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【動画レポート】パリ・オペラ座エトワール アニエス・ルテステュ スペシャルトーク〜踊り続けること、美しく生きること〜

バレエチャンネル

Videographer:Kenji Hirano

さまざまな角度から楽しみ、味わうための講座シリーズ〈バレエカレッジ〉

毎月平均1〜3回のペースでいろいろな講座が開催されているこの企画に、10月1日、元パリ・オペラ座バレエのエトワール、アニエス・ルテステュが登場しました。

アニエス・ルテステュ

オペラ座のエトワールだけが持つ独特の誇り高きエレガンス、長身の肢体から繰り出される優美なライン、そして知性と人間性に裏打ちされた深い役作り。
“バレエの殿堂”パリ・オペラ座を代表するトップダンサーとして、芳しき大輪の花を咲かせました。

ルテステュはこの9月下旬〜10月上旬にかけて、札幌、宮城、岐阜の3都市で「アニエス・ルテステュ――変貌する美」を上演。

その公演の合間を縫って登壇した〈バレエカレッジ〉は、受講券があっという間に完売するほどの大人気でした。

〈バレエカレッジ〉のメディアパートナーである〈バレエチャンネル〉は、トークショー当日、最初の20分をライヴ配信。

ライブ配信のアーカイヴ動画はこちら

この記事では、上記のライヴ配信ではご覧いただけなかったトークの内容をページトップの動画と以下の記事とで特別に公開いたします。

当日のバレエカレッジに参加できなかった方はもちろん、参加された方もぜひ“復習”としてお楽しみください!

通訳:上野 茜
写真:政川慎治
会場:バレエショップ フェアリー(東京・表参道)

“ダンス”のこと

アニエスさんは2013年にパリ・オペラ座バレエ団のエトワールを引退されました。オペラ座で踊っていた頃と現在と、ダンスに対する向き合い方や気持ちに変化はありますか?
ルテステュ “引退”と言っても、それは単にオペラ座の団員という契約が切れるということです。ご存じの通り、オペラ座では、ある一定の年齢を迎えると引退しないといけなくて、こちらが希望して去るわけではないので、何かがそこで終わってしまうというものではないんですね。引退してからも私はゲストとしてオペラ座で『椿姫』を踊りましたし、ゲストアーティストとしてオペラ座の舞台に立っていました。ブリジット・ルフェーブル芸術監督の頃までは、引退したエトワールたちにもゲストとしてオペラ座で踊る機会があったのですが、後任のバンジャマン・ミルピエ監督は若い世代を表に出して見せたいという考えでしたので、その間はゲストで呼ばれるということはありませんでした。
でも私自身は、バレエのトレーニングは決して止めることなく続けてきました。そしてそのかたわらで衣裳デザイナーとしての活動も続けて、フランスや中国で衣裳を作ったり、またメートレス・ド・バレエという役職についてローマやドイツのバレエ団で指導をしたり、オペラ座ではコーチという立場で指導にあたったりしています。
そのように3つの職業――ダンサー、指導者、そして衣裳デザイナーという仕事を継続していまに至るのですが、現役時代よりはやはり、コーチや衣裳デザインの仕事の配分は増えているかなと思います。大きな変化としては、やはり“自由を手に入れた”ということでしょうか。自分の時間を自分でやり繰りできる自由は、とても増えたと思います。

花柄のワンピースにスポーティなスニーカーをさらりと合わせた素敵な着こなしで登場

これまで踊ってきたなかで、いちばん好きな作品や役は?
ルテステュ 『椿姫』です。これは本当に完璧な作品。演劇的な要素が強くて、もはや“踊り”を忘れてしまうような感覚になれます。何週間もリハーサルを積み、そこで繰り返し繰り返し練習してステップや振付が身体の中に染み込むと、もう本番を迎える前にはステップのことが気になったり、ストレスになったりすることがなくなります。『椿姫』には、時代を超えて永遠に変わらない、普遍的なテーマが描かれています。そして、ひとりの女性として踊り、演じ、表現することに集中できる、数少ない作品。そうした境地に至れる作品は、なかなかありません。
映画上映もされたドキュメンタリー「パリ・オペラ座のミューズ アニエス・ルテステュ〜アデュー公演『椿姫』までの輝かしい軌跡」のなかで、アニエスさんは「オペラ座では自分自身と距離のある役を踊ることが多かった。本当の私は内気なのに、悪女や強い性格の女性の役にキャスティングされることが多かった」という旨のことをおっしゃっていましたね。
ルテステュ 入団当時から私は背が高かったので、『ジセル』ならミルタ、『若者と死』なら死神、そういう役が最初は多かったんです。でも自分として踊りたかったのはジュリエットやジゼルやマルグリットなど。もちろん『白鳥の湖』も踊りたい役でしたが、これは白と黒がありますから少し別ですね。このように私は、テクニックというよりは物語のある作品にどんどん魅力を感じるようになりました。それは古典だけでなく、コンテンポラリーでも。キリアンの『輝夜姫』などは、そういう作品のひとつでした。物語がなくて動きだけの作品というのは、退屈に感じてしまう。私は物語を語って踊りたい。そういう作品が好きです。

これは今日の受講者の方から事前に寄せられた質問です。「“オペラ座のエレガンス”とは、具体的にどのようなことをさすのでしょうか?」
ルテステュ 難しいご質問です。日常におけるエレガンスというのは、姿勢、ふるまい、話し方、ファッションなどの装い方……そういったことかもしれません。いっぽうダンスの中でのエレガンスとはどういうことかというと、腕の見せ方とか、首の見せ方とか、どのようにスポットにあたり、光を受けているか、といったこと。あとは、動きと音楽との関わりですね。その音楽を、動きでどのように彩るかどのような速さで踊り、その音楽をどのように表現するか、というようなことを含めて言うのではないかと思います。踊りの中においては、スタイルとして、ある程度は練習で身につけられるでしょう。でも最後にはやはり、エレガンスを自分自身の中に持っているか持っていないか。そこが問われると思います。
その音楽についても質問が届いています。「ルテステュさんは本当に音楽的に踊られますが、音楽をつかんで踊るにはどういうことを心がければいいのでしょうか?」
ルテステュ まずは日頃のレッスンで、しっかり音に合わせて動くという習慣をつけること。振付であれば、どのカウントで何をするのかということを、しっかり把握することが基本ですね。それから、カウント1と2、ステップAとBの間には、“つなぎ”というものがあります。1から2へ、どのように移行するか、ということです。そこが本当に役柄や個人の表現の仕方で変わってきます。
例えば、シンプルに、「グリッサード→ピケ・アラベスク」というステップがあったとしましょう。
まず、『ジセル』第1幕のソロを想像してみてください。あなたが若さと情熱のある少女、エネルギーに溢れるジゼルを演じたいならば、グリッサードを素早く、そしてピケ・アラベスクでゆっくりと見せて立つ、というやり方もありますね。
今度は『白鳥の湖』第4幕を想像してみてください。オデットが裏切られ、悲しみの中で泣きながらグリッサード→ピケ・アラベスクを踊るとしたら、やはり重みや悲しみを表現しながらのステップになるでしょう。落ち込んだ精神状態でのシーンなので、プレパレーションはもう少し重く、ゆっくりと。ゆっくり、ゆっくり……そしてアラベスクのポジションを迎える、という形になると思います。アームスも、誰かが持ち上げないと上がってこないような重みを見せながら動かすべきでしょう。
ダンサーは、音楽家と同じです。音楽家は楽譜に書いてある音符に導かれて演奏をしますが、最終的にはその音楽家がどのように演奏するかで、同じ曲でもまったく違うように聴こえますね。それは、AとBをどのようにつなげるか、AとBをどのように表現するか、どのようなタッチで、どのようなリズムで弾くか、そういうところによって変わるのではないでしょうか。

“生活”のこと

ここからは、ダンス以外の生活のことも含めてお話を伺います。まずは日々の身体のメンテナンスについて。身体のために、何か日常的に努力していることはありますか?
ルテステュ 毎日レッスンをしています。日常的なトレーニングも続けています。どうしても調子が悪くて身体が動かないというときは、身体に耳を傾けることもします。そういう時は少し休んで、翌日にトレーニングができるように体調を整えます。ダンサーって、馬と似ていると思うんです。

(会場 笑)

ルテステュ 乗馬をしている友人がいるのですが、彼女が「馬も、1週間何もしないで放置していると、元の状態に戻すのに2週間かかる」と言っていたんですね。ダンサーも同じです。身体も腱も筋肉も、ゴムのようなもの。例えばレオタードでも水着でも、毎日使っていればOKですけれど、1年くらいタンスの中にしまい込んで忘れてしまっていると、引っ張ったらゴムが伸びてしまいますよね(笑)。そういうものです。筋肉も日々動かしてメンテナンスしていないと、そういう結果になってしまうんです。そんなにハードにトレーニングをする必要はありませんが、落ち着いて、でもきちんとメンテナンスしないといけませんね。
ちなみに、毎日のレッスンはどちらで?
ルテステュ オペラ座に通っています。ダンサーたちにも先生たちにも歓待されていますよ(笑)。オペラ座から許可もいただいているので、仲間と一緒にレッスンをしています。私はみんなと会えて嬉しいし、みんなも喜んでくれているように感じています。オペラ座ではレッスンも受けますけれど、若手の指導にもあたっています。例えばオペラ座内の昇級試験のための指導だったり、ガラ公演の指導だったり、あとはエトワールに頼まれてコーチングをしたり。住まいもすぐ近くなので、通いやすくて便利です。

衣裳デザイナーとしてのお仕事もますます精力的になさっていますが、デザインのイメージはどんな時に湧いてくるのでしょうか?
ルテステュ ちょっと不思議なのですが、夜の11時から夜中の3時くらいまでがベストな時間。いちばん冴えるんです。夜って静かだし、暗いし、電話も鳴ったりしませんし。日中は忙しくて予定が詰まっているので、私の場合、創造性とか大胆な発想というのが生まれにくいように感じます。ところが夜になると、「こうしなきゃいけない」といった規則や壁から解き放たれて、遮るものが何もなくなります。すると想像力も自由に羽ばたいて、「この色とこの色を組み合わせてはどうだろう? 」「この丈とこの丈を組み合わせてみようかな?」等々、すごく自由に大胆に発想ができるんです。日中は色々なバリアがありますが、夜はそのバリアを超えてどこに行ってもいい、自由な時間にしています。例えば美術館も、本来は整然とこれを見てあれを見て……という順路がありますけれど、閉館ギリギリに行くと、もう自由に好きなように見て回れて、まるで作品が自分の一部になっていくような感覚になることがあると思うんです。私が創作をする時には、そのように自由な発想ができる精神状態が必要です。
おもしろいですね!
ルテステュ でもいちばんいいのは“時差ぼけ”している時

(会場 笑)

ルテステュ とある作家が、「ある国に行く場合、体はもうその国に到着していても、魂は少し時間をおいて後からやって来るものだ」と言っていたんですね。自分自身の魂が未だ出発した国に残っていて、後からやって来るまでのその間にこそ、いろいろなアイディアが生まれやすいと。そういう時って日常を忘れるといいますか、「あれ買うの忘れちゃった!」とか、そういうことはまったく考えませんよね。他の国に行って仕事をする時というのは、日常のことなどから完全に離れて、プロジェクトのことだけを考えることができるので、すごく自由なのだと思います。

会場からの質問タイム

(質問者1)衣裳だけではなく、アクセサリーなどもデザインするのはお好きですか?
ルテステュ 宝石は大好きです。身に着けるのがすごく好きでたくさん持っているのですが、デザインはしません。色んな種類を持っていますが、舞台では、基本的には自分のアクセサリーはつけません。たまにはデザインも考えたりしますけれど、やはり私はアクセサリーよりも衣裳のデザインのほうに軸があります。

この日も首にはチョーカー風のネックレス、ブレスレッド、指輪といったさまざまなアクセサリーをセンスよく身につけていました

(質問者2)自分の生き方の信条というか、「自分はここは絶対にこうしている」というような、人生で大切にしていることを教えてください。
ルテステュ 自分の好きなことをすること。そしてそれにちゃんと時間をかけて、しっかりとやりきること。やりたいことをしっかりやって、それを記憶に留めたいんです。記憶に留められるように、ゆっくり時間をかけてやる、ということですね。というのは、自分のキャリアを振り返ると、すごく忙しくあれこれやったときのことは、あまり記憶に残っていないんです。引退を迎える少し前に、いままでを振り返って写真やビデオを見たんですけれども、なかにはまったく覚えていないような時代や作品がありました。急いでやったとか、強制的にやったとか、すごく疲れていたりとか、そういう時期のものというのは、覚えていなかったりするんですよ。この作品は何? いつ踊ったの? どういう背景で踊ったの? といったことまったく分からない写真を見た時、私は自分の歩み方や考え方、時間配分を変えないといけない、と思ったんです。
例えば食べ物を食べる時も、慌てて口に放りこむと、まったく味を覚えていなかったりしますよね。食べる時には、じっくり味わって食べると記憶に残る。まさにそれと同じように生きようと思っています。もちろん選択の余地もなく、同時にいろいろなことをしなくてはいけない時もありますけれど、芸術的な面でも生きる上でも、大切なことは充分に味わって、それに向き合って、忘れないようにしたいなと。そのために、できるだけ上手く自分の予定を組むように工夫しています。

(質問者3)私はパリが大好きです。ルテステュさんのお気に入りの場所を教えてください。
ルテステュ パリは素晴らしい街ですよね。本当に、好きなところはたくさんあります。セーヌ川の左岸から右岸に渡るところ。あそこはすごく好きです。明け方もすごくいいんですよ。例えば旅行やツアーなどで2~3週間パリを離れてからあらためてそこを見ると、「ああ、なんて綺麗なのだろう」と思います。独特の美しさがありますよね。
(質問者4)ここまでの歩みのなかでは精神的にハードな局面もあったかと思います。そんな時、アニエスさんはどうやって乗り越えてきたのでしょうか?
ルテステュ そのような局面はもちろんあります。例えば日々のなかでちょっと辛いことがあった時は、ダンサーという職業が自分自身を導いてくれるというか、ダンスが歩む道のりを示してくれます
ダンサーとして難しい局面に直面した時は、まず何が起きたのかを分析して、その理由を考えます。人間関係の問題なのか、振付家との相性なのか、先生との関係なのか。また、そんな時は友達や家族に相談することで原因が分かったりすることもあります。そうした経験をし、自分の在り方を反省して態度を変えることもあります。しかし一生懸命頑張っても上手く行かないプロジェクトがあった場合などには、もう「次を頑張ろう」と切り替えることもあります。
怪我をすることもあります。怪我をすると、やはりダンサーとしてブレーキがかかってしまうので、しっかりと原因を探ります。そして何がいけなかったのかーートレーニング、ウォームアップの仕方が悪かったのか。食べ物が悪かったのか。睡眠がとれていなかったのか。稽古しすぎたのか、逆に充分でなかったのか……等々と考えて、しっかりと治療し、ケアをしてもらったり、場合によっては食べ物で改善したりしながら、同じことを繰り返さないようにすることが大切です。
何かがあった時に、落胆して泣いてばかりいても前には進めません。まずはその失敗した原因を考えて、分析をして、前向きに解決法を考える。それが重要かなと思います。

 

(質問者5)私はもう若くもなくて膝もボロボロなのですが、バレエが大好きで、ずっと続けていきたいので、アドバイスをいただけますか。
ルテステュ お医者さんや治療師にしっかり相談して、ケアをしてください。膝は専門医に診ていただくのがいいと思います。でも、専門の医療機関に行って相談しても原因が分からず改善ができない場合には、それを受け入れることも大事かなと思います。そしてダンスへの愛情は、公演を観にいくなど、別のどんなかたちでも持ち続けていただければと思います。

トークショーの最後にはフォトセッション&サイン会も行われました

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