイプの酔っぱらいが登場します。
例えば武士と町人とでは酔っぱらい方が違うのがおもしろいです。
●「よろける」「転ぶ」も粋なダンスに!
人がよろけたり転んだりする瞬間――それは日常のなかの小さなドラマ、振付のなかの小さなサプライズ!
●華麗なる「お扇子」の世界
日本舞踊のお扇子には、要(かなめ)のところに小さな秘密が↓
赤い◯で囲んだところがお扇子の”秘密”。その正体は動画でどうぞ
お扇子ひとつで、山も笠も手紙もお銚子も表現できてしまう。それは、日本人の持つイマジネーションのゆたかさそのものではないでしょうか。
●まずはこれだけ覚えよう! 日本舞踊の「頻出のパ(手)」
日本舞踊にも決まったステップ(?)があるとのこと。バレエではそれを「パ」と呼びますが、日本舞踊では「手」と呼ぶそう。その名が示す通り、バレエのパは足のステップを指しますが、日本舞踊では足振りの場合も手振りの場合もあります。
この動画のなかには、下記10種類のパ(手)が出てきます。
00:00〜 ①すがた
01:37〜 ②じりじり
02:40〜 ③すみとり
03:15〜 ④手返し&かいぐり
04:17〜 ⑤やっとんとん
05:26〜 ⑥わーい&袖屏風(そでびょうぶ)
05:54〜 ⑦面(おも)返り(めんど返り)
06:32〜 ⑧おすべり
07:32〜 ⑨襟えもん
09:15〜 ⑩みつ首、ひふみ
私のお気に入りは「じりじり」。ジゼル第2幕やシルフィードのパ・ド・ブーレ的な驚きがあります!
●美しいお辞儀のしかた
バレエで言うところの“レヴェランス”。この所作は、お正月のごあいさつなどにも役立つかも?!
日本舞踊の素朴なギモン…教えて蘭黄さん!
――ところで今さらですが……日本舞踊って何ですか?
- 蘭黄 みなさんが「日本舞踊」と聞いて想像するものには、「舞」と「踊り」が含まれます。「舞」というのは京舞や上方舞といった座敷舞ですね。踊りのスタイルで言うならば、舞は旋回運動。御座敷で埃が立たないように舞うんです。いっぽうの「踊り」は歌舞伎舞踊を主軸にしています。歌舞伎のなかの踊りの場面を抜き出して、そこだけ演じられるようになったものです。踊りは基本的に垂直運動で、私がやっているのは主にこちらの「踊り」のほう、ということになります。
――バレエには「舞台鑑賞を楽しむ人」と「習うことを楽しむ人」がいますが、日本舞踊にも鑑賞ファンとレッスンファンの両方がいるのでしょうか?
- 蘭黄 日本舞踊は、ほとんどが観る人=習う人。私としては、そこがひとつの問題だと思っています。舞台芸術にとっては、それを純粋に観て楽しむファン、つまり技術中心ではなく作品としての表現や価値を客観的に鑑賞できるファンがいることが、非常に重要ですから。
――プロのダンサーやカンパニーというのは存在しますか?
- 蘭黄 こうなればプロ、という明確な境界線はありません。カンパニー、つまりバレエ団のような組織も存在しませんが、私の属する藤間流などといった「流派」が、概念的には少しそれに近いかもしれませんね。
――日本舞踊を習っている人の年齢層は?
- 蘭黄 それは幅広いですね。私のお弟子さんでいうと、小学生から30代〜40代を中心に、95歳までいます。
――人生100年時代に突入したといわれるいま、それは長く楽しめていいですね!
- 蘭黄 そうですね、年齢を重ねてもずっと上達していけるのが、日本舞踊のとてもいいところだと思います。その95歳のお弟子さんなんて、本当にお上手ですから。
――バレエには”バレエ向きの身体条件”というものがありますが、日本舞踊向きの身体条件というのもありますか?
- 蘭黄 日本舞踊では、器量が良いから得ということもなければ、手足が長いから良いということもありません。どのような身体であっても、それなりのメリットもあればデメリットもあります。例えば、姿かたちが美しい人ほど上手でなければ“うわべだけの踊り”に見えてしまうし、手足が長いならばそのぶん広い空間を何かで満たせる踊りをしなければ、スカスカの空っぽに見えてしまう。自分が持って生まれたこの身体で何をどう表現するかを追求し続けることが大切です。そこは、バレエも日本舞踊も共通していると思います。
おわりに
藤間蘭黄さんはこの秋、ご自身が台本・演出を手がける舞台バレエ×日本舞踊の舞踊劇「信長-SAMURAI-」を上演します。
戦国の魔王・織田信長を演じるのは、日本でもカリスマ的な人気を誇るロシアのスターダンサー、ファルフ・ルジマトフ。
豊臣秀吉役には、ボリショイ・バレエで外国人初の第一ソリストとして活躍した岩田守弘。
そして斎藤道三と明智光秀の二役を演じるのは藤間蘭黄さん自身という、個性的な3人の“ダンサー”によるオリジナルの舞踊作品です。
2015年の初演はスタンディングオベーションの大成功。
2017年にさっそく再演され、2019年1月にはロシア・ツアーが実現。
そして2019年11月27日(水)・ 28日(木)、日本で凱旋公演が開催されるとのこと。
かつてルジマトフが蘭黄さんの舞台を観て衝撃を受けたことがきっかけとなりスタートしたという、日本舞踊とバレエとの新たな挑戦。
公演の詳細はこちらをご覧ください。
ずっと“近くて遠い存在”だった日本舞踊。
今回の取材で、私はそのおもしろさに初めて触れることができたように感じています。
藤間蘭黄さん、ありがとうございました!